表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
319/563

第311話 引き合う感覚

(九鬼真弓に…輪廻…さらに)


ショッピングモール内の人混みを、かき分けながら歩く後藤。


その目は、人混みではなく…虚空を見つめる。


(天空の女神)


普通ならば、国家レベルの問題である。


(ケッ)


後藤は吐き捨てるように、笑った。それは、己に対してである。


単なる文屋に何ができるというのか…。


(だが…一度亡くしかけた命だ)


後藤は、くたびれたグレーのスーツのポケットに両手を突っ込むと、人混みを抜けた。


「うん?」


ショッピングモールの入り口の横で、壁にもたれる少女に目がいった。


なぜ目がいったのかは、わからない。


次の瞬間、後藤は目をそらし、早足でその場から離れた。


その行動は、すべて…無意識である。


(な、何だ?)


自分自身がわからずに、もう一度少女の方を振り返ろうとした。


「駄目だ」


いつのまにか、背中に張り付いていたアイが、強い口調で言った。


「アイ?」


それでも振り返ろうとする後藤に、


「早く行け!殺される!」


アイは叫んだ。


「!?」


訳がわからなかったが、アイの尋常ではない怯え方に、後藤は逆らうことをやめ、前を向いたまま、歩き出した。


しばらく歩いてから、後藤は足を止めた。


「一体…どういうことだ?」


一瞬だけ見た少女の姿は、梨々香と同じ制服に…分厚い眼鏡という…あまり目立たない生徒のように思えた。


「あ、あいつは」


アイは後藤の背中から離れると、深呼吸をした後、言葉を続けようとした。


――言うなよ。


その時、アイの頭に鋭い声が突き刺さった。


それは、思念であった。


妖精であるアイだけが、気付いた女の正体。


「どうしたんだ?」


首を傾げた後藤が振り向くと、もう…そこに誰もいなかった。


「やっぱり…今回は、ヤバいかもしれない」


震えながらそう言うと、アイは上空に浮かび上がり、そのまま飛び去った。


「やれやれ…」


後藤は、頭をかいた。


それから、口元に無理矢理笑みをつくると、ショッピングモールの入り口に背を向けた。


「ヤバい程…真実に近い」


自分に言い聞かすように、そういうと…後藤はショッピングモールを後にした。






「ごめん!待たせて」


謝りながら、輝は3つのカップをテーブルに置いた。


「構わんよ。まだ時間はある。気にするな」


と言いながら、隣の席から手が伸びて来て、ジュースの入ったカップを取った。


「え?」


あまりのことに驚いてしまい、一瞬だけ言葉を失ったが、すぐに気を取り直して、輝は隣に座る男を睨んだ。


「部長!どうして、ここにいるんですか!」


「うん?」


カップの蓋を開けながら、高坂は横目で、立ち尽くす輝を見上げた。


その様子に、もう一人…驚いている者がいた。


緑である。


「何考えてんだ!あの人は!」


頭を抱えるよりも、殺意に似た感情が沸き上がって来た。1人だけ、気配を消している自分が、馬鹿に思えて来た。


「あとで…とっちめてやる!」


遠くから高坂を見つめる目に、殺気が宿る。



「う!」


ジュースを飲んでいた高坂は、突然の寒気に、輝の方を見て、


「できれば…ホットの方がいいんだが」


カップを突きだした。


「自分で買って下さい!」


輝は、そのカップを受け取らなかった。


「大体…それ!俺の分だし!どうして、部長がここにいるんですか!」


輝の怒りが混じった声にも、高坂は動じない。


「フッ…。ここは、ショッピングモールだ。誰がいてもおかしくあるまいて」


高坂はそう言うと、仕方なく冷たいジュースを飲む。


「あのですね!」


輝がさらに詰め寄ろうとした時、それまで黙っていた真由が口を開いた。


「そうですよね…。誰がいても構わない…」


真由は顔をふせ…ジュースを見つめていたが、突然顔を上げると、目だけで周囲を見回した。


そんな真由を、正面からじっと見つめる理沙。


「それなのに…」


真由は、ため息をつき、


「人間しかいないなんて…不自然だと思いませんか?」


