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第216話 嫉妬

「あれは…」


「確かに、チェンジ・ザ・ハート」


生徒達に紛れて、浩也の戦いを見ていたユウリとアイリは、無表情のままで頷き合った。


「チェンジ・ザ・ハートは、赤星浩一とアルテミアしか使えない武器のはず。やはり…あやつは」


アイリの言葉を、ユウリが遮った。


「それにしても、今現れた魔物は、我々の配下のものではないな」


首を捻るユウリの横顔を、アイリが見た。


「すべての魔物が、我々の配下ではない。野の魔物もいるだろうに」


「そういう意味ではない」


ユウリは、魔物が燃え上がると同時に窓側に背を向けた。


歩き出したユウリの横に、アイリも並ぶ。


「今の魔物は…現代に存在するものではない」


「どういう意味だ?」


「滅んだ種族のはずだ」


ユウリとアイリは教室を出て、廊下を歩く。


「我々魔物も、種の進化をもって、今の力を得ている。その過程で、淘汰された魔物達もいる」


「どこにいくつもりだ?」


ユウリについて歩くアイリには、行き先がわからない。


「地下だ」


ユウリ達は、階段を下りていく。


「地下?」


「ああ…」


一階についたユウリは、地下への階段を探す。


「どこかにあるはずだ。地下への階段が」


「地下!?」


アイリは驚き、


「それは、虚無の女神が眠っていたところか?」


「大したものはないと思っていたが…」


ユウリは舌打ちした。


階段がどこにもない。


「どこかに隠しているのか」


アイリは床を蹴り、


「ここから、突き破るか?」


ユウリに訊いた。


「有無。いざとなれば…」


ユウリも床を見た。



「何をしているのですか?」


突然、廊下の端から声がした。


ユウリとアイリは、目だけを声がした方に向けた。


「今は、非常事態のはずです」


2人に近付いて来たのは、黒谷理事長だった。


「魔物の襲撃を受けた場合、速やかに教師の指示に従わなければならない!と規則で決まっているはずですが」


強い剣幕で話す黒谷に、ユウリは臆することなく、平然と言った。


「申し訳ございません。転校生して来たばかりのものでして…」


二人は同時に深々と頭を下げると、理事長に背を向けて、もと来た道を戻って行った。


「今のは?」


理事長のずっと見送っている視線を感じながら、2人は歩き続けた。


「月の防人だ」


ユウリは目を細め、


「地下への階段の場所がわかった」


「ああ」


アイリは頷いた。


「あやつの部屋だ」





遠ざかっていく2人の背中を見つめながら、黒谷の手に汗が滲んでいた。


「今のが…転校生…」


毅然としながらも、黒谷の体は戦慄をおぼえていた。


「あのような者も、入学できるなんて…」


黒谷は、この学校に巣食う闇にぞっとした。


「それは…仕方ないだろ」


黒谷の後ろ…理事長室から、1人の女が姿を見せた。


「この学校の入学条件は、強さのみだからな」


「…」


黒谷は唇を噛み締めた後…無言で、振り返った。


背中までの黒髪に、猫のような目をした女は、そんな黒谷に向かって微笑んだ。


「…」


何もこたえない黒谷に、女はゆっくりと近付いていく。


「どうかしら?あたしの髪型。あの人に合わせたのだけど」


「ムジカ…」


黒谷は、女を睨んだ。


「あら!こわ〜い」


と言ってから、女はクスッと笑った後、ゆっくりと目を細めた。


「今さら、後悔しても遅いわ。あなたが、あたしを目覚めさせたのだから」


「私は…」


黒谷の全身が、震え出した。


「結城哲也の提案に乗ってしまった。あなたを目覚めさせ…利用するという提案に!」


黒谷の言葉に、女は再び笑った。


「地下で自ら眠りについたあなたを、月の女神は封印された。しかし、古文書に記されたあなたの記述には…あなたには、心がない為に、目覚めさせても…問題はないと書かれていた!だから、あなたは!魔力だけを供給する装置になるはずだった!」


