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第227話 使命

「ううう〜」


情報倶楽部の部室で、横になる高坂。


「無茶するからですよ。体が弱いのに」


緑は呆れていた。


他のクラブハウスから遠く離れ、学園の端にある…情報倶楽部の部室。


マンホールの入り口から、地下に入ると、部室は存在する。


代々の部員が隠してきた部室の場所を知る者は、少ない。


生徒会長と新聞部室部長だけが、場所を知らされていた。


フェイクとして、用具室の一部が部室として登録されているが、そこには机一つしかない。


数多くの謎があった…大月学園の秘密を解いていく。


それが、情報倶楽部の真の目的であった。


そして、歴代の部長が解き明かせなかった謎が、今明らかになろうとしていた。


それは、生徒会長…九鬼真弓の登場によって。



「仕方あるまいて…。あの場合、俺がやるしかないからな」


畳を敷いた部室に、横になる高坂に湿布を張っていた緑は、ため息とともに、張り終わった部分を叩いた。


「はい!できましたよ」


「痛っ!」


顔をしかめる高坂から、緑は離れた。


「弱いくせに、立ち振舞いだけは一人前なんですから」


「じ、自分が弱いと自覚すれば…自ずと強くなるさ。ただ怯えていたら、この世界だけは生きていけない」


高坂は首だけを動かし、部室の奥に添えつけられたパソコンに張り付いている少女に声をかけた。


「舞。どうなっている?」


パソコンの前で、キーホードに指を走らせているのは、櫻木舞…この部室に住み込む引きこもり部員である。


電気や水は、勝手に学園から拝借していた。


「調子いいですよ!防衛軍からくすねた…こいつは!処理能力が違う!」


舞はイヒヒと笑った。


哲也達の事件で破壊され、手薄になった防衛軍の事務所から、どさくさ紛れてパソコンを拝借したのであった。


舞の分身である式神を使って。


「パソコンのことはいい!」


少し苛立つ高坂に、


「そう慌てなさんなって!」


舞はにやりと笑うと、


「ちゃんと調べましたよ。九鬼真弓に関してね」


椅子を回転させ、高坂の方に体を向けた。


「で、どうなんだ?」


横になり、まだ動けない高坂は舞の言葉を待つ。


しばしニヤニヤしていた舞は、真剣な顔になり、一言。


「わかりません」


「そうか…」


その結果を知っていたように呟いた高坂に、舞は言葉を続けた。


「わからない…だからこそ、わかったこともあります」


「何?」


高坂は思わず、起き上がろとしたが、痛みで再び畳の上に崩れた。


「簡単なことですよ。彼女の存在が確認できたのは、この学園と打ちきりになったテレビ番組の中だけ!二つは同時期ですから…つまり、彼女という存在は、ここ数ヶ月しか確認できない。それ以前には、いないということですよ」


