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第293話 切り裂く稲妻

「は、は、は…」


傷口を押さえながら、グレイは歩いていた。


剣司が放った突きは、自分の剣が先に当たった為…貫通はしなかったが、 深い傷をグレイに与えていた。


止めどもなく流れる血により、グレイは軽い貧血に陥っていた。


しかし、皮肉なことに…流れる血が、グレイを不動の呪縛から逃れさせた。


「リタ…」


ふらつく足で、ただ…妹のもとに向かった。


呪縛が解けたことで、ぼおっとしているが、グレイはカードを思い出し、出血をした。


血が止まったことで、グレイは改めて頭の中で燻る火種の存在に気付いた。


カードをかざし、消し去ろうとしたが…無理だった。


魔力が足りないのか…理由はわからない。


「し、仕方がない」


グレイは諦めると、剣司のものだった日本刀を握り締め、ただ歩き続けた。


剣司とやり合った時に言ったように、自らが生まれ育った特区に実験の為、核を落とした十字軍は許せなかった。


しかし、だからと言って…やり返しはいけないと、今のグレイは思っていた。


肝心の十字軍はほぼ崩壊し、ミサイルを発射した人間も裁かれていた。


もう…復讐する人間は、いないのだ。


(それなのに…リタが、復讐の為に、女神になったならば…)


