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第289話 意地と無慈悲

「お持ち申しておりましたよ」


地上に見せる姿と違い、地下に埋まった部分は、強固な岩石で造られた砦の最下部。


洞窟から続いている地下階段を登れば、地上の砦内部に入ることができる。


普段は、蜂に似た魔物達に守られている入り口も、簡単に入れるように、道が開いていた。


その前に立つギナムは、洞窟内の温度が一気に上がったことに気付いていた。


熱風の先から、全力で走ってくるグレイの姿を認め、口元に笑みを浮かべた。


「これで、最後のマスターピースが揃う」


「うおおおっ!」


血走った目をしたグレイは剣を抜くと、ギナムに斬りかかってきた。


「やれやれ…」


ギナムは、ヒョイと横に避けると、グレイに道を開けた。


「そんなことをしなくても、歓迎したものを」


グレイは追撃をかけることなく、砦内へ階段を駆け上がっていった。


「まあ〜いいですか…。できるだけ狂った方が、身の為ですし」


ギナムはゆっくりと、グレイの後を追おうと、砦内に体を向けた。


「グレイ!」


その時、日本刀を持った剣司が入り口向かって、走り寄ってきた。


「…雑魚が」


ギナムは振り返ることさえしないで、階段を上りだした。


「グレイ!」


砦内の入り口に、飛び込もうとすると、上から蜂に似た魔物が飛びかかってきた。


「邪魔だ!」


横凪の斬撃が、魔物を切り裂いた。


「キイイ!」


今度は周囲の暗闇から、人間と同じ大きさをしたゴブリンの大群が現れた。


茶色の肌に、棍棒を持ったゴブリンを見た剣司は舌打ちすると、まともに迎え撃つのは、時間を浪費すると判断した。


向かってくる速さから、自分の全力の方が速いと思い…剣司はまっすぐに、砦の入り口に向かって走る。


しかし、ギナムが下から見えなくなると、開いていた入り口が小さくなっていくのがわかった。


扉や門のように閉まるのではなく、開いていた傷口が閉じていくような感じに似ていた。


「クッ!」


剣司は走りながら、剣を鞘に納めた。両手を振り、走ることだけに、全力を注いだ。


ゴブリン達の数は多く、入り口の左右の闇から、進路を防ごうとする。


「舐めるな!」


左右から進路を狭めるゴブリン達は、一斉に棍棒を振り上げた。その動きが、進路を塞ぐスピードを一瞬遅くした。


その隙を見逃す剣司ではなかった。


一気にスピードを上げ、最後はスライディングのように、閉まりかけた入り口に滑り込んだ。


「は、は、は」


体力を使ってしまったが、休んでいる暇はない。


入り口内は、ひかり苔が何かがで淡く光っていた。


階段の上は、もっと明るい光が灯っていた。


「いくか!」


それでも、30秒程は休んでしまった。


剣司は、鞘に納めた日本刀を無意識に確かめると、階段を駆け上がった。


(先程のやつは…魔神!)


剣司の身に、緊張が走った。


(戦ってはいけない!隙をついて、追い越す)


魔神であるギナムと戦っている場合ではなかった。グレイを止めなければならない。


(グレイを行かす意味があるはずだ)


