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第229話 宿命の監獄

「服部!」


反応が消えた場所に来た高坂は、辺りを見回した。


「部長!」


少し遅れて、緑も到着した。


つい最近までは、防衛軍の再興を目指した哲也の部下で溢れていた校舎には、殆んど人がいなかった。


哲也達に危険視されていた高坂達が、特別校舎に入るのは初めてだった。


規律の厳しさが、校舎の廊下からわかった。


新品のように輝いており、今は使われている教室にも乱れはない。


「服部!」


高坂の声だけが、廊下に響いていた。


常に鍵がかかっており、パスワードを打ち込まないと開かなかった入り口も、今は誰でも入れた。


それなのに、中に入る生徒達は少なかった。


その理由とは…。




「輝は、どこ?」


先に向かっていたはずの輝がいない。


服部の反応が消えたのは、一階の廊下である。


そこには、高坂と緑しかいない。


「輝!」


緑が叫ぶと、廊下の窓ガラスを叩く音が、真横からした。


振り向くと、窓ガラスの向こうに手の甲が見えた。


「?」


慌てて窓ガラスに近づき、窓を開けて下を覗くと、膝を抱え…震えている輝の姿があった。


「輝!何やってんだ!早く中へ入れよ!」


緑が怒っても、ぶるぶると震え出す輝は、動かない。


「輝!」


ただ口癖のように、こう呟いていた。


「ここ…ダメ…恐い」


片言のような口調になっている時は、トランス状態であり…野生化していることを示していた。


本来ならば、野生動物のように俊敏で、逞しくなるはずなのに…野生動物でも、野うさぎのようだった。


「輝?」


緑は、輝の怯え方に尋常じゃないものを感じて首を傾げた。


「緑!」


廊下の奥へ進もうとしていた高坂が、足を止めた。


「輝は…使いものにならない」


そう言うと、高坂は前方を睨んだ。


「え」


高坂の方を見た緑は、絶句した。


半透明の服部が、両手を広げ…通せんぼをしていた。


そして、廊下の奥にある…二階へ上がる階段を、誰かが降りてくる音が、廊下に反響していた。



「服部…お前…」


高坂は、半透明の服部を見つめた。


その時、階段を降りきった者が姿を見せた。


半透明の服部の体越しにその者を、高坂は見つめた。


「月に導かれ…闇に目を凝らす者は…」


はち切れんばかりのピチピチの服を纏った女が、高坂に微笑んだ。


「部長!」


高坂の後ろに来た緑が、背中をつけた。


入ってきた出入口にも、女が立っていた。その女は、大月学園の制服を着ていた。


「虚無と化す」



「人は、誰も同じ…」


教室の中から、ギターの弦をつまむ音がした。


「そう哀れなる…」


さらに、隣の教室からも声がした。


「空っぽの存在」


「故に…人は、求める」


「己を求め…」


「だけど…」


「結局…」


「空っぽなのよ」


扉が開き、廊下に並ぶ教室から、2人の女が出てきた。


「月に惹かれ…闇を恐れない者よ」


「虚無に消えろ」




「彼女達は!」


緑の全身に、緊張が走る。


「…」


高坂は無言で、半透明の服部をずっと見つめていた。


しかし、その服部を…最初に現れた女が後ろから蹴ると、服部の体は煙のようにかき消され…消滅した。


「人の思いなど…こんなものよ」


蹴りを放った女は、にやりと笑った。


「結城…リオ!」


高坂は、前に立つ女を睨んだ。


「部長!」


緑は唇を噛み締めると、木刀を握り締めた。


「彼女達は、行方不明…もしくは、死んだはずでは!」


木刀の先を、出入口からゆっくりと近付いてくる結城梨絵に向けた。


「フッ」


高坂は笑うと、背中を合わせた緑にこたえた。


「死んでいることは、死んでいるようだがな」



「そう…肉体を無くしたという意味ではね」


リオの真横の教室から、佐々木神流が出てきた。


「だけど…再び肉体を得れば、またよみがえる」


ギターを抱えた高木優が、緑の斜め前の教室から出てきた。


「それが…月影の力を求めた者の宿命」


リオの後ろに、テレポートアウトしたカルマが腕を組んで、高坂を見つめた。


