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第280話 資格を得る者

「いかがですかな?」


紫の翼と鷹のような顔を持つ…魔神ギナムは、巨大な繭の前で、自慢気に胸を張った。


「フン」


視察に来ていたサラは、鼻を鳴らした。


「う〜ん」


その隣で、ギラは首を捻った。


人間と憎しみを培養して造られている女神は、資格者の選定を終えていた。


周りにある繭から管が通され、ギナムの後ろにある繭にすべての液体が流れ込んでいた。 その為、周囲の繭は段々と小さくなっている。


「あと数日で、新しい女神が誕生します!我ら空の騎士団を率いる空の女神が!」


少し興奮気味に言うギナムとは対象的に、2人の騎士団長は冷めていた。


繭のある部屋を出ると、腸の中を歩いているような通路を並んで歩いた。


巨大な蜂の巣のような外観を持つ…魔王軍の砦。


内部も複雑になっており、蜂に似た魔物が歩き回っていた。


「…どうも好かんな」


ギラは、蜂に似た魔物を見ながら、顔をしかめた。


「こいつらもそうだが…。人間の姿をした女神というのは…」


ギラの言葉に、無表情のままでサラがこたえた。


「我々も人に似てるだろうが…」


少し殺気のこもったサラの口調に、ギラは慌て、


「な、何を言うか!我々には、人間にはない!素晴らしい角があるではないか!」


「フン」


サラは、歩きスペースを速めた。


「サ、サラ!」


ギラもスピードを上げた。


「下らんな」


サラは虚空を睨み、


「人間が、我々に似てるのではない。人間は、神に似せてつくられた…いわば、神の姿をした偽者。そして、我々は…神に創られた。お側で、お伝えする為に…」


「そ、そうだな」


ギラは頷いた。


「人間をどんなにいじったところで、神になれん。あれは、単なる歪んだ生き物だ。神の力だけを与えられたな」


サラはそう言うと、軽く唇を噛み締めた。


「そ、それはわかっているが…王のご命令は、絶対だ。あの女神が目覚めたら、我々は仕えなければならない」


「わかっておる!」


サラの怒気が、通路の壁を震わした。


近くにいた蜂に似た魔物達は、サラの気を感じ、パニックになった。


通路上で怯え、互いにぶつかり合う魔物に、ギラはイライラをぶつけた。


「うっとおしいわ!」


ギラの一喝は、パニックになっていた魔物の動きを止めただけではなく、彼らを正常に戻した。


「蜂どもが」


ギラは、何事もなかったように歩き出した蜂に似た魔物に、気持ち悪さを感じていた。


こいつらも、一応は…空の騎士団の末端を担うことになるからだ。


「騎士団の基準を、もっと厳しくした方がいいのではないか?なあ、サラよ」


ギラは、隣にいるはずのサラに訊いた。


しかし、その時には遥か前方を、サラは歩いており…複雑に入り込んだ通路の為、その姿を確認することはできなかった。


「サ、サラ?」


ギラは慌てて、後を追おうとした時、後ろから駆け寄ってくる魔物がいた。


「ギラ様!」


「うん?」


振り返ると、烏天狗が息を切らしながら、蜂に似た魔物の行列を飛び越えるのが見えた。


「どうした?」


「は!」


烏天狗は、ギラのそばに着地すると、跪いた。


訝しげに見るギラに、烏天狗は頭を下げながら、


「この砦に向かって、接近してくる人間がいます!」


「人間?」


ギラは眉を寄せた後、笑い出した。


「ハハハハハハ!それが、どうした!魔力を使えなくなった人間など、どうとでもできるだろうが!」


砦の周囲は、樹海のようなジャングルが覆い、念の為に、強力な魔物達を放していた。


魔力が使えたとしても、並大抵の戦力では突破はできなかった。


「まったく…愚かな」


ギラは笑いながら、


「何人で来たのだ?一個師団でも連れて来たか!まあ〜それでも、全滅するだろうがな!」


「そ、それが…」


「つまらん話はよせ!まあ〜」


ギラは頭をかき、


「報告はご苦労だった」


一応誉めると、ギラはサラのあとを追おうと、跪いている烏天狗に背を向けた。


「お、お待ち下さい!」


去ろうとするギラに声を荒らげると、烏天狗は事実を口にした。


「人間の数は4人!やつらは、砦までのあと数百キロに迫っています」


「なに〜い!」


笑っていた顔を、ギラは引き締めた。


「4人だと!?」


「は!」


烏天狗は深々と頭を下げ、


「その中の1人は、白い鎧を着た女!恐らく…ポセイドン様を退けた…ブロンドの白い悪魔だと」


そう報告しながら、小刻みに震えていた。


「ブロンドの白い悪魔だと!?」


ギラは、そのネーミングが嫌いだった。


騎士団長ポセイドンを撃破し、非公開だが、不動までもがやられたといわれる…人間の女。


この星のあらゆる生物から畏れられるはずの魔物達は、人間の女の話をするだけで、怯えている。


それだけではなく、その女を悪魔と呼ぶ。


「騎士団の誇りを持たぬか!」


ギラの怒声が、烏天狗を震わせた。電気を帯びた怒りの声は、その場で烏天狗を感電させた。


それだけではない。ギラの周りの空気もスパークして、小さな雷を通路に発生させた。


周囲にいた蜂に似た魔物達は、雷にうたれて黒焦げになった。


「いいだろう!その白い悪魔という人間を!俺が、殺してやろう!」


ギラの額から飛び出た角が、青白く光る。


「恐怖と畏れは、我等にだけあればいいのだ!人間などを畏れるな!」


ギラは、周囲の魔物に向って叫んだ。


しかし、こたえるものはいない。


「我等がもし!畏れるならば!その存在は、一人だけだ!」


ギラは、痺れて口も動かせない烏天狗を見下ろし、


「我等が王にして、絶対なる神!ライ様だけよ!!」


絶叫すると、顔を上げた。


鋭い眼光が、通路の壁を睨むと、爆発した。


蜂の巣に似た楕円形の砦の外壁が、中から吹き飛んだ。できた穴から、巨大な蝙蝠の羽を広げたギラが飛び出して来た。


「すべての魔物達よ!よく聞け!今から、二度と!白い悪魔のことは口にするな!いや、する必要はない!」


ギラは砦の中だけではなく、ジャングルの中にも叫んでいた。


「なぜならば!やつは、今日!死ぬからだ!この空の騎士団長ギラの手によって!」


ギラは拳を突き出した。その拳の間から、雷が発生した。


そして、蝙蝠の羽が羽ばたくと、一瞬で数キロ移動した。


「畏れは!すべて!我等のものよ!」


ギラは、ティアナ達に向って飛んで行く。


数秒後、彼らは激突することになる。



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