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第4部 アルテミアキラー 第28話 後悔の悪魔

「モード・チェンジ!上位進化。くらえ!A Blow Of Goddess!」


天使の姿になったアルテミアの雷撃が、ライに放たれた。


「甘い…」


ライは、それを片手で受け止めた。


(ティアナ…)


ライは、あの時のティアナの姿を思い浮かべていた。


ライは、アルテミアの雷撃を後方に跳ね返すと、


「お前のその能力!お前のその力は、我らが与えたもの!」


ライは、もう片方の手を突き出し、


「自惚れるな!」


「きゃーっ!」


アルテミアの体は、吹き飛んだ。





「ライ様…」


王の間で、瞑想にふけっていたライに、ラルが声をかけた。


「お食事の時間です」


ライの玉座に跪き、食事を運ぼうとするラルに、


「いらぬ」


ライは呟くように、言った。


「しかし、王よ!もう何日も…」


ライは、最近まったく食事をとっていなかった。


「これくらいで…、我の力が、衰えると思っておるのか?それとも」


ライは、ラルを見下ろした。


「我が…アルテミアに、負けるとでも思っておるのか」


ラルは跪き、頭を下げた。


「滅相もございません」



「フン。ならば、下がれ」


「は」


ラルは、王の間から消えた。


ライは鼻を鳴らし、


「まだまだ負けぬわ」


と言葉を漏らした。






「ここは…」


僕は、目を覚ました。


いつもこういうパターンの時は、実世界に戻っているのだけど、今回は違った。


見たことのないコンリートの天井が、家でないことに気づかせた。


「ここは…」


簡易ベットから、起き上がった僕は、何の飾りもない質素な部屋を見回した。


「気がついたようだね」


ベットから見て、右側のドアが開け、ロバートが入ってきた。


「ロバートさん」


ロバートに向けて、手を上げた僕は、両手があることに気づいた。


忘れていたが、僕はマリー達に手足を切断され…お腹に。


僕は慌てて、パジャマの上着をめくった。


「着ていた服は、クリーニングに出したよ。体は、何ともなかったけど、酷い熱と意識を失っていたから…病院に運んだ」


僕の体には、どこも傷がなかった。


僕ははっとした。


(あの時の光だ…。そして、あの声…どこかで聞いたような…?)


疲れからか、まだ頭がぼおっとしており、思い出せない。


考え込んでる僕を、優しく見つめながら、ロバートは口を動かした。


「それにしても、よく倒せたね。あの女神達を」


「え!倒せたんですか?マリーとネーナを…誰が…」


僕は考え込んだ。


(もしかして…あの光の人物か…)


アルテミアも戦える状態じゃなかった。


悩む僕に、ロバートは首を捻った。


「誰なんですか?女神を倒した人って!」


ロバートはきょとんとし、僕の顔を見た。


「君らに、決まってるだろ」


「え?」


僕はしばらく考え、自分を指差した。


ロバートは頷き、


「それにしても、凄いよ。これで、世界の権力図が変わる」


少し興奮気味に話し出した。


「女神達がいなくなったことにより、恐れる存在は、魔王を別にして…ポセイドン、カイオウに、リンネ、不動…そして、ジュリアンの5人だけだ」


「ポセイドン、カイオウ…」


この魔神達は、聞いたことがあった。他の3人は知らない。


ロバートにきいてみた。


「リンネと不動は、炎の騎士団長。ジュリアンは…」


ロバートは、声を詰まらせた。少し躊躇うように、言葉を続けた。


「赤星君。君には関係ないことだが…。ジュリアンは、アルテミアの親戚だ」


「親戚?…って、マリー達と同じということですか?」


マリーとネーナ、アルテミアは、姉妹であることを、僕は知っていた。


ロバートは、首を横に振り、溜め息混じりに言った。


「そっちの血筋ではない。アルテミアの母親…ティアナの妹だ」


僕は目を見張り、


「だったら、人間ですよね。どうして…魔神の1人なんですか?」


ロバートは少し目を伏せ、


「彼女は、魔王の洗礼を受けたのさ。バンパイアの洗礼をね」


「バンパイアの洗礼?」


ロバートはゆっくりと頷いた。


「彼女は、闘竜拳の使い手で…魔法を使わずに素手で、ドラゴンを倒せる程の強者だった」


ロバートの話は、初めて聞くものだった。


「人一倍、正義感の強かったジュリアンは、アルテミアを産んだティアナが、許せず…彼女を殺そうとした…」



ジュリアンの強さと執念深さは、予想以上で、魔王軍は手を焼いた。


それを見かねた魔王は、ティアナには伝えず、直々に血を吸い、魔王の眷属に加えたのだ。


血を吸われたジュリアンは、すぐに魔王に支配されることはなかった。誰よりも強い正義感と、魔王の支配力が、頭の中で、せめぎ合い…最終的には、生きるすべてのものを狂ったように破壊するバーサーガになってしまった。


