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第335話 憎しみと切なさ

「よ、よくも!お母様を!」


シャイニングソードで消したはずの炎が再び、燃え上がる。


その炎は凄まじく、一気に周囲の温度が上がった。


「チッ」


最後まで、ことの成り行きを見ていたかった幾多は、生命の危機を感じて、後ろに下がった。


「く!」


九鬼は何とか、回復して立ち上がると、熱気から逃れる為に、歩き出した。



「ここまでか…」


アルテミアは、浩也の体を見て、シャイニングソードを握り締めた。


そして、斬る為に振り向こうとすると、勝手にシャイニングソードが分離した。


「何!?」


アルテミアは、自らの手から離れたチェンジ・ザ・ハートに驚いた。


慌てて、腕を伸ばし掴もうとしたが…アルテミアは固まった。


チェンジ・ザ・ハートは、浩也とアルテミアの間で一つになると、姿を変えた。


「フ、フレア…」


アルテミアは、フレアの背中を見つめながら、ゆっくりと腕を下ろした。


「お、お母様!?」


フレアの出現に一番驚いたのは、浩也だった。


どんどんと温度が上がっていく浩也に、フレアは微笑むとそのまま…ゆっくりと近付き、炎に包まれた体を抱き締めた。


「お母様!」


抱き締め合う2人。


そのことによって平穏を取り戻したのか…浩也の炎が消えていく。


その様子を見ていたアルテミアは、無言で背を向けると、森の中に消えていった。


すると、浩也に抱き締められていたフレアが、チェンジ・ザ・ハートに戻り分離すると、どこかに消えていた。


「お母様!」


その変化を間近で見た浩也は、フレアの言葉を思い出していた。


(あたしは、あなたの武器です)


