表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
284/563

第276話 次事

ゲイルの遺体の前に立ち尽くすティアナに、声をかけれずにいるジャスティン達。


「仕方ありませんね」


管制室に入り、核ミサイルの到達予定地点を導きだしたランは、口笛を吹いた。


「ふう〜。撃たれていたら、人間は住む土地を失いましたよ」


キーボードを叩きながら、ランはその事実よりも驚いたことがあった。


(誰が…プログラムを書きかえた?)


まだ知識に乏しい十字軍の科学者には、できない芸当だった。


(魔物の中に…科学に詳しいやつがいるのか?)


と思うと、ランは戦慄した。


そして、次の瞬間、躊躇うことなく…プログラムを破壊した。


(これで…撃てないだろ)


キーボードから手を離すと、割れた窓から格納庫に聳え立つ核ミサイル達を見つめ、


(あとは、これの始末か…)


顎に手を当てて思案していると突然、管制室の扉が開いた。


「失礼しますよ」


この言葉は、同時に…格納庫内でもこだました。


「?」


ジャスティンの背中を見つめていたクラークが、振り返った。


白装束に身を包んだ集団が、ぞくぞくと入ってきたのだ。 そして、クラークのそばで止まった。


その集団の先頭に立つ五人は、白いフードを目深に被っていた。


その集団を見た瞬間、クラークは目を見開き、後ろへと下がった。


「ティアナ・アートウッド殿は、どちらにいらっしゃるかな?」


白い髭を蓄えた男が、集団の中から一歩前に出た。


フードが邪魔して、鼻から上の表情は、わからない。


ジャスティンは、道を開けることなく…その不気味な集団から、ティアナを守るように間に立った。


「あたしですが…」


そんなジャスティンの肩を後ろから、ポンと叩くと、ティアナは前に出た。


「何か…御用で?」


ティアナは、白髭の男に微笑みかけながらも、目は鋭く後ろの集団を観察していた。


落ち着いた佇まいは、彼らがただ者ではないことを物語っていた。


それに、目の前に立つ白髭の男の雰囲気が、どこか…ゲイルに似ているように感じた。


(何者だ?)


探る目が、集団の横で控えるクラークの姿を映した。


(!)


ティアナは、ずっと頭を下げているクラークの様子で悟った。


(こいつらは…)