おもむろに口許を緩めた。


「フッ」


そんな真由の冷笑に、高坂も笑みで返し、


「そんなことはないぞ」


親指を立てると、後ろを指差し、


「あそこに妖精がいる」


梨々香のテーブルの上にいるステラを指差した。


「ゲッ!梨々香!」


輝は、梨々香に気付き…顔をしかめた。


「…そうですよね」


そんな輝の驚きを無視するように、真由はカップに手を伸ばした。


「?」


理沙は眉を寄せた。


「人間以外もいますよね」


真由がカップを掴んだ瞬間、カフェの真上…吹き抜けの天井のガラスが割れた。


「危ない!」


その様子に気付いた緑が、叫んだ。


「チッ!みんな!テーブルの下に隠れろ!」


高坂も気付いており、カフェテラスにいた人々に向かって、叫んだ。


「ひぇ〜」


輝は慌てて、テーブルの下に潜り込んだ。


「くそ!」


緑は、身に隠していた木刀を取り出し、回転させて投げつけた。落ちてくるガラスの破片で、大きなやつを狙う。


「ステラ!」


梨々香も逃げることなく、後ろに飛びながら、上空に向けて、銃をぶっ放った。


「危ない!」


テーブルの下に隠れようとした高坂は、突っ立ている子供を発見した為に、潜り込むのをやめて、子供の方に走った。 そして、子供を抱き締めると、身を丸めて、ガラスの破片から守る。


砕けて細かくなったガラスの粒が、高坂の背中に降り注ぐ。


「大丈夫か!」


高坂が顔を上げ、状況を確かめる。


「大丈夫です」


輝は、テーブルの下から這い出した。そして、その次の瞬間…絶句した。


真由と理沙は、何事もなかったかのように…普通に席に座っていた。


「!?」


そして、輝がいるテーブルの周りだけ、ガラスの破片がまったく落ちていないのだ。


「どうなっているんだ?」


床を見回し、考え込もうとする輝のそばに駆け寄ってきた緑が、叫んだ。


「何をしている!気を抜くな!」


「え?」


輝が顔を上げると、騒然としたショッピングモール内の風景が目に飛び込んできた。 逃げ惑う人々の悲鳴が、建物内に響き渡っていた。


「ククク…」


人々の悲鳴の中で、まったく違う声が耳に飛び込んできた。


まるで、楽しくてしょうがないとでも言うような含み笑い。


「気を抜くな!」


緑は、木刀を握り締めた。


「え」


すぐには、状況が理解できなかった輝も、両手が鋭い鎌でできた三匹の魔物を見た瞬間、自然に体が身構えた。


「魔物?」


だけど、まだ頭は現実を理解できなかった。


「襲撃だと!?」


高坂は、抱き締めていた男の子を解放した。


「聖也ちゃん!」


母親が駆け寄ってきて、男の子を抱き上げると、ありがとうございますと高坂に頭を下げ、走り去っていった。


「三匹…いや、まだいるか!」


高坂はショッピングモールの奥に、顔を向けた。


そちらの方から、お客が全力で逃げてくる。


「ぎえええ!」


河馬に似た…体調20メートルはある魔物が、二匹突進してくる。


通路に並ぶ左右のテナント内を蹴散らし、壁を破壊しながら、こちらに向かってくる。


逃げる途中で、足が絡まり転んだ人間は、容赦なく踏み潰されたり、口で噛みきられた。


「くそ!」


逃げる人々とは逆に、魔物に向かいながら、梨々香は叫んだ。


「ステラ!」


「はい!」


ステラは、梨々香が持つ銃に手をかざした。


「魔力装填!」


梨々香は、銃口を河馬に似た魔物の額に向ける。


「喰らえ!」


そして、引き金を引いた。




「ククク!」


3匹の鎌の腕をした魔物は、じりじりと緑達に向かってくる。


「おのれ!」


高坂が、緑の前に飛び込み、


「高坂パンチ!」

「邪魔です」


緑は、襲いかかろうとする高坂の襟の後ろを掴むと、無理矢理後方に向かって引いた。


「部長は、綾瀬さん達を避難させて下さい!足手まといです」


きっぱりと言われて、ションとなる高坂に、テーブルに座っていた理沙が告げた。


「心配ありません。もうすぐ…彼女が来ます」


「え?」


「月の戦士が」


理沙は、にこっと笑顔をつくり、高坂達に微笑んだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