第344話 灰になっても
「人が言う…運命ってものはあるのか?」
眼鏡を人差し指で押さえながら森の中を歩く刈谷の前に、ユウリとアイリが突然姿を見せた。
「…」
2人の姿を見て、無言になると、刈谷はゆっくりと頭を下げた。
「女神ソラと接触したようだな」
アイリの言葉に、刈谷は頭を下げたまま答えた。
「は。女神は目的通り、人間のもとへ」
「有無」
アイリは頷くと、ソラが向かった方に顔を向けながら、隣に立つユウリに話しかけた。
「それにしても、あのようなポンコツの女神を今なら、復活させるなど…リンネ様は、何を考えていらっしゃるのか…」
ため息混じりで、言葉を続けたアイリの横で無言で立つユウリはただ、刈谷を見つめていた。
そんなユウリの視線を知ってか知らずか…刈谷は頭を下げながら、口を開いた。
「恐れながら…。リンネ様は思量深いお方。あの方のお考えは、我々には想像もつかないことでございます」
「な」
その言葉に絶句したアイリは、唇を噛み締めた後、
「お前は、あたし達が何もわからないとでも言いたいのか」
少し怒りを露にした。
「いえ…。滅相もございません」
刈谷は頭を下げたままだ。
「き、貴様!」
キレたアイリが前に出ようとしたのを、ユウリが腕を横に突きだして止めた。
「ユウリ…」
驚いたユウリの横顔を見たアイリ。しかし、ユウリは刈谷を見据えたまま、
「まるで…自分1人が、わかっているような言い草だな?この人間かぶれが」
凄まじい殺気を放った。
しかし、そんな殺気もまったく気にすることなく、頭を上げた刈谷は凛とした表情で、一言だけ述べた。
「恐れ入ります」
そして、すぐに頭を下げた刈谷の言葉に、ユウリはこれ以上絡む気がなくなった。
「何だと!?」
逆に頭に来たアイリの体が、炎の如く揺らめいた。
「行くぞ」
そんなアイリを無視するように、ユウリは後ろを向くと、歩き出した。
「え!」
あまりにもあっさりとした身の引きように、アイリは拍子抜けしてしまった。
怒りも消えて、刈谷とユウリの背中を交互に見た後、舌打ちすると、ユウリの方へ走り出した。
「おい!どうして、あのままにした!やつは、我らを愚弄したのだぞ!」
追い付いたアイリの言葉に、ユウリは鼻で笑った後、
「確かに」
それだけ言うと、歩く速度を速めた。
「ユウリ!」
アイリが再び後を追おうとした瞬間、横合いから茂みを破って虎に似た魔物が飛び出してきた。
しかし、ユウリの真上に来ると一瞬で、灰になった。
何事もなかったように歩くユウリの横に来たアイリは、ちらっと顔を見た。自分と同じ顔であるが…物凄く恐ろしく見えた。
機嫌が悪いことを感じ取ったアイリは、空気を読んで口を詰むんだ。
その瞬間、軽く口元を緩めたアイリは前を睨みながら、口を開いた。
「しかし…やつのリンネ様への忠誠心は、本物。その為には、人間にもなりきるくらいにな」
「!?」
アイリは眉を寄せた後、
「あっ」
思い出した。
「フッ」
ユウリは笑った。
「あいつか」
アイリは納得した。
「滑稽ではあるが…あそこまでやれば、大したものだ」
と言いながらも、ユウリはどこか刈谷を哀れに思い始めていた。
「この身はすべて…あのお方のもの」
刈谷は、ユウリ達とは逆の方向に歩きながら、眼鏡を人差し指で上げた。
魔神である刈谷が、大月学園の生徒になる為に、参考にした人間がいた。
幾多流である。
リンネに気に入られている人間。
刈谷は、リンネに気に入られる為ではなく…いずれ、人間である幾多は、リンネのもとから離れると思っていた。それが、自ら離れるのか、殺されるかはわからない。
その時に、リンネが寂しがらないように、同じようなものがいた方がいいと…刈谷は思っていたのだ。
「我は…リンネ様のナイト」
刈谷は足を止め、合宿所の方に頭を下げた。
「あなたが望むならば…我が身でさえ、燃え尽きてみせましょう」
そして、改めて自らの決意を強く誓った。
飛び交う手裏剣。
圧倒的な戦力で、島中の魔物を皆殺しにするはずだった。
「お頭!」
自らも指揮を取りながらも、前線に出ていたお頭と言われる男は、次々に飛び込んでくる状況報告に苛立ちを覚え初めていた。
忍者である彼らに有利なはずの森の中での戦争は、人間ではないもの相手では、話が違った。
まだ湖にも到着がしないどころか…百人いた戦闘員が八十に減っていたのも、お頭と言われた男を焦らせた。
「まだ…島の入口だぞ!ここは!」
その苛立ちが、焦りに変わる瞬間が来た。
森に隠れるはずが、逆に隠れられ…予想もつかない方向からの攻撃を受けながらも、魔物を倒していると、お頭の耳に信じられない報告が飛び込んできた。
「学生と思われる死体を多数確認!」
「な、何!?」
お頭の眉がはね上がった。
依頼者から、学生は全員生還させるように言われていたのだ。
そうでなくても、この島は危険であると、どこからか…噂が立ち初めていた。
だからこそ、お頭は計画の変更を告げた。
「島を焼くぞ!生徒達の弔い合戦だ!」
「は!」
予定の一つに入っていたとはいえ、火をつけるのは早すぎた。
生き残っている生徒達もいるはずなのに…それがわかっているのに、すべてを燃やすことを決めたのだ。 何故ならば…皆殺しに合った方が、都合がよくなったからだ。駆けつけた時には間に合わず…その惨劇を目にして、森を焼き、魔物を全滅させた。それにより、島は安全になったと堂々といえるからだ。
忍者の数人が、火のついた松明を持ち、散り散りになると、森を焼くはずだった。
しかし、火は森中を駆け巡る風に消された。
「な」
絶句した忍者の1人が、松明を確認しょうと、顔を横に向けた瞬間、彼の首が飛んだ。
「やはり…人間は醜い。すべて殺すべきなのよ」
忍者の首を切り取り、風を起こしたのは、真由だった。
「人間…なんて」
真由は、周囲の人間を殺した後、お頭の方に走り出した。
「が、学生!?」
お頭は、真由の姿に唖然とした。
「どうして…」
それ以上に驚いたのは、彼女から感じる強烈な血の匂いだった。