表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
345/563

第337話 タイムアフタータイム

「ち、違う!」


どんなに弁解しても、現場を押さえられては話にならない。


「最低」


梨々香の冷たい目と向けられた銃口は、明らかに殺意を含んでいた。


「仕方がないさ。部長は男なんだもの」


輝の言葉は、相変わらずホローにならない。


「…だけど、先輩の最低の行為によってわかったことがあるの!」


調子に乗った目玉の表面が、光った。


「舞!お、お前まで…」


明らかに状況を楽しんでいる目玉から聞こえる舞の声に、高坂は絶望した。


「ウフフフ〜」


妖しい含み笑いを漏らした後、目玉から飛び出ている腕で、真由の胸元を指差し、


「彼女は巨乳!」


ビシッと言い放った。


「仕方がないさ。男なんだもの」


輝が頷いた。


「やはり…最低」


梨々香は引き金に、指をかけた。


「ち、違う!」


高坂の弁解を誰も聞かない。


額に押し付けられた銃口が冷たい。


「まあ〜冗談はさておいて」


場の空気を無視して、目玉から舞の声が響いた。


「巨乳よりも驚いたことがあるの。彼女には、明らかに剣で突き刺された痕がある…それも、致命傷になったはずの傷痕が」


「え!」


目玉の言葉に、一斉に真由の胸元を見る三人。十六だけは、アイパッチのはめ具合を確かめていた。


「た、確かに…」


輝は唾を飲み込み、


「巨乳…」


思わず呟いた本音に、


「はあ?」


打田と梨々香が、睨んだ。


「お、お前な〜あ」


銃口を高坂から、輝に向けた梨々香は、有無を言わせずに、引き金を弾いた。


「ひぇ〜!」


野生の防衛本能が、輝を回避させた。


銃弾は、輝のこめかみをかすり、後ろの大木にめり込んだ。


「ほ、本当に、撃つかよ」


と冷や汗を流した輝の目が、梨々香の胸に行った。


「はあ〜」


思わずついたため息が、梨々香の怒りに火を点けた。


「ステラ!」


マシンガンを召喚した梨々香が、輝に向けてぶっ放した。


「あ〜あ」


目玉は、ため息をつき、


「折角、大人しいのに〜。魔物が興奮するだろうが…」


高坂の肩から降りた。


そして、十六の肩に飛び移ると無理矢理アイパッチを外し、再び眼窩の中に戻った。


その間…十六はフリーズしたかのように、動きを止めていた。


起動音の後に、十六は目をパチパチさせた後、舞の声で疑問を口にした。


「それ程の傷を、彼女はどうしてつけられたのか?」


「それは、気になるが…プライバシーの侵害になるな」


落ち込んでいた高坂は、気を改めると、真由のお姫様抱っこで抱き上げ、周囲に目をやった。


「先程の銃撃で、魔物どもがざわついている。囲まれる前に、移動するぞ」


「ど、どこにですか?」


先程から舞の声を発している十六が、訊いた。


「休憩所だ」


高坂は、十六達に背を向けると、林道を外れて歩き出した。


「休憩所?」


十六が眉を寄せ、


「そんなものが、どこに?」


高坂の背中に尋ねた。


「地図には載っていない。その場所を見つけるのも、試練の一つだからな」


一度、島に来たことのある高坂は、休憩所を見つけていた。


島には、合計三ヶ所の休憩所と言われる隠れ家がある。


その一つが、湖の近くにあった。


「ぶ、部長!」


梨々香の銃口から逃げながら、輝は後に続いた。


「休憩所ねえ〜」


打田も歩き出した。


「殺す!」


梨々香は銃口を向けながら、続いた。





その頃…三日月の形をした島の一番北の岬に、さやか達は戻ってきた。


そこにある休憩所は、岬の先…崖を覗き込まないと気付かない。


横になり、下に手を伸ばした辺りにある紋章に触れないと、休憩所の入り口は開かない。


「そんなところに…。よく気付きましたね」


仰向けになり、顔だけ出すと、崖の真下の海を見つめながら手を伸ばすさやかを見て、緑が後ろで顔をしかめた。


「気付いたのは、高坂よ」


さやかの手が何とか、大月学園の紋章に触れると、緑の真後ろに魔法陣が出現した。


「しばらく…休もう」


