表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
251/563

第243話 愁月

生徒会の仕事が終わり、正門から教室へと向かっていた九鬼は、校舎の入り口の前に立つ女子高生の姿を認め…足を止めた。


「蘭花…」


授業が、始まるまでに時間がない。


殆どの生徒が、教室で席についている状態の中…蘭花は悠然と腕を組み、九鬼が近づいてくるのを待っていた。


思わず止めてしまった足を、九鬼は蘭花を見つめながら再び動かした。



「おはよう」


平然と朝の挨拶をして、通り過ぎようと九鬼に、


「おはよう」


と蘭花は一応挨拶を返したが、すれ違う寸前まで次の言葉を発しなかった。


九鬼の耳が一番そばに近付いた時、蘭華は前を見つめながら口を開いた。


「闇が…また出たようね」


「!?」


その言葉に驚きながらも、九鬼は1メートル程歩いて…足を止めた。


「そして、また…紛い物の力を使ったようね」


蘭華はゆっくりと体の向きを変え、九鬼の背中を睨んだ。


「言っておくけど…乙女ブラックは、あたし。黒の名を受け継ぐのは、あたし達…黒谷一族なの」


「それは…」


九鬼も振り向き、


「わかっているわ」


黒谷の顔を見た。


その目の強さに、蘭華は唇を噛み締めた。


どんな色であろうと、人々を守る為に戦う。


九鬼の瞳が、そう語っていた。


例え…紛い物であろうとも。



「く!」


蘭華は顔をしかめると、叫んだ。


「あなたにはあったはずよ!特別な力が!」


「そうね…」


蘭花の言葉にはっとした九鬼は、すぐに睫毛をふせた。


「!」


その予想外の悲しげな仕草に、蘭花は思わず息を飲んだ。


「そうだったわ…」


九鬼はそう言った時、授業の始まりを告げるチャイムが、学校中に鳴り響いた。


九鬼は蘭花に頭を下げると、教室に向って歩き出した。


「九鬼!」


蘭花の声にも、もう足を止めることはなかった。





(確かに…あの力は、あたしにあった)


祖父である九鬼才蔵に幼き頃より、闇に閉じ込められ、闇と戦う術を叩き込まれた九鬼。


(闇こそが、あたしの居場所だった日々…。光を知らなかった日々…)


そんな中で、闇を照らす月こそが…九鬼にとっての光であった。


月のようにおなり…。


祖父の言葉がよみがえる。


微かな光。太陽とは違い、見上げ…見つめることのできる優しい光。


そんな光になれと。


だけど、あの力は違った。


一度だけ使ったあの力は、眩し過ぎた。


そして、強力過ぎた。


まだ…人の普通の暮らしを知らなかった九鬼には、早すぎ力だった。


だから、兜は預かることを決めたのだ。


人間として、普通の学校に通い…暮らすことを経験した後に、取りに来いと兜は言った。


この大月学園に。



そして、今…その九鬼は、大月学園にいる。


しかし、肝心の兜が行方不明となっていた。


突然のことである。


彼が持つ乙女シルバーのケースの行方も…わからなくなっていた。


だけど…九鬼が入学して、数ヶ月はたっている。


兜が行方不明になったのは、数日前。


取りにいく気ならば、とっくに行っていたはずだ。


なのに、彼女は行かなかった。


その理由は、簡単だ。


(幼き頃…。闇と戦い、生き残る為とはいえ…あたしは、多くの人を殺して来た。犯罪者や殺人鬼。祖父が金で連れてきた人々を、あたしは殺してきた)


九鬼は拳をぎゅっと握り締め、


(そんなあたしに、光を纏う資格があるのか?)


自らに問いかけた。


能力が劣る量産型の乙女ケースを使うのは、云わば…戒めのようなところもあった。


自分では、気づかなくても。



(しかし…)


九鬼の脳裏に、牛と馬の頭をした魔物の言葉がよみがえる。


(炎の騎士団!)


今までとまったくレベルの化け物。


その者達と戦うには、今の力では敵わないことも…九鬼には、痛いほどわかっていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