第22話 決意
それは、ぎりぎりだった。
ほんの数秒遅れたら、間に合わなかっただろう。
「モード・チェンジ!」
槍が…完璧に振り下ろされる前に、僕は絶叫した。
「何?」
驚くステイタスの目の前に、空中から僕が、屋上に着地した。
着地の寸前、チェンジ・ザ・ハートを突き立てることで、屋上の床に突き刺さったけど、何とか落下の衝撃は吸収できた。
「クククククク…ハハハ!」
僕の姿を見て、ステイタスは嬉しそうに笑った。
「貴様なら、簡単に殺せるわ」
ステイタスは巨大な口を開き、僕に飛びかかった。
「かかった…」
僕は口元を緩め、胸を撫で下ろした。
「何だ…?」
屋上の手摺や網は、ぐちゃぐちゃになっていた。だけど、四隅で、それらを支える鉄柱は残っていた。
そこから、空中に蜘蛛の巣のようなネットが張られ、飛び上がったステイタスを絡め取っていた。
「こ、これは…」
ステイタスの体に絡み付く糸。それに触れてる部分から、水蒸気が上がっていた。
ネットは、炎でできているのだ。
「ファイヤーネット…」
僕は呟いた。
突き刺したチェンジ・ザ・ハートの先から、炎は…四方の柱に伸びていた。
「この程度の炎を!すぐに解いてやるわ」
空中でもがくステイタスに、僕は顔を上げ、にっと笑いかけた。
「いいんだよ。お前の動きを、少しだけ…止めれたらね」
槍タイプのチェンジ・ザ・ハートを、コンクリートの床から引っこ抜くと、一回転させた。そして、先端をステイタスの胸元に向けた。
いつのまにか、チェンジ・ザ・ハートは、長い銃口に変わっていた。
バスターモード。
僕専用の攻撃モードだ。
「き、きさま…」
ステイタスの顔色が変わる。
「ファイヤー!」
僕は、引き金を弾いた。
「人間如きに…我が…」
銃口から天に向けて、炎の火柱が上がった。
ステイタスは一瞬にして、蒸発した。
火柱は雷雲を突き抜け、結界すらも貫いた。
遠くから、もしその火柱を見たならば…人は、何を思っただろうか。
この世の終わりを、感じたかもしれない。
解けていく結界の中、雷雲も消えていく。
僕は両膝を床について、激しく全身で息をし、呼吸を整えた。
「赤星…」
アルテミアの声が聞こえた。
もう落ち着いているが…いつもの自信に満ちた強い口調ではなく、少しか細く…消えそうな声だった。
僕は…すべての気力を使い切ってしまって、返事ができない。
「結界が消える前に、建物を直しておく…。あと、人々の記憶を消去しておく」
僕は、曲がった網や、ひび割れができた床を見た。
「心配するな…。あたしは、女神だ。それくらいは…できる…」
僕は、砲台のようになっているチェンジ・ザ・ハートを杖にして、立ち上がった。
雷雲の真ん中から、台風の目のように広がっていく青空を見上げ、何とか口を動かした。
「モード・チェンジ…」
戦いは、終わった。
あれから、数日がたった。
学校は、元通りになり…生徒達は、何事もなかったように、日常に戻っていた。
海童のことは、全生徒の記憶から消えており、破壊した演劇部の部室も元に戻っていた。
僕は昼休み、廊下を歩いていた。
コンクリートのいつもの固い感触を、靴から感じながら、少し安心していた。
「こうちゃん!」
後ろから、呼び止められた。
声の主は、わかっていた。
足を止め、振り返ると…はにかんだ笑顔の明菜がいた。
「あのね…ちょっと話があるんだけど…」
「明菜」
僕は微笑んだ。
明菜の用件は、わかっていた。
「ごめん」
僕は、頭を下げた。
「僕は、やることがあるんだ」
顔を上げた僕は、明菜の目を直視した。
僕の目を見て、明菜は…言おうとした言葉を飲み込んだ。
一度、視線を僕から外すと、後ろに手を回し、僕に見えないように、ぎゅっと握り締めた。
「そうだね…」
明菜は視線を戻し、これ以上ないくらいに微笑んだ。
「こうちゃんには…やることがあるんだよね」
「うん…ごめん」
僕は頭を下げた。
明菜は、激しく首を横に振った。
「いいの…謝らないで」
僕は明菜の期待にこたえない自分に、いたたまれなくなってきた。明菜から背を向けて、逃げるように歩きだそうとした。
「こうちゃん…」
明菜は去っていく僕の背中に、声をかけた。
「死なないでね…」
そう言うと、明菜は僕と逆の方向に、走り出した。
僕は、振り返ることができなかった。
ただゆっくりと、歩き続けた。
(明菜は…わかっているんだ…)
漠然とかもしれないが、僕の戦いを。
「ありがとう」
僕は涙を抑えながら…ただ呟いた。
こんなことが、二度と起きないように、僕は異世界で戦うことを改めて誓った。