第33話 敵はあたし
「ロバートさん…」
意識を失っているロバートを抱きかかえようにした瞬間、僕は背中から鋭い殺気を感じた。この世界、気を研ぎ澄ませてないと、いつ殺されるかわからない。
とっさに、ロバートを抱えながら、右横にジャンプした。
しかし、その行動を読んでいたように、回し蹴りが僕の軌道を追う。
「チッ」
僕の意識を感じて、ファイアクロウが両手から飛び出し、蹴りを受けとめた。
さらに、チェンジ・ザ・ハートが左右から、敵を攻撃した。
「な」
僕は絶句した。
チェンジ・ザ・ハートは、敵を攻撃するのではなく、敵の両手におさまると、合体して…槍の形になった。
そして、槍を脇に挟むと、僕に向かって構えたのだ。
その姿は、何度もピアスの中から見た…構え。
「め、女神の一撃!?」
信じられない体勢…そして、信じられない姿。
そこにいるのは、アルテミアその人だった。
軽いパニックになる僕に、喝を入れるように、ピアスの中のアルテミアが叫んだ。
「ぼさっとするな!死にたくなかったら、あいつの懐に飛び込め!」
「え!」
「槍を振るう前に、その爪で、チェンジ・ザ・ハートを止めろ!そいつなら、止められる」
考えてる暇はない。アルテミアを信じ、その言葉に従うだけだ。
初動であるかまいたちが、ひどくなる前に、僕は懐に飛び込んだ。
魔力が風となり、僕の肌を切り裂いたが…まだ大丈夫だ。
振るう前のチェンジ・ザ・ハートを、ファイアクロウで引っかけて押さえ付けた。
「ありったけの力を込めろ!」
「うわあああああっ!」
チェンジ・ザ・ハートから漏れる雷鳴と、僕から注がれる炎が、接触面でぶつかり合う。
「今だ!赤星!」
「モード・チェンジ!」
僕の体は、光に包まれた。
「さらに!モード・チェンジ!」
光を切り裂くように現れたアルテミアは、ストロング・モードに変わり、チェンジ・ザ・ハートを蹴り上げると、反転して更に、蹴りをもう一人のアルテミアの腹に叩き込んだ。
少しふらついた相手に、アルテミアはにやりと笑うと、蹴り上げたチェンジ・ザ・ハートを掴み、強引に取り返した。
まだ電気を帯びているチェンジ・ザ・ハートを振るうと、
「A Blow Of Goddess リバース!」
アルテミアは、女神の一撃を放った。
凄まじい雷鳴と、空間をも切り裂く竜巻。直撃だった。
「やったのか…」
僕は、前方を睨んだ。
「いや…」
アルテミアの額から、冷や汗が流れた。
雷と竜巻が止んだ後、普段は地面がえぐれ、周りの風景は変わっているのが…つねなのに、何の変化もない。
「さすが…あたしの体。全部吸収したか」
アルテミアは、再び構えると、無理やり笑った。
「あたしに、あたしの技は無意味」
閉じた瞼の下に薄らと覗く赤い瞳に、鋭い牙。ブロンドの髪は、爆風の後でも、汚れてもいない。白を思わすいつものアルテミアと違い、黒を印象づける佇まい。
僕は一度、そのアルテミアを見ていた。夢の中で…。天空の女神といわれた、バンパイア。
「アルテミア…あれは一体…」
僕の問いに、アルテミアはフッと笑った。
「あいつとの戦いで、消滅させられたと思ってたけど…隠してやがったな」
アルテミアは魔王との戦いに負け、肉体を失い、死ぬはずだったところを、異世界の僕と一緒になることで、助かったのだ。
