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第343話 追憶

「うん?」


高坂は、足を止めた。


いつのまにか…周りが暗くなっていた。


休憩所を出てから、何度か魔物の襲撃を受けた。辛くも退けることができたが、時間と体力を消費した。


「あまり…進んでいないというのに」


高坂は舌打ちした。


まったく人口の明かりがない島内は、すぐに真っ暗になる。


そうなれば、身動きが取れなくなる。


闇の中でも、進むことは可能ではあるが、夜行性の魔物達に出くわした場合、不利どころではない。


見えない闇での戦いは神経をすり減らし、体力を消耗する。


それでなくても、朝から戦い三昧である。


高坂は進むことを諦め、島のあちこちに設置されているはずの小屋を探した。


別名鳥籠と言われている小屋は、高坂達がいた休憩所のように完全防御の安全な場所ではないが、簡易結界を張ることができ、余程レベルの高い魔物でなければ、破壊することはできなかった。


但し、結界の発動時間は最大12時間であり、一度発動させて切った後は8時間は使えなくなっていた。


他のパーティーがもし使った後ならば、他の小屋を探さなければならなかった。


「今日は、この辺りで宿を取ろう。これ以上進めば、魔物のレベルも上がる」


「少し早いのではないですか?」


十六からの舞の言葉に、高坂は首を振り、


「この辺りでいい。魔物の気配もしない…というより、忍者部隊の方に集まっているのだろう。しかし、その中には上級魔物はいないな。やつらが動けば、空気が変わる。恐らくやつらは、この奥で身を潜めている。なぜかは知らないがな」


高坂の推測通り、この島の上級魔物は、島の西部から動いてはいなかった。


彼らは知っていたのだ。


この島にいる恐ろしき存在達に。


だからこそ、自らのテリトリーで大人しくしていた。自らのテリトリーを侵されないかぎりは、命をかける必要はなかったからだ。


高坂が休むと決めた地点は、彼らの神経を逆撫でしないギリギリの範囲にいた。


そこはある意味、一番安全な場所だった。


そして、その近くまで、さやか達が来ていたことに、高坂達は気付かなかった。


彼女達もほぼ同じ理由で、宿を取ることにした。


高坂達がいた休憩所の目印だった巨木よりも、さらに太い木を見つけると、さやかは天を見上げ、枝に隠された丸太の建造物を見つけた。


「上がるぞ」


さやかは木に張り付いて上に登ろうとしたが、スカートであることを思いだし、浩也を見た。


しかし、顔を伏せて放心状態であることを確認すると、迷わずに木に飛び付いた。


「上で着替えるか」


合宿所で、慌てていた為に着替えるのを忘れていた。


どんな格好でも許されていたが、さすがに制服は戦い難い。


九鬼のように、変身できたらいいが…と思い、考えを改めた。


(乙女ソルジャーもスカートだったな)


さやかが登ると、緑が続いた。


周りに気を向けていた九鬼に、浩也のそばにいるカレンが言った。


「先に登ってくれ」


その言葉に九鬼は頷くと、木を登りだした。


さすがは、九鬼である。あっという間に、木の上にある丸太小屋まで、登りきった。勿論、さやかと緑も着いていた。


「浩也…。あたしの背中に乗るか?」


カレンは小屋の下にある扉を見つめながら、浩也1人を背負っても余裕でいけることを確認した。


「…大丈夫だよ」


上を見上げているカレンの耳に、囁くような浩也の声が聞こえたと思った瞬間、扉に飛び込む浩也の姿が、目に映った。


「あ、あの野郎!」


人間離れの跳躍力を見せた浩也に、カレンは顔をしかめた。


能力を隠すことを忘れている。


「馬鹿が!」


カレンは苦虫を噛み潰したような顔をすると、木に向かってジャンプした。角度を計算して、木の表面を蹴ると、そのまま扉の中に飛び込んだ。


「よし!」


カレンが中に入ったのを確認すると、さやかは自分の制服につけていた校章を外し、木の周りを囲むようにドーナツ状に設置された小屋の扉のそばにある枝を切り裂いて作った台に、それを差し込んだ。


すると、小屋の外壁を淡い光が覆った。


「校章って、こんな役目があったんですね」


驚いたように、さやかの横から覗き込む緑は、感嘆の声を上げた。台の真ん中に空いてる穴は、校章がぴったりと挟まる形になっていた。


「まあな」


さやかは少し疲れたように答えると、左右に伸びる小屋の内装を見て、


「どちらの通路も歩けば、扉がある。右側を女子…左側を赤星君が使ってくれ」


そう言った後、


「それから、ここと反対側にも同じような空間がある。それぞれ、そこに見張りをおきたい」


4人を交互に見た。


「あたしが、やりましょう」


九鬼が即答した。


「じゃあ、生徒会長はここを見張ってくれ。反対側は、あたしがつく。各自食事を取った後は、交代してくれ。ああ…確か、シャワーもあったはずだ。雨水を濾過しているから、綺麗だと思う」


