表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
360/563

第352話 解放

「ば、馬鹿な…」


視界が回転し、天と地が逆になる感覚よりも、真由は自分の置かれている状況に唖然としていた。


「真弓!」


肩車で、真由を投げた九鬼の背中を跳び箱のようにして、理沙はジャンプした。膝を曲げると、背中から地面に落ちた真由の首筋に叩き込んだ。


「こ、こんなことが」


痛みよりも、翻弄される自分をすぐには、認められなかったのだ。


「とどめよ」


真由から離れた理沙の前に、プラチナの乙女ケースが飛んで来た。すると、乙女ゴールドの足に、プラチナのブーツが履かれた。


「月光…」


「なめるな!」


空中で蹴りの体勢に入った理沙に向かって、仰向けになっている真由の目が光った。


「な!」


突然、突き上げるような衝撃を感じて、理沙は遥か上空にはね上げられた。


「ゴールド!」


その様子を見た九鬼が地を這うような低姿勢で、真由に向かって走り出した。


「あ、あたしは…空の女神だ!」


立ち上がった真由の口が開くと、突風が発生し、九鬼に向かって来る。


「は!」


スピードが上がった九鬼は、風よりも速くなり、突風を回避すると、真由の後ろに出現した。そして、捻りを加えた回し蹴りを放った。しかし、真由の首筋にヒットしたはずが、体を通り過ぎた。