しかし、今…目の前に、なくしたはずの肉体が、敵として立ちはだかっていた。
「アルテミアのか、体って、もとに戻れるってこと!もう僕と、合体していなくてもいいんだ!」
今の状況を忘れ、無邪気に喜んでいる僕を無視して、アルテミアは自分の体と向き合う。
汗は止まらなかった。拭う暇はない。一瞬の動きが命取りとなる。アルテミアは、小声で呟いた。
「畜生…あたしって、こんなに凄かったのか…」
自分と対峙して初めてわかった。
敵は、目をつぶったまま、俯き加減に、アルテミアの前に立っているだけだが、プレッシャーが半端じゃない。
「アルテミア。どうやったら戻れるの?」
アルテミアはため息をついた。
「戻れるわけがないだろ」
「え?」
アルテミアは苦々しく、敵を睨んだ。
「何か入ってるからな」
その言葉に、もう1人のアルテミアが不敵に笑って、こたえた。
「やはり…気付いておったか」
もう1人のアルテミアは、顔を上げた。目はつぶっていたが、視線は僕をとらえていた。
「ライ!」
アルテミアは、その声に過剰に反応した。チェンジ・ザ・ハートを握り締めた。
その様子に、ライは笑い出す。
「吠えたところで、貴様では、こいつには勝てん。このアルテミアキラーには」
「アルテミアキラー…」
僕とアルテミアは声をそろえて、呟いた。
アルテミアキラーは、アルテミアを指差すと、力強く呟くように言った。
「モード・チェンジ」
すると、アルテミアキラーの姿が変わった。
「なっ」
「チッ」
驚く僕と違い、予想していたのか…舌打ちしたアルテミアは、後ろに向かって回し蹴りを放つ。
ストロング・モードであるアルテミアと、フラッシュ・モードであるアルテミアキラー。
格闘専門になった重い蹴りを、スピード重視である軽い体が、受けとめた。
アルテミアの右足を、左腕で止めたアルテミアキラーは、上目遣いで、目を閉じたまま見上げた。
「余裕か!」
アルテミアは狂ったように、何度も蹴りを叩き込むが、アルテミアキラーは微動だにせず、受け続ける。
やがて、アルテミアが少し疲れたのを見透かすと、ゆっくりと呟いた。
「モード・チェンジ」
アルテミアの蹴りを払いのけると、アルテミアの胸元に向かって、真っ直ぐに蹴りが放たれた。
「ストロング・モード!?」
正しく、アルテミアキラーの姿は、黒のボンテージ姿のアルテミアだ。
一度の蹴りを食らったぐらいで、アルテミアは痛みに体をよじらせた。
「どうやら肉体の差か…」
アルテミアは、威風堂々と立つアルテミアキラーを見た。
アルテミアの体は、普通の人間である僕の体をベースにしているが…アルテミアキラーの肉体は、生まれながらの女神の肉体そのものだ。
「やはり…」
アルテミアは、胸元に差し込んであるブラックカードを確認すると、
「こっちも、開放するしかない」
アルティメット・モードへ変わろうとした。
アルテミアがモード・チェンジしょうとした瞬間、死角に、アルテミアキラーが現れた。
「何!」
それからは、怒涛の攻撃である。アルテミアは、サンドバック状態になる。まるで、ジュリアンとの戦いのように……………………………………………………………………。
(ジュリアンとの戦い?)
