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第265話 難解

「どう思う?」


初期のスーパーコンピューターに似た巨大な電子計算機の前にいた男が、振り返った。彫りの浅い典型的な東洋顔に特長をつける為にかけた…伊達眼鏡だけが目立っていた。


「このプランは?」


魔王によって、魔法を使うことを制限されていった人々は、皮肉にも…禁断の力と云われた科学に手を出すこととなった。


ある程度の土壌があったとはいえ、核の開発までこぎつけた早さは異常であった。


しかしも、あのアインシュタインさえも撃つまでは後悔しなかった…核というものの恐怖を、この世界の人間は知らない。


「都合がいい力だと思うよ。人間にとってね」


伊達眼鏡の男の後ろで、コーヒー片手にくつろいでいた男は、電子計算機の横にあるモニターを睨んでいた。


「魔法は、使う人間に対価を求め、危険を伴っていた。その危険は、己に降り掛かった。なのに、科学ってやつは、自然も傷付けている。人間に都合良くね。しかし…人は自然の中にいる。自然を壊せば…人もいずれ壊れるよ」


そこまで言ってから、コーヒーを一口啜った。まるで、女のような綺麗な顔が、熱さで少し歪んだ。


「そういうことをきいてるんじゃないよ。ラン…。それに、自然ってやつは、人間に左右される程小さな存在とは思えないけど」


今度は、伊達眼鏡の男の言葉に顔をしかめ、


「そんな人間の考えが、悲劇を生むんだ。考えてもみろ。人間が風邪をひくのだって、目に見えない細菌のせいだぞ」


「ラン!お前の言い方だったら、人間が自然を汚すバイ菌のようじゃないか!」


少し声を荒げた伊達眼鏡の男に、肩をすくめて見せ、


「それは、そうだろ?風邪を拗らせたら、死ぬ時だってあるぜ」


マグカップに入ったコーヒーを一気に飲み干すと、


「少なくとも…科学に手をつけた時点で、人間は世界を汚すよ。それは…この世界で科学が発展しなかった理由の一つだ。魔王は、人間に科学を発展させなかった」


モニターに映る核ミサイルを睨み付けた。


「ラン…」


「それなのに…。魔王は、今になって科学を使わそうとしている…。なぜだ?」


じっと核ミサイルを凝視した。


「それは…」


伊達眼鏡の男は眼鏡を外すと、ため息をつき、


「魔王が、魔法を使えなくしていってるからだろ?」


「人間に自然を汚せと言うか?」


「おい!ラン!別に、核という力を持つことは、いいだろ?魔王に対抗するにはさ。そうでなくても、我々は女神という天災に、いつ襲われるかわからない恐怖に、怯えているんだから」


「女神は天災だ。だが、自然のルール上にある」


「え!」


伊達眼鏡をかけていた男は、素っ頓狂な声を上げ、


「突然、津波を起こしたり、地震を誘発するような存在が、自然だというのかよ!」


「ああ…」


マグカップを一番近くのテーブルの隙間に置くと、


「少なくとも…威力は違うが…自然が起こす災害と変わらない。しかし!今から人間が使おうとしている力は!自然界にはない!核融合が起きているのは!」


床を指差し、


「この星のコアだけだ」




「やれやれ…」


外した伊達眼鏡をもう一度かけると、


「お前の言い方だったら…人間は害虫だな」


深々と椅子に座り直した。


「その通りだ。だけど…自分もその害虫の一匹だと認識はしているよ」


「自虐的なのか…何なのか…。天才の言うことはわからないよ」


「フッ」


伊達眼鏡の男の言葉に笑うと、


「本当の天才は、数年前に…自然の中に消えたよ」


身に纏っている白衣から、黒いカードを取り出した。


「ティアナ・アートウッド…。彼女こそが、天才だよ」


「ラン…」


「俺のように…こんな箱の中でしか、偉そうにできない人間とは違う」


今度こそ…自虐的に笑った男の名は、ラン・マックフィールド。のちに安定者になり、さらに実世界の戦国時代で死ぬことになる人物である。


ランは、ブラックカードを見つめた。


「カードシステムか…」


伊達眼鏡の男は、ランが持つカードを見つめた。


「ああ…」


ランはカードを握り締めると、


「もう止まることがないならば…向かう先を変えるだけだ。せめて、自然を傷付けないようにな」


「本当に…やるつもりか?」


またため息をつくと、伊達眼鏡をかけた男はランを見た。


「ああ…。もうプロジェクトは水面下で動いている。ティアナ・アートウッドという天才であり…勇者、そして救世主である彼女に嘱された者達でな。彼女は、魔王のやろうとしていることの先を読んでいた。カードシステムは、科学を縛りつける。さらに、人間に努力を強いる…夢のシステムだ。これで、万人が平等になる」


ランは、自らを確かめるように、力強く頷いた。


当初、カードシステムは倒した魔物から、魔力を奪い…平等に人々に分けられるはずだった。


それが、間近に迫ったマジックショック後の人々の生活を保証するものだった。


しかし、人間に平等はあり得ない。


カードシステムがまさしく…クレジットカードのようなものになった時、平等になるはずがなかった。


ポイントとして加算される魔力が、生活用品の動力に使われる燃料の変わりもするようになった時、貧富の差は生まれた。


確かに、直接魔物を倒せば…自分個人のポイントを得ることもできた。


しかし、今度は…力の差という新たな格差を生んだ。


誰が、苦労して得たポイントを他人に配るか。



しかし、開発段階の時は、魔力が使えなくなるという人々の不安を最小限に抑える為につくられた為、貧富の差ができることなど考慮されなかった。


すべてが急務だったのだ。


まずは、すべての人を救う。


ティアナの考えは、それだった。


その後に、人間同士で繰り広げられるポイントの奪い合いが起こるとしても、世界が安定してからしかない。


ティアナ・アートウッドは、人の善意を信じる人間だった。


そして、人の弱さも知っていた。


だからこそ、人の為に生きようとしていた。


その後に、自らの身に悲劇が訪れようと…自分の信じる心は変わらない。


だからこそ、戦い続けていけたのだ。


他が為に…。


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