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第199話 待ち人

「だ、誰もいないじゃないか!」


女が言う魔神に狙われている村についたカレンは、叫んだ。


人の気配がしない。


「どうなって…いるんだ?」


人が二十人くらい手を繋いで囲めるほどの大木を中心にして、村は円形に広がっていた。


しかし、そこに人の息吹が感じられない。


「?」


カレンは首を傾げながら、村に入った。


といっても、柵も塀もない。


魔神に狙われている村ならば、それなりの防御策は取っているはずだが。


「うん?」


カレンは一番近くにあった丸太でできた小屋に入った。


中は荒らされたというよりも、さびれていた。


昔…人が住んでいたという痕跡はあるが、もう長い間使われていないようだ。


カレンは、小屋の真ん中にあるテーブルに近づいた。


そして、あるものを発見した。


それは、写真立てである。


手に取った写真立ての埃を払うと、中に収まっている写真が見えた。


先程の女だ。


「ここは…あの人の家か…」


しかし、写真を見つめていたカレンは、あることに気付いた。


写真に刻まれた日付である。


「な…」


それは、50年前に写したことを告げていた。


「彼女の…お母さんか?」


少し首を傾げたカレンに、小屋の外から、女が声をかけた。


「どうされました?」


開いているドアから、首だけを出し、カレンを見つめた。


「い、いや…」


カレンは、写真立てをテーブルに置くと、女の方を見ずに訊いた。


「ところで…村の人は、どこにいるの?」


「何…言ってるんですか?」


女は笑った。


「みんないるじゃないですか」


「え?」


カレンは振り返った。


少女の周りに、人が大勢いた。


「な!」


カレンは、絶句した。


その人々から、気配を感じない。


いや、感じるはずがない。


まるで、精巧な木彫りの人形のよう…。


「人間じゃない!」


一瞬で状況を判断したカレンは、ピュアハートを召喚すると、天井に向けて飛び上がった。


「貫け!」


天井に突き刺さったピュアハートは、丸太を喰った。


一瞬で穴が開き、カレンは屋根の上に着地した。


「な、なんだ…」


小屋の周りを埋めつくす木製の人形達。


あまりに精巧過ぎて、肌が木の色でなければ、人間だと思うだろう。


「どうなさいましたか?」


下から女が見上げながら、首を傾げた。


「どうなさいましたかじゃあないだろ!」


カレンは、状況判断に躍起になった。


女は人形ではないようだが、周りを囲む人形は明らかに増えていた。


いつのまにか、村中が人形だらけになっていた。


「騙したのか!」


カレンは屋根の上から、女に叫んだ。


「魔神に狙われていると!」


「騙してはいません!」


女は屋根を見上げながら、微笑んだ。


「魔神ムゲは、この村を排除しょうとしています!人間(餌)がかからないこの村を!だから!」


女の周りにいた人形達が、女を持ち上げ、屋根へと上がらす。


「あなたのような…強い人間の精気を吸えば…きっとムゲも、この村を残してくれる」


屋根の端に手をかけると、一気に飛び上がってきた女は、カレンに笑いかけた。


だけど、カレンは気づいていた。


女の目の隅に、涙が溜まっていることに。


「…」


無言で女の前に飛び込んだカレンは、ピュアハートを女の胸に突き刺さした。


「あ…」


胸から背中までを貫いたピュアハートを見た時、女の瞳から涙が流れた。


そして…カレンがピュアハートを抜くと、


「ありがとう…」


女は感謝を述べ、ゆっくりとした動きで屋根から落ちた。


人形達の上に背中から落ちた女の体は、すぐに干からびた。勿論…血は流れなかった。


「チッ」


カレンは舌打ちした。


そして、悠然とそびえる大木を睨んだ。


「貴様が…元締めか」


カレンは、ピュアハートの剣先に指を添えると、刀身をしならせた。


「ブッタ斬る」


まるでブーメランのような形になると、カレンは大木に向けてピュアハートを投げた。


回転するピュアハートが、大木の枝を切り裂いていく。


「50年分の怨み…はらしてやるよ」


カレンは下に横たわる女の死体を見つめながら、プロトタイプブラックカードを取り出した。


そして、人形達の群れに向かってジャンプした。


「燃え尽きろ!地獄の業火でな!」


カレンの周りに、炎の竜巻が発生する。


「すべて、灰になれ!」


炎の竜巻は、カレンを中心にして、村中に吹き荒れる。


「ポイントを使い切ってもかまわない!」


人形だけでなく、村中の小屋を焼き、女の死体も灰になった。


「うおおお!」


咆哮を上げたカレンが、炎の竜巻から飛び出した。


枝を殆ど切り裂いたピュアハートが、カレンのもとに戻ってくる。


切られ落ちた枝も、炎の竜巻の中で燃え尽きる。


カレンはピュアハートを掴むと、突きの体勢で大木に突っ込む。


「貴様も燃え尽きろ!」


ピュアハートの刀身にも、炎の竜巻が絡みつく。


大木の根元に突き刺さったピュアハートによって、中から燃え上がる。


「ぎゃあああ!」


大木に口はなかったが、カレンの耳には、断末魔が聞こえた。


村中を焼きつくした炎の竜巻も、大木に絡みつくと、数秒で…すべてが灰になった。



「フン」


村と大木があった空間には、ピュアハートを突き出した姿のカレンしかいなくなった。


炭で真っ黒になりながらも、カレンは無傷で戦いを終えた。


ピュアハートをおろすと、息を吐いた。


この村の本当の人間は、50年前に大木に養分として....すべてを吸いとられたのであろう。


先程の女だけが、囮として半分生かされていたのだ。


「人喰い村か…」


カレンは、ピュアハートを首からかけたペンダントの中に戻した。


その瞬間、カレンはその場で崩れ落ちた。


「な、なんだ!?」


信じられない魔力を感じ、その重圧で押し付けられたのだ。


何とか顔を上げたカレンの遥か頭上に、雲と見間違う程の巨大な生物が浮かんでいた。


「ドラゴン…」


目を見開いたカレンの頭上で、ドラゴンは巨大な口を開いた。

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