さやかの説明を受けた後、九鬼を残し、緑とカレンは通路を歩きだした。


「浩也!」


まだ落ち込んでいる浩也に、途中で足を止めたカレンは声をかけた。


「少し休め」


「あ、ありがとう…」


浩也は頷くと、カレン達と反対方向へ歩きだした。


木を囲むように廊下が伸びている為に、すぐに浩也の背中は見えなくなった。


そんな背中を、カレンと九鬼が見送っていた。


カレンは見えなくなると、前を向いたが、九鬼はしばらく横目でいなくなった方向を見つめていた。


「…」


心配ではあるが、気にしている暇はなかった。


先程体験した圧倒的な力の差に、九鬼は絶望を感じるよりも、どうすべきかを考えなければならなかった。


勝てないとわかりながらも、戦うことは当然である。しかし、そんな状況の中でも、今の自分ができる最良のことを考え、それ以上のことを実戦しなければならない。


九鬼はゆっくりと、目を閉じると…頭の中でイメージトレーニングを開始した。







「ふう〜」


その頃、女子が休む区間をこえて、反対側の空間に着いたさやかは木の幹にもたれ、息を吐いた。


「まさか…こんなことになるなんて」


さやかと九鬼がいる場所の内壁は、スクリーンの役目をしており、木の周囲の様子を絶えず映していた。


さやかは、スクリーンを見つめながら、目を細めた。


合宿所の方向から始まった忍者と魔物の戦いはまだ、続いているようで、遠くから火花が見えた。


「高坂達は大丈夫かな?まあ…梨々香も輝も本気を出せば、その辺の魔物にはやられないだろうがな」


そう言った後、さやかはフッと笑い、


「問題は…どうやって、あれをあそこから移動させるかだ」


改めてため息をついた。


「できれば…やりたくないが、誰かの手に落ちたら大変なことになる」


そして、目を瞑った。





(さやか…)


さやかの脳裏に、記憶がよみがえる。


(拓真お兄ちゃん!)


(俺を殺せ!そして、この体ごと…海へ捨てろ!)


それが、島で見つけた森田拓真の最後の言葉だった。


兄のように慕っていた森田の言うことを、さやかは守らなかったことはなかった。


しかし…。


(そんなことできるか!部長は、完全に死んではいないんだ!)


さやかの後ろに、高坂がいた。


(高坂…)


泣き崩れる高坂の姿を見た時…さやかは初めて、森田の言うことをきかなかった。


そして、2人は森田の体を、最大の広さを誇る休憩所内に封印したのだ。


(あの時、せめて…入り口を破壊していたら)


と、さやかが悔やんでみても、仕方がないことだった。


(持ち出せないならば…結界の入口破壊くらいはしなければ)


さやかが、そう誓っている頃…高坂達も同じような小屋を発見していた。


そして、同じように見張りになりながら、高坂も考えていた。


「森田部長…」


高坂は内ポケットから、乙女ケースを取り出すと、その表面を見つめながら、


「今なら…できそうです。すべてを背負うことを!あなたが抱え込んだものも…今度こそは」


ぎゅっと握り締めた。





そして、同時刻。


実世界でいう韓国釜山の太宗台の先に、何とかたどり着いた1人の人間と一匹の妖精がいた。


「い、一体…どこまで行くんだよ」


息を切らしながら、海岸までたどり着いた少年は、思わず砂浜に座り込んだ。


「日本地区よ」


少年のそばで飛んでいる妖精の名は、ティフィン。


「日本って?」


「この海の向こうよ」


「ええ!」


少年は、波打ち際に倒れ込んだ。


「ま、マジかよ」


一気にどっと疲れの出た少年の上に、ティフィンは着地すると、


「もう少しよ」


少年の服を掴み、起こそうとした。


「俺は逃げるよりも、戦いたい」


起き上がることを拒否する少年に、ティフィンは軽くキレながらも、一応は優しく言った。


「何言ってるのよ!やつらは、何人いると思っているのよ!あんた1人では勝てないわ!」


「だったら!」


少年は突然、立ち上がった。


「きゃあ!」


転けそうになったが、何とか羽を広げて、空中でバランスを取るティフィン。


「だったら!日本に行ったら、やつらを倒せる!そんなやつがいるのかよ!」


体についた砂を払うこともなく、空中に浮かぶティフィンに顔を近付けた少年に、ティフィンも顔を近付けると、睨み付けた。


「ああ!いるわよ!あんなやつらを簡単に倒せるやつがね!そいつは普段は頼りないけど、魔王よりも強いのよ!」


「ま、魔王より〜つ、強い!?」


驚いた少年は、ティフィンから顔を離した。


「そ、そんなやついるのかよ!」


「いるわ!」


「じゃあ!そいつの名は!」


「赤星浩一よ!」


「…赤星浩一?」


少年は、ティフィンから一歩下がった。


すると、足元を波が打った。


「そうよ!そいつは、日本の大月学園ってことにいるの!あたしは、あいつの仲間だからきっと助けてくれるわ!」


腕を組み、胸を張るティフィン。


「赤星浩一…」


少年は…今度は呟くように言った。


「だから、心配するな!ジェース!」


ティフィンの言葉に、ジェースと言われた少年は振り返り、海の向こうにある島の方を見つめた。


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