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第281話 雷鳴轟く時

「ああ…」


ジャスティンはムシムシするジャングルの中を歩きながら、空を見上げた。


湿度が高い熱帯雨林で育つ木々は、空を見せるのも少しだけだ。


「空を飛べたら…楽なのに…」


額から止めどもなく流れる汗が、襲いかかってくる魔物よりもうっとおしい。


「空中戦は、不利だ」


しんがりを歩くクラークが、冷たく返事した。


ジャスティンは少し膨れると、振り返り、


「だったら、カードの魔力でテレポーテーション!」


「…」


クラークは、ジャスティンの顔を数秒見つめた後、ため息とともに、


「瞬間移動は…空間認識能力がいる。その先に、何もないことを確認できなければ危険だ。草原など何もないところならいいが、ジャングルは障害物が多い。通常は、空でテレポートアウトしてから、着地するが…ジャングルでは難しい。一応、テレポートアウト時に結界を張り、周囲のものを吹き飛ばす方法が、研究されていたが…今回のマジックショックで…」


「わ、わかった!」


長々と説明しだすクラークを、ジャスティンは遮った。


「歩いていくよ!」


ジャスティンは前を向いた。


「それにだ。魔物を倒しながら、魔力を回収する方が、効率いい。テレポーテーションは、かなりの魔力を消費する。恐らく、目的地には魔神がいる。やつらと戦うには、魔力の温存が大切だ」


クラークの説明に、ジャスティンは何度も頷き、


「はい、はい!わかりましたよ」


再び流れ出した汗を腕で拭った。


2人の会話を聞きながら、周囲を警戒していたティアナは突然、目を見開いた。


「みんな!動かないで!」


ティアナは、一番前を黙々と歩くグレイの肩を後ろから手を伸ばし、掴んだ。


「え!」


無理矢理止められて、少し身を仰け反らしたグレイの目の前に、雷が落ちた。


空は晴天で、雲一つないのにだ。


雷が落ちたところから、半径十メートル程の草木は燃え尽き、円状の焼けた土でできた空き地が、一瞬で出来上がった。


その真ん中で、腕を組んで…仁王立ちになる魔神。


「な!」


クラークは絶句した。


「き、騎士団長…ギラ」


クラークの言葉に、ギラはフッと口許を緩めた。


土から煙が上がり、辺りの熱気は一気に上がった。


「は!」


その煙を切り裂いて、いつのまにか接近していたジャスティンの身をよじったローリングソバットが、ギラのこめかみを狙った。


「我の姿を見て、畏れることなく…すぐに攻撃してきたのは、貴様が初めてだ」


ギラは左手を突きだすと、ジャスティンの蹴りを受け止めた。


「いや…貴様らか」


3メートルはあるギラの巨体の懐に、クラークが飛び込んできていた。


「貰った!」


クラークは、ジャスティンの蹴りを受け止めた左腕の下を通り過ぎた。その時、腰につけていた長剣で左腕が落とす影を切り裂いたのだ。


付け根近くから、切断された左腕。


鮮血が舞う中、ジャスティンは地面に着地しょうとした瞬間、


「甘いな」


ギラは笑った。


「チッ」


危険を察知し、ジャスティンは爪先だけつけると後方にジャンプした。


ギラの全身から、電気が放電された。


「ぎゃああ!」


逃げるジャスティンに、電気が網のように絡まった。


ギラの後ろにいたクラークは振り向き、再び影を切ろうと前に出た時だった為、至近距離で雷撃をくらってしまった。


「なかなかよかったぞ」


ギラは右手で、切り取られた左腕を地面に落ちる前にキャッチすると、そのまま肩口に押し付けた。


すると、腕は元通りになり…普通に動かせるようになった。


ジャスティンが蹴りを放ち、ギラがくっ付いた腕の感触を確かめるまでの時間は、数秒。


「ほお〜」


横目で、感電して白目を剥いているジャスティンを確認した後、足下で気を失っているクラークを見下ろし、感心したように頷いた後、首を傾げた。


「炭にしたつもりだったが…。おかしいな。魔法でも使ったか?」


自分でそう言った後、首を横に振った。


「それは…あり得んな」


そして、ゆっくりと顔を前に向けた。


「貴様らガキに、構っている暇はない」


その視線は、ティアナを射ぬいた。


「見つけたぞ…。人間の女」


「!」


ティアナは、ギラから向けられた殺気に、眉を寄せた。 咄嗟に、自分のブラックカードをクラークに投げつけ、障壁を張ったが、すべての魔力を使ってもギラの電気を防げなかった。


(強い)


改めてそう思った。


「チッ」


ティアナの隣にいたグレイは、舌打ちし、


「厄介な相手に出会った。逃げるか?」


ティアナの方を見ずに、無理だとわかっていたが訊いた。


「駄目よ。あいつの目的は、あたし。どこまでも、追ってくるわ」


ティアナは、ギラの目を睨み返した。


ギラはそんなティアナに驚くと、嬉しそうに笑った。


「確かに…ご指名のようだな」


ギラを見て、頷いたグレイはため息をつき、


「最悪だな…。騎士団長を前にして、生きていた人間はいないぞ」


「心配しないで」


グレイの言葉に、ティアナは一歩前に出た。


「騎士団長の前に立ったのは、三回目だから」


「え」


グレイが驚きの声を上げた時には、ティアナは焼けた土の舞台の中に足を踏み入れていた。


「貴様が、どれ程のものか…。確かめてやるわ」


ギラも前に出ると、その後ろから回転する2つの物体が通り過ぎた。


「!?」


驚きながらも、ギラは一足で、ティアナを自らの間合いの中に入れた。


先程切り裂かれてくっ付けたばかりの左腕を振り上げ、手刀をつくると、一気に振り下ろした。


「モード・チェンジ!」


ティアナの肉体が変わる。


飛んできた2つの物体をクロスさせ、剣にすると、ギラの手刀を受け止めた。


「何!?」

「え!」


2人は同時に、声を上げた。


ギラの手から放たれた雷撃と、ライトニングソードの電撃がぶつかり合い、スパークした。


ギラは、真っ二つにするつもりだった。


ティアナは受け止めた後、押し返すはずだった。


(ストロングモードが…押し負けている!?)


