第319話 そこに、すべてあるのか?(& 登場人物紹介)
そうして…高坂は、世界を越えた。
ブルーワールドと実世界は、裏と表…表裏一体である。
時間軸は、ほぼ同じだと言えた。かつて、赤星浩一がアルテミアによって、無理矢理召喚されている時、昼と夜が逆転していたことを考えると、多少の誤差があるかもしれなかった。
それでも、1日以上はなかったはずだ。
しかし、高坂が世界の壁を越えた時、二年近くの隔たりがあった。
彼は、二年前の過去に飛んだのだ。
かといって、ブルーワールドに着いた彼は、記憶を失っており…過去であると認識することはなかった。
そして、追ってきたはずの幾多流も…まだブルーワールドには来ていなかった。彼が来るのは…二年後だからだ。
その二年の猶予のような時間は、高坂にプラスとなった。
その時の生徒会長であり、情報倶楽部の部長でもあった森田拓真や…まだ一年であった如月さやかとの出会いは、記憶を失った高坂にはとてもプラスに働いた。
月の女神の根回しがあったかもしれない…大月学園への入学。
その大月学園の名簿で、高坂は自分の名を知った。
「高坂…真」
そして、森田拓真の死により、情報倶楽部の部長となり、そこで緑や服部、輝という後輩を得て、人脈も作れた。
「月影?」
三年になってまもなく、テレビで始まった新番組。そして、一年の生徒会長九鬼真弓の姿を目にした時、高坂は何かを思い出してきた。
魂に刻まれた何かが…。
「俺は…妹を殺された。殺した相手の名は…幾多流」
ある日…呟くように、さやかに告げた。
「え…」
あまりの告白に、思わず…素っ頓狂な声を上げたさやか。
「もし…その名前のやつに出会ったら…教えてくれ」
高坂は、さやかに頭を下げた。
それから、しばらくして…幾多流はやって来た。
大月学園に、転校生として…。
そのことを知った時、高坂は興奮した。
やっと…自分がここにいる意味を見出だせたような気がしたからだ。
相手の顔は、思い出せないが…見れば、絶対にわかると確信していた。
「高坂!」
幾多との久々の…そして、初めての遭遇を得た高坂のもとに、新聞部部室を飛び出してきたさやかが駆け付けた。
「幾多流と会ったのか?」
さやかは、校門を出てすぐの道で立ち尽くす高坂の背中を見つめ、問い掛けた。
「…」
高坂は深呼吸をした後、ゆっくりと言葉を口にした。
「ああ…」
「何か思い出したのか?」
さやかは、眉を寄せた。
「思い出したというよりも…頭の奥に刻まれていたものに、ぴったりと合致したという感じだ」
高坂は口許に笑みをつくると、ゆっくりと振り向き、
「それに、向こうが…俺のことを知っていた」
さやかの方へ歩き出した。
「高坂…」
心配そうな表情を浮かべるさやかの横を、そのまま通り過ぎた。
「心配するな。やつの監視はするが…それよりも、今は注意すべき存在がいる」
「女神…ソラか?」
さやかも振り返り、再び高坂の背中を見た。
「そうだ」
高坂は頷いたが、足を止めることはしなかった。
「だけど!女神相手に、あたし達に何ができる?」
さやかは、不安に思っていることを…素直に口にした。
「ただ…全力をもって、立ち向かうだけだ」
高坂は、誰もいない前方を睨み、
「何事にも関してな」
これから起こることへの決意を新たにした。
「高坂…」
さやかはもう何も言わずに、ただ…高坂の後ろ姿を見送った。
「部長!只今、戻りました!」
そんなさやかの後ろに、真由達を途中まで送って来た梨々香が、現れた。
軍人のように、さやかの背中に敬礼する梨々香の方を向かずに、
「御苦労様。今日はもう遅いから、帰りなさい。報告は明日聞くから」
そのまま、部室に向かって歩き出した。
「ええ!折角戻ってきたのに!」
文句を言いたかったが、部長命令は絶対である。
仕方なく、来た道を…梨々香はとぼとぼと戻っていた。
合宿まで、あと2日。
【登場人物紹介(多少のネタバレあり)】
高坂真。
実世界から、双子の兄…幾多流を追ってきた。(でも、あまり兄とは似ていない)
情報倶楽部の部長であり、虚弱体質。前部長から、あるものを託されている。
幾多流。
殺人者と実世界では言われていたが、ある意味どんな人間よりも、正義感に溢れている。
九鬼真弓。
実世界から来た戦士。魂は、月の女神が一番愛した男…初代月影シルバー。肉体は、闇の女神デスパラードの入れ物になるはずだったものである。デスぺラードの復活を阻止する為に、虚無の女神ムジカの力で、入れ物の肉体に転生した。今の彼女に、前世の記憶はない。
カレン・アートウッド。
ティアナ・アートウッドの姪にあたり、ジャスティン・ゲイの弟子にあたる。その強さは、歴戦の勇者をも凌ぐ。
如月さやか。
新聞部部長。大月学園の影の実力者。
中小路緑。
魔物退治を生業とした一族の末裔。妖刀…空切り丸を扱う。情報倶楽部部員。
犬上輝。
犬神の力を使役できる能力を持っているが…気の弱さから、生かせていない。
高木真由。
自殺した高木麻耶の妹。
綾瀬理沙。
自殺した高木麻耶の親友。彼女の正体は、今のところ…高坂しか知らない。
ジャスティン・ゲイ。
人類最強の男。親友だったクラークの隠していたあるものを、エルフの老人より託された。現在は、老人の孫と行動を共にしている。
ティフィン。
もと炎の盗賊団。ロフトワールドで、赤星浩一と行動を共にしていた。現在は、謎の集団に追われている少年を庇いながら、日本を目指している。
リンネ。
炎の騎士団長。大月学園に、養護教員として潜り込んでいる。
アルテミア。
阿藤美亜として、大月学園に潜り込んでいる。天空の女神。
赤星浩也。
ライの一撃で、土手っ腹に穴が空いたアルテミアの命を救う為に、赤星浩一が与えた血と魔力だけをもとにして、つくられた存在。その為、赤星浩一自身とも言えるが…勿論、記憶はない。肉体を燃やし、ライの封印となっている浩一本人が、復活した場合の新たな肉体として用意された。
しかし、浩也をつくった…アルテミアには、それ以上の目的がある。その目的は…。