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第294話 時の旅路

「そうだ…。あの時…先輩は、女神を地下にある洞窟に封印したのだ」


カレンからの連絡を終えた後、ジャスティンは過去を思い出していた。


砦の瓦礫で、地下洞窟への入口を埋め…その後に、ギラが開けた穴も、カードの魔力を使い、閉じた。


女神ソラを封印した後、3人はそのまま…旅へと出た。


世界各地を回り、人々の為に戦う日々の中…いつしか、3人はホワイトナイツと呼ばれるようになっていた。


それから一年後、2人の女神との戦いを得て、ティアナ達は…魔王の居城に攻め入った。



「先輩!」


燃え盛る炎が、ジャスティンの行く手を阻んでいた。


何よりも、その向こうにいる魔王ライの圧倒的魔力に、ジャスティンは進むことができなかった。


それは、近くにいるはずのクラークも同じだった。


たった1人…怯まずに、ティアナはライに向かって行った。


その様子を、炎の揺らめきの間で見守ることしかできなかったジャスティン。


ライの手から、この世のものとは思えない程の雷撃が放たれた時、ティアナの腕にあるライトニングソードが変わった。


十字架を思わす…光の剣に。


(今思えば…あれは、シャイニングソードだった…。魔王を斬れる唯一の剣)


しかし、ティアナはシャイニングソードでライを斬らなかった。


ライの瞳の中に、悲しさを見たティアナは…ライを倒すことをやめた。


ティアナは、ライに人というものを教える道を選んだのだ。


その後…2人は、愛し合い…結ばれた。


そして、運命の子…アルテミアが生まれるまでは、激動の時でもあり…また、人間にとって、穏やかな日々でもあった。


魔王の居城へ、3人で攻め入り…ライの喉元まで、刃を突きつけたティアナ・アートウッドは一躍、時の人となった。


人々は、彼女と勇者、救世主と呼び…ティアナは、人々の希望となった。


そして、城に攻め入ってから、半年後…カードシステムは完成した。


その完成を待って、十字軍に変わる新たな組織…防衛軍が編成されたのだ。


「反撃の狼煙は上がった!我々人類は、いつまでも、魔王の恐怖に怯えてはいない!」


当時の防衛軍最高責任者は、結成を迎えるにあたり、民衆にそう叫んだ。


しかし、その裏では…安定者と言われる者の存在と、ブラックカードという負の遺産を生み出していた。


当初…ティアナ・アートウッドを、防衛軍の顔として、最高責任者に任命されたが、彼女は断った。


しかし、カードシステムをつくった者として、魔王を追い詰めた勇者としての呪縛が…彼女を逃がすはずもなく、表の顔は断れても、裏の顔を断れることはできなかった。


「逆によかったのだよ」


白髭の男は、笑いながら言った。


それからしばらくして、ティアナと魔王の関係は始まり、自ずとそのことは、民衆に明らかになった。


彼女名声は、地に落ちる。


しかし、人々は知らない。


ティアナがライのそばにいた時だけが、平穏な日々だったことを。


時には、マリーとネーナと2人の女神の襲撃を受けることがあっても…それは、小規模だった。


彼女達にとっても、ティアナという存在は…牽制になっていたのだ。


しかし、ティアナは死んだ。


そして、世界は再び…混乱を迎える。



その後、天空の女神となったアルテミアの反乱を得て…異世界から、赤星浩一がやってくることになる。


数々の戦いを得て、赤星浩一は魔王ライを…己の体を使って、封印した。




「行くか…」


ジャスティンは割れたブラックカードを、胸ポケットに突っ込むと、歩き出した。


もうすぐ…魔王の封印が解ける。


ジャスティンは確信していた。


その時こそ、人類の存亡をかけた戦いになると。


(あの頃の俺が…もっと強かったら…。あの時、足がすくまなかったら)


ティアナとライの出会いは、違ったものになったかもしれない。


(しかし…)


後悔からは何も生まれない。


(先輩は…一生懸命やった。己の限界をこえて)


ジャスティンは前を見つめた。


(だったら…俺も同じく、限界をこえよう)


魔界から出て、日本へ向かうことを決意したジャスティンは、自らの手を見つめ、ぎゅっと握り締めた。


その時、ジャスティンの前に上級魔物が十体、空から下り立った。


「ジャスティン・ゲイ!今こそ、貴様の命を頂くぞ」


一方前に出た白鷺に似た魔物の言葉に、ジャスティンはフッと笑った。


「やる気はないな」


少し惚けて言うジャスティンに、魔物達はキレた。


「やつは強い!一斉にかかるぞ!」


十体の魔物が、ジャスティンを囲んだ。


(先輩…)


ジャスティンはそんな状況でありながら、目を瞑った。


「さすがの貴様も、観念したか!」


白鷺に似た魔物が、笑った。


ジャスティンは口許に笑みを浮かべながら、


(先輩…。やっと、準備が整いましたよ)


ゆっくりと目を開けた。


「かかれ!」


四方八方…さらに、二体が飛び上がり、頭上の逃げ道をふさいだ。


ジャスティンは、それでも…狼狽えることなく、微かに唇を振るわせた。


「…」


呟いた言葉は、魔物達の迫る音で誰も…聞き取ることはできなかった。


そして、確認することも…。


「うぎゃああ!」


魔物達は、ジャスティンの姿を視界から見失った。


しかし、どこにいったか確認する暇もなく、魔物達は痛みとともに絶命した。


「な、何だ…今のは」


白鷺に似た魔物は気付いた時には、首が体から離れ…地面に落ちていた。


掠れていく視界が見たものは、遥か遠くを歩いていくジャスティンの後ろ姿だった。





天空のエトランゼ零章 ホワイトナイツ編。


孤独の刃


完。


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