僕ははっとした。
アルテミアキラーの攻撃する姿を、ジュリアンと重ねても、まったく交わらない。
ジュリアンの攻撃は、まったく想像できないところから、来てたけど。
(こいつの攻撃はわかる)
僕は頷くと、叫んだ。
「アルテミア!後ろに少し下がれ!」
「え?」
よろけながらも、アルテミアは少し後ろに下がった。
すると、アルテミアの鼻先をかすめて、キラーの踵落としが不発に終わった。
「アルテミア!屈め」
屈んだアルテミアの頭上を、回し蹴りが通過した。
「どういうこと」
その隙に、アルテミアは、キラーから離れ、間合いを取った。
「あいつの戦い方は、アルテミアそのものだ。魔王が乗り移っているのかと思ったけど、違うみたいだ。あの力任せで、大雑把な動きは、アルテミアそのものだ!」
「大雑把だと!」
怒るアルテミアに、
「アルテミアだって、わかるはずだ」
叫ぶと、僕はキラーの動きを観察していた。
(そうか…ジュリアンは、これを)
僕の中から、戸惑いはなくなった。
「アルティメット・モードにならなくなって、アルテミアなら勝てるさ」
余裕があったキラーに初めて、苛立ちが見えた。
「赤星!」
アルテミアも苛立っていた。
僕はピアスの中で、頷いた。
「アルテミア…あなたは、あまりにも強大な魔力を持つ為に、ただ蹴るだけでも、殆んどの魔物を簡単に、倒せる。だけど…」
キラーはいきなり、攻撃がヒットしなくなった為、攻撃を止め、少し様子を見ているようだ。
「同じレベルや、騎士団長クラス…自分より上の魔物には、通用しなかったんだ」
僕は、大きく深呼吸をした。
「だから、アルテミアはもっと強くなれる」
強大な敵が来ても、アルテミアは負けない。僕は確信していた。
「力任せでなく、もっと自然に」
僕の言葉に、アルテミアは深呼吸で答えると、チェンジ・ザ・ハートを、キラーに投げた。
キラーはそれを受け取ると、にやりと笑い、一振りし、槍へと形を変えた。
アルテミアは、全身の力を抜き、両手を自然にぶらんとさせ、構えも取らない。
キラーは槍を突き出すと、一気に間合いを詰め、アルテミアに襲い掛かる。
あまりの速さの為、槍が何本にも見えた。
しかし、アルテミアは微動だにせず、すべての突きをかわしていく。
(お母様…)
アルテミアの脳裏に、遠い昔組み手をした時のティアナの姿が蘇る。
(見える)
アルテミアは、右手をそっと空間にそえた。
そこに吸い込まれるように、槍が突きだされた。
アルテミアの右手の甲が、槍の側面を弾く。そして、そのまま一歩踏み出すと、自然にキラーの懐に入り、手のひらをキラーの胸元に当てた。
「はっ!」
気合いを込めると、キラーの体が踏み込んだっ飛んだ。
「バカな…」
キラーの口から、ライの言葉が漏れた。尻餅をついたが、あまりダメージはない。
だが、今の動きが問題だった。
「さらに…目覚めたのか…」
キラーは立ち上がると、すぐにアルテミアに体を向けた。
「ティアナは、お前に武道を教えようとしていたが…まったく覚えなかったお前が…」
数秒間を開けた後、ライの声は笑った。
「しかし!」
キラーの背中から、蝙の羽が飛び出した。
「この攻撃は避けれまい」
上空に舞い上がったキラーは、チェンジ・ザ・ハートを槍から、トンファーに変えると、両手を突き出した。
「雷空牙」
絶望的な程の魔力が、キラーに集まっていた。
「この技は、避けれまい!」
アルテミアは、町を背にする場所に立っていた。
「しまった」
避ければ、町を直撃する。それに、こちらも雷空牙を打とうにも、チェンジ・ザ・ハートがない。
「アルテミア!」
突然、後ろから声をかけられ、驚いたアルテミアは、少しだけ顔を後ろに向けた。
「これを受け取れ!」
「ロバート!」
いつのまに、気がついたのか…ロバートが立っていた。
ロバートは、アルテミアに何かに投げた。後ろ手で受け取ると、アルテミアは目を見張った。
「これは…」
ロバートは笑うと、両手を突き出し、結界を張り出す。
「後ろは任せておけ!」
「ロバート!これは、どういう意味だ!」
アルテミアが受け取ったものは…。
「サーシャが…最後に、戦いたいとさ」
ロバートは無理して笑った後、真剣な顔で叫んだ。
「指輪をはめろ!時間がない」
