表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
356/563

第348話 森田拓真

「ここは…」


一瞬にして、休憩所内にテレポートしたさやかは、ひんやりと冷たい空気に思わず身を震わせた。


「高坂?」


一緒にテレポートしたはずの高坂が、近くにいなかった。


休憩所内は、うっすらとしか明かりがついていない為に、すぐには見えなかったが、やがて目が慣れてくると、様子が伺えた。


「高坂!」


一番最初に、目が認識したのは高坂の後ろ姿だった。


そして、この向こうにある巨大な氷の塊。


その中で、血だらけになりながら、あの日のままで凍り付いている人間がいた。


「森田部長…」


高坂は、凍り付けの森田に頭を下げた。


「お久し振りです」


「…」


さやかはゆっくりと歩き出すと、高坂の横に立ち、森田の姿を見つめ、


「お兄ちゃん…」


と呟いた。


2人の間に、二年前の出来事が思い出される。


涙が流れたが、感傷に浸っている場合ではない。


高坂は涙を拭うと、氷の塊に近付いた。


「高坂!不用意に近付くな!」


さやかが、高坂の背中に叫んだ。そして、カードを取り出すと、


「この島は、魔法が使えない。だけど、この中では使える!」


テンキーにパスワードを打ち込んだ。


「ここで、この塊を海までテレポートさせる!それが、一番安全な方法だ」


「お、お前…それは」


高坂は、さやかが持っているカードが普段と違うことに気付いた。


「プロトタイプブラックカード」


「そうよ!山本さんに事情を説明して借りたのよ。このカードなら、直接魔力を使える」


さやかは、カードを氷の塊に向けた。


「待て」


さやかの腕を、高坂が掴んだ。


「そんなことはさせない!直接海に捨てるなんてさせるか!森田部長の思いを何だと思っているんだ!」


ぎゅっと握り締める高坂の手の強さも、さやかは気にせずに、


「お兄ちゃんはもう死んでいるわ!息を引き取る寸前に、コールドスリープをかけたけど…もう助かることはない!」


さやかは、何とかカードを向けようとした。


しかし、いつもの高坂と違い、さやかが振り払うことができないくらいに力が強く、カードを向けることができない。


「森田部長は、死ぬ寸前まで!俺の部長だった。非力な俺の為に、あの人は引き受けたんだ!あの…」


高坂は、さやかの腕を上に上げると、後ろを見た。


凍り付けの森田の体に、巻き付いている金属のような物体。


(オウ)パーツを!」


そして、高坂はその金属の物体を睨み付けた。


「だからこそ!お兄ちゃんの意志を無駄にしない為に!海へと!」


さやかは何とか抵抗しょうとするが、びくともしない。


高坂はもう片方の手で、さやかからカードを奪い取った。


「高坂!」


さやかから手を離すと、2人は睨み合う。


「森田部長の遺体は、ここに埋める!そして、オウパーツは…」


高坂は素早い動きで、さやかに背を向けると、走り出した。


「俺が、何とかする!」


「馬鹿!」


さやかも走り出した。


「こんなことをして、お兄ちゃんが喜びとでも思うのか!」


「俺は、情報倶楽部の部長だ!森田部長の意志を継ぐ!」


「馬鹿野郎!」


さやかは、高坂の足に向かって飛びかかった。


「部長!今こそ俺が!」


氷の塊まで、数センチとなった時突然、2人の前に魔法陣が現れた。


「ト、トラップだと!?」


高坂は唖然とした。止まろうにも、勢いがついていた。


「だ、誰が!?」


と思った時、高坂の頭に悪戯ぽく笑っている幾多流の顔が浮かんだ。


「お、お前か!」


高坂とさやかは、魔法陣に飛び込み、そのまま…結界外に、強制的に出された。



「きゃ!」


「うわあ!」


島のどこかまで、強制的にテレポートさせられた高坂とさやか。


走っている勢いのまま、地面に転がった。


「こ、ここはどこだ!」


急いで立ち上がった高坂は、周りの風景から島の位置を確認しょうとした。


しかし、そんな確認はいらなかった。


「…なるほどな」


高坂の目の前に、毛むくじゃらの大男がいた。勿論人間ではない。目が一つだからだ。


それに、高坂にはその魔物に面識があった。


二年前、校長が送った軍隊に襲いかかっていた魔物の一匹だ。


「上級魔物…。ここは西部か」


高坂の前に、立つ魔物の数は20。


「に、逃げろ…高坂」


後ろから、苦しそうなさやかの声が聞こえてきた。


「さやか!?」


振り返った高坂は、絶句した。


膝を抱えて踞るさやかが、いたからだ。


どうやら、そんなタックルの体勢で魔法陣から飛び出した為に、足を挫いたらしい。


「さやか…」


「逃げろ…。あたしが囮になる。その間に逃げ…」


「馬鹿いうな」


高坂は先程奪ったブラックカードを、さやかに投げた。


「これで、回復させろ。カードを直接患部に当てて発動させれば、無効化にはできないだろう」


高坂はそう言うと、魔物達と向き直った。


「あ、あたしが治っても…あの数じゃ…」


普段と違い、弱気なさやかに、高坂はフッと笑った。


「心配するな」


妙に余裕のある高坂に、さやかは叫んだ。


「いつもの強がりで、何とかなる相手じゃない!お前の体は、戦いには向いていない!やめろ!」


「…確かに、俺は弱い!だからと言って、それが戦わない理由にはならない」


魔物達は涎を流しながら、近付いてくる高坂を見つめていた。


「馬鹿野郎!あ、あたしの前で!死ぬな!」


さやかの目から、涙が流れた。


「さやか…」


高坂は歩きながら、制服の内ポケットから、あるものを取り出した。


「俺は…確かに弱い!だけどな!守るべき者に必要なのは、強さではない勇気だ!」


そして、高坂はそれを突きだした。


「それに、戦う術は手に入れた!」


「そ、それは!」


さやかは思わず、目を見開いた。


「装着!」


高坂の体を、ダイヤモンドの輝きが包む。


「お、乙女ダイヤモンド!?」


さやかの言葉を、高坂は否定した。


「違う!高坂ダイヤモンドだ!」


拳を握り締め、高坂は走り出した。


「くらえ!高坂ダイヤモンドアタック!」


そのまま、魔物の群れに突進した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