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第234話 モード・チェンジ

「な、何だ?」


突然、上空が真っ暗になり雷雲が現れた。


そして、雷が落ちた。


「きゃあ!」


その場にいた人間の目には、そうとしか見えなかった。


悲鳴を上げた緑。


逃げることはできないと、覚悟を決めたさやか。


高坂はただ…九鬼とムジカを見つめていた。


雷は、そこに落ちると確信したかのように。



「馬鹿な…」


カレンは、雷の一瞬を見切っていた。


「あり得ない!」


絶叫するカレンの目の前で、雷は消えた。


「そうだ!あり得ない!」


ムジカは九鬼を掴みながら、天を見上げ、睨み付けた。


「お前の攻撃が当たることがな!」


すると、雷雲も消えた。


そして、ムジカを中心に半径三メートル程が無風状態になる。


その外縁に、乱気流が巻き起こり、緑達を吹き飛ばした。


カレンは何とか踏み留まった。しかし、吹き抜けた風が体に傷をつけた。


「噂通り…はた迷惑なやつだ」


カレンは舌打ちした。


「鎌鼬か…」


地面を滑りながら、高坂は切れた頬の感触を指で確かめた。



「愚か者が!」


ムジカは、片手を天に向けた。


しかし、そこには誰もいない。


「いいんだよ」


ムジカの耳元で、声がした。


「な!」


腕に激痛が走り、思わず九鬼を離してしまった。


「!」


九鬼はその隙に、後方にジャンプした。


「き、貴様!」


空中から落下したアルテミアは、槍状のチェンジ・ザ・ハートで、ムジカの腕を叩くと同時に、地面についた左足を支点にして身をよじった。


「え」


鞭のようにしなった右足が、ムジカの口元に叩き込まれた。


ふっ飛んだムジカに、アルテミアは不敵な笑みを向けた。


「お前の能力は、魔力や特殊能力を無効にするだけ。直接的な攻撃には、無力」


槍状のチェンジ・ザ・ハートは、分離すると、どこかに飛んで行った。


「さてと…」


アルテミアは両手を組み、拳を鳴らすと、ムジカに向かって歩き出した。


「やはり…この体では、レベルが下がるか」


感覚を確かめ、


「でも、ちょうどいい」


嬉しそうに、にやりと笑った。


女神の一撃も、天災と言われる程の威力もなかった。


それなのに、アルテミアは嬉しかった。


懐かしい感覚だった。


(弱いな)