「いない人間!?」


黙って話を聞いていた緑が、口を挟んだ。


「でも、彼女は存在するぞ」


「ですから…その存在している場所が関係します。まずは、大月学園!そして、月影…」


舞は、パソコンの横にあるプリンターから印刷した紙をヒラヒラさせ、


「この倶楽部の設立から、先輩達が何とか手に入れた重要機密は、3つ!」


椅子から飛び降り、高坂に近づいた。


「一つは、この土地に何かが封印されていること!もう一つは、この学園を設立したのが…月の女神の末裔であること!そして…」


舞は、高坂の前にしゃがんだ。


スカートの中が見えたが、2人とも気にしない。


高坂は、舞の目を見上げ、


「月影だ…」


「そうです!」


舞は立ち上がった。


「最重要機密だった月影!それが、テレビ番組になった!先代の部長は、月影を調べただけで、殺されたのに!」


どこか芝居がかっている舞。


「つまり…彼女が、その秘密を暴露したと?」


湿布が効いたのか、高坂は何とか起き上がった。


「部長」


舞は、畳の上に座った高坂を見下ろし、目を細めた。


「何だ?」


「月の女神は、どうなったと言われてますか?」


「うん?」


「彼女は、どうなったと?」


「あくまでも、神話だが…別の世界に行ったと……!?」


そこまで言って、高坂ははっとした。


「つまり…九鬼真弓も、違う世界から来たと?」


高坂は、顎に手を当てた。


「そんなあり得ないだろ!異世界などと!」


緑が声を荒げた。


「あら〜!あり得ないことはないわ。防衛軍でも、異世界の存在を認めていたわ。公式の記録にはないけど、ハッキングした時に、それらしき報告書を見たから…」


舞は思い出そうと、首を捻った。


「確か…ロバード・ハイツって人の報告書に…」


「それよりも、確かな噂話が広がっていただろ?」


高坂は立ち上がった。


「異世界から来た勇者…赤星浩一」


「!」


緑ははっとした。


「舞!赤星浩一と…赤星浩也に関して調べてくれたか?」


高坂の言葉に、舞は両手を広げた。


「駄目です。それらに関しては、全然わかりません。赤星浩一自身は、いろんなところでの目撃情報や助けてもらった事実が残ってますけど…彼が、何者なのかは…わかりません」


「そうか…」


「それが、隠匿されているのか…最初からないのかは、わかりません。防衛軍が解体された時、どさくさに紛れて、データベースに一時期アクセスできましたから…コピーを取ったのですけど…そこにもありませんでした」