「そうねえ」


女は、黒谷の周りを回り出した。


「穴を掘り、地下にある神殿であなたを見つけ、月の封印を解いたが…あなたは、目覚めなかった。まったく!」


「そうだったわね」


「死んだように眠るあなたから、魔力を供給できないとわかった結城哲也は、計画を断念した。それと、同時期に、月の女神がこの世界に戻ってきた」


「その前に、デスぺラードの封印が解かれたの。あたし…あの子が苦手なの」


「え」


黒谷は目を見開き、


「ま、まさか…」


女に顔を向けた。


「本当は、目覚めていたのよ。あたしはね。だけど…イオナとデスぺラードの争いに関わる気がなかっただけ。それに…」


女は目を閉じ、胸に手を当て、


「あの人が、完全に覚醒していなかったから」


夢見る乙女のような表情になる女に、黒谷は何度目かの戦慄を覚えた。自然と手が、スーツのポケットに伸びた。


「やめておいた方がいいわよ」


女は、黒谷の手を見た。


「老体には、こたえてよ」


「く!」


黒谷の手には、乙女ケースが握られていた。


「それに、あなたは…一度、納得したはず。あたしの力がほしいと」


「それは、この学園の生徒の為!しいては、人類の為!だけど、貴様は人間のことなど考えていない!」


黒谷は、乙女ケースを突きだした。


「だって…仕方がないじゃない。あの人は、人間ばかり気にしてるんだから!さっきも、人間の為に戦ってたし…嫉妬しちゃうわ」


「さっきの転校生も、貴様が呼んだのか!」


「それは、こっちの台詞よ。あんたが入れた太陽のバンパイアのせいで、やつらが来たのよ。あたしは、静かに…あの人を奪うはずだったのに!」


女が睨むと、黒谷は吹っ飛んだ。


「装着!」


廊下を滑りながら、黒谷が叫んだ。


「無駄なことを」


女は、腕を組んだ。


黒い光が、黒谷を包むと…乙女ブラックへと変身させた。


「お前に学園を好きには、させない!」


黒谷は変身と同時に、床を蹴ると、女に向かって走り出した。


「その姿を見ると、思い出すわ!忌々しいイオナの僕達を!」


大月学園の地下で、大量に発見された乙女ケースは、デスぺラードによって、倒されたものではなく、ムジカによって殺された者達のものだった。


「あたしの眠りを邪魔して、何度も殺そうとした…月の戦士達!」


女の脳裏に、輝くシルバーの戦闘服を着た戦士の姿がよみがえる。


「それに、その姿が似合うのは、あの人だけよ」


「滅しろ!虚無の女神!」


黒谷の拳が輝き、女に向かって突きだされた。


腕を組んだままで動かないムジカの横を、黒谷は通り過ぎた。


「な」


拳は当たらなかった。


黒谷の身を包む戦闘服が、粉々になると…変身が解けた。


「今…お前を殺す訳にはいかない。ライの手下に見られたからな」


「ああ…」


黒谷は突然崩れ落ちると、両膝を床につけた。目が白目をむいている。


「その代わり、精神を壊した。お前はもう…心を持たない人形…」


ムジカは口許を緩め、


「だけど…お前達一族には、お似合いよ。月の女神を裏切り、闇の女神に手を貸し…今度は、あたしの力を利用しょうとした」


ゆっくりと振り向いた。


そして、黒谷の前まで歩くと、


「お前達一族が、月の女神を裏切ったせいで…あの人の魂も封印されることになった。それにより、何年待ったことか…」


ムジカは、黒谷の頭に足を乗せると、床に押し付け、土下座の体勢にした。


「あたしは、他の男に心変わりしたイオナとは違う!ずっとあの方一筋…」


ムジカは、再び目を閉じた。


「クギ様…」

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