その憎悪は、無関係の民間人にいく。


「それは…いけない」


グレイは、左手を通路の壁に触れながら歩き続けた。改めて右手に目をやると、日本刀を確認した。


「すまないな…剣司」


この日本刀は、結構な業物で、剣司の自慢の一振りだと知っていた。


それを、折ることになるかもしれない。


「償いは…俺の命で、許してくれ」


止血をしても、頭に植え付けられた火種がもうすぐ…頭の中を焼き尽くすと、グレイは確信していた。


「だから…その前に、俺が殺す」


グレイは、ついに…リタがいる実験室の前に来た。


「我々は…人神の一族。その一族の末裔が、悪魔になってはいけないのだ」


通路の突き当たりが、実験室となっていた。グレイは深呼吸すると、中に入った。


「ここか…」


数日前までは、数多くの繭でいっぱいだった実験室内は、奥にあるただ一つの繭を残して消えていた。


いや、厳密には…中身を失い、皮だけになった繭の残骸が、床に残っていたが、頭がぼおっとしており、目も掠れて来たグレイには、奥の繭しか見えなかった。


通路よりも、薄暗い実験室内をふらふらと歩きながらも、グレイは日本刀を突きだした。


「リタ…ごめんな…。お兄ちゃんが、お前にしてあげれることは…せめて、目覚める前に…安らぎを与えてやることだけだ」


繭内で培養液の中で、眠るリタに向かって、グレイは日本刀の先を水平にした。一気に、突き刺すつもりだった。


なのに、繭のすぐそばまで来た時、グレイは動けなくなった。


繭に取り付けてある窓から、リタの顔が見えた時…グレイは息を飲んだ。


その顔は、人間だった頃とまったく変わらなかった。それどころか…繭の中の方が、顔色が良かったのだ。


素性を隠し、ブレイクショットのメンバーになったグレイと違い、特区の出身であると素性を証し、苦労してきたリタは…いつもどこか疲れていた。


そんな妹を見る度に、良心が痛んだグレイは…ブレイクショットを抜け、傭兵になったのだ。


「俺は…斬れない。妹を殺せない」


突きの体勢のままで動けなくなったグレイの手から、日本刀が落ちた。


「く、くそ!」


泣きながらその場で崩れ落ちた時、実験室の入り口に、ティアナが現れた。


「!?」


ティアナは、繭の前で床に両手を付き、泣いているグレイを発見すると、中に入れなくなった。


「グレイさん…」


ティアナは、繭の中で目を閉じているリタの顔を見た。


「人間!?」


と、思わず口にしたが、ティアナの頭の中に…ある言葉が浮かんだ。


人は、神に似せて創られた。


しかし、繭の中の女神は…人から…神に似せて創られたのだ。


ティアナは唾を飲み込むと、実験室内に入った。


人に似ているからと言って、見過ごす訳にいかないからだ。


「テ、ティアナ・アートウッド!?」


実験室に入ってきたティアナの姿を見て、グレイは落とした日本刀を掴んだ。


「グレイ・アンダーソン…」


ティアナはゆっくりと、グレイと繭に向かって歩き出した。


「来るな!」


グレイは震える両手で、日本刀を握り締めながら、泣いていた。


「お、俺は…グレイ・アンダーソンじゃない!本当の名は…」

「お兄ちゃん…」


その時、後ろから声がした。


「え…」


グレイの後ろで、繭が真ん中から二つに割れた。


中に入っていた培養液が流れだし、グレイの足下を濡らした。


「リ、リタ!」


振り返ろうとしたグレイは、途中で動きを止めた。


「!?」


ティアナは、目の前で起こった信じられないことに目を疑った。思わず、足が止まった。


「うぐわっ!」


グレイは口から、血を吐き出した。


「お兄ちゃん…を殺す…」


リタは目を瞑ったまま、呟くように言った。


「そしたら…あたしは、生まれ変わる」


リタの目から、涙が流れた。


「リ、リタ…」


リタの腕が、背中から胸まで貫通していた。


「あたしは…」


リタの声を聞いた瞬間、グレイは理解した。


「ティアナ・アートウッド!」


グレイは、ティアナに向かって叫んだ。


「リタを殺せ!こいつは…もうリタではない!め、女神だ!」


リタの瞼が小刻みに震え、ゆっくりと開こうとする。


「目を開ける前に!」


「だ、だけど…」


ティアナは、グレイとリタまでの距離を考え、モード・チェンジでスピードアップしても、ぎりぎり届くかどうかと見切った。


後ろに回り、リタだけを斬る時間はない。


「は、早くしろ!」


グレイの目から、涙が流れた。そして、ティアナを睨み、


「それが、お前の仕事だ!」


絶叫した。


「うわあああっ!」


ティアナも絶叫すると、走り出した。


ティアナの思考を感じ、チェンジ・ザ・ハートが飛んできた。


「モード・チェンジ!」


一瞬でライトニングソードに変えると、切っ先を前に向けて疾走した。


雷鳴が、実験室に光った。


ティアナは目を瞑った。瞼を閉じる速さより速く、ライトニングソードは…グレイもろともリタに突き刺さった。


「うおおおっ!」


雷鳴の轟く音が、突き刺さった後に…耳に飛び込んできた。


「ぎゃああ!」


後ろにいたリタは、串刺しになりながら、えびぞりになり…目を見開き、天井を睨んだ。


しかし、開いた目は…白目を剥いていた。


「それでいい…。リタは…もう死んでいた…」


ライトニングソードとリタの腕に、串刺しになりながら、グレイは笑った。


「グレイ…」


ティアナは、目を開けることができなかった。


「ごめんなさい…」


ただ謝るしかできなかった。


「あ、謝ることはない」


グレイは最後の力を振り絞り、ティアナの背中をぽんぽんと叩いた。


「俺は…どうせ…死ぬ…」


と、言った瞬間…グレイの頭が燃え出した。


「あ、ありがとう」


グレイは、ティアナから腕を離した。そして、その一言だけを告べると同時に、炎は全身に燃え広がり…グレイという存在を灰に変えた。


目を見開くティアナの前には、串刺しになったリタ…いや、女神ソラしかいなくなった。


「先輩!」


実験室に、ジャスティンが飛び込んだ時には…すべてが終わっていた。


ライトニングソードを抜き、天井を仰ぎ見ながら崩れ落ちたソラを、改めて串刺しにしょうと、振り上げたティアナは…数秒後、剣を下ろした。


「女神は?」


実験室の入口で、立ち止まっているジャスティンの後ろに、クラークが姿を見せた。そして、ティアナのそばで胸と背中から血を流して倒れているソラに気付き、


「終わったか…」


全身の緊張を解いた。


「…」


ジャスティンは、クラークの言葉に頷かなかった。


ティアナの動きを見て、まだ終わっていないと知ったからだ。


「…」


クラークは、無言のジャスティンの肩を叩くと、ティアナとソラのそばに行こうとした。


しかし、ティアナはそれを止めた。


「今から、女神を封印します。危ないから、あなた達は早くここから、脱出して下さい」


「え」


驚くクラーク。


「早くして!」


ティアナは、クラーク達の方を見ずに、ソラを見下ろしながら叫んだ。


有無を言わせないというように、ライトニングソードが妖しく輝き出した。


「し、しかし!」


それでも近付こうとするクラークの肩を後ろから、ジャスティンが掴んだ。


「行くぞ!」


ジャスティンは、クラークの肩を握り締めると、強引に部屋から連れ出した。


「ジャスティン!」


「…」


それから、ジャスティンはカードを取り出すと、テレポートした。


「お前!何を考えている!」


2人がテレポートアウトしたのは、クラークがカードを二枚使って、ペシャンコにした場所だった。


「終わったんだよ…」


ジャスティンは、砦の方に顔を向けた。


蜂の巣に似た砦全体に、血管のように電流が走り…やがて、砦は爆発した。


跡形もなく、消し飛んだ砦を見つめながら、ジャスティンは瞬き一つしかなった。


爆風が、2人の間を吹き抜けた。


「…」


ジャスティンは、何もなくなった空間を見つめ…しばらくして、砦があった方に向かって、走り出した。


爆風が吹き去った後、ゆっくりと歩いてくる人影があったからだ。


勿論、ティアナである。


クラークは、ティアナの身にソラの死体がないことを確認すると、表情を殺した。


そして、ティアナとジャスティンの方に背を向けると、どこからか…さっきまで使っていたカードとは違う黒いカードを取り出した。


「任務終了しました。女神は殺害後、念のため…その地で封印した模様です」


通信機能を使い、どこかに報告した。



「先輩!」


ジャスティンにはわかっていた。


ティアナが止めをさしていないことを…。


しかし、理由があるのだろう。


ジャスティンは駆け寄りながらも、そのことについて触れることはしなかった。



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