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第338話 煩悩

「くそ!」


一瞬対応が遅れた高坂は、唇を噛み締めた。そして、真由を床に寝かせると、魔法陣に向かって走り出した。


「彼を追いかける!みんなは、ここにいてくれ!」


「だけど、部長!」


輝はまだ、梨々香の下敷きになっていた。


「おれも行くぜ!」


十六は日本刀を握り締めた。


「1人で行く!心配するな!」


高坂は、魔法陣に飛び込んだ。


「ぶ、部長!」


下敷きになりながらも、体を回転して、高坂の背中に手を伸ばす輝。


すぐに転送された為、輝は手を床に下ろした。


「…綾瀬さんも…行方不明だし…この合宿…どうなるんだろ」


泣きそうな声を出す輝に、またフリーズした十六がゆっくりと顔を向けると、話し出した。勿論、舞の声で。


「こ、こ、ここは…で、電波が悪いわね。か、彼女な、なら、だ、大丈夫」


「どうしてだよ」


輝は腕立て伏せをして 、顔を上げた。


「そ、それは…」


言葉の途中で、再びフリーズした十六。


数秒後、


「はははは!」


笑い声とともに、再起動した。 両手を広げ、


「どうやらこの中では、あいつの力から解放されるようだな!おれは自由だ!」


歓喜の声を上げた。


「私も、出るぞ!畳が気になる!」


少し考え込んでいた打田は力強く頷くと、魔法陣向かって歩き出した。


「や、やっぱり!」


輝も両腕に力を込めると、


「休んで何かいられない!」


梨々香をどかして立ち上がろうとした。


「駄目だな!」


梨々香は銃口に力を込めると、再び輝を床に押し付けた。


「お前はここにいて、高木さんを見ていろ」


そう言うと、梨々香は輝の上から離れ、立ち上がった。


「梨々香!」


「心配するな!」


梨々香は銃を指で回すと、魔法陣に向けて歩き出した。


「すぐに戻る」


打田の後に続いて、梨々香も魔法陣に飛び込んだ。






「高坂部長!」


巨木のそばに転送された梨々香は、血の臭いを感じて、反射的に銃を構えた。


その照準の先には、背中を向けて立ち尽くす高坂が立っていた。


「!?」


梨々香は銃口を向けながら、唖然とした。


「…」


そのそばでは、両膝を地面につけて嗚咽している打田がいた。


「…やはり」


高坂は拳を握り締め、


「気持ちのいいものではないな」


梨々香の方に目を瞑りながら、振り向いた。


「え」


高坂の向こうで、絶命している虎に似た魔物が倒れていた。


土手っ腹に穴が空いており、そこから血が流れていた。


「だ、誰が!?」


穴が空いた腹を見ようとした梨々香に、


「見てはいけない!」


高坂が叫んだ。


「え?」


あまりの剣幕に、梨々香は銃口を反射的に、高坂に向けて突きだした。


「見ては…駄目だ」


高坂は、握り締めていた拳を開いた。


そこには、大月学園の校章があった。


それを見た瞬間、梨々香はすべてを悟った。


「く!」


顔をしかめて、銃を下ろした。


高坂は再び校章を握り締めると、目を開け、


「しばらく…休もう」


もう片方の手で、崩れ落ちている打田の肩に手を置いた。


「…は、はい…」


蚊の鳴くようなか細い声で答えた打田は、ふらつきながらも何とか立ち上がった。


しかし、その瞬間…高坂は気付いた。


「チッ」


舌打ちとともに、周囲を睨んだ。


「く、くそ!」


下ろした銃を握り締めると、梨々香は巨木の周りに銃口を向けた。


「血の臭いを嗅ぎ付けたか!」


高坂は、まだショックから立ち直っていない打田は背中で庇うように立つと、前方を睨んだ。


巨木を囲む茂みから、多数の虎に似た魔物が姿を現した。


「畳先輩の敵!」


梨々香は、銃口を魔物達に向け、引き金を引いた。


「うぎあ!」


一匹の魔物に当たった瞬間、戦いは始まった。


一斉に襲いかかってくる魔物達。


「ステラ!」


梨々香の手に、マシンガンが二丁召喚され、周囲にぶっ放した。


「いくぞ!」


高坂は、校章を学生服の内ポケットに突っ込むと、別のものを取りだそうとした。


「ぐええ!」


咆哮を上げて飛びかかってくる魔物。


その瞬間、高坂の後ろから日本刀を握り締めた腕が飛んできた。


「スパイラルパンチ!」


その名の如く…螺旋を描いて空中をかける二つの拳が、魔物達を切り刻む。


「部長!大丈夫ですか?乗っ取るのが、手間取りまして、遅くなりました」


魔法陣から、手がとれている姿の十六が現れた。


「舞か!」


高坂は内ポケットから手を出すと、打田の腕を掴み、巨木の方へ移動させた。


「ムーンエナジービーム!」


十六の額が盛り上がり、第三の目が現れると、そこからビームを発射した。


乙女グリーンのビームと同じである。


「うぎゃあ!」


ふっ飛ぶ魔物達。


「何でもありだな…」


高坂は呆れながらも、


「頼もしい!」


ガッツポーズを取った。


「やっぱり…思うようにはならないのかよ!くそ!皆殺しじゃい!」


飛び回っている手が、十六に戻ると、舞の声から本人の声に戻った。


そして、両手を広げながら、苛立ちをぶつけるように魔物に襲いかかって行った。





その頃…。1人、休憩所内に残った輝。


厳密には1人ではないが…。


そばで横になっている真由を見て、


「き、巨乳…」


思春期特有のムラムラした思いに支配されようとしていた。


(お、落ち着け!犬上輝!)


輝は、自らの心に問い掛けた。


(ここで何かしたら…お前は、一生罪を背負うことになるぞ!)


と言われても、誰もいない空間が、輝の目を逸らすことをさせない。


(ぼ、僕が…悪いじゃないんだ!人間の遺伝子が駄目なんだ!こ、こんな気持ちにさせる〜青春ってやつが〜!)


そんなことを考えていると、輝の手が…本能に従って、巨乳に伸びていく。


(だ、駄目だ!それは!)


(でも!こんなぶつにお目にかかることは!)


(未来に希望を持て!きっと付き合う子は)


(そ、その前に…この島から生きて帰れるのか?)


そんな葛藤をしていると突然、輝の腕が捕まれた。


「え!」


思わず声が出た。


そんな輝を、下からじっと見上げる真由。


思わず目が合う2人。


掴んでいるのは、真由の手だった。


輝は自らの未来に、絶望を感じた。



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