魔王軍の規律も守らず、ただすべてを殺すだけの存在。それも、騎士団長クラスの魔力を持つ魔獣。


アルテミアの反乱以来、ジュリアンは魔王の城に、幽閉されていた。


しかし、最近…野に放されたらしく、東南アジアの軍隊を、皆殺しにしたという噂が話題に上がった。



「そのジュリアンは…口癖のように、アルテミアと叫びながら、動くものをすべて、破壊してるらしい」


ロバートの言葉に、僕は少し背筋に冷たいものを感じて、震え上がった。


「で、でも…遠くにいるから、会わないですよね」


必要以上に怯える僕に、ロバートは大笑いした。


「今の君が、怯えることはないよ。今の君なら、ジュリアンも…他の騎士レベルにも、負けることはない。自分のレベルを確認してご覧よ」


ロバートは立ち上がると、クリーニングを終え、部屋の壁にかけてあったハンガーに吊された学生服の上着のポケットから、僕のカードを取り出し、手渡してくれた。


「ありがとうございます…え!?」


僕は、思わず声が出た。


信じられない数字が、そこにあった。


「レベル…108…」


出会った頃のアルテミアと、同じレベルだ。


「女神を2人も、倒したんだ。それくらいは、いくだろね」


ロバートは、僕をまじまじを見つめた。


(この少年が…ここまで…)


僕はカードを見つめ、ポイント残高も信じられなかった。


(最後1だったはずだ…それが、二億ある…)


唾を飲み込み、もう一度カードを確認した。


「でも…僕は戦いの最中、意識を失って…」


「アルテミアが倒したとしても…今、君とアルテミアは同化している。君の経験値になるよ」


「…なんか…まったく苦労していないのに…おじいさんから…マ○ンガ○Zを貰ったみたいな気分だ」


僕の例えは、ロバートにはわからない。


「とにかく、しばらくは療養して…ゆっくりすればいい」


ロバートは、病室を出た。


先の戦いで、結界近くの街は、病人で溢れていたが…それと同じくらい活気にも溢れていた。


2人の女神の死は、瞬く間に世界中に広がり、多くの戦士を勇気付けた。


魔界に攻め込む…今は好機と、朝鮮半島…ソウルより少し北の街に、世界中のギルド…そして、勇者の大部分が、集結していた。


初陣は、早くも数日前に結界を出ていた。


その中には、銀狼と呼ばれる勇者や、ダイナマイトファントムという有名なギルドのメンバーも含まれていた。


それに、防衛軍が誇る…レインボーカラーの中から、レッドとイエローの勇者も出陣していた。


総勢数万の戦士達。


「例え騎士団長が出てきても、108の魔神がいても、そう簡単にはやられまい」


ロバートは病院の廊下を抜け、外に出ると、中央広場を目指した。防衛軍の本部は、そこに簡易施設を作っていた。


戦況がわかるはずだ。


「うん?」


本部に近づくにつれ、人々の表情が変わっていく。


上空を空飛ぶ担架が、次々に飛んでいく。


「怪我人の数が多い?」


空だけではなく、前方の道も、人混みでごった返している。


ロバートは走ると、人混みをかき分けながら、広場を目指した。






「全滅だと!?」


防衛軍の本部から、新たに派遣された総司令官は、飲もうとしたコーヒーカップを、床に落とした。


「は!レッド、イエロー両大佐…戦死。我が軍だけでなく、民間のギルドも殆ど壊滅状態だと」


報告書を読み上げる隊員は、震えていた。


「やはり…」


前司令官だった男は、その報告を部屋の隅で聞きながら、呟き、


「この地は、呪われておる…」


頭を抱えた。


「モニターに映せ!」


総司令の言葉に、赤々と明かりがついていた総司令室の明かりが消えると、壁一面に半島の地図が現れた。魔界の入口に、無数の生態反応が、点滅するはずな2296978GPの…反応がない」


