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第298話 謎は解けないから、謎である。

「謎は…解けないから、謎か…」


高坂はカードをしまうと、屋上から階段を降りた。


「無力だな…」


足下の階段を見つめながら、軽く舌打ちした。


「しかし、だからと言って、受け入れるものか」


階段を一階まで下りきり、校舎から飛び出た高坂の目の前に、飛び降りてくる少女の姿が映った。


「な!」


絶句した高坂は思わず、駆け出し…反射的に両手を出して、受け止めようとした瞬間、背中から落ちてきた少女は顎を上げ、高坂に向かって微笑んだ。


「え」


その微笑みの美しさに、高坂は看取れてしまった。


死ぬ寸前の少女は、こんなにも美しいのかと…。


そんなことを心の隅で思った時、高坂は飛び出た入口から、再び校舎内に戻された。


風が吹いたのだ。


「部長!」


階段を下りてきた輝の目に、高坂がくの字になって飛んでいくのが見えた。 慌てて、階段の途中で手摺を掴んで、横に伸びる廊下に飛び降りた。


タイミングよく高坂を受け止めたが、そのまま輝もふっ飛んだ。


男2人を吹き飛ばす程の威力のある風。


しかし、その風は…高坂達にしか吹いてはいなかった。


一階の廊下に並び窓ガラスは、揺れることすらなかった。


少女が消えると同時に、もう1人の少女が飛び降りてきたが、その様子を見るものはいなかった。


「チッ」


暫し…立ち尽くし、空を見上げた後、もう1人の少女はブロンドの髪を靡かせて、その場から立ち去った。



「なんだったんだ…」


高坂は、お腹をさすった。ボウリングの玉のような塊が、自分をふっ飛ばしたような感覚があったが…実際には何もなかった。


(風…いや、空気の塊か)


お腹を擦りながら、廊下を突っ切って反対側の入口から中庭まで、ふっ飛んだ自分のダメージを確認した。


(大丈夫だな…)


高坂はよろけながらも、ふっ飛ばされた道を戻った。


「痛た…」


高坂の下敷きになった輝は、無傷だった。丈夫さだけが、取り柄である。


「大丈夫か?」


「はい」


高坂の声に、輝は頷いた。


少女が落下してきた地点に来ても、痕跡すら残っていなかった。


「今のは…」


高坂は、答え無き答えを探した。






そんな出来事の数分前、カレンはやっと…浩也のいる部屋にたどり着いた。


「赤星!」


部屋に入ったカレンが見たものは、倒れている九鬼に手を当て…文字通り、手当てをしている浩也の姿だった。


手から溢れる光が、優しく九鬼を包んでいた。


(治癒魔法!?魔力が使えるように、なっている)


カレンは畳に上がることなく、その様子に驚いてしまった。


今まで、自分の意志に反して、無意識に発動することがあっても、自由に使える感じではなかった。


(やはり…変わってきているのか)


カレンは、浩也が差し伸べている右手とは反対の手を見つめた。


(あれが…ついてから)


そこには、指輪があった。


「よし」


浩也は頷くと、九鬼のそばから立ち上がった。


そして、扉の前にいるカレンに気付き、


「カレンおばさん」


笑顔を向けた。


「おばさんは、つけるな!」


カレンは軽くキレた。だけど、怒りはそんなに続かない。 畳の上に土足で上がると、九鬼のそばに来た。


「大丈夫なのか?」


カレンは九鬼を見下ろしながら、浩也に訊いた。


「うん」


浩也は頷き、 倒れている九鬼を見つめた。


「傷は大したことないよ。多分、誰かの攻撃で…心臓を止められて、仮死状態になったんだと思う。僕がここに来た時には、心臓は動いていたし…脳へのダメージもないと思うよ」


「…」


カレンは、てきぱきと答える浩也に、少し目を見開いていた。数日前までの…目覚めたばかりの無知な子供のような雰囲気が一変していたからだ。


(変わったというよりは…目が覚めたような感覚に近いか)