顔を動かさずに、眼球も前を向いているというのに…ティアナが意識を向けている方に気付いたのか…白髭の男は、核心を口にした。


「我々は、元老院から発生した…新たなる組織をつくる者」


「新たなる組織?」


ティアナは微笑みをやめた。 訝しげに、白髭の男を見つめた。


「そうです。この短期間で…元老院と王宮の消滅し、さらに十字軍本部もほぼ壊滅状態になりました」


「え!」


ジャスティンは、驚きの声を上げた。


格納庫内で戦っていた為、外の様子は知らなかった。


「それで…援軍が来なかったのか…」


ジャスティンは、顎に手を当てて頷いた。


「…誰が、本部内を?」


ちらりとジャスティンを見た後、ティアナは白髭の男に訊いた。


「闇です」


白髭の男は一言、そう言った。


「闇…」


ティアナの脳裏に、ゲイルの体から染みだした黒い霧の様子が浮かんだ。


「だが…心配はいりません。闇は、晴れました。もう脅威は去ったのです」


白髭の男は大きく頷くと、ティアナを見つめ、


「しかし、一番の問題が残されています」


ここまで来た要件を口にしだした。


「人間は、魔法を使えなくなりました」






「これは、これは…」


管制室に入ってきた3人の男を見て、ランは軽く会釈した。


黒サングラスに、黒の上下の背広を着た3人の男の内、真ん中にいた男が口を開いた。


「お久しぶりですね。マックフィールド博士」


「…」


恭しく頭を下げる男に、ランは目を細めた。


「若くして、博士号をとったあなたの功績は、我が国にまで伝わっておりますよ」


男はサングラスを外し、青い瞳をランに向けた。


「アメリカが…なぜ、ここにいる?」


ランは、男を軽く睨んだ。


「人類の一大事ゆえに…」


また頭を下げた男を見て、ランは歯ぎしりをした。


「タイミングが良すぎる!」


吐き捨てるように言うと、男を睨み付けながら訊いた。


「どこから、情報を得たんです?」


「どこから!?」


頭を上げた男は、驚いたような演技をし、


「ま、まさか〜!あなた方は、秘密裏に進めていたと思っておられたのかな?」


悪戯っぽくランに目を向け、


「それは、無理でしょ」


肩をすくめて見せた。


「確かに!ティアナ・アートウッド1人の時は、知りませんでしたよ。だけど、計画が大きくなり…壮大なプロジェクトと化した時…あなた方は、ある問題にぶつかった!」


にやりと笑い、


「資金源という問題に!」


「!」


ランは目を見開いた後、舌打ちした。


その様子に、男は頷き、


「ですから〜あなた方は、資金協力を呼び掛けた。まずは、メキドの有力者であるアレキサンダー家に!そして、日本地区の時祭財団に!」


「…」


ランは、両腕を組んだ。もう睨むこともしない。時祭の名がでた瞬間、すべてばれていることがわかったからだ。


「どちらも、我々と懇意にしておりますので…」


男は、ランに微笑みかけた。


(アメリカか…)


