表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
243/563

天空のエトランゼ 外伝〜魔獣因子編〜落日 第235話 異物

あの日。


あたしは、後悔した。


その力を創ったこと…その力を与えたことを。


すべてが、あの人の為だったのに…。




親友の拳に貫かれた…愛しき人。


中島裕。





あの雨の日。


流れた涙が、あたしの心も流してしまった。

「はい…間違いありません」


今や珍しくなりつつある公衆電話の受話器に向かって、松野彩香は話していた。


「やつらです。あたしの兄を殺した…」


兄の名は、西園寺俊弘。


「天空の女神と…赤星浩一です」


淡々とした口調で話していたが、赤星浩一の部分だけは少し憎しみが、こもっていた。


「はい…。了解しました」


彩香は受話器を置くと、そそくさとその場から離れた。



「あっ!あった!」


あまり利用者がいないはずの公衆電話。今日は、利用客が多かった。


「携帯止まってるから〜!不便よね」


彩香が使っていた公衆電話に駆け寄り、ダイヤルをプッシュした。



――プルルルルル…。


呼び出しているようだが、相手が出ない。


かけているのは、携帯電話のようで…もしかしたら、画面に出ている公衆電話の表示に、怪しさを感じて出ないのかもしれない。


「まったく!早く出ろよな。わかるだろ!友達なら、あたしからだと」


毎月、月初めは携帯が止まっていることが多い。そのことは、友達の間では有名だった。


数秒後、電話は繋がった。





「ちょっと!九鬼!さっさと出なさいよ!」


電話の向こうの怒声に、九鬼は眼鏡を外しながら、ため息をついた。


「仕方ないだろう。今、終わったところだから…」


変身が解けた九鬼の後ろに、死体となった化け物が倒れていた。


「え!また出たの!?」


驚く声に、九鬼は歩きながらこたえた。


「そうだ。多すぎる」


路地裏を出ると、まばらだが人通りが多い。


九鬼は目を細め、


「何かの前触れかもしれない」


人通りの向こう…猛スピードで通り過ぎて行く車達を見た。


「何かって何よ!」


「それは…わからない」


九鬼は人の流れに逆らって、歩きだした。


「ところで、何の用?」


九鬼は電話をかけてきた相手に、訊いた。


「あ!あのさ!明後日提出のレポートについて…」


携帯から聞こえる声が、言い難そうに口ごもる。


九鬼はフッと笑うと、


「明日、学校で見せてあげるわ」


「ありがとう!さんきゅ〜う!」


電話の声のトーンが変わった。


先程までの死闘が嘘のような…日常の会話が、九鬼にはおかしかった。


だけど、気を緩める訳にはいかない。


九鬼は人並みから外れ、足を止めると、真剣な表情になった。


「結城」


「何よ」


「気をつけて」


「大丈夫よ!あたしは、あんたと違って、進んで戦いには行きませんから」


「だけど…」


「九鬼の心配症!大丈夫だからね!」


「わかったわ」


九鬼は、これ以上言うのを止めた。


「明日!よろしく!」


最後にそう言うと、電話は切れた。


九鬼はしばらく、切れた電話の音を聞いていた。


そして、ため息とともに、空を見上げた。


街灯の明るさで、星は見えないが…月は見えた。


群青の空が、今日は濃い。


九鬼は、立ち止まることのない人通りの中で、しばし月を見上げていた。







「まったく!心配症なんだから…」


受話器を置くと、結城里奈は頭をかいた。


「ぎりぎりだったじゃあない」


小銭がなくなりかけていた。


携帯代を払えない女子高生に、余裕がある訳がなかった。


「でも、これで…何とか助かる!」


気が楽になった里奈がスキップして、公衆電話から離れると、そばを歩いていた男にぶつかった。


「すいません…」


巨大な壁にでも激突したかのように、跳ね返り…アスファルトの地面に尻餅をついた。


「…」


大丈夫の一言もない相手を、軽く睨みつけたくなった里奈は、顔を上げて絶句した。


3メートルはある巨体が、自分を見下ろしていたからだ。


しかし、その目は里奈ではなく、そのそばに落ちた眼鏡ケースに向けられていた。


「あ!」


巨人の視線から、里奈はぶつかった衝撃で、ポケットから落ちた乙女ケースに気付いた。


慌てて拾った時には、巨人はもう歩き出していた。


「どうかしたのか?」


巨人の前を歩く…屈強な体躯をした女が振り返った。


「何でもない」


巨人はただ前を見て、歩き続けた。


女の横を通り過ぎる時、呟くように言った。


「少し珍しいものを見たが、支障はない」


「そうか…」


女もそれ以上きかなかった。


道を歩く二人の姿は、異様に目立ったが、目立ち過ぎた。


人々は一瞬だけ、目をやるが…すぐに視線を外した。


見てはいけないと、人の本能が告げていた。


その反応は正しかった。


彼等の名は、ギラとサラ。


その気になれば…指先で町を消滅できたのだから。


「いくぞ」


ギラの言葉に、サラは頷いた。


「雑魚に構っている暇は、我等にはない」


実世界の人混みを歩く魔神。


その違和感さえ、世界は認めつつあった。


変革の予兆に、空気が震えていたが、町のざわめきと光が、人の感覚を鈍らしていた。


そう…人は気付かない。


己の死が、目の前に来るまでは…決して。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