駆け上がりながら、剣司はギナムの背中を探した。


上に続く階段は、螺旋状になっており、数メートル先は見えなかった。


慎重に走りながら上がっていく剣司は、体を射ぬくような殺気を感じ、足を止めた。


右に曲がっていく階段の先に、ギナムがいる。


そう確信した剣司は、刀に手をかけた。


居合いの体勢に入りながら、階段を駆け上がった。


階段を曲がった瞬間、横凪の斬撃が、目にもとまらない速さで放たれた。


しかし、刀には、何の手応えもなかった。


遅れて聞こえた羽音が耳に飛び込み、今度は後ろからした。


「!?」


曲がった先は、一階になる吹き抜けの空間だった。


居合いの為に踏み出した右足は、階段から出ていた。


「なかなかの速さでした」


剣司はその声にはっとして、後ろを振り返った。


下の階段に、腕を組んだギナムがいた。紫の翼が、少しだけ開いていた。


「しかし」


ギナムは下から、剣司を見上げた。


「所詮…人間の速さです」


「!」


後ろに向かって体を向けた時には…ギナムは、また剣司の後ろにいた。


そのあまりの速さに、剣司は動けなくなった。


「どうですか?」


刀に手を添えたまま、まったく動けなかった剣司の耳元で声がした。


「私の速さは?」


真後ろで、フフフと含み笑いをもらすギナムに、剣司は振り向き様に、剣を振るったが、ギナムに届くことはなかった。


「無駄ですね」


剣司の真上で翼を広げて、止まるギナム。


空の魔神である彼の飛行能力は、燕に似ていた。


その飛び回る姿も、あまりにも滑らかだった。


「私には、遊んでいる暇はないです。女神の完成する瞬間を見なければならないので」


「クッ!」


剣司が上を見上げれば、ギナムは別の場所にいた。


自由自在に空間を滑るように飛び回るギナムに、剣司は何もできなかった。


「…だから、終わらせましょうか?」


ギナムの両手の爪が鋭さを増し、剣司を切り裂こうとする。


しかし、どこから来るのか、予測できなかった。


「どこを突かれて死ぬのか、予想しなさい」


無軌道に、頭上を飛び回りながら、翻弄するギナム。


勿論、狙いは決まっていた。


剣司の頭のてっぺんである。


剣司の一番高い場所から体を、串刺しにしょうとした。


「邪魔くさい!」


突然、一階の側面の壁にひびが入ったと思ったら、ふっ飛んだ。


外の明かりが、砦内に射し込んで来た。


「何!?」


思わず剣司への攻撃を中止したギナムは、床に着地した。


「だから、入り口わからないんだったら、作ればいいんだよ」


「その理屈は、わかったが…」


穴が空いた壁から、砦内に入ってきたのは、ジャスティンとクラークだった。


「お、お前達は!」


驚くギナム。


剣司も驚いたが、それが逆に足を動かした。


ギナムの後ろを通って、さらに上に向かう階段を奥に発見すると、走りだした。


「き、貴様!?」


剣司の動きに気付き、振り返った瞬間、ジャスティンの飛び蹴りが、ギナムの脇腹を蹴った。


「余所見するな」


ふっ飛び、床に転がるギナムよりも、階段を駆け上がっていく剣司の後ろ姿に、ジャスティンは首を傾げた。


「誰だ?」


「うん?」


クラークは、剣司やギナムよりも、穴が空いた壁が塞がっていく様子を見つめていた。


その砦の外壁は、自己修復機能があった。 ギラの攻撃のように、細胞そのものを破壊しない限り、勝手にもとに戻った。


(なるほど)


