第32話 暮れる想い
「今日は、こんなものか」
関係者以外立ち入り禁止のカードシステム専用格納庫で、手摺りに持たれながら、クラークは指に挟んでいたブラックカードを消し去ると、煙草を挟んだ。
真っ暗な空間に、煙が漂う。
しかし、クラークは煙草を吸うのを止めた。口元を緩めると、
「早かったな」
後ろを向かずに、クラークは声をかけた。
「何を企んでいる?」
クラークの右後方の空間を切り裂くように、ジャスティンがテレポートしてきた。
「別に、大したことじゃない」
クラークの言い方に、いらつきを覚えたジャスティンは、後ろからクラークの肩を掴んだ。
「アルテミアの依り代に、会いにいったな」
「まあ…直接は、会ってないがな」
クラークは、皮肉ぽく言った。
「アルテミアに手を出すな!彼女は、人類の希望だ!」
ジャスティンは、強引にクラークの体を自分に向け、
「お前だってわかってるはずだ!彼女は、先輩の…」
「そして、魔王の娘だ!」
クラークは逆に、ジャスティンの腕を取った。
「クラーク…」
「人間は、人間の力で生き抜かなければならない」
クラークは、ジャスティンを掴む手に力を込めた。
「彼女は、人間だ!」
ジャスティンは腕を払うと、クラークを睨んだ。
「と思っているのは、お前だけだ」
クラークは笑うと、もう話しても無駄だというように、手摺りから離れ、ジャスティンの横を擦り抜けた。
「魔王を倒せるのは、彼女だけだ」
ジャスティンは、歩き去っていくクラークの背中に向かって言った。
「魔王を倒す必要はない!なぜなら彼は、人を滅ぼす気はないからだ」
「何?」
クラークは足を止め、
「お前は、安定者だが…危険視されている。気を付けるんだな」
クラークは、再び煙草を召喚した。一度吹かすと、また歩きだした。
「それに…俺が手を出さなくても、アルテミアはもう直き死ぬよ」
「どういう意味だ」
ジャスティンの質問には答えず、クラークはテレポートして、格納庫から消えた。
「何が起こっているんだ?」
ジャスティンは、すぐにでも、アルテミアを助けに行きたかった。しかし、今この場を離れることはできなかった。
ティアナがつくったカードシステムの要であるこの場所から。