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第306話 偽り

「どうなっている?」


駅に着いた高坂は、再び来た道を戻っていた。


途中カードが鳴り、通信をONにすると、舞の声が飛び込んで来た。


「部長!一応、式神が見失う寸前の画像を解析できました」


舞はディスプレイに、ロストするまでの数秒をコマ送りで再生していた。


消える寸前、画像がぼやけ、上に向かって線のような揺らぎがあった。


「恐らく…一秒もかからない程の速さで、飛び上がったとしか…思えません。助走もつけずに」


「何?」


舞の言葉に、高坂は眉を寄せた。


「そんなことが…人間にできるか!?」


「人間以外でしたら…」


舞はディスプレイから、顔を離すと、あらゆる可能性を探した。


テレポートでもない。


そういった反応がない。


人間がテレポートを使う場合、カードや聖霊の力を借りなければならなかった。


それに、発動した時に出る波動の紋章がない。


魔力を使った場合、多少なりとも空間に歪みのようなものが発生する。それを、分析し…解析するのだ。


「つまり…物理的な移動ということか」


高坂は、通信を切った。


歩きながら、少し考え込んだ。


「やはり…あの子は、人間ではないと」


そう結論付けたいが…高坂には、わからないことがあった。


(…あの自殺の意味は、何だ?そして、生徒会長を磔にした意味は?)


