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第326話 Like A Tattoo

「まあ〜ここからは、大丈夫だろうが…一応、気を抜くなよ」


一番の難所を越えたことで、前田も少しは安心していた。


事実、それ以降の襲撃はなかったのだから。




「いよいよ…獄門島ですね」


隣に座る真由に愛想笑いを向ける輝に、前の座席に座るさやかが訂正した。


「極楽島だ」


「そ、そうだった!アハハハ…」


笑って誤魔化さそうとする輝。だけど、真由は前を向いたまま、口を閉じていた。


(ど、どうして、この席なんだよ!)


とにかく、できれば…席を代わって欲しいと、心の底から願う輝。


そんな輝の気持ちを知ってか…にやりと笑ったさやかは、言葉を続けた。


「と言っても…誰の為の極楽かは、知らないけどね」


「!」


その言葉に、息を飲む輝。


「…」


少ししーんとなる車内に、梨々香の笑い声だけがこだました。


「きゃははは!何言ってんですか!部長!あたし達にとってに決まっているでしょうが!」


そう言うと、梨々香はさやかの隣で銃を取りだし、


「あの島は、修行の場!もしかしたら、あたし1人で、島の魔物を全滅させるかも!きゃははは!」


楽しそうに笑う後輩の姿に、さやかはため息をついた。


バスはいつのまにか…海岸線を走っていた。


右手に広がる青い海。


実世界よりも美しい。


しかし、ブルーワールドの住民はこう言う。


海は美しく、恐ろしい。


なぜならば…あそこは、人間の領域ではないからと。



(人が栄えない方が…この星は汚れない)


梨々香達と同じバス内にいる浩也の頭にふっと…そんな言葉がよぎった。


(だけど…)


浩也は、自分であって自分でないような感覚を味わいながら、頭の中の会話を聞いていた。


(赤の王!)


先程の魔物が、恐怖に震えながら…自分をそう読んだ。


(赤の王って…)


そして…。


(太陽がほしいか?)


自分の口から出た言葉…。


浩也は、手の甲でこめかみを押さえた。


(僕は…一体…)


苦悶するような浩也の様子に気付き、隣に座るカレンは言葉をかけようとしたが…言葉が浮かばなかった。


数秒悩んだ後、


「大丈夫か?」


そんな一言しか出なかった。


「う、うん…」


浩也は手を下ろすと、カレンに微笑みながら頷いた。


カレンは、額に汗を浮かべている浩也の様子に、ハンカチを取り出すと、拭いて上げた。


「ご、ごめん」


カレンの行動に戸惑った浩也は、慌てて離れようとしたが…思わず動きを止めた。


カレンの顔が、強張っていたからだ。


(な)


カレンは心の中で、絶句していた。


(あ、熱い!?)


浩也の体温は、人間のをこえていた。


(なんだ…この熱さは)


カレンは、ハンカチで拭くのをやめると、浩也の両肩を掴んで訊いた。


「お、お前!体は、大丈夫なのか!」


「な、何が?」


浩也は、カレンの怒ったような剣幕に驚き、じっと目を見つめていた。


カレンはそんな浩也を見て、気付いた。


(先程の奪った魔力が、上手く制御できていない。だけど…)


カレンは、唇を噛み締め、


(本人には、自覚がないし…ダメージもない)


最悪の未来を予測した。


(これから、こいつが戦い…魔物の力を吸収し続けると…こいつの体から、熱が放出される。今は、触れないとわからないが…いずれ、そばにいるだけで…)


カレンははっとした。


(太陽のバンパイア!)


かつて、赤星浩一がそう言われていた。


浩也を掴むカレンの両腕が、小刻みに震えた。


(このままでは…こいつは、太陽になる!第二の太陽に)




そんなカレンの様子に、一番前に座るリンネが笑った。


後ろを見ていないが、手に取るようにわかっていたのだ。


(心配はいらないわ。この子は、太陽にはならない。その前に…封印が解ける!)


リンネは、長い前髪を指先で丸め、


(本来ならば…永遠に解けないはずの封印が…浩也という肉体を作ってしまった為に、解くことが可能になった)


リンネはほくそ笑んだ。


(自分の肉体が、危険になった時…彼は、復活する。なぜならば…彼の魂があれば、魔力の調整は可能!そして!一瞬でも、封印が解けた時…王は、復活する!)


そして、誰もいない前方を睨んだ。


(フレア…。あなたは、嬉しいのかしら?愛する男が復活することが…。そして)