キラーは、できるかぎりの雷鳴と風を集めている。それは、大陸を吹き飛ばせる程の。
アルテミアに、迷っている時間はなかった。どうなるのかわからなかったが…ロバートを、サーシャを信じるしかない。
「さらばだ!アルテミア」
キラーの両手から、雷空牙が放たれた。
アルテミアは指輪を、右手の薬指にはめた。
(いくよ)
アルテミアの脳裏に、サーシャの声が響いた。
指輪は、つけるとすぐに、エメラルドグリーンの光を放ちながら、砕けた。
「サーシャ…」
ロバートは目をつぶると、結界を張る力をさらに込めた。
アルテミアの手に、エメラルドグリーンに輝く長剣が現れた。
ソード・オブ・ソウル。
かつて、サーシャは肉体を刃に変えた。そして今は、魂を剣に変えた。
「サーシャ!」
迫り来る雷空牙に向かって、アルテミアはジャンプした。
キラーは慌てて、発動途中の空雷牙を放った。
昔…ティアナが、ライの空雷牙を斬り裂いたように、アルテミアはキラーの雷空牙を斬り裂いた。
「アルテミア!自分の体を斬っては…」
僕の声を無視して、アルテミアは雷空牙を一刀両断した。すると、目の前にキラーが姿を現した。驚くキラーを、さらに頭上から斬りおろした。
(目に見えるものが、すべてじゃない)
ティアナの言葉が、アルテミアの頭に何度も響く。
アルテミアキラーの体に、だぶるように黒い影が見えた。
「サーシャ!力を貸して」
アルテミアの魔力が、握る手から剣に流れ込み、サーシャの魂でできた剣が輝く。
キラーの頭上から、振り落とした剣は、キラーの体を擦り抜けていく。
「あ、アルテミアアア!」
ライの絶叫が響いた。ソード・オブ・ソウルは、黒い影だけを斬り裂いていく。
アルテミアが斬り裂いた雷空牙は、左右にわかれただけで、威力はそのままで、ロバートの張る結界にぶつかった。
「ダメだ…レベルが違う」
結界は止めることなく、消滅した。
そして、ロバートも消滅すると思われた瞬間。
時間にして、一秒もない。
突然、新たな結界が張られた。
覚悟を決めたロバートは、自分が生きていることに驚いた。
「ロバート!俺達だけじゃ、保たない!」
「早く手伝え!」
ロバートは、声がした後ろを振り返った。
何百人という結界士が、手を差出し、結界を張っていた。皆、先の戦いで傷つき、この町で療養していたもの達だった。
「みんな…」
ロバートは、思いがけないかつての同僚の登場に驚き、思わず泣きそうになった。
「感傷的になってる場合じゃないぞ」
「この攻撃は、今までにない威力だ!」
よく見ると、後ろに並んだ結界士達は皆、尋常じゃない怪我をしていることに気付いた。
「パク!お前…」
ロバートは、同期の結界士を見た。
全身包帯だらけで、血がにじんでいた。
「まだ見込みのあるやつは、みんな避難した」
パクは笑い、
「俺達は、助からない。だから」
全員が、カードを取り出した。
「何をする気だ」
結界にヒビが入った為、ロバートも結界を張る。
「ロバート!お前は生きろ!」
「お前達!やめろ」
カードには、リミッターがあった。一般のカードにはない。防衛軍に所属する者だけ配られるカードにある機能。
「さらばだ」
それは、自爆システムだった。
限界以上の魔力を引き出す代わりに、自らの命を捧げる最後の魔法。
「パク!」
何百人もの結界士が、バタバタと倒れていく。
すると、結界は輝きを増し、厚さを増していく。
雷空牙の光と、結界の輝きが、同じくらいになった時、辺りは真っ白になった。
やがて、光は弾けた。
空は普段の晴天より、少し曇っており、風も静かになっていた。
無音の中、アルテミアが、空中から着地した音だけが響いた。
そして、ゆっくりと空中に浮かんでいたアルテミアキラーが、落ちてくる。
地面に激突した音が響いた時、アルテミアの手から、剣は消えていった。
「さよなら…サーシャ」
アルテミアの瞳から、涙が流れた。
ロバートは、その場にへたり込んだ。
「これ程の代償を払わなければ…人は、魔神に勝てないのか」
サーシャ、そして、何百人もの結界の命。
ロバートは、地面をかきむしり、泣き…嗚咽した。
「終わったのか…」
僕は、呟いた。ほっとした気分より、後味が悪かった。
(今回は…アルテミアとの戦いだった)
一瞬、僕の脳裏に、立ちはだかるアルテミアの姿が浮かんだ。
(アルテミア!)
