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第263話 資格

「それにしましても…」


不動はちらっと凍りついたリンネを見て、肩をすくめた。


「まだ目覚めていないとはいえ…騎士団長クラスを凍らせるとは…なかなかどうして」


「フン!」


ティアナは、ライトニングソードを不動に向けて、突きだした。


「ティアナ先輩!」


ジャスティンの声にも、ティアナは不動から視線を外さずに、隣に立つクラークに向かって、声をかけた。


「少年!ジャスティンを連れて、少し離れていて!」


「あっ!はい」


戦いの緊張感にのまれていたクラークは、慌てて頷くと、ジャスティンに肩を貸した。


「お、重い…」


下半身が石化している為、結構重くなっていた。


「ご、ごめん…」


クラークに謝った後、ジャスティンは引きずられながら、ティアナに向かって叫んだ。


「先輩!頑張って!」


「それは、無理でしょう」


ティアナではなく、不動が笑いながら返事した。


「まあ〜。頑張るくらいはできますかね」


嫌味を言った。


「は!」


その隙に、ティアナは間合いを詰め、下から袈裟斬りの形でライトニングソードを振り上げた。


「無駄ですよ」


不動の体は簡単に斬れ、凍りついた。


しかし、すぐに氷は融けた。


体も元に戻っていた。


「炎は斬れない!凍りません」


不動は、ティアナが斬った部分を指で拭った。


「所謂、不死身ですよ」


「フン!」


ティアナは一旦間合いをとると、ライトニングソードを一振りした。


冷気から、通常の電気を刀身に帯びると、ティアナはライトニングソードを突きの体勢に持っていく。


「唸れ!」


そのまま砂を蹴り、一気に突進した。


「無駄ですよ」


ライトニングソードは不動の体を貫き、さらに電流が不動産の全身を血管のように這いずり回った。


次の瞬間、炎でできた不動の体が四散した。


「無駄ですって」


しかし、散り散り弾けた炎が、無数の不動の姿をつくり、ティアナの周りを囲んだ。


「なんてやつだ!」


少し離れた場所までジャスティンを引きずって移動したクラークは、不動の能力に唖然としていた。


「ここのままでは、やられるぞ!」


無数の不動に囲まれるティアナを見て、炎天下でも冷や汗が流れていた。


「その簡単には、やられないよ。先輩はな」


砂場に、石化した足をめり込みながら、ジャスティンは目を細め、


「やはり…魔力が少ない」


「え」


クラークは、ジャスティンの方を見た。


「分身したからといって、同じ自分ができるとは限らない。やつの魔力が分散している」


「魔力が?」


目だけで、相手のパワーの変化を見抜くジャスティンに、クラークは驚いた。


「先輩も気付いて……いや、最初からそれが目的か」


ジャスティンは、両拳をぎゅっと握り締めた。




「四方八方から、かわいがってあげましょうか?」


分身した不動達が、一斉にティアナに襲いかかろうとした。


「な!何!?」


不動達が同時に叫んだ。


「い、いつのまに!?」


不動達の足下が凍っていたのだ。


「し、しかし!すぐに、融かして……!?」


不動達が体温を上げて、氷を融かそうとした時、ティアナは不動達の間を走り出していた。彼らには、目もくれずに。



「そうか!まずは、確実に倒す為にか!」


クラークが感嘆の声を上げた。



ティアナは真っ直ぐに、氷付けになっているリンネに向かった。


今の状態で、彼女に剣を突き刺し、雷撃で爆破すれば…倒せるはずだ。


「さ、さ、させるか!」


不動達は氷を融かすと、ティアナに向かって走り出した。



「遅い」


ジャスティンは呟いた。


不動がティアナを掴むよりも速く、ライトニングソードは突き刺さるはずだった。


突然、横合いから飛び込んできた影に邪魔され、ティアナは吹っ飛んだ。


何かが向かって来たことはわかっていたが、リンネを倒すことを優先した。それなのに、あと数センチ届かなかった。


「チッ!」


ティアナは舌打ちした。


飛び込んできたのも、全裸の女だった。


咄嗟に、女の膝蹴りを肘当てで防いでいた。しかし、ティアナは肘当てに違和感を感じ、慌てて体から外した。


地面についたその瞬間、肘当ては沸騰し、強化セラミックでできた表面に泡ができた。


「!?」


ティアナは絶句した。


生身の部分で受けていたら、大変なことになっていた。


(これが、魔神との戦い)