その意味を、浩也は初めて目の当たりにした。




「…」


戦いの終わりを感じ取り、足を止めて振り返った九鬼は、目を見開いた。


そして、彼女もまた…フレアからチェンジ・ザ・ハートに変わる瞬間を目撃して、何も言えなくなっていた。



こうして…2日目が始まった。


「やれやれ…」


ことの顛末を見る気もせずに、幾多は森の中を歩いていた。


「偽りの親子に…偽りの姿。それでも、あそこまで真剣だと、滑稽を通り越して…感動すら覚えるよ。彼らの愚かさにね」


幾多は、誰もいない空間で肩をすくめて見せた。


その時頭上から、虎に似た魔物が襲いかかってきた。


「フン…」


幾多は軽く、鼻を鳴らした。


魔物は空中で、どこからか出現した女に蹴り落とされて、幾多の前に転がった。


「やれやれ…どうしたものかな」


そして、すぐに燃え上がる魔物を見ずに、そばに立つフレアの姿をした式神を見つめた。


「式神は、何体も予備があるけど…もうこの姿には、意味がなくなったしな」


フレアは、魔物を倒すとそのまま…姿を消した。


幾多は頭をかくと、


「それに、もうこの島にいる意味もなくなったな」


後ろを振り返り、


「もうすぐ…彼は、よみがえる。その時、今日のことを訊いてみようかな?」


にやりと笑った。




「いけない子ね」


食堂で待機していたリンネは、離れていても幾多の行動を把握していた。


「でも…」


人間を気取って、インスタントの紅茶を飲んでいたリンネは、カップをテーブルに置いた。


「許してあげるわ。ここからは、とても危険な場所になるから」


クスッと笑うと、リンネはテーブルに頬杖をついた。





「…でも、先生は許してくれるよね。きちんと、例のものを確認してきたからさ」


幾多は、学生服のズボンに両手を突っ込むと、無防備に歩き出した。


「そうか…あったのか」


突然、幾多の前に、ユウリとアイリが現れた。


「ああ…あったよ」


彼女達も、パーティーに参加しているはずだが、他のメンバーはいなかった。


「ご苦労だったな」


ユウリの言葉に、幾多は肩をすくめ、


「大したことはないよ。本当は、それを奪うつもりだったんだけど…強力な結界が張られていたからね」


ため息をついた。


「結界が強いのか?」


アイリが眉を寄せた。


「いや…もっと強力なやつだよ」


そこまで言うと、幾多はユウリとアイリの横を通り過ぎた。


「…」


ユウリとアイリは、幾多の言葉を追及しなかった。


「あっ!それと」


思い出したように、足を止めた幾多は、振り返り、


「式神は、借りておいていいんだよね」


2人の背中に訊いた。


「それは…リンネ様がお前に与えたものだ」


ユウリは、前を向いたまま答え、


「それに…そいつがいれば、リンネ様からの連絡がとりやすいからな」


アイリが目を細めた。


「まあ〜監視されているようで嫌だけど…命が大切だからね。了解したよ」


幾多はそう言うと、再び歩き出した。


幾多の足音が聞こえなくなった時、アイリが笑いながら言った。


「所詮…あいつは、単なる使い捨て。人間の動きを探る密偵に過ぎない」


「…」


ユウリは何も言わない。


「どうした?」


アイリは、いつもと様子が違うユウリに気付き、横に目をやった。


「…」


またしばらく無言であったが、ユウリはゆっくりと口を開いた。


「何でもない」


この返事に、今度はアイリが無言となった。





合宿所に向かって歩く幾多は、ふと足を止めた。


「そう言えば〜真と約束したんだっけ…ここで会おうって」


幾多は腕を組み、


「どうしたものかな?」


悩み出した時、前方の茂みの向こうから声が聞こえてきた。



「大丈夫かな…部長」


輝達は無事に、湖に着くことができた。


あれほど周囲に感じた魔物の気配が、地震の後…まったく感じなくなっていた。


まるで、どうなるのか…なりを潜めて様子を伺っているように思えた。


そのことが幸いし、輝達は無事に湖に着くことができたのだ。


「それにしても…静かね。逆に不気味だわ」


打田は、湖の向こう岸を見た。


思ったより、湖は広く…向こう岸に人がいたとしても、豆粒くらいにしか見えないだろう。


「一応、気をつけて下さいよ」


梨々香は、銃を周囲に向けて、様子を伺う。


「!」


突然、十六が走りだした。


「え!」


驚く輝達を背にして、一気に湖の周囲をおおう茂みに、突進した。


「誰だ!」


二本の腕を伸ばし、両手に持った日本刀の刃を水平にし、回転した。


左回りに回転する為に、右手の刀は刃を前に向け、左手は刃を後ろに向けた。


駒のように回転する刃が、茂みを切り裂いた。


一瞬で、枝や葉が舞い、視界が開けたが、そこには誰もいなかった。


「何!?」


周囲を確認した十六に、打田が叫んだ。


「上!」


「な!」


見上げようとした時、頭上から、幾多が落ちてきた。


「甘いな」


股を開き、十六の頭を両手で掴むと、重力で押さえ付けた。さらに、開いている足を前に突きだすとそのまま後ろに曲げて、十六の脇にさし込み絡めた。


そして、ブリッジの要領で背中を反らし、頭から落ちるようにしながらも、両手で十六の両足の太股を掴み、反転した。


「ぐわあっ!」


頭から回転して、地面に激突した十六から、素早く離れると、幾多は…唖然としている輝のもとに近付いた。


「確か…君は、情報倶楽部のメンバーだったね」


にこっと微笑む幾多に、輝は本能的に構えた。


「はい」


いつもなら後ずさってしまう輝の心が、逃げてはいけないと告げていた。


そんな輝に微笑むと、幾多はあくまでも明るく言った。


「真に伝えてくれ。君の大切なものが何かわかったとね。それに、残念ながら、ここで会うことはできなくなったと。いずれ何処かで…じゃないな」


はははと幾多は、笑うと、


「学校で会おうとね」


そのまま歩き出した。


「…」


輝は、何も答えない。真っていうのが、高坂の名前であるとすぐに気づかなかったのもあるが、会話をしてはいけないような気がしていた。


「あっ!それとだ。僕なんかと違い…本物の人殺しがいるから、注意してねと言っておいてくれ」


幾多はにこっと輝に笑いかけた後、一番近くの茂みの中に消えていた。




その頃…湖に向かって、森の中を走る高坂は、高笑いをしていた。


「ははは!我の新しい力を感じて、怖じ気づいたか!」


魔物が襲って来ない理由を、月影の力を手に入れた自分を恐れての結果だと思っていた。


勿論、それは大きな間違いだということに、本人は気付いていなかった。


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