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第252話 九鬼..死す!?

その日…。


すべての授業が終え…家路につこうとしていたすべての生徒が、目撃した。


天から沈んでいく太陽がつくる…夕闇よりも、赤いものを。


大月学園で一番高いところにある時計台。それよりも上に…彼女はいた。


時計台に突き刺さった十字架に、磔にされた…少女。



彼女の名は、九鬼真弓。


血塗れの体に、血よりも濃い赤で…彼女を殺害した者の名が刻まれていた。



その名は…。







その日の早朝…。


誰よりも早く学校に来た九鬼は、西校舎の屋上から町並みを眺めていた。


昨日あったムジカとの戦いを、思い出していた。


(天空の女神…アルテミア)


スカートのポケットに手を入れると、乙女ケースを取りだし、


(そして、赤星浩也)


ぎゅっと握り締めた。


何とかムジカを消滅させることはできたが、尊い生徒の命を守ることはできなかった。


(あたしは…無力だ)


悔やんで悔やみ切れない。


しかし、いつまでも悔やんでいてはいけない。


強くなること。


それだけが、この世界で死んでいた人間に対する弔いになることを、九鬼は知っていた。


(だから…)


九鬼は目を瞑ると、町並みに背を向けた。


出入口に向かって歩き出そうとした九鬼は、目の前に気配を感じ、目を開けた。


出入口の扉の前に、赤星浩也が立っていた。



「赤星君?」


思わず声を出し、驚く九鬼に、浩也は微笑んだ。


「お早いですね」


「あなたこそ…」


九鬼も微笑んだ。


そのまま…2人は微笑み合うが、会話は続かなかった。


九鬼は、浩也に対して訊きたいことはたくさんあった。


だけど、面と向かっては…言葉に出せない。



少し悩んでいると、浩也の方から口を開いた。


「こんな朝早くに…どうして、屋上に?」


浩也の質問に、九鬼は目を丸くした後、苦笑した。


「それは、お互い様でしょ?」


「そうですね」


2人は互いに、笑い合った。


「アハハハ…」


ひとしきり笑ってから、浩也は九鬼に向って歩き出した。


(え!)


浩也が近づいてくる。ただ…それだけで、九鬼はドキッとした。


顔も赤くなっているかもしれない。


だけど、その変化に九鬼は気付かない。


息苦しさしか感じない。


それが、浩也に対する好意から来てるのか…それとも、浩也の力によるプレッシャーからなのか…。


九鬼には、判断できなかった。


なぜならば…彼女は人を愛したことがないからだ。


だから、九鬼は今の苦しさを…浩也のプレッシャーととらえた。


「赤星君?」


やっと言葉が出た時…浩也は、九鬼のそばを通り過ぎていた。


(え…)


鼓動が止まった。


九鬼は息を飲むと、慌てて振り返った。


(さすがだ)


妙に自分自身を納得させて、浩也の背中に頷いた。


そんな九鬼の心を知るはずもない浩也は、屋上を囲む金網に手をかけた。


「僕は…」


浩也は目を細め、屋上から見える…人が造った建造物を見つめると、


「ただ…守るべきものを、確認しに来てるだけです」


「守るべきもの?」


九鬼は、体を浩也に向けた。


「あなたと同じものですよ」


浩也は振り返ると、微笑んだ。


「多分…ですけど」



浩也の表情に、九鬼は見とれてしまった。


少しぼおっとしてしまう自分に渇を入れるように、九鬼は眉を寄せ、口調を強めた。


「それは…人の世界ですね?」


「はい」


浩也は頷くと、金網から手を離した。 そして、風景に背を向けると、恥ずかしそうに鼻の頭を左手の指でかいた。


「……だけど、まだよくわからないんですよ」


「!」


九鬼の目が、あるものを発見した。


「人を守る意味が…まだ、よくね…」


浩也の言葉も、もう九鬼には聞こえていなかった。


九鬼の意識は、浩也の左手の薬指についた指輪に吸い込まれていた。


「でも、心のどこかで…そうしなければいけないと…何が告げているんですよ」


浩也は、鼻をかくのをやめ、


「心って、不思議ですね。自分のものなのに…全部わからない」


浩也は、言葉を切った。


沈黙が、2人の間に流れた。


その雰囲気に、やっと…九鬼は口を開くことができた。


勿論…浩也から、視線を逸らすことで…。


「そうかもしれないわね」


少し素っ気なく答えてしまった。


だけど、それが精一杯だった。



「浩也!」


出入口の方から、カレンの声がした。


「あっ!」


浩也ははっとして、出入口の方を見た。


「叔母さんが呼んでる」


カレンの前では、叔母さんと言わないようにしているが…いない時は、自然と口に出てしまう。


「浩也!どこだ!」


カレンの声は、階段の下から聞こえてきていた。


「九鬼さん。失礼します」


頭を下げて、出入口に向かおうとしたが、


「待って…」


九鬼の声に足を止めた。


浩也が振り向くと、まだ九鬼は顔を逸らしたままだった。


だけど、言葉は…九鬼に向けられていた。


「一つ…質問していいかな?」


その時、九鬼は思っていた。


(本当に…心は…わからない)


「何ですか?」


浩也は首を傾げた。


(自分の心なのに…)


