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第5部 恋する異世界 第34話 瞳の中の敵

町から離れ、何もない草原での戦いの後、僕とアルテミアは、静けさの中で対峙していた。


僕の住む世界より、空気が澄んだこの世界。風が、草木の匂いを運び、空は果てしなく青い。


その中で、アルテミアキラーが付けていた黒い鎧を身につけ、両手にはトンファーを握っているにもかかわらず、僕は何よりも、美しいと感じていた。アルテミアのことが。


(そうだ…)


僕は今まで、自分自身でもわかってなかった。この世界の人々を守りたいとか…そんな正義感や、崇高な意志ではなく、僕がこの世界で戦う理由は、


(アルテミアが…好きなんだ)


夢の中で、初めて出会った時から、ずっと、


(僕は、アルテミアが好きだった)


それに気付いたところで、僕らがどうなる訳でもない。


「赤星」


僕のそんな気持ちに気付くはずもなく、アルテミアは僕を見、


「あたしはもとの体に戻った…もう、お前の体を使う理由もない。これで、さよならだな」


アルテミアの情も、未練もない言葉が、僕に突き刺さった。


(そうだよな…アルテミアにとって、僕なんて…)


そう…すねた瞬間、僕は………………………………ベットの中で、目が覚めた。







「ふわああ…」


退屈な授業に、退屈な日々。


命を奪われる危険がない世界は、こんなにも幸せなんだ。


アルテミアに肉体が戻った日々から、数日。


僕は異世界にいくこともなく、平穏な日々を満喫していた。


でも、平和は平和なりに、いろいろあるもので…。


ふっと通った校舎の裏側で、かつあげの現場に出くわした。


(馬鹿だな)


じっと見てしまうと、すぐ絡まれてしまうけど、絡んでくるやつなど、怖くなかった。


胸元を掴まれ、凄まれても…


(あの世界なら、凄む前に、殺してる)


余裕がある僕を、馬鹿は一回は殴るが…殴った後の僕を見て、誰もが動きを止めた。


(殺せる)


そう思う僕の態度と視線に、さらにキレる馬鹿か、怯む馬鹿か…。


さらに、殴ろうとした馬鹿を、半殺しにした。


驚いたことに、僕は異世界の影響か、前よりも数段強くなっていた。


「こうちゃん!」


無意識に、殴り続ける僕に…偶然通りかかった明菜が、叫んだ。


(いかん…)


僕は、いつのまにか馬乗りになり、かつあげしていた男を殴っていた。


確か、相手は三人いたはずだが…。周りを見回すと…いた。


すぐそばで、二人は気を失い、倒れていた。


「こうちゃん…どうして…」


手で顔を覆い、僕から後ずさる明菜。


「明菜…」


明菜へ手を伸ばした僕は、目を見張った。


「いやあああっ!」


明菜が絶叫した。


僕の手は、赤く染まっていた。


「ひ、人殺し!」


通りかかった女生徒が、叫んだ。


「え…」


僕の体は、返り血で染まっていた。




「ふわああっ」


欠伸をした僕は、再び校舎裏を歩いていた。


またかつあげ現場に、遭遇した。


(馬鹿だな)


再び、じっと現場を見ていると、


「何見てんだよ!」


一人の生徒に絡んでいた三人の一人が、僕に向かってくる。


その顔を見た時、プラッシュバックで、血塗れになった…その男の顔が、浮かんだ。


とっさに浮かんだ殺意と、なるだろう結果を知り、僕はその場から、走り去った。


(駄目だ…いけない)


全力で走る僕は、明菜とすれ違ったが、まったく気付かなかった。


「こうちゃん?」


明菜は、首を捻った。



かつあげ現場から遠く離れ、確認できない場所まで来て…やっと、僕は足を止めた。


(今のは、何だ…)


自分でもわからない。


だが、興奮していることはわかった。いや、衝動だ。


(君は、人の醜さを知るだろう)