想像もつかない能力を持っている。少しでも気を抜いたら、即…死に繋がる。



「お、お前は!?」


驚いているのは、ティアナだけではなかった。


分散した体を一つに戻した不動も、驚いていた。


突然現れた全裸の女もまた…炎でできていた。


しかし、明らかに…不動やリンネよりは火力が少なく思えた。なぜならば、彼女の体は人間の女のような皮膚感を持っていた。その体を守るように、炎が包んでいるように見えた。


背中にある鰈のような羽がなければ、ほとんど人間と変わらなかった。


女が手のひらをリンネを包んでいる氷に当てると、一瞬で融けてしまった。


氷付けから解放されたリンネは、目の前に立つ女に少し驚いた後、素直に礼を述べた。


「ありがとう…。フレア」


「御姉様…」


瞳を潤ませるフレア。


「馬鹿な!妹の力で、目覚めただと!?そ、それに!」


不動は、フレアを見て、


「あ、あやつには、心がなかったはず!?」


驚きよりも戸惑っていた。


そんな不動よりも、動揺している人物がいた。


それは、ティアナだ。


敵が、1人増えただけではなく…もう1人の騎士団長であるリンネも目覚めてしまった。


これで、ほぼ勝ち目はなくなってしまった。


と、誰もが…そう思うだろう。


しかし、ティアナは違った。


ライトニングソードを握り締めながら、リンネ達を観察していた。


「先輩!」


ジャスティンが叫んだ。


「クソ!」


無駄だと思うが、手を貸そうとクラークが一歩前に出た瞬間、ティアナが低い声で叫んだ。クラーク達を見ずに。


「邪魔しないで!」


「え…」


2人は、ティアナの言葉に絶句した。


クラークの足も止まった。


「先輩…」


ジャスティンは、ティアナの後ろ姿を見つめた。


吹っ飛ばされた場所で、ライトニングソードを握り締めながら、ティアナは二つの疑問を処理していた。


まずは、どうして…炎が生きているのかだ。


それは、炎の魔神だから…と一言で終わりそうだが、フレアの体を見てから、ティアナは疑問を覚えていた。


今まで会った炎の魔神達は、炎を纏ってはいたが…炎そのものではなかった。


(もしかしたら…)


ティアナは、リンネの体を凝視した。


あともう1つの疑問は…なぜ炎が斬れないかであった。


炎や風、水などが斬れないのは、当たり前だ。


だが、その当たり前に、ティアナは首を傾げた。


ライトニングソードをぎゅっと握り締め、


(奇跡の剣よ!あたしに、力を!)