「ざ、残像!」


唖然とする九鬼の後ろに、現れた真由の手刀が、背中に突き刺さった。


しかし、


「残像!?」


歯軋りにした真由の上空に、無数の九鬼が舞っていた。


「月影流星キック!」


そして、無数の蹴りが真由に向かって落下していく。


「馬鹿め!」


再び赤く光った真由の眼光が、九鬼の残像を消し去っていく。


すべてが一瞬で消えたが、肝心の本体がいない。


眉を寄せた真由の鳩尾に、目の前に現れた九鬼の正拳突きが決まった。


「無駄だ」


しかし、ダメージを受けたのは、九鬼の方だった。


激しい痛みを感じて、九鬼は咄嗟に後方にジャンプした。


距離を取りながら、九鬼はにやりと笑っている真由の表情に気付いていた。


「教えてあげる。隠し手があるのは、お前達だけではないということをな!」


真由のその言葉を聞いて、


「いけない!」


ふっ飛ばされていた理沙が、慌てて襲いかかった。


「女神の力を見せてやる!」


両手を広げた真由の魔力が、一気に上がった。


蝙蝠の羽が生え、さらに赤く光る瞳と鋭い牙が、口許から覗かれた。


「きゃ!」


生えた羽に、理沙は叩き落とされた。


「ここからが…恐怖の始まりよ」


一気に数倍に膨れ上がった魔力に、空気が震え、空間が一瞬歪んだ。


「女神の解放状態…」


何とか立ち上がった理沙は、真由の姿に目を細めた。


「そうよ。あなたが、捨てた姿でもあるのよ。月の女神…イオナよ」


真由は振り返り、理沙に笑いかけた。


それだけで、理沙の額に冷や汗が流れた。


「数秒よ」


真由は笑った。 そして、視線を前にいる九鬼に向けた。


「数秒で、殺してあげる」


「く!」


九鬼は構えた。



「な、何なのよ」


その時、戦場についた緑は、絶望していた。詳しい状況がわからなくても、真由の圧倒的な魔力は理解できた。 その為に、足がすくんで動けなくなっていた。


「何秒がいい?60秒まで、選ばしてあげるわよ」


無闇に動けなくなった2人に向かって、真由は微笑んだ。


「いいわ。好きな秒数でかかってきなさい。一発は、プレゼントしてあげる」


「く、くそ」


九鬼は、攻撃を躊躇った。カウンターならば、少しはダメージを与えることができるかもしれなかった。


しかし、こちらから仕掛ければ…次の瞬間、死が待っていた。


「数えるわよ。いち」


ゆっくりと余裕を持って数え出した真由に、突進してくる影があった。 一気に森の向こうから、光のような速さで襲いかかってくる影は、光輝いていた。


「高坂ダイヤモンドパンチ!」


「な」


唖然とする真由の頬に、ダイヤモンドの拳が突き刺さっていた。


「数秒もいるか!思った瞬間が、やるべき時だ!」


高坂の渾身のパンチは、突進力も加わって、普通よりも威力を増していた。


「やれたか?」


途中で下ろされたさやかが、戦場である草原に姿を見せた。激しく息を切らしながらも、高坂と真由の様子を見つめていた。


「邪魔だ!」


しかし、真由は高坂の右腕を片手で掴むと、緑がいる森の方に投げ捨てた。


「うわああ!」


木々を数本薙ぎ倒すと、高坂の体は地面に落ちた。


「ノーダメージだと!?」


ふらつきながらも、立ち上がった高坂は、自分を拳を握りしめて、呟くように言った後…フッと笑った。


「だが、調子に乗るなよ!いつも通りのことだ!」


高坂ダイヤモンドになっていない普段の時は、敵にダメージを与えたことはない。


「駄目でしょが!」


高坂に駆け寄った緑は、背中にくくりつけていた木刀を抜くと、高坂の頭を小突いた。


「み、緑!?」


突然の突っ込みに、驚く高坂から眼鏡を強引に取ると、


「部長より…あたしの方が」


自分にかけた。


すると、ダイヤモンドの乙女スーツに身を包んだ緑に変わった。


「いくわよ」


高坂のお陰で緊張が解けた緑は、木刀を振りかざし、真由に向かっていく。


「…」


理沙はその様子を見て、真由を挟んで立つ九鬼に頷いた。


目を見ただけで、九鬼は理沙がやろうとしていることを理解した。


(これが…最後のチャンスよ)


(わかったわ)


無言の会話を交わした2人は、足にムーンエナジーを集中させた。



「えい!」


木刀を、真由の脳天に叩きつけようとしたが、


「邪魔だ!」


簡単に片手でふっ飛ばされた。


「きゃ!」


地面を転がる緑。


高坂はそれを見ながら走り出すと、生身のままタックルの体勢で飛びつき、真由の足元にしがみついた。


「今よ!」


理沙が飛んだ。


「月光キック!」


月の光とは思えない程の眩しい光を纏い、理沙の飛び蹴りが真由に炸裂したはずだった。


しかし、現実は…真由の手に掴まれることになるが…その前に、


「今よ」


月の光に紛れて、真由の死角から九鬼の蹴りが飛び込んで来た。


「月影キック!」


文字通り…影は、光のもとで発生する。


「やったか?」


蹴りを止められながらも、理沙は…九鬼の蹴りが決まったことを確信していた。


しかし、月光キックの光が消えた時…理沙は言葉を失った。


真由に当たったのは…九鬼の右足の膝から下だけだった。


「ま、真弓!!」


「あははは!」


真由は理沙を投げ捨てると、九鬼の右足を掴み、消滅させた。


「これで、得意の蹴り技は出せないわね」


「く、くそ!」


真由の足元で、右足から血が噴き出す九鬼の姿があった。


「せ、生徒会長!?」


驚く高坂を、簡単に足を震わすだけでふっ飛ばすと、真由は…足元で痛みに堪える九鬼を見下ろした。


咄嗟に、ムーンエナジーが傷口を覆って止血したが、足がなくなった事実は変わらなかった。


「まずは…一匹」


真由は嬉しそうに笑いながら、九鬼を踏み潰そうと足を上げた。


「真弓!」


立ち上がろうとした理沙は、足に激痛を感じた。先程、蹴りを受け止められた時に、足首を折られていたのだ。九鬼程ではないが、理沙も攻撃能力を奪われていた。


「さようなら…生徒会長」


一気に足を下ろそうとした瞬間、真由は横から衝撃を加えられ、ふっ飛んだ。


「エル君…。手当てを」


「は、はい」


九鬼のそばに、日本地区の人間とは明らかに彫りの深さが違う女が、駆け寄った。


「え」


そして、真由がいた場所に立つ男。


草原や周りにいた…誰もが、いつ2人が現れたかわからなかった。


「な、何者だ!」


それは、女神である真由も同じだった。


「なるほどな…」


男は、真由の顔を見て、納得した。


「き、貴様!名乗らんか!」


真由は突然2人が現れたことよりも、攻撃を受けた部分が、痛んでいることに驚いていた。


「大した名前ではないのだけどね」


軽く肩をすくめた後、男は徐に…その名を口にした。


「ジャスティン・ゲイ。単なる道に迷っただけの人間さ」


そして、にっと笑って見せた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