唇を強く噛み締め、力を振り絞ると、浩也を見た。


そして…。


「ゆ、指輪してるんですね」


と口にすると、慌てて…校則違反ですよって、笑って言おうとした。


だけど…浩也の返事が、続きの言葉を言わせなくした。


「絆です」


「え」


九鬼のすべてが、止まった。


浩也はそのことに、気付かない。


ただ笑って、


「よくわからないんですけど…また心がそう告げているんですよ」


言葉を続けたけど、九鬼の耳には入らなかった。


浩也は頭を下げると、走り出した。


離れていく浩也の背中を見つめ、やっと…九鬼の口が動いた。


「走ることも…校則違反ですよ」






出入り口を潜り、階段を降りながら、浩也はまた首を傾げた。


「そういえば…指輪…いつのまに、つけたんだろ?」


記憶がなかった。




浩也が去った屋上で、一人ため息をついた九鬼は…額を押さえた。


「何をしてるのか…」


自己嫌悪に陥りそうになる。


もう一度、深くため息をついた時……その者は、現れた。


「かの者は…我が姉上のもの」


「え?」


低い女の声が、後ろからした。


慌てて振り返った九鬼は、目を疑った。


「天使?」


屋上の端から端まである白い翼を広げた…天使がいた。


「アルテミア?」


九鬼は一瞬だけ、アルテミアと見間違った。


しかし…明らかにアルテミアではなかった。


ブロンドではなく、茶髪にカールをかけた天使の顔は、明らかに別人だ。


猫のように、丸く大きな瞳が…九鬼を射抜いていた。


息が詰まった。


これこそが、まさにプレッシャーだ。


「装着!」


九鬼は、乙女ケースを突きだした。


「お前は…邪魔だ」


天使は、顎を上げた。



それは、一瞬だった。


もし九鬼の息が詰まらなかったら…つまり、プレッシャーをすぐにはね除けていれば…戦えたかもしれない。


しかし、結果は…乙女ソルジャーに変わることもできなかった。


屋上のコンクリートの地面に落ちた…乙女ケース。


鮮血が、水しぶきのように、屋上に噴き上がった。


しかし、それを見た生徒は誰もいなかった。






「浩也!どこ行ってたんだ!勝手に、うろうろするな!」


カレンにこっぴどく怒られている時に、漂ってきた血の臭いに反応し、浩也は後ろを見たが、


「人の話を聞け!」


カレンに頬っぺたをつねられ、探ることはできなかった。


それに、血の臭いは一瞬だった。


カレンに怒られた後、臭いの記憶を辿って…屋上に来たが、血痕一つ残ってはいなかった。


そして、再び…血の臭いがしたのは、放課後になってからだった。






「どうした?」


魔界に入り、人の肉体だけで魔物と戦う日々を過ごしていたジャスティンのもとに、カレンから連絡が入った。


ブラックカードはサラとの死闘で破壊され、魔力を貯めることはできなくなったが、通信機能だけが残っていた。


真っ二つになっても、話せるブラックカードに、ジャスティンは感心していた。


しかし、魔力の補助はできない為、今カードに残っているのが切れると、通信機能も使えなくなる。


「よく繋がったものだ」


ブラックカードを造ったティアナにも感心していると、通話中のカレンがキレた。


「何言ってるんですか!こっちは、大変なんですよ」


「すまない!」


ジャスティンは話しながら、象に似た魔物の群れと戦っていた。


似ているといっても、大きさは三倍はある。


「で…何があった?」


巨大な角を突き立ててくる魔物達の攻撃を避けながら、ジャスティンは訊いた。


「九鬼がやられたんですよ!」


悲痛な叫びに、魔物の角に飛び乗り、その上を走りながら、ジャスティンは答えた。


「え?」


「えじゃあ、ありません!」


「すまないな」


カレンに怒られて謝りながら、象の眉間に手刀を突き立てた。


「九鬼を倒すなんて…」


「相手は、神レベルか?」


手刀を抜くと、ジャスティンは上空に向けてジャンプした。


と同時に、突っ込んできた魔物達の牙が、ジャスティンのいた部分に突き刺さった。


つまり、仲間の魔物の顔に突き刺さったのだ。


「か、神レベルではありません!神です!相手は!」


「何?」


仲間の魔物に、牙が突き刺さって動けなくなった魔物達に、ジャスティンは上空から膝を叩き込んだ。


「大胆にも、九鬼をやったやつは!名前を、九鬼の体に残したんですよ」


「そいつの名は?」


ジャスティンはブラックカードを耳に当てながら、次々に片手で魔物達に襲いかかる。


「あたしの知らない…女神です!」


「女神?名前は!」


少し苛ついてしまった。


予定よりも、倒すのに…時間がかかっているからだ。


ジャスティンの攻撃は、続いた。


「ソラです。女神ソラ」


カレンが告げた名前に、ジャスティンは絶句した。


「な、何!?」


足元の転がる魔物達の死体から離れると、ジャスティンは片眉を上げた。


「ば、馬鹿な…」


静寂が戻った魔界の草原に、風が吹き抜ける音だけがした。


その音に、ジャスティンは唇を噛み締めた。


「女神…ソラ。風の女神…ソラだと!?」


ジャスティンは、彼女を知っていた。


それは、遥か昔…。


まだ自分は十代だった頃。


ジャスティンは初めて、その名を告げられた。


今は亡き…愛しき人達に…。


カレンからの報告が終わった後、ジャスティンはその懐かしき頃を思い出していた。





天空のエトランゼ零章。


ホワイトナイツ編…幕開け。




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