表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/563

第1話 ここはどこ?

というわけで、見知らぬ美女に口説かれて、素直にうんと頷いた僕はなぜか、異世界に来ていた。異世界といっても、知ってる町の風景とあまり変わらない。


ただ違うことは、周りに魔法を使う人や、剣士とかいるぐらいだ。


(なのに…服装が変わらないんだよな…)


「何を望んだ!ファイナルファンタジ○みたいなのか!」


僕の思考を読んだアルテミアが、毒づいた。


(全然…伏せ字になってないんだけど)


学生服で、町をさ迷う僕に、周りは大して騒がない。確かに、学生服そのままのデザインはないけど、黒一色の色彩は地味すぎた。誰もこちらを見ない。


(でも…本当に異世界なのかな)


着ている学生服を確認していると、夢の中で無理矢理つけられたピアスから、声がした。


「何か食べようぜ!」


僕はうっとおしくなって、何度かピアスを外そうとすしたけど、外れない。


「無駄な努力は、いい加減やめろって」


ピアスからの声が、ため息をつく。




「はぐれゴブリンだ!」


突然、誰かが叫び…町中が一瞬で、パニックになった。


みんなが慌てて建物に隠れる中、ぽつんと道の真ん中にいるのは…僕1人になった。訳が分からず、立ちすくんでいると、影が頭上から僕に落ちてきて、視界が急に暗くなった。


「え…」


目の前に、3メートルはあろうかという…化け物がいつのまにか立っていた。


現実離れしている為、顎を上げ、少しぽかんとしてしまう僕の鼻先スレスレに、酸性の臭い唾液が、滴り落ちた。


「え」


「グエエエ!」


奇声とともに、ゴブリンの拳が、僕の頭の上を通り過ぎ、横にあった焼き肉店の外看板を吹き飛ばした。


「死なれちゃ〜困るしな」


少しダルそうなピアスの声も、僕にはもう聞こえない。


看板の破片が、目にも止まらないスピードで飛んできて、視界の外から僕の頬を切っていった。


(痛い…痛い…痛い…?)


感覚が、意識を現実に戻していく。


「痛いいいい!」


僕は予想外の痛みに、パニックになった。


(夢じゃないの!?)


ゴブリンが咆哮した。


「ヒィィ!」


恐怖がマックスになり、震え上がる僕は、何もできなくなっていた。


「しゃーねぇなあ」


ピアスからの声がため息をつくと、僕に訊いた。


「さっき渡した…指輪してるか?」


僕は訳わからずゆっくりと後ずさりながら、首を横に振った。


「はめやがれ!」


ピアスの怒声に促されて、言われるままに僕はポケットに手を突っ込み、震えながらも左手の薬指に指輪をはめた。


「よし!じゃあ、叫べ!あなたのような綺麗な美しい女性に出会って、家畜のような僕には、もったいない!人生最高の幸せです。ああ、なんて…幸せなんだろ。あなたの美しさは罪だ。モード・チェンジ!って叫べ」


ゴブリンの臭い息が、逃げようとする僕にかかった。


「い、い、言えるか!」


僕は恐怖で、半泣きになった。


「ゆ、夢なら、覚めてよ!」


「馬鹿か!記憶力ないのかよ!仕方がない。短縮してやる!モード・チェンジと叫べ!」


「え」


「叫べ!」


苛立つ声に促されて、僕は目を瞑ると、思い切り叫んだ。


「も、もももモード・チェンジ!」


すると、指輪から光が溢れ、僕の体を包んだ。


その瞬間、夢で見た…あの美女が、姿を現す。


「ヴィーナス。光臨!」


ポーズをつけた後、白のワンピースというラフな格好で、美女は頭をかいた。


「ああ…うざい…」


欠伸をしながら美女は、そばに立つゴブリンの顔面に裏拳を叩き込んだ。


次の瞬間、ゴブリンは、頭が吹っ飛び……空中で破裂した。


(ポイント、ゲット!15ポイント)