ティアナは走り出した。


ライトニングソードを振り上げて。


「ば、馬鹿目!」


ティアナの動きに気付き、不動が進路に飛び込んできた。


「同士が目覚めたからには…お前達と遊んでいる暇はなくなった。私の手で、殺してやろう」


不動の体が燃え上がると、両手が伸びた。


左右から掴もうとする腕を、ティアナは一瞬で切り裂いた。


「無駄だということが、わからないんですか」


せせら笑った不動の顔が、一瞬で変わった。


「な、何?」


腕が斬れたのだ。まるでスライドするように、砂の上に落ちた。


「そこだ!」


ティアナは不動の体の一部に、違和感を見つけた。どうして見つけたのかは、わからい。だが、迷わずにその部分を切り裂いた。


炎の体に、亀裂が走る。


「こ、これは…」


人型を保っていた不動の体が、突然暴走し…制御できなくなくなった炎が暴走し、巨大な火柱が上がった。


「はあ!」


ティアナは止まらない。


不動を追い越すと、フレアとリンネに向かった。


「御姉様」

「フレア」


姉妹は、ティアナの姿を認め、攻撃体勢に入った。


「モード・チェンジ!」


ティアナが叫んだ瞬間、その姿が消えた。


勝負は一瞬だった。


音速を超えたティアナの動きに、目覚めたばかりで戦いの経験のない2人は反応することができなかった。


瞬きの時間で、フレアとリンネの間を通り過ぎたティアナ。


「クッ」


ティアナは後ろで、片膝をついた。


「先輩!」


ジャスティンが絶叫した。


次の瞬間、リンネの体が不動のように暴走し、火柱と化した。


フレアの体には傷が走り、鮮血が噴き上がった。



「あの女…我らの核の場所を」


もう形を保てない不動は、ティアナを見た。炎でつくった目ではない。


炎の体の中を、常に移動している…不動そのものといってもいい核から見ていた。


不動とリンネは、その核で炎を操っているのだ。


その為、魂ともいうべき核を破壊されれば…2人は死ぬ。


但し…豆粒程の核はダイヤモンドよりも硬く、さらにマグマのような炎に守られている為に、通常の剣では斬れないし、そもそも見つけることは不可能に近かった。


その核に、ティアナは傷をつけたのだ。


(それだけではない!)


不動はティアナを見つめ、


(あの女は、炎を斬った。いや、炎というよりは…存在する空間そのものを)


そんなことができる人間が、いるはずがなった。


(殆どは、あの剣のおかげだろうが…。そのことを認識できる…頭が凄い)


不動は、初めて人間に畏れを感じた。


(ついさっきまで…斬れなかったものを…戦いの中、短期間で成長した)


ティアナという人間の可能性に、深く恐怖した。


(早目に、殺さなければならない。この女は、危険だ!)


しかし、今の不動に戦いを続けることは不可能だった。


「妹よ!お前の体を借りるぞ」


不動とリンネの体から、小さな核が炎を纏いながら、火の魂のように飛び出した。


「クソ!」


ティアナはそれを斬ろうとしたが、モード・チェンジの過度の使用の疲れで、動くことができなかった。


「近いうちにまた会おう!白い剣士よ」


フレアの体が燃え上がると、血を流しながら、鰈の羽を広げた。


リンネの核を斬ることに集中し過ぎた為、妹のフレアに致命傷を与えることができなかったのだ。


ティアナは動けぬ体で、上空に飛び上がったフレアを見上げた。


「に、逃がさん!」


フレアの体なら斬れると確証したクラークが、走り出した。


上空から落ちる影を斬ろうとしたが、まだ立ち上っている火柱が邪魔して、斬ることができなかった。



「勝ったとはいえないわね…。何とか退けたわ」


ティアナは立ち上がろうとしたが、足下がふらついて砂に頭から倒れそうになった。


「先輩!」


慌てて駆け寄ったジャスティンが、ティアナを受け止めた。


どうやら、リンネの核を傷付けたことで、石化の呪いが解けたようだった。


「ありがとう…。ゲイ」


ティアナは、ジャスティンに礼を言った。


「先輩!何度か言ってますけど、そっちで呼ぶの止めてもらえますか?」


ちょっと怒っているジャスティンに、ティアナは苦笑した後、


「自分の名字に、誇りを持て」


少し睨んだ。


それが、冗談だと…ジャスティンにはわからない。


「す、すいません」


素直に謝ってしまった。


それを聞いて、ティアナはまた苦笑した。


そんな2人の様子を、二本の火柱をバックにして見つめながら、クラークは両拳を握り締めていた。


(特異点が、2人…)




この瞬間、のちに伝説となるホワイトナイツの3人が初めて、揃ったことになった。


運命の歯車が、動き出した瞬間でもあった。





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