カレンは冷静に分析しながらも、別の…肝心な質問を口にした。


「助けたのは、誰だ?」


「そ、それは…」


浩也は、口ごもってしまった。


なぜだろうか…。


美亜の名前を出すのを、躊躇ってしまった。


だから…口から出たのは、嘘の言葉だった。


「知らない…」


精一杯の嘘。


「…」


カレンは、何も聞き返すことをしなかった。


嘘だと思ったが…少し悲しげで、何とも言えない横顔を見せる浩也を見ていると、何か理由があると思った。


とても、複雑な思い。


カレンは少し息を吐いた後、頭をかき、


「真弓を保健室に運ぶぞ。ここにいては、体に悪い」


膝を畳につけると、九鬼を抱き起こそうとした。


「ま、待って!僕がやるよ!」


慌てて、浩也はカレンの腕から、九鬼を受け取り…お姫様抱っこの形で抱き上げた。


「いくぞ」


カレンと浩也が、扉の方に体を向けた時、廊下から緑が飛び込んで来た。


「は、は、は、は」


激しく息を切らす緑を見て、カレンは目を細めた。


「情報倶楽部の女…」


緑は、カレンと浩也よりも、抱き抱えられた九鬼を確認すると、カードを取り出した。


「生徒会長!見つかりました!」


高坂に報告する緑の横を、カレンと浩也がすり抜けようとした。


「待て!」


緑はカードを耳に当てたまま、木刀で道を塞いだ。


高坂との通信が切れると、緑は横目で2人を睨んだ。


「お前達が…助けたのか?」


少し威圧的な緑の口振りに、カレンは軽く舌打ちし、


「どうして、あんたは…好戦的なんだろうな」


顔を向けた。


「それは…お前達が、得体が知れないからだ」


緑はギロッと、カレンを睨んだ。


「やれやれ…」


カレンは軽く肩をすくめると、口許に笑みを浮かべ、


「自分が弱いからって…得体が知れないは、ないんじゃないの?」


少し挑戦的に言った。


「な、何だと!」


その言葉に、緑はキレた。 木刀を引くと、改めて構え直した。


「また…負ける気?」


クスッと笑うと、カレンは全身の力を抜いた。


2人の戦いが始まる中、浩也は九鬼を抱き抱えたまま、廊下に出た。


そして、ゆっくりと…九鬼の体を揺らさないようにしながら、歩き出した。


「この前は、油断しただけだ!」


「負け犬が、吠えるな」


2人の戦いを背にしながら歩く浩也。


階段を降り、特別校舎を出て、保健室に向かう。


「あ…」


別の校舎に入って、歩いている途中で、ふと…気がついた。


「保健室…どこだっけ?」


浩也は少し、校内を迷ってしまった。






「な、何だったんだ…」


高坂は、飛び降りたはずの生徒を探すことを諦めて、九鬼を見つけたという緑と合流しょうとした。


しかし、カードを使って呼び出しても返事がない。


「クソ!」


通信を着ると、高坂はカードを捜索機能に切り替えた。魔物を探知はできなくなったが、同じカードを持つ相手の場所を探すことはできた。


「特別校舎か!」


高坂は、東校舎を出ると、輝を連れて走り出した。


中庭をダッシュしていると、中央校舎の中から突然、声をかけられた。


「すいません!保険室は、どこですか?」


開いていた窓から顔を出して、きいてきたのは…浩也だった。


「東校舎の一階、奥だ!」


急いでいる為、浩也の方を高坂は見なかった。


「ありがとうございます」


頭を下げた浩也は、九鬼を抱いている手で、窓を閉めた。


「あ!」


輝は浩也と九鬼に気付いたが、どう言っていいのかわからない。


「ぶ、部長!」


「急ぐぞ!」


さらにスピードを上げる高坂。


仕方なく…輝もスピードを上げた。振り向き、校舎内を歩いていく浩也の後ろ姿を見送りながら。



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