ロバートの言葉が、蘇った。


「違う」


否定するように、僕は呟いた。




「あなたは、間違っていない」


突然、前から声がした。


かつあげ現場のあった校舎とは、斜め向こうにある図書館の入り口。その横の壁に、一人の男子生徒が、本を片手にもたれていた。


「殺せば、よかったんだ」


「え?」


僕は、本を見つめている為に、横顔しか見せない男を凝視した。


男は、本を閉じると、


「殺したとしても、ブルーワールドに逃げたらいいのに」


男は横目で、僕を睨んだ。


「ブルーワールド…」


僕は、その男の言葉がわからなかった。いや、わからなくはない。だけど、この世界で、あの世界を知っている者はいないはず。


一瞬、僕の脳裏に、この前の襲撃が浮かんだ。


「まさか…」


僕は呟くように言うと、男と距離をとり、構えた。


「フン」


男は鼻を鳴らすと、読んでいた本を閉じ、僕の瞳を見据えた。


僕の体に、緊張が走る。


「先輩」


男は、読んでいた本を僕に投げた。


予想外の重さに、思わず受け取った僕は、よろめく。


「心配しなくても、僕はまだ、この世界の人間ですよ」


男は、両手をポケットにいれると、壁から離れ…無防備に、僕の横を通り過ぎていく。


「この世界は、窮屈だと思いませんか?こんなに縛らないと、生きれないなんて。あんなカスさえ、排除できない」


男は口元に、笑みを讃えたまま、廊下の奥へ歩いていく。


「六法全書!?」


男が投げた本に驚き、僕は振り返った。


「待って!」


僕の声に、男は足を止め、


「差し上げますよ。僕にはもう…必要がない」


「何のつもりだ!」


男は、振り返った。もう笑みは消えていた。


「僕の名前は、西園寺俊弘。先輩…」


西園寺は、僕を数秒じっと見つめ、また口元を緩めると前を向いた。


そして、また歩きだす。


「戦場で会いましょう。ここではない世界の」


「どういう意味だ!」


僕は、西園寺の後を追おうとした。


「こうちゃん!」


後ろから、明菜の声がした。思わず振り返り、明菜を確認してしまう。


その間、ほんの数秒だったはずだ。


もう前を向いた時には、西園寺はいなかった。


「チッ」


僕は舌打ちした。


「こうちゃん!やっと捕まえた。もお…朝からずっと、探していたのに」


「なんだよ!」


僕はいらいらしていた。西園寺を追わないと、いけない。


明菜は、口を尖らせ、


「こうちゃんって、最近ずっと、いらいらしてるね。何かあったの?」


「別に、何もないよ」


明菜を振り切ろうとした瞬間、明菜は僕の左手を掴んだ。


「これのせい?」


明菜は、僕の左手を無理矢理上げ、僕の目の前に持ってきた。


「指輪なくなってるね」


「か…」


明菜の見つめる少し濡れた瞳に、躊躇いながらも、


「関係ないだろ!」


僕は、明菜の手を振りほどいた。