総司令は愕然とした。


「逃げれるものは、すべて撤退しましたので…」


恐る恐る話す隊員に、


「数万はいたんだぞ!もう女神もいないのに」


総司令は、苛立ちを隊員にぶつけた。


「それが…」


隊員は口ごもる。


「敵の数は!」


「ふ、2人です…」


「2人!?」


総司令は思わず、声を荒げた。


「はっ…1人は…天空の女神。もう1人は…」


「天空の女神!?有り得ないだろが!!」


総司令は、その辺にあった机を叩いた。


「しかし…報告では…。もう1人は…ブラックサイエンスの…」






「ブラックサイエンス?」


広場に近づくにつれ、人々や隊員の話が聞こえてきた。


「やったのは、天空の女神…」

「アルテミアなのか!?」

「2人の女神がいなくなったから…本性を現したんじゃないか」

「それに…ブラックサイエンスの隊長も…」

「どうやら…洗礼を受けたらしい」


噂する人々の会話を聞いて、ロバートは広場にいくのを止めた。


「赤星君…」


戻ろうとするロバートの前で、突然爆音とともに、右側のビルの側面が吹き飛び、ガラスやコンクリートの破片が飛び散ってきた。


その中には、明らかに人の欠片がある。


ロバートは慌てて、吹き飛んだビルの前まで走った。


ビルから、反対側の道が見えた。トンネルのような空洞ができており、銃声と硝煙が見えた。


人々の泣き叫ぶ声が聞こえ、硝煙が消えた時、トンネルと化したビルの中を歩いてくる一団が見えた。


ロバートは、その一団に見覚えがあった。


逆光の中、ゆっくりと歩いてくる鎧姿の戦士達。


「うおおおーっ!」


鎧の一団の後ろの建物の影から、飛び出した防衛軍人が、ミサイルポットを装備して、発射しょうとする。


その瞬間、風のような動きで、鎧の一団の1人が飛び出し、軍人の前に立つと、両手を切り裂いた。そして、軽く蹴ると、血を噴き出しながら、軍人は後ろに倒れ、ミサイルは上へ向って、飛んでいった。


「馬鹿な…有り得ない…」


ロバートは、近づいてくる一団の肩当てに、輝く文字を確認し、後ずさった。


ロバートの後ろから、負傷しているが、まだ動ける戦士達が、一団に襲いかかる。


「仲間の敵!」


剣を抜き、武器を召還し、魔法を奏でる。


しかし、風のように速い一団は、戦士達を切り刻む。


「無空陣…桜の舞…」


花びらが散るような優雅な動き。


静かに、舞い…殺す。


黙の文字が、輝いていた。


「ブラック…サイエンス…」


元結界防衛軍の親衛隊。


そして、ロバートの恋人…サーシャが所属していた部隊。


しかし、天空の騎士団長達に、全滅させられたはずだ。


「生きていたのか…」


ロバートは、驚き…戸惑いながらも、涙を流していた。


みんな知り合いだった。


例え洗礼を受けたとしても…。


顔を確認しょうと、戦いの中近づいたロバートは、絶句した。


戦士達を切り刻むドラゴンキラーは、確かにブラックサイエンスだが…。


小太りな戦士の首をはねたブラックサイエンスの1人が、振り返った。


ロバートは愕然とした。


それは、ロバートの知ってる顔…いや、顔を判別することができなかった。


顔は潰れ、眼球だけが動いていた。


「ゾンビ…」


ブラックサイエンスのゾンビは、ロバートに襲いかかってきた。


次々と戦士達を殺すーー元ブラックサイエンスだったゾンビ達。


よく見ると、片手だけの者もいる。


「モード・チェンジ!」


近づいてきたゾンビが、ドラゴンキラーで、ロバートを袈裟切りにしょうとした瞬間、エメラルドグリーンの光が溢れ、その中から、サーシャが現れた。


ドラゴンキラーで、ゾンビの攻撃を受け止めた。


「みんな…」


顔を伏せながらもサーシャは、ゾンビのドラゴンキラーを押し返す。


そして、相手のドラゴンキラーを力任せに跳ね上げ、バランスを崩したゾンビの腹に、蹴りを入れた。


ゾンビは吹っ飛び、尻餅をついた。


それを見たゾンビ達は、ドラゴンキラーを構え直し、左右に連携して、散らばった。


尻餅をついたゾンビも、連携に加わった。


「キラーズアタックか…」


顔を上げたサーシャの顔は、涙でぐしゃぐしゃになっていたが、目は鋭かった。


ゾンビの数は六人。


三人一組で列を作り、左右から、サーシャに襲いかかる。


サーシャが、どんな動きをしょうと、左右を蹴散らそうと、後ろがすぐに対応する。1人の敵に対して、卑怯な攻撃だが…。


必殺を目的としていたブラックサイエンスには、当然の攻撃だ。


(この技を破るのは、至難の技…だけど…)


