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第349話 月下の女神達

「は!」


乙女ブラックを凌駕する速さで、真由を翻弄する乙女プラチナとなった理沙。


「ちょこまかと!」


ジャングル内で戦うのを避ける為に、西北部の草原を決戦の場に選んだ理沙は、スピードを生かした戦略を選んでいた。


「なめるな!」


あまりの速さに、自らの拳が届かないことに苛立ちを覚えながらも、真由は両手を真横に突きだした。


すると、竜巻が発生し、真由を中心にして、一気に周囲を吹き飛ばす。


「甘い!」


「何!?」


頭上から声がして驚いた真由が、顔を上げるより速く、理沙の蹴りが炸裂した。


竜巻の中心は、無風状態である。理沙は、真由が攻撃に移る寸前に、彼女の頭上に飛んでいたのだ。


「な!」


しかし、今度は理沙が絶句する番だった。


空気の壁が発生し、真由の蹴りの衝撃を吸収したのだ。


「人間に味方する愚かな女神よ!貴様の所業も、万死に値するわ!」


真由は広げていた腕を、真上に向けようとした。


その時、竜巻の壁を切り裂いて、無数光のリングが姿を見せた。


「チッ」


リングの一つが、真由の頬を切った。


その隙に、理沙は空気の壁を蹴って宙に飛び上がった。


「逃がすか!」


真由の目が赤く輝くと、無数の光のリングが砕け散った。


その瞬間を狙って、竜巻の壁を貫通するものがあった。


「ルナティックキック三式!」


回転し、ドリルと化した体をムーンエナジーで覆うことで、竜巻による鎌鼬から身を守りながらの九鬼の蹴りが、真由の胸元にヒットした。


「う!」


真由が顔をしかめると、竜巻が消えた。


「今だ!」


九鬼は着地を同時に、後方に回転し、再び助走をつけると、真由に向かって飛んだ。


「真弓!こいつの弱点は、胸よ!」


「わかった!」


前方から九鬼。そして、後ろからは、理沙が飛んだ。


「ルナティックキック零式!」


九鬼の蹴りが、先程と同じところを当り、その反対側を理沙が蹴った。


サンドイッチのような格好になった真由の口から血が吐き出された。


しかし、そこまでだった。


「雑魚どもが!」


真由は口から流れる血を拭うことなく、九鬼を睨んだ。すると、蹴りが当たっている部分から皮膚が変色し、硬化していく。


「真弓!逃げて!」


その変化に気付いた理沙が、後方に飛びながら叫んだ。


「!」


九鬼も身の危険を察知して、真由から離れようとしたが、できなかった。


足首を掴まれた九鬼は、腕の力だけで振り回され、数十メートル離れた林まで投げられた。


木々を倒しながら、森の中に消えていく九鬼。


「真弓!」


投げられた森に向かおうとした理沙は、前をふさぐように移動してきた真由を見て、動けなくなった。


硬化した皮膚が、鎧の役目をしており、弱点をカバーしているのがわかったからだ。


(これで、勝機はなくなったか…)


理沙の額に、冷や汗が流れた。


「まずは…お前から、殺してやろう。月の女神よ」


ゆっくりと余裕を持って、近付いてくる真由に、理沙は逃げることもできなかった。


「高木さん!」


その時、西部のジャングルの中から輝達が姿を見せた。


輝は真由の姿を見て、思わず息を飲んだ。


「何だ…。あの禍々しい姿は」


輝の後ろにいた打田は、真由から底知れね恐怖を感じ取り、ジャングルから出た瞬間、動けなくなっていた。


「や、やっぱり…君は…」


輝は恐怖を感じながらも、なぜか…一歩前に出た。


頬からの切り傷から血を流しながら、真由は視線を輝に変えた。


「あなたこそ…残念ね。結局、人間のままだなんて」


フッと笑った真由の表情に、輝は眉を寄せた。


(やはり…泣いているように見える。その仮面の裏に)