クラークは納得したが、あまり気にはしなかった。


砦を破壊するのが、目的ではなかったからだ。


「お、お前達!ギ、ギラ様は、始末してくれなかったのか!」


ギナムが立ち上がりと、ジャスティンは周りを見回しながら、


「先輩は…じゃなかった。女神は、どこにいる?」


「多分、上だ」


ギナムではなく、クラークがこたえた。長剣を抜くと、ジャスティンに向かって言った。


「さっきの男の後を追え。ここは、俺1人でやる」


「しかし、相手は魔神だぞ!」


ジャスティンの言葉に、クラークは鼻で笑った。


「魔神にも、いろんなレベルがある」


「な、なんだと!」


クラークの言い方に、ギナムはキレた。


「…」


ジャスティンは先程蹴った時の感覚を思い出すと頷き、奥へ向かって走りだした。


「き、貴様!」


本当ならば、ジャスティンを止めなければならないのだが、クラークの馬鹿にした言い方に我慢できなかった。


「人間のガキの分際で、私を愚弄するか!」


翼を広げ、宙に浮かぶギナム。


「見た時からわかったよ。お前とは、相性がいい」


クラークはフッと笑った。


「ガキが!」


翼を折り畳んだギナムは、目にも止まらない速さで、無軌道にクラークの頭上を飛び回る。


しかし、クラークは頭上を見上げることなく、床を見つめていた。長剣も下げていた 。


「どこから串刺しにされるか!恐怖しろ!」


ギナムは、クラークの真後ろに回り、背中から爪を突き刺そうとした。


その時、ギナムは床に落下した。


「え」


いつのまにか、翼がなくなっていた。


「フッ」


クラークは振り向くことなく、ただ笑うだけだ。


「馬鹿な…」


立ち上がろとしたギナムの両手が、スライドして…床に落ちた。


「だから言っただろ?」


クラークはゆっくりと、振り向いた。


「相性がいいと」


「な!」


完全にギナムの方に体が向いた時には、全身から血を噴き出していた。


「終わりだ」


クラークは、床に落ちているギナムの影の先…頭にあたる部分に、長剣を突き刺した。


断末魔の悲鳴を上げることなく、ギナムは絶命した。


「立体的には、無軌道に見えても…影で見れば…点でしかない」


クラークは長剣を鞘に戻すと、階段に向かって歩きだした。


「飛ぶときは…光のない場所ですることだ」


額の髪をかきあげたクラーク。すると、普段は見えない額の傷が露になった。







「貴様らの目的は何だ!」


近付き過ぎると、熱気で火傷をする為に、ティアナは間合いを計りながら、戦っていた。


最初は、チェンジ・ザ・ハートを槍タイプにしていたが、不動の弱点をつくには、槍では無理と判断し、ライトニングソードに変えた。


しかし、倍の大きさになった不動の腕の長さは、ライトニングソードが届く距離を越えていた。


間合いに入ろうにも、灼熱のマグマでできた不動の体は、熱気自体がバリアのようになっていた。


「ご存知でしょ?女神を創ることですよ!」


不動のパンチを避け、後方にジャンプして逃げたティアナ。


しかし、不動の手からマグマでできた剣ができると、逃げるティアナを襲った。


「!?」


ティアナの胸元を守る白い鎧が切れて…溶けた。


素肌には、達成しなかったが、鎧が溶ける臭いが、鼻孔を刺激した。


「よく避けましたね。感心しますよ」


不動は剣を消すと、拍手した。そして、ティアナに微笑み、


「ここまで、頑張る貴方にご褒美として…教えてあげましょう」


不動は完全に、ティアナを舐めていた。


「今回の女神は、人間をベースに彼らの憎しみを混ぜて創っています。勿論、女神になれば…人間の記憶はありません。しかし、人間とは不思議なもので、記憶がなくても覚えているんですよ」


「どういう意味だ!」


ティアナは、ライトニングソードを握り締めた。


「肉親とか…大切な人間とかね」


不動はにやりと笑い、


「だから、それを完全にかき消す為に…必要なんですよ。肉親を殺すことが!」


「何!?」


ティアナは絶句した。


「我々の実験で、データを取ったのですよ。まあ〜詳しく言えば…我々が取ったのではないのですが…。それによると、他人を殺した罪悪感よりも、親しい人間を殺した方が…こたえるらしいので」


「貴様!」


ティアナは、不動に向かって突進した。


体が火傷をしても気にせずに払った…横凪ぎの斬撃は、不動の指を斬り落とした。


「流石ですね」


思わず、一歩下がってしまったことに、不動は動揺しながらも、強がって見せた。


そして、ティアナを見下ろしながら、


「だって、そうでしょ?人間同士の争いで、知らない人間を何万人殺そうが、人間は心を痛めない!」


笑みを浮かべ、


「先日の核ミサイルで、同士を殺したのに!誰も心を痛めていない!」


「違う!あれは、事故だ!それに、みんな…心を痛めている!」


ティアナは猛攻をかけた。ブロンドの髪が燃えようと関係ない。


「馬鹿ですか!」


不動は、せせら笑い、


「心を痛めているのも!事故だと思っているのは…貴方だけですよ」


「何!?」


「あれは、人間が人間を殺したのですよ!威力を試す実験の為にね!」


「違う!」


ティアナの脳裏に、闇に操られていたグレンの姿がよみがえる。


「あれは…操られていたんだ!」


「たった1人が、操られていただけで!何万人も殺したのか!違うな!周りの人間も同意してたのだよ!」


「違う!」


ティアナの一振りが、不動をふっ飛ばした。


「人間は、そんな存在ではない!」


「!?」


不動は、地面に倒れた自分に驚いていた。


「あれは、事故だ!そして、人々は二度と同じ過ちをおかさない!被爆地には、今も支援が向かっている!」


ティアナは、不動を睨み付けた。


「何万人を殺した後で、誰を助ける!放射能が消え、安全になってからの助けなど、無意味だ!」


不動は立ち上がり、


「憐れな勇者よ。お前の力は無意味だ。我々魔神と互角の力は、人間には必要ない!」


ティアナに憐れみの視線を向け、


「なぜならば、人間は…己を殺す兵器しかつくらない。そして、最後は…人間同士で殺し合い、滅びるだろう」


「違う!」


ティアナは、ライトニングソードで燃えている髪を切り裂いた。


短くなった髪を振り乱し、ティアナは不動を睨んだ。


「人は弱い!だから、おかしくなる時もある!だけど、人は学び、助け合うことで強くなれる!手に手を取り合えば、敵がいないことを知る!人間は、互いを理解すれば…争うことはない!」


「違うな!理解できないから、恐怖し!恐怖から、武器を手にして、殺し合う!我々魔物は、人間の恐怖ではない!滅ぼす存在でもない!ただ、貴様ら醜くく、己以外の生物に害をなす人間という!癌細胞を駆除する為に存在する!」


不動は拳を握り締め、


「早く滅べばいいものを!お前のような存在が、人間を延命させ!この星に迷惑をかけているのだ!」


ティアナに襲いかかった。


「人間は!」


ティアナは、ライトニングソードを握り締め、


「間違いを起こす!だけど、そのすべてを償う!絶対に!」


「だったら、今すぐ滅べ!それが償いだ!」



ティアナと不動の激突は、地下から大地を震わした。



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