サーシャの瞳が、エメラルドグリーンに輝き、体を構成する骨や、細胞が変わった。


「御免」


サーシャは、一陣の風となった。


人の目では捉えられない動き…神速。


竜巻のような剣圧が、六人の間を駆け抜けた。


まるで、達磨落としのように、細切れに、ゾンビたちの全身が切り刻まれた。


ただの肉片と化したゾンビ達を見ず、サーシャは再び涙を流した。


「ごめんなさい」


例えゾンビになろうと、例え死んでいても…かつての仲間を斬るのは、忍びなかった。


だけど、仕方ない。


その場で、泣き崩れようとしたサーシャの頭上ーー天井から、パラパラと埃が落ちてきた。


そして、


「貰った」


天井はいきなり崩れ落ち、瓦礫の山が、サーシャに降り注ぐ。


サーシャに、見上げる暇はなかった。


コンリートの塊を突き抜け、鋭く長い切っ先が、襲いかかってくる。


サーシャの頭をてっぺんから、串刺しにしょうと狙っていた。


あっという間の出来事だった。


頭に刺さった思った瞬間、サーシャの体は消えた。


「残像か」


切っ先は、床に突き刺さり、天井は完全に、崩れ落ちた。


サーシャが入ったビルの窓や通気口や隙間から、埃が舞い上がり、一体を白く染めた。


「何だ?」


銃を持った警備隊が数十人、ビルの前に駆け寄ってきた。


埃の中から、間一髪サーシャが、後ろ飛びで出てきた。


「ぎりぎりだった」


サーシャは、前方を睨みながら、息を整えた。


判断が一瞬遅れていたら、下敷きになっていた。


「何があった?」


銃を構えた警備隊の1人が、サーシャの前に回った。


「答えろ!」


サーシャに銃口を向けた。


「どけ!」


サーシャは叫んだが、遅かった。


ビルの中から、瓦礫を突き破って、細長いものが飛んできた。警備隊の背中から突き抜け、サーシャを狙う。


サーシャはブリッジするように、後ろに体をそらし、飛んできたものをよけた。


上を通った瞬間、反転し、サーシャは起き上がりながら、通り過ぎようとするものの一番端を掴んだ。


(槍!?)


その槍にも、見覚えがあった。


「大分、修行したようだな…」


ビルの内側から、もの凄い物を砕く音がしたと思ったら、ビルの側面が吹っ飛び、瓦礫と埃を物ともしないで、1人の男がゆっくりと現れた。


ビルはぐらついたが、まだ崩れてはいない。


「貴様か!」


警備隊が、出てきた男を取り囲んだ。


「何者だ」


いつでも発砲できるようにしながら、一歩前に出た隊長らしき男に、出て来た男は笑いかけると、軽く会釈する。


その反応に、結構拍子抜けをした隊長に、男は見えないようにニヤリと笑うと、一気に距離を縮め…隊長の首筋に噛みついた。


男の目が赤く光り、チュウチュウと音を立てて、隊長の血を吸っている。


「うわあああ」


驚いた警備隊は、一斉に血を吸う男に、銃を連射した。


しかし、鉛の玉を喰らっても、男は吸うのをやめない。


銃の玉がなくなると、男が干涸びた隊長を離すのは、同時だった。


「召還」


銃が効かないと判断した警備隊は、銃を捨て、剣を召還した。


斬りかかるではなく、突き刺そうと、突きの構えで、四方から攻撃する。


男はカードを取り出し、


「ターン」


と呟くと、サーシャの手の中にあった槍が、物凄い力で、男のもとに戻ろうとする。


あまり抵抗すると、手が切れると判断したサーシャの脳が離すことを命令すると、もうスピードで、男の手に戻っていく。


槍を掴んだ男が、それを振るうと、血吹雪が上がった。


崩れ落ちる警備隊には見向きもせず、男はサーシャを睨んでいた。


「轟隊長…」


サーシャは、ただ轟を見つめていた。


他のブラックサイエスの隊員と違い、轟はまったく変わっていなかった。


角刈りの頭に、つり上がった鋭い眼光。ドラゴンの逆鱗だけで作った黄金の鎧。


しかし、体から漏れるものは、気ではなく、魔力。


「洗礼を受けたのは…隊長、あなただったのですね」




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