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第321話 翼無き者達

「あ、あのお!」


思いきって話しかけようとした時、車内に前田達が戻ってきた。


「うん?」


前田は、車内の通路で固まっている輝に気付くと、背中を蹴り、


「さっさと、座れ!隣に!」


真由の方へと押した。


「ええ!」


よろめきながらも後ろを振り返り、輝は前田を見た。そのすぐ後ろにいた緑が、顎で輝を行くように急かした。


「さっさとしろ!時間がないんだ!出発するぞ!」


もう前田は、輝だけをかまっている場合ではなくなった。


車内に戻ってきた生徒達に、


「ここからは、魔物の襲撃もあり得る!各自、臨戦体勢を取れ!気を抜くなよ」


注意を促すと、自分も手甲を取りだし、装着した。


バスは関所を離れると、いよいよ人間のテリトリーから外れた。


妙な緊張感が流れる中、


「アハハハ…」


輝だけは違う意味で緊張していた。


少しブスッとしたような真由の隣で、肩身の狭い思いを味わっていた。


(と、隣なんて…)


輝は今まで、こういった時に女の子の隣に座ったことがない。


あまり、女の子と隣同士というシチュエーションに慣れていなかった。


確かに、緑やさやかとは一緒によくいるが…軽く虐待を受けているのと同じだった。


普通ならば、女性恐怖症になってもおかしくないのだが…輝は、2人を女ではないと、認識することで女性恐怖症にはならずにすんでいた。


(そうだ!女の子は、もっと可愛くて!いいもんなんだ!いい臭いもしてさ!さやかや緑のような野蛮で、男…いや、獣…いや、鬼のようなやつとは違うだ!)


輝はガッツポーズを取り、ちらりと横を見た。


(それにしても…まるで、人形のようだな…)


彫りの深い顔をした真由の横顔は、鼻が高くってバランスがいい。


そのまま見とれそうになる輝の頭を、緑がまた小突いた。


「声に出てるぞ!誰が、野蛮で鬼だ!」


どうやら、心の中で話していると思っていたが、無意識に声に出ていたらしい。


車内に、笑いが起こった。


少し和んだ車内。良い意味で、みんなの緊張が解けた。


ただ1人…真由を除いて。


輝が、緑の後にさやかにグーで殴られている様子が、後ろのバスからも見えた。


「何をやってるのか…」


前と違い、ずっと静かな雰囲気の後方のバス。


美亜に化けているアルテミアは、出発してから、ずっと窓の外を見ていた。


九鬼は目を瞑り、呼吸を整えていた。


バスは、山への入り口であるトンネルに突入した。


長いトンネルを、5分くらい走ると、完全に魔物のテリトリーに入る。



「!!」


トンネルの途中で突然、九鬼が目を開けた。


アルテミアは口元を緩め、前のバスにいたカレンと浩也が顔を上げた。


「お前は、ここにいろ」


カレンは、隣に座る浩也にそう言うと、左側にある窓を開けた。


「山本さん?」


前田は、カレンの方を見た。


トンネル内で窓を開けた為に、凄まじい風が、車内に飛び込んできた。


生徒達の髪が乱れ、一瞬だけパニックになった。


その隙に、カレンは窓の上を掴み、


「フン!」


気合いと共に回転して、バスの屋根に着地した。


バスを包むように後ろに流れる突風に、立つことができなかった。


腰を屈めて、髪を靡かせながら、カレンは前方を睨む。


空気にぶつかりながら、カレンは首にかけたペンダントに、手をかけた。


その後ろのバスでは、同じように黒髪を靡かせながら、九鬼が屋根にしがみついていた。


(いくぞ!)