少し心の中が痛んだが、僕は冷たい態度のまま、明菜に背を向けて歩きだした。


「最近!噂になってる!いろんな人が、夢を見てる!同じ夢を」


いきなり叫びだした明菜を無視して、僕は足を止めなかった。


明菜は、ただ叫び続けた。


「みんな!異世界に行って、戦わされて!」


僕の歩みは、遅くなったが、足を止めない。


「みんな!やられる寸前で、目が覚めるらしいの!だけど…」


明菜の声が、震えていた。


「一部に、勝つ者もいるわ…。あたしは、負けたけど…こうちゃん…」


明菜が泣いていることは、わかっていた。だけど、振り返れない。


「こうちゃん…」


「ゆ、夢なんだろ!単なる!」


僕は足を止め、振り返らずに叫んだ。


「こうちゃん…だけど、あたし…一度、あの世界に行ったことがあるんだって…だから…」


明菜の声のトーンが、擦れていく。


「明菜…何が言いたいんだ!」


僕は苛立ちを抱えたまま、振り返った。


そして、絶句した。


「だから、あたしは!世界を結ぶ…道しるべになるらしいの」


悲しく微笑む明菜の体を、廊下の真ん中の空間から、飛び出した巨大な手が、掴んでいた。


「さよなら…こうちゃん」


明菜の頬は、もう涙で濡れていたが…最後の大粒の涙が、流れた。


「明菜!」


僕は叫んだ。そして、全速力で走った。


すると、巨大な手が出ている空間の向こうから、槍が飛んでくる。


「うおおおっ」


僕の感情に反応して、両手からファイヤクロウが、飛び出す。どうやら、僕と一体化しているようだ。


ファイヤクロウは、槍をすべて切り燃やす。


「こうちゃん…」


「明菜!」


ファイヤクロウを伸ばし、明菜を掴む指を、切り裂こうとした時、


まったく予想しない方向から、攻撃を受けた。


廊下の左側に続く窓ガラスが割れ、バスケットボールぐらいの火の玉が、飛び出して来て、僕の脇腹にヒットした。


そして、破裂する。殺傷力は、大したことがなかったが、僕は右側の教室の扉に叩きつけられた。


その隙に、巨大な手は…明菜を、異空間に引きずり込んだ。


「明菜…気付かなかった…」


だが、懺悔している時ではない。


とっさに右手を突き出し、ファイヤクロウに念じた。


(頼む)


こんな機能があるのかは、わからなかったが、片手に三本ある爪の一つが飛び出し、手が消えた穴が塞がる寸前に、中へ入っていった。


(クッ)


痛みに、顔をしかめる思念を微かに感じた。


僕は扉から離れると、ガラスが砕けた左側に走った。


外は、もう誰もいない。


(大した威力ではなかったけど…レベル20はあった…)


ここは、一階だった。


かつあげができるくらいの人通りもない…校舎の裏口。窓ガラスの向こうは、狭い遊歩道になっており、3メートル向かうは、コンクリートの壁になっていた。


(こんな早く見えなくなるものか…)