見つめ合う2人。


その数秒の隙に、攻撃を仕掛けたものがいた。


十六である。


「隙あり!」


真由の頭上から襲いかかる十六。


しかし、真由は笑うだけだった。


そして、指先に小さな空気の渦をつくると、顔を上げて十六を睨んだ。


「下らん」


真由に睨まれた瞬間、十六の体にヒビが走り、風が全身を切り裂いた。


しかし、それでも…十六はにやりと笑った。


「?」


一瞬気付かなかったが、十六の腕がなかったのだ。


「最初から、我が身は捨て駒!」


日本刀を持った腕が二本、別の方向から真由の胸元を狙う。


「無駄だ!」


しかし、日本刀は真由には突き刺さらない。


「だから、無駄だ!」


真由は、胸を突き刺そうともがく腕には見向きもせずに、十六を再び睨み付けた。


サイボーグである十六の体のあちこちが砕け、ネジが落ちてきた。


「は!」


その一連の動きを見た理沙は、真由の胸を突き刺そうともがく二本の腕を掴み、力を貸した。


しかし、真由の皮膚の固さと、理沙の押す力に耐えきれずに、日本刀は真ん中から折れた。


「人間とは…存在も無駄だが…やることも無駄だな!」


真由は目を、理沙に向けた。


「きゃあ!」


数メートル後ろまでふっ飛ばされた理沙は、背中から地面に激突した。


「そう…無駄でもないさ」


後ろからの嘲るような十六の声に、真由は振り返った。


次の瞬間、真由は初めての悲鳴を上げた。


真由の顔に、十字の切り傷が刻まれたのだ。


「お前のように…油断が多かったら…九鬼真弓に、おれを刻めたものを」


腕がないはずの十字の肘から下に、刃が生えていた。


仕込みドスのように、体に刃を仕込んでいたのだ。


「ば、馬鹿め…」


十字はもう一度嘲るように笑うと、文字通りその場で崩れ落ちた。


足などが、体から離れ…まるで壊れた玩具のような姿に変わり果てた。


「き、貴様ら!」


真由は咆哮した。


その叫びに呼応して、真由の周りの空気が圧縮されて見えない槍になると、輝達に向けて放たれた。


空気である為、攻撃されたことも気付かずに、何かが突き刺さったような痛みだけを味わいながら、輝と打田は倒れた。


奇しくも輝が盾になり、打田は致命傷を免れたが…全身の至るところを貫通した輝は、普通ならば…即死だった。




「く、くそ…」


プラチナの乙女スーツによって、貫通こそしなかったが…明らかに実力で負けていることを、理沙は悟っていた。


(真弓…)


片膝を地面につけながら、理沙は九鬼がふっ飛ばされた森を見た。


(間に合うか)


理沙は、真上にある月を見上げた。





「ううう…」


真由に投げられた衝撃により、九鬼の変身は解けていた。


それだけではない。最悪のことに、乙女ケースがなくなっていたのだ。


どうやら、投げられた衝撃で森の中に飛んでいったようだった。


探そうにも、月明かりだけでは無理そうだった。


「く、くそ」


真弓は立ち上がると、折れた木に手をかけて立ち上がった。


周りに魔物の気配はない。


どうやら…真由の怒りを感じて、どこかに身を潜めているようだ。


「ちょうどいい…」


魔物の心配はしなくていい。森の向こうにいる真由だけを相手にすれば…いいのだから…。


九鬼が歩き出そうとした瞬間、後ろから落ち葉を踏む音がした。


「な!」


前以外に気を抜いたばかりだった為、九鬼は慌てて振り返った。


そして、しばらく間を開けて、九鬼は目を丸くした。


「あ、あなた達は!?」





空気の槍で、穴だらけになったはずの輝だが…傷口は毛玉のようなものに塞がれていた。


(若よ)


草の上に倒れている輝の頭の中で、声がした。


(誰だ?)


自分の頭の中から聞こえて来たが、輝にはその声が幻想でないことがわかっていた。


(我は…犬神。太古の昔、魔神でありながら…人間とともに戦うことを約束した一族の末裔)


(い、犬神!?)


輝ははっとした。


(今こそ、我の力を使うのです!あなたと…そして、お友達を守る為に…)


(だけど…僕は、戦いが苦手だ)


輝は、心の中で首を横に振った。


(ならば…致し方ない)


と、犬神が言った瞬間、倒れていた輝は立ち上がった。


そして、月に向かって遠吠えをすると、顔から血を流す真由に飛びかかった。


「この体!お借り申す!」


鋭い牙が生えると、素早い動きで、真由の死角から首筋に噛みついた。


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