2人がほぼ同時に、全身に力を込めた時、バスはトンネルを抜けた。


目の前に広がるのは、山の側面に添うように続いていく山道だった。


「崖?」


真由の向こうの窓から見えるのは、五十メートルくらい下を流れる川だった。


どうやら、バスはなだらかに坂道を登って来たようだった。


トンネルを抜けて、あまりにも変わった風景に、驚いている暇は、生徒達にはなかった。


「キイキイ!」


猿の体に、灰色の翼を生やした魔物が、輝の見ている窓の向こうに、上から顔を覗かせた。


いや、覗いた訳ではなかった。


下半身を斬り裂かれた魔物が、落ちてきたのだ。


トンネルを出たと同時に、ペンダントからピュアハートを召喚させたカレンの横凪の斬撃が、数匹の魔物を斬り裂いたのだ。


「チッ」


しかし、魔物の数は半端ではなかった。


「輝!ぼおっとするな!」


カレンが飛び出した窓から侵入しょうとした魔物の額を、緑は木刀でかち割った。


「え!」


いつのまにか、二台のバスは数え切れない程の魔物の群れに囲まれていた。


「こ、こんなにいたのか!」


トンネル内よりもましになった風の中で、カレンは立ち上がると、ピュアハートで数匹の魔物を相手していた。


後ろのバスの上では、素手で魔物達を蹴散らす九鬼がいた。


「チッ」


バスの周りを飛び回る無数の魔物と、揺れる屋根に足を取られ、いつも以上のキレがでないことに、九鬼は軽く舌打ちした。


「うわあああ!」


バスの前に飛び込んできた魔物によって、視界を失った運転手がパニックになった。


「どけ!」


席から立ち上がり、魔物達を見つめ、対応を悩んでいる生徒達を押し退けて、梨々香が前に来た。そして、銃底でフロントガラスを割ると同時に、銃弾を魔物に浴びせた。


魔物は撃ち落とせたが、激しい風が車内に吹き込んでいた。


「まったく!」


さやかはカードを取り出すと、修復魔法を発動させて、フロントガラスをもとに戻す。


「無茶するな!」


さやかは、梨々香に注意した後、カードの魔力の残留をチェックした。


「一度止まって、魔物を外で迎え撃ちましょう」


生徒の1人が、前田に進言した。


「駄目だ!止まっては、いけない。一気に、そのエリアを突破する!」


前田の目に、翼をたたんで、四本足でバスを追いかけてくる魔物の姿が映った。


やつらの目的は、明らかだ。


バスを破壊された場合、徒歩でこの山を越える方が、リスクが大きい。


「とにかく!バスの中から攻撃する!」


しかし、体術をメインにして、剣や槍などしか認めていない学校の方針により、飛び道具を持っている生徒は、梨々香しかいなかった。


窓から攻撃するにも、限界があった。


「どうする!」


窓を開けると、高坂は向かってきた魔物に、拳を叩き込んだ。


「高坂パンチ!」


しかし、相手にダメージを与えられない。


「高坂部長!退いて!」


空手部の打田直美が無理矢理、高坂を退かすと座席に飛び乗り、前蹴りを放った。


魔物をバスから離すことはできたが、やはりダメージを与えられない。


「このままでは、ヤバいぞ」


高坂は、左右の窓を見た。


「な、舐めるなよ」


その頃、前を走るバスの上に、緑が着地した。


しかし、バスは螺旋状の道を上がっていく為に、結構揺れた。


さらにカーブが続く為、バランスが取れずに、緑は立ち上がれない。


バスの左右にくねるような動きは、立つことを困難にしたが、魔物もまた簡単に張り付くことができなかった。


そんな状況の中、カレンは舞うように、魔物達を斬り裂いていた。


「ど、どうなっているんだ!」


その様子を後ろから見ていた緑は、絶句した。


カレンはなんと、バスの曲がる方向を予想して、屋根を蹴ると空中に舞い、魔物を斬り、落ちる時にちょうど足元に来たバスを蹴り、再び攻撃をするという一連の動きを繰り返していた。