「月影になった者は、死しても…その運命から、逃れられない!」


梨絵が叫んだ。


「また転生しても、闇と戦う為に、月影となり…修羅の道を生きなければならない」


リオは少し体を反らし、右腕を前に突きだした。


「そんなこと知らなかった!」


吐き捨てるように、優が言った。


「だけど…それから、逃れる方法がある」


神流の指が刃物のように、鋭くなると…彼女は舌で舐めた。


「虚無の女神の力ならば!」


「月の宿命から、逃れられる!」



「どういう意味ですか?」


緑が、高坂に訊いた。


「わからん。だけどな…」


高坂は目で周りを確認し、


「俺達も、逃げられんな」


呟くように言った。



「虚無の女神は、戦いに敗れ、さ迷うあたし達の魂を集め…こうおっしゃったわ!」


リオの突きだした右手の人差し指が、高坂の額を指差す。


「人間を殺せば!月影の宿命から、解き放ってあげると!」


「そして、殺した人間の肉体を使い!」


「あたし達をよみがえらせてくれると!」


「その為には、数が足りないのよ」


神流が、高坂に近づく。


「まだ1人分しかないから…」


妖しく微笑む神流の姿が、変わる。皮膚が硬化し、全身が鱗のようになる。


「まあ〜あなた達、2人でも足りないけど」


優と梨絵が、緑の前に立つ。


「こいつらは、あたしが殺す!」


「そうよ!あたし達…姉妹がね」


リオの手に、乙女ケースが握られていた。


「!?」


高坂は、目を見開いた。


全員の手に、乙女ケースがあったからだ。


「装着!」


無数の眩しい光が、廊下を照らした。


「緑!」


高坂は半転すると、緑の腕を掴み、全力で走り出すと同時に、白い粉を前方に投げつけた。


「高坂煙幕!」


「な!」


変身の途中であった優と梨絵の視界が、真っ白になった。


コンマ数秒の変身する瞬間を使って、逃げようとしたのだ。


「無駄よ」


梨絵達の横を通り過ぎた瞬間、前にカルマがテレポートしてきた。


「は!」


カルマの蹴りが、高坂に向かって真っ直ぐに伸びてくる。


「部長!」


緑は高坂の腕を払うと、前に飛び出した。


カルマの蹴りを、木刀で受け止めた。


「馬鹿目!」


しかし、木刀にヒビが入り、砕け散った。


「緑!」


高坂は振り向き、後ろに構えた。


変身を終えたリオ達が迫る。


「部長!封印を解きます!」


木刀は砕けたのに、折れてはいない。


「こいつらが、霊体ならば!遠慮することもないでしょ」


「了解した!やれえ!」


「はい!」


高坂の声に、頷いた緑は力で、カルマの足を押し返した。


「何!?」


蹴りの体勢から、バランスを崩したカルマの目の前に、完全に表面が砕け散った木刀…いや、日本刀が姿を現した。


「斬れ!空切り丸!」


緑の手にある日本刀が輝くと、メビウスの輪のような螺旋を描いた。


「く!」


ヤバイと思ったカルマがテレポートすると、その動きを詠んだ緑が横凪ぎに、刀を振るった。


しかし、そこにもカルマはいなかった。だけど、そばにいた乙女レッドになった梨絵の腕に、斬撃は絡み付いた。


次の瞬間、


「ぎゃあああ!」


絶叫した梨絵の腕が消えた。


「形なきものを斬る!それが、この刀の能力だ!」


対象を変更し、痛がる梨絵に、トドメをさそうと一歩前に出た緑の後ろに、カルマが現れた。


「死ね!」


「高坂アタック!」


腰を屈め、カルマの足を掴んで廊下に転がした。


不意討ちの為、床に頭を打ったカルマの馬乗りになると、高坂は眼鏡に手を伸ばした。


「確か…こいつを取れば…」


高坂がカルマの顔の眼鏡に、手をかける寸前、リオの回し蹴りが、高坂の脇腹にヒットした。


次の瞬間、カルマから離れ、廊下に踞る高坂。


「先輩!」


梨絵の頭の先から顎までを、真っ二つにした緑が、振り向いた。


眼鏡も割れ、変身が解けた梨絵が倒れるのを確認せずに、高坂のもとに向かおうとする緑の前に、リオが立ちはだかる。


「やるわね」


「どけ!」


再び空切り丸を振るう緑。


しかし、


「ダイヤモンドは、斬れないわ」


乙女ダイヤモンドとなっているリオの体を斬ることは、できなかった。


「な!」


絶句する緑に、リオはフフフと笑いかけると、


