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第314話 違う考え

「フッ…」


魔物の一匹を倒した後、悠然とショッピングモール内から出てきた美亜の前に、1人の女が立ちはだかった。


「真弓の後を追ってきたら…面白いものが見れた」


その女の名は、山本可憐。しかし、それは、養子になった時に、与えられた名であった。


真の名は、カレン・アートウッド。


「?」


美亜は足を止め、前に立つカレンの顔を見た。


「普通の人間は、騙せても…あたしは、騙されない」


カレンは制服の胸元から、十字架のついたペンダントを取り出した。そして、十字架についた赤い碑石に指を当てると、剣を召喚させた。


針のように、細長い剣――ピュア・ハート。


「流石のあたしも…あんたが戦うところを見なければ…わからなかった」


カレンはピュア・ハートを、美亜に向かって突きだした。


「阿藤美亜!」


「!」


美亜は突然の殺意に、目を見開き、驚いた…いや、ふりをしていた。


そんな美亜の態度にも、カレンはキレはしなかった。ただ冷静になろうと、努力していた。


「あなたは一体何ですか?」


あくまでも、キャラを貫き通そうとする美亜の可愛い子ぶった言い方を、カレンは鼻で笑った後、自分がわかった美亜の正体を口にした。


「いや…アルテミアよ」


カレンは一歩前に出て、ピュア・ハートの剣先を、アルテミアの心臓に向けた。不死のバンパイアであるアルテミアを倒すには、心臓を貫くしかない。


「なるほど」


カレンの言葉を聞いても、別段…アルテミアはショックを受けてはいなかった。


ただ眼鏡を外し、真っ直ぐにカレンを見た。


「別に…正体を隠していた訳ではない。ただ…あたしでない方が、やり易かっただけよ」


眼鏡を外しても、アルテミアの髪は黒のままである。 しかし、それでも…露になった鋭い眼光は、カレンの全身を震え上がらせた。


かつて一番、恐怖を感じた瞬間である炎の女神ネーナと遠くで対峙した時よりも、カレンは怖さを味わっていた。


(こ、これが…天空の女神)


ジャスティンに、鍛えられていなければ…目だけでやられていただろう。


全身から、嫌な汗が流れた。


しかし、そんなことを気にしてる余裕は、カレンの神経にもなかった。


恐ろしさが、カレンのすべてを支配していた。ただ一つを残して…。


それは、心である。


病室で横たわる母の姿。


その母から、海の底に捨てるように言われたピュア・ハート。


それを今まで、捨てずに持っていた理由は、ただ一つ。


カレンは、アルテミアを睨み付け、


「あたしの名は、カレン・アートウッド!お前の母!ティアナ・アートウッドにて、地に落ちたアートウッドの名声を取り戻す!」


「…」


カレンの言葉を聞いた瞬間、アルテミアは目を細めた。


「お前を斬り!お前の能力を貰う!そして、あたしが魔王を倒す!」


カレンが、前に飛び出そうとした時、アルテミアはもう後ろにいた。


「何もわからない馬鹿が…勝手なことを!」


「え…」


カレンの頬を、風が通り過ぎた。


アルテミアの動きより、風の方が遅かった。


「ああ!」


風を感じた時には、カレンの全身は切り刻まれ…宙に舞い、地面に激突していた。


「それに…てめえ如きに、魔王は倒せない」


アルテミアは振り返ることなく、歩き去った。


アルテミアの動きは、近くにいた人間の目ではとらえることはできず、カレンが舞ったのも、アルテミアが大分離れてからのこともあり、彼女がやったとは思わなかった。


「畜生…」


全身を貫く想像をこえた痛みに、自己防衛本能が働き、意識を失う前に…カレンは思わず離してしまったピュア・ハートに、手を伸ばした。


ピュア・ハートに指先が触れた瞬間、カレンは気を失った。




数分後、ショッピングモール襲撃の通報を受け、警察の守備隊と救急車が現場に到着した。彼らは、入口前に血溜まりを発見したが、そこにいたはずの怪我人を見つけることはできなかった。


少しだけ這った跡が残っていたが、すぐに消えていた。





警察が到着する数分前…倒れたカレンの前に立っていたのは、九鬼達だった。


「カレン…」


傷だらけになって横たわるカレンの姿は、何時間もかけて拷問されたように見えた。しかし、それが一瞬の出来事であったことを、九鬼は理解していた。


「だ、誰がやったんだ!?」


九鬼の隣に駆け寄ってきた緑は、カレンの状態に驚くよりも…カレン程の達人をこのような状況にした相手に、戦慄していた。


「神レベル…。恐らく、女神」


高坂はカレンのそばでしゃがむと、その傷の多さに顔をしかめた。


「…」


理沙は少し離れた場所で、無言でカレンを見下ろしていた。


輝も、梨々香も…何も言えなかった。


ただ1人だけ…ほくそ笑んでいる者がいた。真由である。


彼女は、満足げに頷いていた。


「彼女を、学校に連れていきます」


九鬼は、高坂の横で片膝を地面につけると、カレンをお姫様抱っこの形で持ち上げた。


「び、病院に連れていく方が…いいんじゃ…」


恐る恐る言った輝の言葉に、高坂がこたえた。


「その辺の病院に連れていくよりは、学校の方が回復魔力を使う為のポイントが、大量にある。それに…月の女神のご加護も、学校の方が受けやすい」


「つ、月の女神?もしかしたら…か、彼女が!」


女神という言葉に、敏感になっている輝の横に、真由が来た。


「フッ…。月の女神?」


真由は鼻で笑うと、


「そんな旧タイプの女神に、何ができるのよ。この女をやったのは、天空の女神よ」


「て、て、天空の女神!?あ、あの〜ブロンドの悪魔!」


輝は思わず、声を荒げ、


「あ、あの〜残念な美少女…ダントツナンバー1の女神!」


少し興奮状態になる。


「天空の女神か…」


高坂の脳裏に、先程の女生徒の姿がよみがえる。


そんな会話の中、九鬼はカレンを抱き上げながら、変身した。


「先に、学校に戻ります」


そう言うと、高坂達に頭を下げ、そのままその場から消えた。


高坂は、カードを取り出すと、学校にいる舞に連絡を取り、カレンの治療にあたるように告げた。



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