さやかは立ち上がると、後ろにいる緑、カレン…そして、少しぐったりとした浩也を魔法陣に促した。





「休憩所って…何ですか?」


高坂の後ろをついて歩く輝が、訊いた。


「隠れ家みたいなものだ。合宿所まで辿り着く体力がなくなった者の為に、用意されたと思う」


高坂は真由を抱きながら、茂みの中をかき分け、目で左右を確認していた。


「されたと思うって、どういう意味ですか?」


周りを囲む緑の深さが、数メートル向こうも見えなくしていた。その為、輝は少し怯えていた。


「場所がわかりにくいんだ。目印になるものはでかいんだが…この自然の中では、意識していないと、あることにも気付かない」


高坂は進みながら、記憶を手繰っていた。二年間ほったらかしにしていた島は、生い茂った草木が雰囲気をまったく違うものに変えていた。


「公式の地図にも載っていないのよ」


日本刀を左右に構えながら、サーモグラフィ装置を稼働させ、周囲の魔物の体温を感知しながら進む十六の口から、舞が答えた。


実世界から来た兜によって、強化改造された十六は、いろいろな機能を有していた。


「見つけた」


高坂は、進路を塞ぐようにいきなり現れた巨木に駆け寄った。


樹齢何百年かは、わからない。


その巨木の根本に、刻まれた大月学園の紋章を発見した。


「やるぞ」


高坂が紋章に手を当てると、そこから光が放射され…魔法陣が出現した。


「潜るぞ」


高坂はそう言うと、真由を担いだまま…魔法陣に飛び込んだ。すると、吸い込まれるように…高坂の姿が消えた。


「転送されるのか」


舞の声の後、


「しゃらくさい!」


十六は飛び込んだ。


「一旦休めるのは、有難い」


打田も続いた。


「やっぱり〜息が詰まるよ」


頭をかいて、輝が続こうとした。


その時、虎に似た魔物が茂みから飛び出して来た。


「え」


唖然として動きが止まった輝を後ろから、梨々香が蹴った。


「早くしろ!」


「うわあ!」


そのまま、魔法陣の中にバランスを崩しながら、飛び込んだ輝。


「ちっ!」


舌打ちしながら、梨々香はマシンガンをぶっ放した。


そして、撃ちながら魔法陣に飛び込んだ。


と同時に、魔法陣は消えた。




「うわああ!」

「きゃああ!」


輝の上に、馬乗りに梨々香が落ちてきた。


どうやら、転送と同時に避けなければならなかったようだ。


「お、重い…」


下敷きになった輝の呟きに、


「誰が、重いって!」


梨々香は股がりながら、輝の後頭部に銃口を向けた。


引き金に指をかけた瞬間、梨々香は静まり返った休憩所内に気付いた。


穴蔵のような空間の奥に、踞りながら震えている男子生徒が発見したからだ。


「先客?」


梨々香は、銃口を下ろした。


「お、お前は!柔道部の畳!」


男子生徒が誰なのかわかった打田が、駆け寄った。


「他のパーティーのメンバーは、どうした?」


彼らは、高坂やさやか達よりも先に、合宿所を出ていた。


打田の問いに、畳は震えながら、答えた。


「あ、悪魔に襲われて…パーティーは…俺以外全滅した。逃げていたら…い、幾多っていうやつが助けてくれて…ここに、押し込まれ…隠れろと…」


「幾多!?それは、幾多流のことか!」


その名前に反応した高坂が、畳に近付いた。


「ああ…多分…そう」


と頷きかけて、畳の動きが止まった。


高坂を見て…いや、正確には、高坂に抱かれた真由を見て…。


(見つけた)


畳の頭に、声が響いた。


次の瞬間、


「うわああ!」


畳は立ち上がり、走り出した。


「畳?」


止めようとした打田を突飛ばし、輝達の後ろの壁に描かれた魔法陣に向かって、飛び込んだ。


「何?」


あまりに突然の行動に、高坂も十六も対応できなかった。



巨木のそばに転送され、地面に飛び出した畳。


しかし、そこも安全ではなかった。


血塗れになった虎に似た魔物がいたのだ。


手負いの魔物は、畳に飛びかかった。


数秒後…畳だったものは、骨一つ残さずに、この世界から消滅した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