「…」


「まあ〜最重要機密には、たどり着けませんけど。あれに入ると、自動的に魔法防御が働いて、こちら側のパソコンだけでなく、アクセスした人間も攻撃してきますから」


「そ、そんなのに、誰がアクセスできるのよ」


驚いた緑の言葉に、


「その攻撃を無力化できる程の力を持つ者だけよ。結局、パソコンを触るのにも、最終的に強さが必要なんだから、嫌になる!」


舞は地団駄を踏んだ。


「赤星浩也に関しては?」


香坂の目が鋭くなる。


「それに関しては、まったく!ありません!防衛軍のデータが更新されていないのもありますけど…結城哲也の方にもなかったですから」


「そうか…」


香坂は息を吐くと、畳から降りた。スニーカーを履くと、入り口に向かう。


「どこに行かれるのですか?まだダメージが」


引き止めようとする緑に、高坂は笑顔を見せ、


「もう大丈夫だ」


とこたえた。


「し、しかし…」


高坂の体の弱さを知っている緑は、それで止めようと、そばに駆け寄った。


高坂はドアノブを掴みながら、


「服部の帰りが遅すぎる。ちょっと様子を見てくるよ」


緑に心配させまいと微笑んだ。


「あいつなら、滅多なことでは…」

「服部の生命反応がありません」


緑の言葉の途中で、冷静な舞の報告が、高坂の笑顔を凍りつかせた。


「何!?」


情報倶楽部の部員には、もしもの時に備えて…発信装置を心臓部分につけていた。


それは、弾除けにもなるし、 心臓の鼓動を感知し、部室のパソコンに知らせる機能があった。


「何があった!」


高坂は顔を真っ青にしながら、パソコンの前に座った舞に駆け寄った。


「殺されたのか?」


「多分…。だけど、発信機自体の反応もありません」


キーホードを操作すると画面に、服部の反応が消えるまでの鼓動の変化が、グラフにして表示された。


服部の性格を表すように、落ち着いて規則正しい鼓動が消える間際…マックスに高まり、一瞬で消えた。


「恐らく…一撃」


あくまでも冷静な舞。



「消えた場所は、どこだ?」


「別館の一階です」



別館とは、理事室のある南館よりもさらに奥にある校舎で、普段は滅多に一般生徒が入ることはなかった。


何故ならば、そこが哲也達の本拠地だったからだ。


今は、主を失い…少し前までの勢いはなくなっていた。


哲也の下にいた生徒の大半が、一般校舎に戻ったからだ。


「わかった!」


高坂は部室を飛び出した。


特別校舎は、情報倶楽部の部室と真逆の位置にあった。


「先輩!」


緑は止めようと手を伸ばしたが、届かなかった。


「大丈夫。輝も向かわせるから」


緑は、キーホードに指を走らせた。


そんな舞を見て、緑は冷たい視線を浴びせた。


「冷静ね。仲間が死んだかもしれないのに」


「そうでもないわ」


舞は画面から、目を離さず、


「ただ…死を見すぎただけよ」


「それでも!」


言い返そうとした緑を、画面から目を離した舞が見た。


しばらく、見つめ合う2人。


やがて、舞はパソコンの画面に視線を戻し、


「この倶楽部に入った者の大半は、みんな…死を見ている。友達や親戚…兄弟を、殺されている。ただ…謎を解こうとしてね。私の姉も…私もね」


舞は、キーホードに指を走らせる。


「私がなぜ…ここに引き込もっているか知ってる?私はね。一年前に、行方不明とされているのよ。生死不明。月影の謎を調べてね」


「え」


緑は絶句した。


「高坂先輩と同じクラスだった姉は、殺されたわ。そして、私も重傷を負った。トドメが刺される前に、先輩が助けてくれたのよ」



「し、知らなかった」


「それから、ずっと…部室にいるわ。ここは、結界が張られているから」


情報倶楽部の部室の結界は、部員の身を守る為というよりも、集められた情報を守る為にあった。


状況によって、都合よく変えられる事実を残すこと。


それが、情報倶楽部の一番大事な使命だった。



「すべての謎が解ける時まで…私は悲しむ訳にはいかないのよ」


画面を睨む舞の横顔を見て、緑は無言で頷くと、木刀を掴み…ドアに向かって歩き出した。


「いってらっしゃい」


舞はキーホードを打ちながら、声をかけた。


「いってきます」


ドアを開き、緑も現場へと向かった。


1人残った舞の目から、涙が流れた。


誰もいなくなってから泣いた。


なぜならば、えらそうに言った手前、後輩の前では泣けないからだ。


「みんな…無事でいてね」


画面に向って、ぽつりと呟いた。










「ここで、何をしてるのかしら?」


特別校舎の屋上でフェンスにもたれ、佇んでいた美亜の後ろに、リンネが現れた。


「フン!」


美亜は鼻を鳴らし、


「それは、こっちの台詞だ。雑魚をよこしたと思ったら、今度は親が来たか」


「あら?悪いかしら…ここは、少し変わったところだから、興味があっただけよ」


妖しい笑みを浮かべるリンネに、美亜は顔を向けない。


リンネは間合いを開けて、立ち止まった。


「怖いわね。これ以上近寄ったら、何されるか…わからないわ」


「決着をつけても、いいぜ」


美亜の髪が、ブロンドに変わった。そして、眼鏡を取ると…背丈も変わる。


リンネは肩をすくめ、


「別にいいけど…この辺りは軽く消滅するけど」


「それは…まだ早いな」


眼鏡をかけると、もとの美亜に戻った。


リンネは美亜と少し距離を開けて、フェンスに近づいた。



「ムジカに用があるのか?」


美亜がきいた。


「ご冗談を」


リンネは苦笑し、


「確かに、あいつの能力は少し厄介だけど…所詮、旧タイプの女神よ」


「だったら、なぜだ?」


美亜は、リンネを横目で睨んだ。


「あたし達がもっとも警戒してるのは、あなたと彼よ」


リンネは、美亜に微笑みかけた。


「…」


美亜は無言になった。


「ムジカの妹であるデスパラードと組んでみたけど…所詮、雑魚だった。がっかりしたわ」


リンネはフェンスにもたれ、


「組むんだったら…今度は、あなたにするわ」


笑いかけた。


「何を言うかと…思えば」


美亜も笑った。


「いいアイデアじゃないかしら」


とリンネが言った瞬間、美亜の蹴りが放たれた。


「危ないなね」


炎となったリンネの体を、蹴りが通り過ぎた。


「フン!」


美亜は足が床につくとすぐに、扉に向って歩き出した。


「機嫌直してよ」


リンネの言葉にも、美亜は足を止めない。


肩をすくめるリンネ。


しかし、屋上から出る前に、美亜はリンネを見ずに言った。


「お前の言う雑魚の半身は、違う。少なくても…雑魚ではない」


「そうかしら?すれ違ったけど、大したことは…」


リンネは途中で、言葉を止めた。


なぜならば…美亜の背中は笑っていたからだ。


「それがわからないか…」


美亜は扉を開け、屋上から消えた。


「な!」


馬鹿にしたような美亜の言葉に、リンネは表情は変えなかったが、そばにあるフェンスの一部が解けた。



しばらく、無言で佇んでから、リンネは髪をかきあげた。


「どいつもこいつも…」


なぜか…フレアの顔が、脳裏に浮かんだ。


赤星の為に死んでも、笑っているフレアが…自分を見る時だけ、悲しげな顔をしている。


「どうしてだ…」


リンネは、美亜が閉めた扉を睨んだ。




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