どこからか声がした。


「しけてるなあ…」


美女は胸元から、カードを取り出すと、ため息をついた。


どうやら、声はカードからしたようだ。


「やっぱり…一度死んだら、ポイント・ゼロになるのか…」


美女はカードを団扇にしながら、顔をしかめた。


「あのお…」


僕は、未だに状況が理解できず、恐る恐る美女に声をかけた。


「あっ!忘れてた」


美女は、ピアスを触った。


そう…僕の声は、ピアスから発していた。


「あたしが、実体化しているときは、あんたはここ」


美女は、ピアスを人差し指で弾いた。


「な、な、どういうことですか…」


「説明いる?」


「い、一応…」


「うざいな」


美女は、頭をかいた。


「あたしさあ〜死んだのよね。魔王との戦いの最中に」


そして、大きく背伸びをした。


「だ・か・ら!体が必要な訳よ」


頭を失ったゴブリンの死骸が前のめりで倒れると、美女はそれを踏みつけながら、歩きだす。


「魔王…とか…意味が…理解できないんですけど…」


「あんた。頭、悪い系?」


美女は、カードを指に挟みながら、とある店の扉を開けた。


「つまり、あんたは!勇者である…あたしの依り代になった訳」


「勇者…」


僕は呟いた。


店は、小さな酒場だった。


「いらっしゃー…」


愛想笑いのウェイトレスの顔が、引きつり…トレイに乗せたビールを落とした。


周りお客からも笑みが消え、グラスやナイフを持ったまま、凍りつく。


一気に店の活気は…なくなった。


「キャーッ!」


ウェイトレスの悲鳴から、店はパニックになった。


「踏み倒しのアルテミアよ!」


「ブロンドの悪魔!」


「タダ酒飲みのアルテミア!」


「死んだんじゃないのー」


「折角…魔王が、1人いなくなったと思ったのにいい〜!」


店内は悲鳴に包まれ、騒然となる。


そんなことなんてお構い無しに、アルテミアが店内を歩くと、人々やテーブルが自動的に、道を開けてくれる。


その様子を見て、僕は訊いた。


「ゆ、勇者って…言いませんでしたっけ?」


「黙れ!」


僕の声を一喝すると、アルテミアはカウンターにもたれた。


「勇者とは、尊敬されるだけでなく…恐れられるものなのよ」


カウンター内にいる男に、アルテミアはウィンクをした。


「マスター、いつもの」


マスターは怯えながらも、言葉を絞り出した。


「いつもの…とは…な、何でございましょうか?」


アルテミアはにこっと笑顔で、


「いつもの」


もう一度繰り返した。


マスターの指先が、震えていた。


「い、いつも…いろんなものをたか…奢られ…飲まれていらっしゃるもので…」


「わかんないの?」


アルテミアは、マスターの胸倉を掴むと、カウンター内から引きずり出した。そして、マスターの耳元で囁いた。


「酒だ。それとも何か?お前の血で、ブラッディマリーでもつくるか?」


「す、す、すいません!すぐにご用意致します」


「待たせるなよ」


アルテミアは片手で、マスターをカウンター内に戻した。


「は、はい!」


マスターから出されたウィスキーのロックを、アルテミアは一気に飲み干した。


「く〜う〜。うまい!」


空のグラスを、カウンターに叩きつけるように置いた。


「お代わり!」


「あのお…」

「あのお…」


僕とマスターの声が、被った。


「何だ?」


アルテミアは、マスターを睨んだ。


マスターは怯えながらも、口にした。


「お代の方は…」


「金か」


アルテミアは、カードを見せた。


「払うよ」


「で、でしたら…今までの分も…」


マスターは上目遣いで、アルテミアを見た。


「はあ?」


その一言で、終わりだった。


それから、結構飲んだ後…アルテミアは、


「ご馳走様」


そのまま店の外へ向かう。


「あのお…お代は…」


マスターの虚しい声。


結局、今日もタダ酒だった。




「アルテミア!」


店をでると、20人ぐらいの町の人間が、アルテミアを囲んだ。みんな…思い思いの武器を、手にしていた。


「死んだと、きいていたが…」


「生きているなら、ツケを払え!」


「す、少しで、いいから…」


武器を持っているが、みんな…びびっていた。


「はあ?」


アルテミアが軽く人々を睨むだけで、みんなは後ずさる。


「こ、こわくなんてないぞお」


武器を握り締めて、各々で頷き合う人々。


「あのお…」


僕が何か言おうとしたが、アルテミアは無視して突然、上空を見上げて目を細めた。


顔が少し動いただけで、人々はびびる。


「どうかしたんですか?」


やはり僕の言葉は、無視だ。


「来る」


アルテミアは呟くと、いきなり人々の方に近づいていった。思わず後ずさる人々の中から、剣を奪った。


「貸せ!」


「キェーー!」


謎の甲高い鳴き声とともに、雲が裂け、突風が吹き荒れた。風は、通りにいた人々を、空中に巻き上げた。


「な、なんだ!」


通りを転がりながら、人々は慌てふためき、何とか風が止んだので立ち上がると、空を見て腰を抜かした。


「よ、翼竜だあ!」


「ドラゴンが、なぜ街中に」


逃げ惑う人々の中で、アルテミアは頭をかき、欠伸しながら、カードを見た。


「ポイント15じゃあ…変化もできないな」


翼竜が空中で、翼を羽ばたかせると、さらなる突風が吹く。


「おい!」


アルテミアは、腰を抜かしている人々の胸倉を掴んだ。


「お前らのポイント…貸せ」


「は、はい!」


人々は怯えながら、素直にカードを差し出した。


アルテミアは、自分の持っているカードの先と、人々のカードの先を1枚1枚…合わせていく。


「よし!百ポイント」


「きえええー!」


翼竜の巨大な影が、通りの人々を覆う。


アルテミア達に気付いた翼竜の口から、火の玉が放たれた。


「ヒッ」


頭を覆った人々を、蹴りで退かすアルテミア。


「邪魔だ」


それから、剣を一振りして感触を確かめた後、気合いとともに、火の玉を真っ二つに斬り裂いた。


二つになった火の玉は、周囲のビルにぶつかると燃え上がり…一瞬にして、ビルの表面がロウソクのように融けだした。


「モード・チェンジ!」


そう叫ぶと、アルテミアの服装が白のワンピースから、黒いスーツに変わった。


地上にいたアルテミアが一瞬にして、30階くらいあるビルの屋上に移動していた。


「フン!」


鼻を鳴らすと、黒いサングラスを、指先で上げた。


後に、僕が知ることだけど…これは、フラッシュ・モード。黒い閃光といわれる…スピードとしなやかさをメインにした…アルテミアの変化の1つだ。


それと、もう一つ。


アルテミアの上空に、雨雲が発生した。


翼竜は、ビルの上にいるアルテミアに気づき、ビルの側面に沿って上昇しながら、再び口を開けた。


しかし、翼竜の口から、火の玉が放たれることはなかった。


雨雲から雷鳴が轟き、地上に向けて、雷が落ちた。


雷は、翼竜の首筋に直撃した。


いや、雷ではなかった。


それは、剣を持ったアルテミアだった。


翼竜の首筋を貫くと、そのまま地上へと下り立った。


衝撃で、地面がクレーターのようにくぼみ、その穴の中央に、アルテミアが立っていた。


(ポイント、残高0)


「チッ」


アルテミアの体が、光に包まれ…僕の姿に戻った。


そのまま…倒れるように、僕はその場で気を失った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