僕は割れた窓から、外へ飛び出た。


すると、警戒音のようなものが、胸ポケットからした。


驚いて、指を突っ込むと、ポイント・カードが出てきた。


「向こうの世界でもないのに、カードがあるなんて…」


それは、学校で…魔法が使えることを意味していた。


「どういうことだ」


僕は、上空を見上げた。魔神が、襲ってきた時のような結界はない。


「なぜ…カードがある」


僕は、カードを確認しょうとした時、


「赤星!」


さっき、かつあげしていた三人組が、右側の校舎の角から飛び出して来た。


「な!?」


僕は、唖然とした。


まさに、飛び出してきたのだ。空を飛びながら。


「フライング・アーマー!」


空中に浮かびながら、三人組が装着しているのは、まさしくフライング・アーマーだ。


「死ねえ」


フライング・アーマーの発射口が開き、ミサイルの束が、姿を見せた。


「馬鹿な…こんな所で撃ったら」


校舎は、全壊する。


僕は舌打ちすると、両手にファイヤクロウを装着した。


「いけや」


ミサイルは、全弾発射された。


と同時に、ファイヤクロウで空気をかき回すような仕草をした。


ファイヤクロウは、炎を操れる。


ミサイルの噴射口から、出る炎が揺れた。僕は腕を回し、渦を作った。ミサイルの束が螺旋状に飛び回り…最後に渦を小さくすることで、ミサイル同士をぶつけた。


凄まじい爆風と音、光が周りを震わした。


僕は身を屈め、次の攻撃に備えた。 


「どうなった?」


三人組は、爆風に煽られて、学校の壁を越えてしまった。


その瞬間、装着していたフライング・アーマーが消えた。


そして、壁の向こうに落ちた。


ちょうど、四階ぐらいの高さで飛んでいた。壁の向こうは、舗装された道路のはずだ。こちらから、向こうは見えない。


僕は一番近い、裏門まで走った。


裏門をでて、右に曲がると、先ほどの壁の向こう側が見える。


僕は足を止め、顔を背けると、救急車を呼ぶことにした。


もう何人か野次馬が、群がっていた。


携帯が見つからず、もたついていると、誰かが呼んだらしく、遠くから救急車のサイレンの音が近づいてきた。


僕は悩んだが、落ちた場所に行くことをやめた。


落ちた理由は、わかっていた。


魔法が消えたのだ。


僕は三人組が落ちた瞬間、急いで落ちた所に向かう為、走っていた。走りながら、カードを取出し、治癒魔法を施すつもりだったが…裏門を出た瞬間、カードが消えたのだ。


野次馬に囲まれ、救急車に運ばれる三人を今更、校舎内に入れるわけにもいかなかった。


それに、明菜のことが気に掛かった。


裏門を潜ると、カードは復活した。


(どうなっている)


カードを見つめていると、妙な視線を感じた。


前を見ると、先程破壊された窓ガラスがもとに戻っていた。そして、窓の前に、救急車の音と野次馬のざわめきを壁越しにしながら、1人の少女が立っていた。


こちらを、じっと見つめている。


(誰だ…)


少し近づくと、少女の顔が確認できた。


背中まである黒髪に、黒縁眼鏡。凛とした表情に、僕は見覚えがあった。


(確か…生徒会の…副委員長?)


僕を見る鋭い眼光に戸惑いながらも、僕は副委員長に向かって歩きだした。


すると、副委員長は踵を返し、その場を立ち去った。


(何なんだ?)


副委員長は、すぐに左に曲がると、校舎の向こうに消えて行った。


先程の割れた窓ガラスの前まで来て、僕はガラスの表面に、手を当てて確認した。


「もとに戻っている」


ひび一つない。


修復系の魔法を使ったものと、思われる。


「今の女か………まさか…」


僕は、信じられなかった。


何か起こっていた。


今の僕は、もうアルテミアと融合していない。


(自分で、探らなければならないんだ)


カードを見つめ、レベルだけが高い自分を呪った。








赤星に背を向けて、校舎を曲がっても、しばらくは気を抜かずに、守口舞子は早足で、歩き続けた。


(追ってこない)


少し安堵感を覚えながらも、舞子は足を止めなかった。


(赤星が…噂通りのレベルなら、あたしでは勝てない)


舞子は、ブレザーのポケットから、数枚のカードを取り出した。


「やっぱり、クズに渡しても、クズね」


舞子が持っているカードは、赤星が持っているカードとは、少し違った。


見た目はわからないが、魔物を倒し、ポイントが増えていくカードではなかった。ある程度のポイントが最初からチャージされており、それがなくなるまで使える。ポイントをすべて消費すれば、カードは使えなくなる。


このカードは、ブルーワールドでは、ポイントを集めることのできない子供に、護身用に渡すことが多かった。


「折角、あの方から頂いたもの…。有意義に使わないと」


舞子は、歩くスピードを上げた。


舞子が、壁に沿って歩く校舎の上、屋上の周りを囲む金網にもたれ、西園寺は苦笑した。 


「この世界は、ぬるま湯だ」


西園寺は、学校の向こうの山をバックにして、反対側のビルという木が、立ち並ぶ不毛な世界を見つめた。


「人殺しや犯罪者すら、弁護する世界など…くそだ」


西園寺は、天を仰ぎ見た。


「いつになれば、道は開けるのだ」


西園寺は、目がつぶれても構わないと、太陽を直視し、手を伸ばす。


「あの世界なら、すべてのクズを弾圧できる!」


西園寺は、拳を握りしめ、


「悪には死を!」


その思いは、心の底から放たれていた。この世界にいる限り、途切れることなく、溢れ続けていた。



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