まるで、このような状況で戦うことを前提として訓練していたようなカレンの動きに、緑は悔しそうに歯を食い縛った。


後ろのバスの上では、逆にまるで何事もないかのように、バスの動きに合わせながら、攻撃をする九鬼がいた。彼女だけ見ていれば…普通の地面で戦っているようだ。


しかし、素手では倒すことができない。


武器を持つカレンと違い、斬られないと理解した魔物達は一斉に、九鬼の上空を囲み、一気に降下した。


「生徒会長!」


緑が、後ろの状態に気付いた。


ちょうどバスが、カーブを曲がる寸前だった。


五匹の魔物の一斉攻撃に、九鬼は思わずバランスを崩した。


「危ない!」


魔物の一匹と絡まりながら、九鬼はバスの上から落ち、そのままガードレールを越え、崖の真下に落ちていった。


「生徒会長!」


「九鬼!」


その様子は、前のバスからも見えた。


落下して行く九鬼と魔物の様子が…。


しかし、それに構っている場合でもなかった。バスは、すぐにカーブを曲がった為、九鬼の様子を最後まで見る事はできなかった。それに、魔物の襲撃は続いていた。


「楽しいわね…」


小声で、リンネが呟くように言った。


「く、くそ!」


高坂は、振り返ると後ろを睨み、窓から飛び降りようとした。


「心配いらないわ」


それを止めたのは、理沙だった。


「!」


自分の肩に手を置いた理沙の顔を見た瞬間、高坂ははっとした。そして、落ち着きを取り戻し、ゆっくりと頷いた。



前のバスにいた浩也も頷いていた。




「装着!」


落下しながら、九鬼は叫んだ。


「キィィ!」


黒い光が、魔物を弾き飛ばすと同時に、九鬼は再び叫んだ。


「月影キック!」


弾き飛ばした魔物の腹に、足を添えると、そのまま真下の川に向かって落下する。


魔物の断末魔も、激突音と水飛沫にかき消された。


水飛沫は、五十メートル上を走るバスからも確認された。


と同時に、その水飛沫の中から黒い戦闘服を着た九鬼が飛び出して来た。


「乙女ブラック!」


先頭を走るバスの前に着地した。その姿を見て、バスの中から歓声が沸き起こる。


「フン!」


乙女ブラックは、バスに向かって走りだした。


そして、その横を通ると、道路を走って追いかけて来ている魔物達を、手刀で切り裂いた。


「トウ!」


それから、ジャンプすると、空中にいる魔物に向かって襲いかかる。


「ルナティックキック!」


魔物を蹴ると、その反動を利用して、次の魔物を切り裂いた。


そして、道の側面に聳える山肌を蹴り、再びさらに宙を舞う。


「乙女ブラックが…空中戦をしている」


まだ何もしていない緑が、乙女ブラックの動きを目で追っていた。


「おい!」


そんな緑に、バスに着地したカレンが叫んだ。


「ここからは、しばらく真っ直ぐが続く!頼んだぞ」


「え」


確かに、カーブがなくなり、バスは安定した。


しばらく、直進だけだ。


「モード・チェンジ!」


カレンは、ピュアハートの刀身を立てにした。すると、ピュアハートから光が放たれ、カレンを包んだ。


次の瞬間、翼を生やしたカレンがバスの上空を飛翔していた。 そのまま、崖の向こうに浮かぶ魔物達に斬りかかった。


「え」


唖然とする緑の前に、今度は梨々香が姿を見せた。


「やっと、上がれた!」


梨々香は背伸びをすると、胸元に隠れていたステラに向かって、叫んだ。


「召喚!」


「了解!」


マシンガンが、梨々香の手に握られると、そのまま空に向かって連射した。


「危ない!」


カレンに、当たりそうになったが、何とか避けた。


「味方を殺す気か?」


カレンは、梨々香の銃弾を気にしながら、戦うことになった。


後ろでは、乙女ブラックが魔物を駆逐していた。


しかし、前のバスに比べて、後ろのバスは魔物の接近があまりなかった。 取り囲んではいるのだが…明らかに警戒していた。


その理由は、簡単だった。


先程の高坂と打田が、魔物とやりあっている時、反対側にも、魔物は接近していた。しかし、その時…魔物は気付いたのだ。 その中にいる恐ろしき存在に。


前にいるリンネは、完全に魔力を消し、魔物に襲われるという状況を楽しんでいた。


しかし、後ろにいるアルテミアは、魔物と目が合った瞬間、その魔力の片鱗を示した。


猿のように、真っ赤な顔をしている為に表情の変化はわからなかったが、魔物は恐怖し、すぐにバスを離れた。それ故に、バスの上にいた九鬼に、攻撃が集中したのだ。



「く!」


魔物の数は、尋常ではなかった。


乙女ブラックは、バスの屋根に着地すると同時に、変身が解けた。


月の出ていない時間では、ムーンエナジーをチャージできない為に、活動時間が限られているのだ。


空を見上げ、まだ残っている魔物達に向かって唇を噛み締めた時…九鬼の頭に、声が響いた。


(あなたに…限りなどない。無限の輝きを得ているのだから)


「え!」


九鬼はその声に驚いていると、足下から温かいものを感じた。


それは、光だった。まったく眩しくない光が、足下から上がってきて、全身を包んでいく。


「こ、これは!?」


再び、九鬼の姿が変わった。


「生徒会長の姿が!」


バスの上で、魔物と戦っていた緑は、後ろから目に入った輝く光に振り返った。


(乙女シルバー!?)


自らの変化に絶句しながらも、九鬼は拳を握り締めていた。


(いける!)


そして、空高く舞い上がると、無数の乙女シルバーが上空に出現した。


「月影!流星キック!」


まるで流れ星のように、蹴りが…雨のように降り注いだ。


「す、凄い…」


梨々香は感嘆し、思わず引き金に指をかけたままで動きを止めた。


カレンだけが、乙女シルバーの姿を認めると、邪魔にならないように、距離を取って離れた。


流星郡が、道路に着地した時…バスの周囲から魔物はいなくなっていた。


道路に1人立つ九鬼の姿を見た時、前田は運転手に命じた。


「バスを寄せて、止めて下さい」


最初の戦いは、終わった。



しかし、それは…ほんの始まりに過ぎない。


なぜならば、まだ目的地にさえ…着いていないのだから。



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