第202話 戸惑いの鼓動
「うん?」
気を探っていたジャスティンは、眉を寄せた。
「気が…一つ消えた。決着が着いたのか?」
リンネとフレアが戦えば、フレアが負けるのが当然であった。
それなのに、ジャスティンが動かなかったのは、フレアと一緒にいる子供の存在である。
(その子がもし…この世界の救世主ならば…)
拳を握り締め、傍観することを決めていたが、ジャスティンは走り出していた。
「おい!こら!」
まだ痺れて動けないカレンを残して。
「馬鹿師匠!あたしを置いていくな!」
カレンの叫びも、今のジャスティンには聞こえなかった。
ただ…走っていた。
フレア達のもとへ。
そんなジャスティンとカレン達のいる場所の遥か上空に、翼を広げた天使が下界を見下ろしていた。
「馬鹿な…」
炎が消えた体を、リンネは自分で確認することもできず、枯れ葉が積もっている地面に前のめりに倒れた。
炎そのものであるはずの自分が、今は人間と変わらない。
そんな状況よりも、浩也が振るった剣に衝撃を受けていた。
「そうか…。お前の体は…」
リンネは、すべてを悟った。
蘇ったフレアの正体。
それは、チェンジ・ザ・ハートに残された…彼女の思念である。
「そこまで…して…お前は…」
すべての魔力を吸い取られ、指一つ動かせないリンネの目から…涙が流れた。
「お姉様は、優しいわ」
炎の中、騎士団長として戦うリンネは、燃え盛る花畑を見つめていた。
防衛軍の予想外の反撃により、戦地は炎に包まれていた。
人間だけでなく、周りにあった自然も破壊されていた。
戦いが終わっても、燃え続ける花達を、リンネが見ていた時、そばに来たフレアが言ったのだ。
「はあ?」
リンネは眉を潜め、隣に立つフレアに顔を向けた。
「何を言っている?あたしが、優しい?そんな訳がないでしょ。この一帯を燃やしているのは、あたしの炎よ」
少し睨んだリンネに、フレアは微笑み、
「でも…今、お姉様は泣いてた」
「はあ?」
さらに眉を寄せたリンネを見ないで、フレアは燃える花畑を見つめ、
「あたし達は、炎の魔物。燃やせても、消すことはできない。だから…お姉様は泣いてたのよ」
「何を馬鹿なことを!」
リンネは言葉を吐き捨て、
「あたしは、涙など!流したことはない!」
再びフレアを睨み付けようと、妹の顔を見た。
「!?」
その瞬間、リンネは息を飲んだ。
逆に自分を…真剣な顔で見つめているフレアがいたからだ。
「お姉様…」
「な、何?」
「お姉様の炎は、自分自身の涙さえも…すぐに、蒸発させてしまう」
そして、フレアは優しく微笑むと、
「いずれ…お姉様も気付くわ。自分が涙脆いことに…」
「フレア…」
リンネは炎がなくなったことにより初めて、自分の涙を知った。