「さすがは、中小路家の長女!日本地区を代表するハンターの1人娘ね」


二本の指で、刃先をつまんだ。


「大した武器に…大した度胸だわ」


「き、貴様!刀を離せ!」


踞っていた高坂が、下からリオの足を掴んだ。


「この口だけ男とは、違う!」


リオは簡単に、高坂の腕を振りほどいた。


「そうねえ」


高坂の頭を、神流が踏みつけ、


「彼女なら〜立派な月影になれるんじゃないの?」


緑に微笑みかけた。


「誰が、なるか!」


何とか刀を、指先から抜こうと力を込めるが、ビクともしない。


「無駄なことを!」


「え!」


突然、緑の全身が硬直した。 まったく動かなくなった。


「こいつの体は、あたしが貰う!」


倒れていたカルマが立ち上がり、緑に向かって両手を広げていた。


「サイコキネッシスか…」


頭を踏みつけられながらも、必死にもがく高坂。


「誰が貰うかは、あとでみんなで決めるのよ」


リオが軽く、カルマを睨んだ。


「ゆ、許さない!」


頭が真っ二つになりながらも、梨絵は立ち上がり、緑に向かって、後ろから片手を伸ばし…首を締める。


「うぐぅ」


動けない緑の顔が、真っ青になっていく。


「あなたも、諦めて…死になさい。さっきの男のようにね」


神流はどこからか取りだしたものを、高坂の顔の近くに落とした。


「これは!」


床に転がったのは、服部が持っていたトンファーだった。


「人間にしては、まあまあだったわ」


満足気に指先を、舐める神流に、高坂はキレた。


「き、貴様が!服部を!」


顔を真っ赤にして、起き上がろうとするが、びくともしない。


「非力な男…」


神流は肩をすくめると、指先を下に向けた。


「死になさい」


鋭い爪が、背中から心臓を突き刺そうとした瞬間、廊下の窓ガラスが割れ…黒い風が飛び込んで来た。


「ルナティックキック!」


それは、乙女ブラック九鬼真弓。


九鬼のスネが、飛び込んだ勢いそのままに、神流の首に叩き込まれた。


右足が神流の首を差し込まれると同時に、左足で神流の腹を蹴り、離れながら空中で回転した。


「ルナティックキック!三式!」


さらに全身を捻ると、ドリルのように回転し、両手を緑に向けていたカルマを後ろからはね飛ばした。


勢いは止まることなく、そのまま緑の首を締める梨絵の腕を突き破った。


「ぎゃあ!」


残りの腕も消え、悶絶する梨絵を無視し、廊下に着地した九鬼に向かって、優が襲いかかる。


両手に出来た光のリングを、九鬼に向かって投げようとした。


しかし、それよりも速く、九鬼の手から放たれたリングが、優と神流を切り裂いた。


「え!」


優の戦闘服は斬れたが、神流のダイヤモンドのボディは、光のリングを跳ね返した。


「無駄よ!」


鼻で笑おうとしたリオの目の前で、九鬼が舞った。


「月影キック!」


輝く足が、リオの胸に当たると、ダイヤモンドのボディが砕けた。


「ば、馬鹿な!」


驚くリオの頭上…天井ギリギリで回転した九鬼の二発目の蹴りが、再びダイヤモンドのボディに炸裂し、リオをふっ飛ばした。


「大丈夫?」


着地と同時に、緑に声をかけ、高坂に手を伸ばした。


「やはり…君こそ、乙女ブラックに相応しい!」


ふらつきながらも立ち上がった高坂に、九鬼は微笑むと、


「何が起こっているかわかりませんが…この場から逃げて下さい」


緑を見た。


「先輩を頼みます」


「はい!」


緑は、頷いた。



「九鬼真弓!」


リオ達が、九鬼を睨んだ。


「フン!」


九鬼は背中で、高坂と緑を守りながら、 リオ達に向かって、右手を突きだし、指でかかってこいと合図した。


「な、舐めるな!」


一斉に、襲いかかってくるリオ達。


それを迎え撃つ九鬼。


再び戦いが始まる。




「部長!」


窓が外から開き、人間状態に戻った輝が手招きした。


「あんたね」


緑は、高坂に肩を貸そうとしながら、輝を睨んだ。


「待て…」


高坂は、緑の肩を借りる前に、顔をしかめながらもしゃがんだ。


そして、服部の形見となるトンファーを掴んだ。


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