リンネは、後ろを見た。


浩也を見る為ではない。


その先にある海。


海はすべて、繋がっている。


そう…遥か海底に、眠る者達のもとへも。





「もうすぐ…船着き場に到着する。島までの海路には、強力な魔物がいないが…気を抜くなよ!」


前田は車内の通路に立ち、生徒達に報告した。


約6時間という長旅をえて…バスは、海沿いにある小さな港町に突入した。


空には、カモメの群れが飛び回っていた。


カモメが舞っている町は、安全だと言われるように、比較的のどかな雰囲気を醸し出していた。


といっても、町の周りには警備員が立っていた。


カードシステム崩壊によって、魔力を無駄に使えなくなった町は、結界を張るのではなく、その周囲に人を配置させているのだ。


大月学園のバスを見て、警備員の1人が敬礼した。


バスの中で、前田は頭を下げた。


「着くぞ!」


バスは町の中心部に向かわずに、左に曲がり、船着き場を目指す。


対魔物用に、武装された漁船の向こうに、一際目立つ船があった。


いや、船ではなかった。


小型の潜水艦だ。


それは、島に渡るまでに攻撃され、沈没した場合を想定して…だったら、潜水艦にしょうと、前校長の独断で購入されたものだった。


海面から、半身を出した姿をさらしている潜水艦を見て、輝は驚きの声を発した。


「船って…潜水艦!?」


「フン」


輝の前に座るさやかは、鼻を鳴らし、


「防衛軍の解体のどさくさに、手に入れたのよ。勿論、ただでね」


近付いていく毎に、大きさを実感していく潜水艦を睨んだ。


バスは、船着き場近くの駐車場内で止まった。勿論、大月学園所有の駐車場である。


何もない更地の駐車場に降り立った前田のもとに、潜水艦の方から警備員が走り寄ってきた。


「前田教官!」


前で止まると、足を鳴らして敬礼する警備員に、前田は軽くため息をついてから、敬礼を返した。


「潜水艦の準備は、できております。いつでも、発進できます」


「ご苦労様です」


2人は、敬礼を解いた。


前田は後ろを向くと、二台のバスから続々と降りてくる生徒達に叫んだ。


「すぐに乗り込むぞ!潜水艦の前に集合しろ!」


「はい!」


生徒達の返事に頷くと、前田は潜水艦の方へ歩き出した。


すると、先程の警備員も前田の隣を歩き出し、口を開いた。


「学園で起こったことは、こちらでも耳にしております。まさか…司令がお亡くなりになるなんて…」


警備員は、前方の潜水艦を見上げ、


「月の力を手に入れた後は…日本地区主体の新生防衛軍を旗揚げするはずでしたのに…」


肩を落とした。


「…」


前田は、何も言葉を発しなかった。


「!」


警備員は慌てて、顔を上げると足を止めて、再び離れて行く前田の背中に、敬礼した。


「武運を祈っております。お気をつけて!」


この港町はもともと、前校長結城哲也が、新生防衛軍の前線基地として建設したものだった。


しかし、今は…周辺の住民が安全を求めて集まり、基地というよりは住宅地に近くなっていた。


漁業を生業となる住民達を、魔物から守る為に…哲也が残した兵士達が駐留していた。


そして、最大の遺留品が、海に浮かんでいた。


「乗り込むぞ!」


前田は、後ろからついてくる生徒に叫んだ時…先程の警備員が慌てて走り寄ってきた。


「言い忘れておりました。昨日、生徒の1人と思われる者が、ボートを奪い…島に向かったものと思われます」


「な」


前田は、絶句した。


一瞬だけ、潜水艦の向こうを見つめた後、


「心当たりがあります。その生徒のことは、こちらでお任せを」


警備員の方を向き、頭を下げた。


「了解しました!」


警備員は敬礼すると、頭を下げ、駐車場の方へ戻っていった。


そんな警備員の背中を見送っている前田に、さやかが近付き小声で訊いた。


「どうしました?」


前田は眉を寄せ、


「幾多流が、ボートで島に向かったらしい」


軽く舌打ちした。


島に渡るのに、潜水艦が来る前は、小型の漁船を使っていた。しかし、もともとは、ボートで1人1人島に渡っていた時期があったのだ。


「なぜ…先に行ったのでしょうか?」


と訊いてから、さやかははっとした。


「ま、まさか…森田部長の!?」


そこまで口にしたさやかに、前田は口に人差し指をつけて、黙るように指示した。


「す、すいません」


さやかは、謝った。


「気をつけて…と言っても、あれは人間には関係ないもの…と言うよりも、絶対に関わってはいけないもの」


前田は、潜水艦の方を見た。


「その為に、島に結界が張られているのですよね。中の魔物を逃がさないようにする為ではなく…外から魔物を入れないように」


さやかは、島の真実の一つを口にした。


「まあ〜用心の為よ」


前田は突然、緊張を解くかのように、背伸びをし、


「今の魔王には、必要ないものだから」


肩をすくめて見せた。そして、さやかを見つめ、


「だって、あの結界も…魔神が来れば、ひとたまりもないわ。なのに…やつらは来なかった。あそこにあるのを知っててね」


前田は笑いかけた。


「し、しかし…」


さやかは目を反らすと、少し考えた後、


「やはり、あの島に行くのは」

「大丈夫!」


前田は、さやかの肩に手を置いた。


そんな2人の会話を、遠く離れながらも聞いていた人物がいた。


リンネである。


「…」


リンネは無言で笑うと、心の中で2人の会話に答えていた。


(今まではね)





埠頭から、1人づつ足下を気にしながら、生徒達が乗り込んだ後…潜水艦はゆっくりと動き出した。


目的地は、プログラムされており…予定では一時間もかからずに、島に到着することになっていた。


もうすぐ運命が加速する。

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