力を増したティアナの両足が、地面にめり込んでいた。


「チッ!」

「チッ」


互いに舌打ちすると、2人は離れようとした。


互いの次の動きを理解したティアナは、ライトニングソードをチェンジ・ザ・ハートを戻した。


剣が分離した為、手刀を押し付けていたギラのバランスが崩れた。


そのまま、ティアナは後方にジャンプして、再び分離したチェンジ・ザ・ハートをライトニングソードに戻し、バランスを崩したギラを横凪ぎに切り裂く…はずだった。


「!?」


予想以上にめり込んでいた足が、ティアナの動きをコンマ一秒ずらした。


後ろに一歩下がり、ライトニングソードを振るおうとするティアナの動きを察知したギラは、背中の羽を広げ、無理矢理起き上がった。


突風が巻き起こり、風圧でティアナは後方に下がった。


「!」


羽をたたみ着地したギラは、絶句した。


いつのまにか、胸が斬られていたのだ。


タイミングこそずれたが、バランスを崩しても、ティアナは剣を振るっていたのだ。


「フッ…フハハハハハ!」


あくまでも冷静に笑おうとしたギラは、途中でやめた。


興奮しだし、


「面白い!面白いぞ!人間の女!」


全身から電気を放電させた。


ティアナは一度、呼吸を整えると、ライトニングソードを握り締めた。


「は!」


気合いとともに、前に走り出した。


互いの雷鳴がぶつかり合い、ジャングルを震わした。





「馬鹿が…」


ジャングルの一角で、光る雷鳴を見つめながら、蜂の巣に似た砦の中から、サラが顔をしかめた。




「す、凄い…」


円状に焼けた土地の上で、繰り広げられる2人の戦いは、一刻以上も続いた。


互いに一歩も退かない戦いを前にして、グレイは一歩も動けなかった。


圧倒されながらも、感動していた。


ティアナ・アートウッドという人間の凄さに…。


身を震わし、


「この女ならば…俺の願いを叶えてくれるかもしれない」


少し涙ぐんでしまった。




「あ、あり得ん!人間ごときが!騎士団長と同等の力を持つなど!」


戦いを楽しんでいたギラは、膠着状態になった瞬間、冷静になった。


「同等ではない!」


ティアナは叫んだ。


「モード・チェンジ!」


「な!」


ギラの手刀と斬り合っていたティアナの姿が、目の前から消えた。


「ど、どこに行った!?」


ギラが、ティアナの姿を探そうと、後ろを見た瞬間、頬が斬れた。


「どこに!」


ギラがティアナの姿を探そうとする度に、死角から斬られた。


やがて、ギラでもとらえられないティアナの動きが風を起こし、竜巻がギラの体に絡み付いた。


ティアナの剣による切り傷だけでなく、竜巻の回転によるかまいちが、ギラの全身を切り裂いていく。


「こ、これは!?」


風による真空波、雷鳴の攻撃…すべてが、空の騎士団長である自分が得意とする攻撃だった。


「許さん!」


ギラは竜巻の中、全身を切り刻まれながらも、右手を突き上げた。


「雷鳴と風は!我のものだ!!」


ギラの右手が、信じられないほどに輝き、スパークした。


「ギラ!ブレイク!」


次の瞬間、ギラの雷撃が、周囲の空間をすべて消滅させようとした。


「せ、先輩!?」


今まで気を失っていたジャスティンは立ち上がると、ギラに絡み付く竜巻が、足下だけかまいちが発生していないことに気付いた。


そのことを目がとらえ、脳が状況を判断する前に、ジャスティンはスライディングするように、ギラの足下に向けて飛び込んだ。


ダメージを与えることが、目的ではなかった。


ギラのバランスを崩すことが、目的だった。


ジャスティンの足がギラのバランスを崩すのと、ギラが凄まじい雷撃を放つのは同時だった。


前のめりにこけたギラの右手が、顔から落ちることを防ぐ為、反射的に地面に手をつけた。


それにより、周囲に拡散されるはずだった雷撃のすべてが、地面に放たれることになった。


ギラが手をつけたところを中心にして、地面に亀裂が入り…数秒後、崩れた。


「え!」


グレイは突然、足下に落ちる感覚を覚えて…絶句した。


ギラブレイクは、地盤を破壊したのだ。


すり鉢状に窪んだ地面が、一気に下に落ちていった。


「!?」


それは、攻撃を続けていたティアナは同じだった。いきなり足場を失い、下に落ちた。


攻撃を放ったギラだけが、羽を広げて、崩れ落ちる地面から脱出した。


数秒後、上空で激しく息をしながら、穴が開いたジャングルを見下ろした。



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