と思ったが、それがよかった。



笑顔を浮かべているアルテミアを見て、九鬼は驚いていた。


前に会った時と、別人のような印象を受けた。


「本当に…アルテミアなのか?」



「ア、ア、アルテミア!?彼女が」


高坂は、思わず息が詰まる驚いてしまった。


「あの勇者…ティアナ・アートウッドと魔王の娘!」


アルテミアの名前は、知っていた。


だけど、そんな有名人に会うことなどなかった。


噂通りの美貌。


そして…。


高坂は、辺りを見回した。


威力は小さかったが、鎌鼬によって、切り裂かれた中庭の木々や、傷だらけになった校舎を見て、自然とため息が出た。


「噂通りの粗暴」



「さあ!やるか」


アルテミアは背伸びをすると、倒れているムジカを指差し、


「いくぞ!モード・チェンジ!」


アルテミアの姿が変わる。


「無駄だ!」


ムジカの目が輝くと、アルテミアの変身が解除される。


「貴様の特殊能力も使え…!?」


言葉の途中で、アルテミアの膝蹴りがムジカの鳩尾に突き刺さった。


「速い!!」


その様子を見ていた九鬼が、驚愕した。


「そ、そんな…馬鹿な」


くの字に曲がった体を戻す暇もなく、密着状態から膝蹴りを、ムジカは顎に喰らった。


「は!」


今度は顎が跳ね上がり、上半身を反らすムジカの胸元を蹴った。


ふっ飛んだムジカは、特別校舎の窓を突き破り、中に消える。


「強い…」


唖然とするさやか。


圧倒的な強さに、息を飲む九鬼達の視線を浴びながら、悠々と特別校舎に向かうアルテミア。


九鬼達の方を見向きもしない。


「美しい…」


その頼もしい姿に、高坂は感嘆のため息をついた。


特別校舎の窓ガラスを突き破り、廊下を転がったムジカは、慌てて立ち上がろうとしたが、長い黒髪を後ろから誰かに踏まれ、立つことがなかった。


「え?」


驚くムジカの首筋に、手刀が刺し込まれた。


爪が皮膚を破ると、手刀を抜いた。そして、鮮血がついた指先を、踏みつけている者が舐めた。


「お前の能力…貰った」


にやりと笑うと、踏みつけていた足を退けた。


「な、何者だ!?」


自由になるとすぐに立ち上がったムジカが、振り向くと…そこにいたのは、美亜だった。


「な!」


絶句するムジカの前から、美亜が消えた。


と同時に、特別校舎の出入口の扉が開き、アルテミアが中に入ってきた。


廊下を真っ直ぐに歩き、ムジカに向かってくる。


「どういうことだ?」


何が起こっているのか、理解できないムジカに対して、アルテミアは口を開いた。


「お前の能力は、相手の魔力を無効にする。しかし、己の力は使える!」


アルテミアの左手にある指輪が輝く。


「つまりだ。貴様の力を頂けば…条件は同じとなる。こちらの能力が、使える」


アルテミアは、指輪を突き出し、


「行け!赤星!お前が、倒すんだ」


ムジカを睨み、叫んだ。


「モード・チェンジ!」


アルテミアの体を光が包んだ。


「うおおおおっ!」


光を突き破ると、中から浩也が飛び出してきた。


「ヒイイ」


悲鳴を上げたムジカの手から、光線が放たれたが、開いた窓から飛んできた2つの物体が弾いた。


そして、その物体を走りながら掴むと、十字架にクロスさせた。


ライトニングソードになったチェンジ・ザ・ハートを横凪ぎに振るった。


雷鳴が廊下に轟き、電流がムジカの体を痺れさせ、動きを奪う。


「そんな馬鹿な…」


「は!」


袈裟斬りに振るったライトニングソードの軌跡が、ムジカの体に走る。


「我はただ…」


「は!」


ライトニングソードが、ムジカの胸を貫いた。


「お前と…」


鮮血が舞う廊下の向こう…出入口から飛び込んで来た九鬼に、ムジカは手を伸ばした。


「!?」


特別校舎に飛び込んだ九鬼は、目を疑った。


「赤星君?」


ムジカの体から噴き出す鮮血が、廊下を真っ赤に染めあげる。



「クギ…。お前が」


ムジカの目に涙が、流れた。


「うおおおお!」


血が浩也を興奮させるのか、雄叫びとともにライトニングソードを抜くと、今度は上段に構え、一気に振り降ろした。


「あああ」


体が真っ二つに裂けるムジカを見て、九鬼は駆け出した。


飛び散る血が、九鬼の全身にかかった。


勿論、前に立つ浩也は血だらけである。


「クギ…クギ…」


手を伸ばしながら、浩也の横を前のめりに倒れていくムジカ。


それを見ようともしない浩也。


足を止めた九鬼の爪先まで、ムジカから血が流れて来た。


呆然と、ムジカを見下ろす九鬼。


「こ、浩也?」


特別校舎の出入り口から、中に飛び込んだカレンは目を丸くした。


「どうして…お前が」


その声に振り返った浩也の生気のない目が、カレンとその後から来た香坂達を射抜いた。


先程のムジカよりも冷たい目。さらに、血だらけであることが、その異様さを際立てっていた。


「…」


浩也はそのまま振り向くと、ゆっくりとカレン達の方へ歩き出した。手の中にあったライトニングソードは分離して、割れた窓から飛び去っていった。



「クギ…」


そんな浩也の背中を見送っていた九鬼は、再び視線をムジカに向けた。


真っ二つになっても、顔を上げ…自分に手を伸ばすムジカに、九鬼は腰を屈めると、その手を握った。


「あ、ああ…」


涙を流しながらも、嬉しそうな声を上げ、九鬼の手を握り返した瞬間…ムジカの体は、光りの粒子と化し、消滅した。


飛び散った血も、流した血も…消滅していく。


「浩也…」


思わず道を開けてしまったカレン達の間を、通り過ぎる浩也の体についた血も消えていった。


特別校舎から出た時には、血の匂いも汚れもなくなった浩也に戻っていた。


ただ一つ違う点は、左手の薬指に指輪がついているだけだ。


そのまま真っ直ぐに、西校舎の裏に戻ると、一人の女が待っていた。



その女は、リンネではなく…美亜だった。


美亜は、浩也に向って微笑んだ。


「やはり…この体だけでは、完全ではないな」


「…」


浩也は立ち止まり、無言で美亜を見つめた。


「もうすぐ…時が来る」


美亜は、浩也の左手に目をやり、


「その時まで、これは…かりそめだが、二人の絆だ。大切にしろ」


ゆっくりと背を向けた。


「これだけは、覚えておけ…。お前が願えば、あたしはいつもそばにいる。例え…今のお前であろうと」


そして、フッと笑うと歩き出した。


「共に戦うその日まで…」


前を向く美亜の目に、二人で並んで立ち向かう姿が映る。


「赤星…お前とともに…。例え、その日に滅んだとしても」


そして、二人の前に立つ…強大な力。


「悔いはない」


美亜は、ぎゅっと胸を握り締めた。


「今のようにな」






美亜が西校舎裏から消えた後、浩也の目に生気が戻った。


「え?」


突然戻った意識と肉体がシンクロせず、ふらついた浩也は…校舎の壁に手をついた。


「そ、そうだ!」


浩也ははっとして、周りを確認し、


「行かないと!」


特別校舎に向おうとした。


リンネを見てからの記憶が、なかった。


急いで駆け出した浩也が…自分がしたことを知らされるのは、角を曲がってすぐだった。







「クスッ」


その様子を、遥か上空から見下ろしている者がいた。


衛星軌道上から、針の穴よりも小さい大月学園の出来事を見ていた。


「見つけたわ」


漆黒の翼を広げ、その者は笑った。


「お姉様」





心無き心編.....完。

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