表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
310/563

第302話 陰謀の銃声

「ディアンジェロ!」


少年の額に向けられた銃口。


どこの山奥か、わからない。


激しい濁流と、四方を山々に囲まれた川原に、少年はいた。


ディアンジェロと呼ばれた白髪の男は銃口を向け、無表情でありながら、口許だけを歪めた。


「お前は、弱い…」


ディアンジェロは、引き金を弾いた。


「だから……生きろ」


女の悲鳴のような銃声が、轟き…少年は、撃たれた勢いで、そのまま濁流の中に落ちた。


そこで、少年の記憶は、途切れることになる。彼は、今までの生きてきた記憶をなくす。




「ディアンジェロ…。誰が殺せと命じましたか?」


その様子を、川原の聳える崖の上に立って…4人の男女が見下ろしていた。


「手違いだ」


ディアンジェロは振り返ることなく、こたえた。


4人の男女は、全員十代の少年少女に見えた。


一番年上だと思われる鉄仮面を被った女が、十メートルはある崖から飛び降りると、ディアンジェロの後ろに着地した。


「彼は、我々…運命の欠片のワンピースだ」


鉄仮面を被っている為に表情はわからないが、口調から聡明な印象を受ける女は、腕を組み…ディアンジェロの背中を睨んだ。


「まあ〜いいじゃないかよ」


仮面の女の横に、崖にいた男が着地した。棘のように、ツンツンに立てた髪の毛は、着地の瞬間も乱れることはない。


「ワンピースなんだから、命はいらないだろ」


男は笑いながら、ディアンジェロの背中に近付くと、左足を上げた。


「回収の手間はかかるけどな…」


ディアンジェロの頭上に、男の左足がしなり、まるでナタのように振り落とされた。


「フッ…」


ディアンジェロは笑いながら、避けることをしなかった。




濁流の中、赤き血とともに流れていく老人に、かかと落としを食らわした男のそばに立つ鉄仮面の女は、一瞥だけをくれると、残りの三人に言った。


「探しましょう。やっと…最後のピースも、現れたのだから」







「うーん」


ティフィンは悩んでいた。


喉が渇いた為に、川辺に近づいたティフィンは、完全に悩んでいた。


「う〜ん」


理由は、簡単だった。


「日本って…どこだ?」


ジャステインと別れてから、浩也のいる日本地区まで向かっていたが…ずっとロストアイランドにいて、そこを出てからは、着の身着のままで旅してきたティフィンが、地理を理解している訳がなかった。


だから、魔界から出ることはできたが…そこから、ユーラシア大陸南部をずっとうろうろしていたのだ。


「世界は…広い…」


肩を落とし、水面に映る自分を見つめていると、突然…川が赤に染まった。


「血…?」


すぐに、それが何なのかわかったティフィンは、透明の羽を広げて飛び上がった。


警戒するように、少し上空まで飛んだティフィンは、眼下の川を見下ろし、気を探った。


近くに、強力な魔物はいない。


目を凝らし、血を流しているものの本体を探す。


「うん?」


ティフィンの小さい目に、岩と岩の間に挟まっている人間の少年の様子が映った。


「!」


慌てて、ティフィンは空から、少年に向かって急降下した。


ティフィンがさっきまでいたところから、百メートル程離れた川の中だ。


「!?」


落下の途中、ティフィンは突然羽を広げて、空中で急停止した。


「魔力!?それも、凄まじいくらいの」


微かだが…少年の方から、魔力を感じられたのだ。


(だけど…)


ティフィンは、少年から漂う魔力に…生気を感じられなかった。


(この感じは…)


一定の距離を取り、落ち着いて気を探ると、少年自身の気を別に感じることができた。


(本人の魔力じゃない)


意を決するとティフィンは、少年が挟まっている岩に着地した。


(神具や…武器から漂う魔力に近い)


ティフィンは、男の子を凝視した。


左手が無意識に、岩を掴んでおり…偶然挟まっただけではないことに気付いた。


(何か…持ってるのか?)


ティフィンは少し…悩んだが、男の子を助けることにした。


「うんしょ!」


岩を掴む左手を外すと、男の子の襟の後ろを掴み、全身に力を込めると、何とか岩場から脱出させた。


「人を運ぶのは…久しぶりだよ」


残りの力のすべてを使い、男の子を川から出す。


今の水の流れが、比較的緩やかであったことが幸いした。


だけど、水を含んだ服が重さを増していた。身長40センチ程のティフィンには、重労働だった。


「まったく…あたしは、いつから…お人好しの妖精になったのかな」


全身で激しく息をして、自問自答しながらも、ティフィンは川辺まで引きずった男の子を手当てすることにした。


長時間、水に浸かっていた為に…体が冷たい。ほっておいたら、死んでいただろう。


ティフィンは手を当てて、治癒魔法を使おうとして、唖然とした。


先程まで無我夢中だったから、気付かなかったが…男の子の右腕を見て、目を丸くした。


「に、人間の腕じゃない!」


かといって、魔物の腕でもなかった。


この世界にない…メタリックな腕の形をしたものを見つめていると、ティフィンの全身から冷や汗が流れた。


(さっきの魔力は…これからね……!?)


ティフィンは納得した瞬間、遠くの方から、新たな凄まじい魔力が近付いてくるのを感じた。


(同種の波動!?だけど…向こうの方が強い)


事情はわからないが、ティフィンは男の子の右腕を見つめると、


(何とかなるかも)


治癒魔法を施す前に、男の子の右腕に手をかざした。


すると、男の子の右腕を皮膚に似せた物質が絡み付き、メタリックな表面を隠していく。


(間に合え!)


ティフィンは唇を噛み締めた。



数分後、鉄仮面の女達が、ティフィンのいた川辺に到着した。


「血は流れている」


ツンツン頭の男が、先程挟まっていた岩場に降り立った。


「探しましょう。あの右腕は、大事な捧げもの。下等な魔物に、奪われるわけにはいかないわ」


鉄仮面の女が消えると、川辺のそばに転がっている巨大な岩の隙間に、隠れていたティフィンは胸を撫で下ろした。


魔力を完全に消し、さらに表面にガラスのコーティングをした結界を周囲に張ることで、完璧にカモフラージュしていた。


同じような岩が転がり、他に何もない川辺が、幸いした。


鏡に映った周りの景色を、見破ることができなかった。


(魔力を周りに、無意味に放出していることからわかったわ。あいつらは、魔力をコントロールできない)


ティフィンは確信していた。


魔神レベルの魔力を放出していれば、普通の魔物は寄り付かないだろう。


防犯にもなるが、向こうの位置を知ることもできた。


ティフィンは、鉄仮面の女達が去っても…しばらくは、結界を解かなかった。


(それにしても…)


自分の後ろに、横たわる少年を見つめた。


額の銃痕は骨を抉っていたが、銃弾は貫通していない。


表面を抉ったに過ぎない。


(狙ったとしたら…大した腕ね)


ティフィンは、感心しながら、視線を右腕に移動させた。


(これは…一体、何かしら?)


ティフィンには、まったく見覚えがなかったが…なぜか、知ってるような気がしていた。


(とにかく…ここは、危険だわ)


ティフィンは、少年を連れて移動することにした。


あまり面倒なことに関わりたくなかったが…ここに、少年を置いておけば、大変なことになる気がした。


(ああ…)


深くため息をついた後、ティフィンは無意識に呟いた。


(助けてよ…赤星)



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