僕の叫びに、アルテミアは悲しく笑った。
(ここまで…来てしまったんだな)
アルテミアと僕しかいない空間。周りは、綺麗な向日葵の花畑だ。
(できれば、こうなりたくなかった)
アルテミアは手の平を、僕に向けた。
対する僕の手には…………ライトニング・ソードが。
(チェンジ・ザ・ハート…お母様)
アルテミアは僕を見つめ、
(赤星。すべてが、もう…過去のこと)
(うおおおっ!)
アルテミアの雷撃を斬り裂き、僕はライトニング・ソードをアルテミアの胸元に突き立てた。
「アルテミアアア!」
僕の絶叫に、
「うるせいなあ!耳元で、叫ぶな」
アルテミアは、顔をしかめた。
「え」
「心配するな。こいつは、脱け殻に戻っただけだ」
アルテミアの足下に、アルテミアキラーの体が転がっていた。
ソード・オブ・ソウルで斬ったのは、ライの分身だけだから、本体には傷一つついてない。
「赤星…今まで、サンキューな」
「え?…ああ…」
アルテミアの感謝の言葉に、僕はやっと現実に戻った。
(さっきのは…夢か…)
オロオロしている僕に、アルテミアは苦笑すると、自ら指輪を外した。
「あたしにつけてくれ」
僕にそう告げると、アルテミアから僕に変わった。
僕は、外した指輪を見つめ、目の前に横たわるアルテミアの体に向かって、腰を下ろした。
「アルテミア…」
初めて生で見るアルテミアは、夢の中で告白してきた…あの美しい美女、そのものだった。
(まさか…こんなことになるなんて)
僕はアルテミアの左手を取り、指輪をはめようとした。
「待て!」
後ろから、声がした。ロバートだ。
「その指輪をつけた時、真の女神は復活するんだぞ」
僕は振り返り、ロバートを見た。
「君と融合している時は、人間の味方だったかもしれない!しかし、もとの体に戻ったら…」
ロバートの言葉を遮るように、僕はきっぱりと言った。
「アルテミアは、アルテミアだ」
「やめろ」
ロバートは銃を召喚すると、僕に向けた。
「これは、君の一存で決められることではない。防衛軍に渡して…」
「ロバートさん」
僕は微動だにせず、銃口の向こうのロバートを見つめた。
「僕は、防衛軍より何より、アルテミアを信じます」
僕の真剣な瞳に、ロバートの銃口から揺れる。
「それに、もし…アルテミアが、あなた方の敵に、なるようなことがありましたら…」
僕はロバートから視線を外し、アルテミアの左手の薬指に、指輪をはめた。
「そうか…」
無防備な僕から、ロバートは銃を下げ、地面を見つめた。
「そうか」
もう一度呟くと、ロバートは僕らから背を向けて、歩きだした。
「長老達の予測を超えた存在…それが、君かもな」
僕から離れていくロバートの背中に、僕はきいた。
「長老とは、何ですか?」
ロバートは足を止めず、遠退きながら、話しだした。
「安定者。人類を統率する機関だ。アルテミアの母、ティアナもかつて、所属していた」
「安定者?」
「そこにいけば…」
ロバートは足を止め、横顔を僕に向けた。
「君は、人の醜さを知るだろう」
ロバートは、カードを僕に向けた。
僕のカードに、着信音があった。
「地図を送った。行きたければ…行けばいい」
再び歩きだしたロバートの背中は、何とも言えない淋しさと、悲愴感が漂っていた。
僕には、もうロバートに、声をかけることもできなくなっといた。
下から、光が溢れてきた。
僕は目を細め、地面に横たわるアルテミアを見た。
今までは、僕を包んだ…この光は、アルテミア自身を包み、やがて…光が止むと同時に、アルテミアは目を開けた。
そして、それと同時に指輪は、砕け散った。
ゆっくりと、全身の動きを確かめながら、アルテミアは立ち上がる。
風になびく美しいブロンドの髪に、コバルトブルーの瞳。華奢な体でありながら、どこか漂うしなやかさ。
そのコバルトブルーの瞳が、僕を見た。
「赤星…」