それらの疑問に答えがでないまま…高坂は、校門の前に来た。


「部長!」


輝が待っていた。


「見失ったよ」


高坂はフッと笑い、輝の横を通り過ぎた。


「あ、あのお〜」


輝は振り返り、高坂の背中に訊いた。


「彼女は一体…」


「そうだな…」


高坂は足を止め、


「ただ者ではないのは…確かだ」


それだけ言うと、


「お前も帰れ」


再び歩き出した。


「部長は、どこへ?」


「部室に行くよ。確認したいことがある」


高坂は、式神が残した画像をチェックしに行くつもりだった。


「お、俺も行きます!」


輝も歩き出した。


このまま帰るなど、できるはずがなかった。








「消えた!?」


九鬼は立ち上がると、天井を見上げた。


「今のプレッシャーは、上空からか」


しばらくじっとしていたが、やがて頭を下げると、ゆっくりと歩き出した。


「もう…何も感じない」


九鬼は、一応の平穏を取り戻した学園の廊下を一歩一歩踏み締めながら、前へ進んでいく。


「どうする?」


そして、無意識に自分に問い掛けた。


それは、まったく何もできなかった己に対する苛立ちも含まれていた。


一気に廊下を突っ切ると、九鬼は体育館と東校舎を繋ぐ渡り廊下に、飛び出した。


外の空気を全身に浴びて、一応空を見上げようとした九鬼の目に、空に上げていく細い煙が映った。


「フゥ〜」


ため息の後、


「もう下校時間はとっくに過ぎたぞ」


「あなたは…」


九鬼は、足を止めた。


「まあ〜そんなことよりも…。元気で何よりだ」


「先生…」


九鬼もため息をつき、


「学校内は、禁煙ですよ」


「あ、ああ〜」


渡り廊下の手摺にもたれ、煙草を吹かしていた女の名は、前田絵里香。この学校の教師だった。


「まあ〜いいじゃないか。夜の学校に、規則は意味ないだろ?それに〜今まで忙しかったんだ。一服くらいさせろよ」


前田の言葉で、九鬼は察した。


「生徒が…飛び降り自殺をしたそうですね」


「ああ…」


前田は再び煙草を喰わえ、大きく吸い込むと、空に向かって煙を吐き出し、


「でも…お前は生きていた。よかったよ。1日に、生徒が2人も死んだら…後味が悪いからな」


目だけを九鬼に向けると、微笑んだ。


「飛び降り自殺した生徒は、どうなりましたか?」


九鬼は一歩前に出た。


「勿論、即死だよ。警察の検証では、自分から飛び降りたということになっている」


「!?」


九鬼は、眉を寄せ、


「自殺の原因は、何ですか?」


「さあ〜な。自殺するやつの気持ちは、わからんからな」


前田は、煙草をまた吸った。


「先生!」


教師とは思えない前田の冷たい言葉に、九鬼は少し驚き、声を荒げた。


「1人の生徒が、自殺したのですよ!教師がそんな無責任なことを言って…」


「なあ〜九鬼よ。あたしは、自分の学校の生徒が、自殺なんていう愚かな行為をするとは、思えないだよ」


前田は、持っていた簡易灰皿に煙草をねじ込んだ。


「それにだ…」


手摺から離れると、九鬼を横目で軽く睨み、


「この学園は…何があるかわからない。それは…お前が一番、わかっているだろ?」


「!?」


九鬼は、前田の目に…殺気に似たものを感じた。 無意識に構えそうになるが、ぐっと堪えた。


そんな九鬼から、視線を外すと、頭をかいた。


「自分の記憶さえも、信じられない。今の苛立ちも本当か…どうか」


前田は、体を九鬼に向けた。そして、じっと目を見つめ、


「九鬼…。お前が…ここに入学した時の記憶がない。そりゃ〜あ、生徒が多いから…いちいち1人1人を覚えていないが…それでもだ」


前田は歩き出した。


「お前は…どこから来た?」


「!?」


九鬼は、目を見開いた。答えられない質問を、突然されて…何も言えなかった。


「だがな…」


そんな九鬼に、前田は微笑んだ。


「!?」


「そんな疑問をかき消す程…お前を信用しているよ」


九鬼とすれ違う瞬間、前田は耳元で囁くように言った。


「乙女ブラック」


「な!」


九鬼は絶句した。


そして、思わず振り返り、東校舎内に向かって歩いていく前田の背中を見つめた。


「ああ〜それとだ」


校舎に入る前に、前田は足を止めた。


「自殺した高木麻耶には、双子の妹がいる。勿論、この学園にな」


「え」


「まあ〜その件に関しては、あたしの受け持つ部員に、探らしてみるよ」


前田は後ろ手を上げると、西校舎の奥に消えていった。


「前田…先生」


九鬼はしばらく、前田の背中を見送っていた。


「そうか…」


九鬼は、彼女が表向きは…新聞部の顧問であるが、裏では情報倶楽部の責任者を担当していることを思い出した。


非公式である情報倶楽部は、置いておいて…新聞部部長である如月さやかが休学扱いにされても、新聞部自体が廃部にならなかったのは、前田が結城哲也の傘下に入っていたからだった。


勿論、表向きではあるが…月の女神の力を使い、新たな防衛軍を再編しょうとした哲也の行動を、常に監視していたのは、彼女だった。


「双子の妹…」


その時、九鬼の頭に…綾瀬理沙の情報は入っていない。


「…」


九鬼は、空を見上げた。


実世界よりも、数段空気が澄んでいるブルーワールドでは、満面の星が輝いていた。


「すべては…明日だ」


焦ってはいけないと、九鬼は深呼吸をした。


そして、右横を見ると、高木麻耶が飛び降りた西校舎の方を凝視した。


中央校舎が邪魔して見えないが、そんなことは関係なかった。


両拳をぎゅっと握り締め、先程も感じた恐ろしい程のプレッシャーを思い出していた。なぜならば…早朝、九鬼が襲われた場所も、西校舎屋上だったからだ。


さらに、そこで、出会った…天使の姿をした相手を思い出していた。



(天使だよ)


同じく、保険室で…照れながら言った浩也の顔を思い出した。


九鬼は、目を瞑った。


(天使…)


その名のごとく神のような力を持つ…相手。


(それでも…)


九鬼は目を開けると、再び空を見上げた。


(戦う!)


そして、強い決意をすると、視線を空から中央校舎の向こうの西校舎に向けた。


(フッ…)


自然と笑ってしまった。


(そうだ…)


九鬼は歩き出した。


(あたしには…それしかできない)


戦うことしかできない。


九鬼は、自分のできることを理解していた。


(例え…勝てない相手でも、負けはしない)


九鬼は、覚悟した。


(己の血肉が、一滴でも残っている限りは!)




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