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零章 ホワイトナイツ編〜 孤独の刃〜第277話 戯曲

大月学園の屋上で佇むリンネの耳に、鳥の囀りが聞こえてきた。


十字架に磔にされた九鬼の姿をただ…ぼおっと、眺めていたリンネは顔を上げ、小鳥を探そうとした。


(フッ…)


そんな自分に笑ってしまった。


別に、小鳥が気になる訳ではない。


かつて…そのそばにいた女を、探しているのだ。


(御姉様)


笑顔を向けるフレア。


そう言えば…あの頃は、よく笑い…よく話していた。


(いつから…無口になった…)


リンネは、それを覚えていなかった。


それほど昔…思い出せない程の過去…。








「クラークよ」


格納庫に残ったクラークに、新たな命令が下された。


「長老からだ」


白髭の男からの密書を、人々の死体等を処理している白装束の集団の1人から、差し出された。


「速やかに、処理するように」


そう告げると、集団の中に消えていった男を、クラークはもうどこにいるか…見つけることができなかった。


それほど、個性がない。


クラークは密書を受け取ったまま、しばし動かなかった。


「やはり…訳ありのようだね」


そんなクラークのもとに、魔物の死骸から魔力をカードにチャージし終わったランが近寄ってきた。


「…」


クラークは返事もせず、ランを見ることなく、その場から立ち去ろうとした。


「待ちたまえ」


ランは、クラークの背中に声をかけると、持っていたカードを投げつけた。


反射的に振り向き、中指と人差し指で、縦に回転して飛んできたカードを掴んだ。


ランは笑い、


「魔力を補充しておいた。使いたまえ」


それだけ言うと、クラークに背を向けた。


クラークは、カードを見つめ…ぼそりと呟いた。


「ありがとうございます」


その声が聞こえたのか…ランは手を振った。



のちに…初代安定者となるランと、彼が裏切った為に空白になった席に座ったのが、クラークだった。


2人は、互いに干渉することなく、そのまま別の道を歩き出した。





元老院と王宮の消滅…さらに、核の誤爆に、十字軍本部の壊滅は、世界中の人々に衝撃を与えた。


しかし、その悲劇と同時に語られたティアナ・アートウッドと祖父であるゲイル・アートウッドの物語は、世界中に涙を流させた。


一部で話題だったティアナ・アートウッドの名は、全世界に広がった。


しかし、そんな話題に、一喜一憂している場合ではなくなって来ていた。


もうすぐ…魔力が使えなくなったことに、野にいる魔物達が気付き始める。そして、一斉に、人間に対する殺戮が、全世界で始まるのだ。


その前夜祭ともいうべき時期に、十字軍本部と爆心地付近の人々の不安を和らげる為に、慰安団ともいうべき楽団が各地に姿を見せていた。


その中には、ティアナ・アートウッドの妹であるジュリアン・アートウッドも参加していた。大陸一の歌声を持つと言われたジュリアンは、人々と癒す為だけではなく、祖父の墓参りも兼ねていた。


美しき歌姫と、勇者である姉の対談を人々は期待していた。


しかし、ティアナにはその期待にこたえる暇なんてなかったのだ。


忍び寄る恐怖を、誰よりも実感していたからだ


カードシステムはアメリカの協力もあり、急ピッチで開発が進められていたが、数ヶ月で準備できるものでもなかった。


ティアナはできるだけ多くのデータを取る為に、各地の魔物退治に奮闘した。


最初は、1人だったが…士官学校のすべてのカリキュラムを、1ヶ月もかからずに終わらせたジャスティンとクラークが途中で合流し、3人で世界を旅することになった。


その旅の途中で、世界は暗黒の時期に突入した。


カードを持ち、戦う3人は…いつしか、ホワイトナイツと呼ばれるようになった。


カードシステムのデータ収集を続ける日々の中…クラークのもとに、新たなる密書が届いた。


しかし、それは秘密裏ではなく…ティアナに向けてのものでもあった。


内容は、こうだ。



新たなる女神が、もうすぐ誕生する。


それを阻止すべく、女神がつくられている魔神のアジトを襲撃、壊滅しろと。


その女神が、目覚めたならば…魔王の戦力は数段アップする。


目覚める前に、殺せと命じるものだった。


「新たな…女神?」


密書を覗いていたジャスティンは、首を捻った。


日が暮れてきた為、ジャングルの中で、野宿することを決めたティアナ達に、式神からの伝言が飛んできたのだ。


魔力不足からか、式神は密書を届けると、自然発火して燃え尽きた。


「女神が…つくられている?」


ティアナは、密書を手に取りながら、その意味に悩み込んだ。


そんな時…近くの草木をかき分けながら、1人の男が姿を見せた。


激しく息をして、全身につたなどを巻き付けながら、現れた男は、燃えつけた式神を見て、


「やはり…空を飛べるだけ速いか」


額に流れた汗を、腕で拭った。


「誰だ!」


ティアナ達を庇うように、前に出たジャスティンを見て、男は驚いたように目を丸くし、


「おいおい!折角、こんなところまで届けられた文を、最後まで読んでないのかよ」


頭をかいた。


「あ、あなたは…」


ティアナは密書に最後まで目を通す前に、男のことを思い出した。


「し、知り合い!?」


2人の間に立つジャスティンは、顔を交互に見た後、慌ててティアナの手にある密書に、最後まで目を通した。


「何々…その場所に辿り着くまで、複雑である為…案内人を…同行させる!?」


ジャスティンは驚きの為、声を荒げた。


「まあ〜そういう訳だ」


男は最後に思い切り頭をかいた後、右手をジャスティンに差し出した。


「グレン・アンダーソンだ。普段は、傭兵をしているが…今回は、依頼を受けて…君達を案内することになった」


笑顔のグレンに、まだ気を許した訳ではないが…仕方なくジャスティンは右手を突きだし、握手した。


その様子を、寝床の準備をしていたクラークは、ちらりとも見ない。


「グレン・アンダーソン…」


ティアナは、入口の町であったときよりも、雰囲気が明るいグレンを見つめた。


その明るさが、無理矢理であったことを知るのは…まだ先の話である。


ティアナ達の次の目的地は決まった。


月明かりさえも、少ししか届かないジャングルの中で、一時の休息を取った後、旅立つことにした。


女神を葬る為に。



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