ランは男を、ただ…見つめた。


魔界と陸続きであるユーライア大陸を捨て、新たに人類だけが支配者となることを目的とした…まだ歴史の浅い国。


ノアの国と言われる程…あらゆる人種が、移民したが…その実は、ブルーアイズのみを優れた人間ととらえ、一部の特権階級が支配する…偽りの自由の国。


十字軍とは別の、強力な軍団を有する大国である。


しかし、魔王によるマジックショックにいち早く襲われた国でもあった。


世界に誇る軍隊は、祖国では機能しなくなってしまった。


その為、何としても魔力を使えるようにするか…もしくは、魔力に変わる新たな力を得ることに躍起になっていた。


男は、ランの肩越しに核ミサイルを見つめ、


「科学の力も素晴らしい。しかし…今ある兵器を、破棄することも忍びない。そんな時に、我々は君達の研究を知った」


男は視線を、ランに向け、


「どうだろう?我が国にも、協力させてくれないだろうか?」


「目的は、何です?」


ランの質問に、


「世界平和ですよ」


男は当たり前のように、答えた。


ランは鼻で笑い、


「流石は…建前の国」


肩をすくめた。


そんなランに、男は初めて殺気を向けた。


「祖国を馬鹿にしないでくれたまえ」


言葉は、丁寧だが…怒りがこもっていた。


「…」


ランは無言になると、男に冷たい視線を向けた。


「まあ〜いいでしょう」


男は仕切り直しとばかりに、愛想笑いをつくると、


「我が国は、今回の出来事を重く見ています。人類存亡の為にも、あなた方の研究は不可欠です。その為、惜しみ無く…すべての事柄に協力することを伝えに来たのです」


「…それで、どうする気です?すべてを独占するつもりですか?」


ランの言葉に、驚いたようにポカンと口を開けると、数秒…間を開け、


「そ、そんなつもりはありませんよ」


両手を振った。


「我々は、すべての人類の為に…」


「わかりました」


ランは腹をくくった。ここまで来たら、利用するか…されるかしかない。


「ティアナ・アートウッドには、私から話しましょう」


男はわざとらしく、ぱっと笑顔をつくると、


「ありがとうございます!」


深々と頭を下げた。


「仕方ない…」


呟くように言うと、頭をかき…ランは管制室の割れた窓から、格納庫にいるティアナを見た。彼女の前にも謎の集団がいた。


「あと…目の前にある核兵器ですが、彼らから要望がありまして…すべて、我々が保管することになりました」


「何!?」


クラークは驚き、男の方に顔を向けた。


「彼らとは…」


男はいやらしい笑みを浮かべ、こたえた。


「ここの新しい支配者ですよ」





ティアナは、白髭の男の要望に頷いた。


「カードシステムはいずれ、すべての人々に配るつもりでしたから」


「それを聞いて、安心しました」


白髭の男は、安堵の表情を浮かべた。


「しかし、まだ完全ではありません。ですから…」


ティアナは後ろを振り返り、


「祖父を弔った後、すぐに旅に出ます」


ゲイルの遺体を見つめた後、ゆっくりと顔を前に向け、白髭の男に頭を下げた。


「失礼します」


そして、白髭の男に背を向けると、ゲイルの方に歩き出した。


「待ちたまえ」


白髭の男は、ティアナを呼び止めた。


「今回は…惜しい人を亡くしました。ゲイル殿が、生きておれば…我等の代表になられたであろうに…。魔物の襲撃に、巻き込まれるとは…誠に残念です」


「え」


白髭の男の言葉に、ティアナは足を止めた。


「しかし!お孫さんであられる勇者ティアナ・アートウッドによって、魔物は倒された。十字軍本部は壊滅しましたが、その美談に…人々は酔いしれるでしょう」


「ば、馬鹿な!?」


絶句するティアナに、


「それが、公式記録です」


白髭の男は、微笑みかけた。


ティアナは再び、体を白髭の男の方に向けると、


「あなた方の目的は、何です?」


男を見据えた。


「簡単なことですよ。あなたを、新しい組織のトップに迎えたい!」


「新しい組織?」


「今、人類は未曾有の危機に瀕しています。すがる神をなくし、神と人々の剣である十字軍も失いました。だが、人類は生きなければならない!故に、我々は丸腰になった人類を守る盾にならなければいけない!」


白髭の男は両手を広げ、


「その為の新たな組織!それが、防衛軍なのです!そして、今まで民衆の盾となり、戦って来たあなたこそが!防衛軍のトップに相応しい!」


興奮気味に答えた。


そんな男の様子に、ティアナはすぐに背を向けた。


「お断りします」


きっぱりと断った。


「いいのですよ!今のその返事で」


白髭の男はわかっていたように頷くと、そのまま頭を下げた。す


「ですが…ゲイル殿の遺体は名誉の戦死として、他の者をご一緒に葬ります故…」


「…」


ティアナは、ゲイルの遺体に目をやった。


人知れず自分が弔うよりは、その方が…祖父も喜ぶかもしれない。


「わかりました。よろしくお願いします」


ティアナは振り向くと…数秒頭を下げた。それから、ゆっくりと顔を上げると、男と見据えた。


「しかし、あたしの話はお断りします」


そう告げると、少し早歩きで、白装束の集団の横を通り過ぎていった。


「せ、先輩!」


今までどうしていいかわからず、立ち尽くしていたジャスティンは慌てて、ティアナのあとを追った。


「フン」


部外者である轟は、戦いが終わってから格納庫の端で大人しくしていたが、ティアナ達がいなくなると…彼も外に出た。


「防衛軍か…」


別に名前が変わろうが、人の為に戦うだけだった。政治的配慮など、どうでもよかった。


部外者が格納庫からいなくなると、白髭の男に白装束の集団からフードを被った一人の女が、前に出た。


「何故…彼女を取り込もうとするのですか?」


女の質問に、白髭の男はフッと笑った次の瞬間、苦しみだし、片足を床につけた。


「長老!」


駆け寄ろうとした女を片手で制した白髭の男が、着る衣装の胸から肩の辺りにかけて、赤い線が染み出した。


「あの女は、監視しなけばならない!」


(あの女は、危険だ)


白髭の男は、唇を噛み締めた。


(やつは…斬れぬはずの我の体を斬った。あの力…)


白髭の男は唾を飲み込み、


(いずれ…王の喉元に届くかもしれん)


冷や汗を流した。


白髭の男の脳裏に…炎の中、ライの首元に剣を射し込むティアナの姿が映る。


(そんなことはさせん!あの女は!いつか!我が殺す!)


「長老…」


心配気に自分を見る女の前で、白髭の男はしっかりと立ち上がると、


「行くぞ!」


入口の方へ歩き出した。


「他の者は、遺体を回収しろ!」


フードを被った者以外に命じた。


そして、先頭を歩き出した白髭の男の口から、黒い霧が少し出たことに…気付く者はいなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