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第336話 揺れ動く狭間に

「お、おのれえ〜!」


幾多によって、頭から地面に激突した十六が立ち上がった時、その顔を見て、梨々香が顔をしかめた。


「げ!」


その反応に気付き、輝と打田も十六を見て、悲鳴に近い声を上げた。


「ひぇ〜!」


なぜならば…十六の左目がなかったからだ。






「そう言えば…さっきの地震は何だったんだ?」


首を傾げながら、走る高坂。


少し興奮気味だった為に、そのことを忘れていたのだ。


「は!」


そのことを思い出すことによって、高坂は重要な事実に気付こうとしていた。


「ま、まさか〜魔物が襲って来ないのは!」


「部長!やっと見つけましたよ」


突然、足下から声がした為、高坂は答えを導き出すのをやめて、意識を下に集中した。


「そ、その声は!舞か!」


舞の声とわかったことにより、高坂はある程度のことでは驚かなくなっていた。


例え…そこに信じられないものがいたとしても…。


高坂は腰を屈め、


「前衛的な姿だが…どこで見たことがあるな?」


落ち葉よりも小さな動くものを、まじまじと見た。


「あのからくり人形に、もしもの時があった場合を想定して、準備していたシステムですよ」


それは、目玉に手足が生えているという…小型のからくり人形であった。


あの有名な親父さんと違い…目玉から胴体が生えているのではなく、目玉から直接手足が生えているというデザインだった。


「そんなことより、部長!お探しだった幾多流が、あたし達のパーティーと接触しました。だけど、彼はすぐにパーティーから離れ…もうすぐ島を離脱するものと思われます」


「そうか…」


高坂は、呟くように言った。


「あと…この島には、人殺しがいるから逃げろと」


「そうか…」


高坂は立ち上がると、少し足を速めて歩き出した。


「部長!」


その後を、慌てて目玉が追いかけた。 そして、素早い動きで高坂の背中に張り付くと、肩まであがった。


「幾多流を追いましょう!今なら、間に合います」


耳元で話す目玉の言葉に、高坂は前方を睨むと、


「幾多はいい。やつが言った人殺しが気になる。多分…そいつが、空の女神だ」


早足から一気に土を蹴って、走り出した。


「俺は学園のみんなを守らなければならない」


と言った後、高坂は舌打ちし、


「あいつがもしそう言ったならば…もうすべてに、何人か殺されている!」


さらにスピードを上げた。 なぜか…幾多のことが少しわかっていた。


「幾多はどうするんですか!」


「今は捨て置く!この島にいる生徒達を守る!それに、この島には!」


途中まで叫ぶように言った高坂は、急ブレーキをかけた。


「部長!?」


思わず肩から落ちそうになった目玉が、高坂の服を掴み、必死にしがみつく。


「…高木君」


高坂の目の前に、高木真由がいた。


ボロボロになった制服を身に纏っていたが、悲壮感よりも…どこか気品を感じる真由の姿に、高坂は駆け寄るよりも、構えてしまった。


しかし、こんな高坂の反応を裏切るように、真由は膝から崩れ落ちるように倒れた。


「た、高木君!」


はっとした高坂は、地面に倒れ込んだ真由のもとに走った。


「大丈夫か!」


そして、真由を抱き上げた時…胸元がはだけた。


「うん!」


男の性で思わず、目が行ってしまったが、慌てて顔をそらした。


「部長!」


そんな高坂の耳元で、目玉が声を張り上げた。


「うん?」


高坂の頭に、一瞬だが…目に映ったものがよみがえった。そして、おもむろに胸元に視線を戻すと、目を細めた。


「…傷?」


一直線に、真由の胸元に走っている傷痕。それは、最近できたものではない。


「これは!?」


高坂がまじまじと、真由の胸元を見つめていると、しばらくして前から、妙な視線を感じた。


「うん?」


顔を上げた高坂の視線の向こうに、軽蔑の眼差しを向ける輝達がいた。


どうやら、十六から離れた目玉は本体と繋がっているらしく、電波を辿ってやって来たようだ。


「へ、変態…」


打田は軽蔑の眼差しを向け、


「女の敵!」


梨々香は銃口を向けた。


「ぼ、僕は…健全な男の反応だと思います!わかります!理解できます!」


必死にホローしているつもりのようだが…ホローになっていない輝。


「別に…片目があればいいぞ!隻眼の剣士って、おれに似合っているだろ?」


いつのまにか、アイパッチをしている十六は、照れたように笑っていた。



「ち、違うわ!」


高坂は顔を真っ赤にして、否定した。





「くそ…出遅れましたね」


アルテミアと浩也が激突した森の隙間にやっと着いた…緑とさやか。


両膝を地面につけ、自失呆然となっている浩也の後ろに立ち尽くす九鬼の様子に、2人は近付くことができなかった。


「ア、アルテミアはどこだ?」


まだふらつきながら、カレンが一番遅れて、隙間に着いた。


「そう言えば…」


緑は、周囲を探したが、美亜に化けているアルテミアの姿はなかった。


「…」


さやかは無言で、周囲を伺った後、


「一旦、合宿所に戻るか?ここからなら、抜け道が近い」


再び九鬼と浩也に目をやった。


(それとも…ここで休むか?先程の騒動で、魔物達がなりを潜めている。しばらく、時間を稼げるが…)


合宿所に戻るかと口にはしたが、さやかもどうするか悩んでいた。


「如月部長…。あたしなら、大丈夫です」


突っ立っていた九鬼が、浩也を見下ろしながら答えた。


「…」


さやかと緑、カレンが九鬼の背中を見た。


「多分…彼も」


九鬼は、浩也の方に一歩近づいた。


「わかった」


さやかは頷き、


「だったら、さっきの岬に戻ろう。あそこのそばに、休憩所がある」


九鬼達に背を向けると来た道を戻りだした。


「了解しました」


九鬼も頷くと、浩也の横にしゃがみ込み、肩を貸そうとした。


すると、反対側にカレンが来た。二人して、浩也を立たせると引きずるように、歩き出した。


周囲の森も、風で舞う木々のざわめきしか聞こえなかったが…微かに、その中に魔物の息吹も混じり出していた。




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