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第197話 森の中で

「やはり…手っ取り早かったな」


魔界と人間界をわける結界の近くに、カレン・アートウッドはいた。


月影バトルで、己の未熟さを知ったカレンは、自らの経験値を上げる為に、魔界に近く森に潜伏していた。


九鬼と別れてから、すぐに森に入り、寝る間も惜しんで戦い続けていた。


魔物を倒す度に、その血の匂いに釣られて、新たな魔物が次々に現れていた。


ずっと着ている学生服も、ボロボロになってきていた。


しかし、着替えを持ってきてはいかなかった。


汗臭くなると、泉を探し…服を洗った。


その間、全裸になるが…魔物しかいない森である。


襲われても、全裸で戦った。


今日もそうだろうかと、たかをくくっていたら、


「す、すいません!」


なぜか…人間がいた。


それも、男である。


「え」


全裸で構えたカレンのすべてが、丸見えだった。


男は少し視線を外すと、


「あ、あのお…大変な時にす、すいません。少しお話をしたいのですが!」


「…」


一瞬、思考が停止したカレンの頭が動いた時、思い浮かんだのは、


(この男を斬る)


だったが…流石にまずい。


「う、後ろを向いて、待ってろ!」


男口調になったカレンに言われ、慌てて男は回れ右をした。


男が見ていないのは、確認すると、洗濯中の学生服を手に取った。


勿論、乾いていない。


いつもは、そのまま…木の枝にでもかけて、自然乾燥を待つのだが、時間がない。


仕方なく、プロトタイプブラックカードを取り出すと、魔物で服と下着を乾燥させた。


「よし!」


学生服を着たカレンは、改めてこちらに背を向けている男を見た。


華奢な体である。


少し丸みがあり、鍛えていないことがわかった。


(そんな男が…この魔物がいる森で、何をしているんだ?)


男の背中を凝視しながら、カレンは言った。


「もう振り向いても、いいですよ」


「あ、はい」


慌てて振り向いた男の顔を見て、カレンは腕を組んだ。


おぼこい顔である。


ますます1人で、ここにいる意味がわからなかった。


「あたしに…話って何ですか?それに、あなたはなぜここにいるんですか?」


カレンの質問に、男は一度唾を飲み込むと、


「最近…この辺りに、魔物の死骸が増えました。魔物の中には、共食いをするものも多く…魔物の死骸が、ここまで残っていることはありません 」


男は真っ直ぐに、カレンを見つめ、


「だとすれば…魔物が処理するよりも速く、信じられない数の魔物を倒している者がいるはず…」


一旦、言葉を止めた。


カレンは息を吐くと、


「それが、あたしだったと?」


「ええ…」


男はため息をついた。


「?」


カレンには、そのため息の理由がわからなかった。


しかし、すぐに知ることになった。


男は話を続けた。


「最初は、噂の勇者…赤星浩一さんか…伝説の戦士…ジャスティン・ゲイ様かと思ったのですが…」


ここで、今日一番大きなため息をついた。


「あたしと同じ…女の人だなんて…」


「え」


カレンは目を見開いた。


(お、女…)


そう言われて、改めて見たらそう見えた。


あまりの化粧気のなさと、作業服のような服装が、男…というより、男の子に見せていた。


「失礼ですけど…確認させて下さい。本当に、あなたが?」


半信半疑になってきた女に、カレンは叫んだ。


「伏せろ!」


「え!」


女はカレンの迫力に、思わずしゃがみ込んだ。


カレンの手には、いつのまにかピュアハートと言われる剣が握られていた。


カレンはピュアハートを横凪に振るいながら、回転した。


先程まで洗濯をしていた泉の表面に、波紋が走った。


「うぎゃああ!」


泉を囲む茂みや、木々の後ろから悲鳴がした。


それも一つや二つではない。


何本か木々が倒れると、その向こうから…隠れていた魔物達が姿を見せた。


その瞬間、魔物達の体に線が走ると、そこから鮮血を噴き出した。


「フン!雑魚しかいなかったか」


ピュアハートから放たれた斬撃によって、周囲にいた魔物達をすべて倒したことを確認すると、カレンは女に顔を向けた。


「話の途中だったわね。それで一体…」


カレンの言葉が言い終わる前に、女は跪いていた。


「偉大なる勇者様に、お願いがございます!あたし達の村を助けてほしいのです!」


「あたし達の村?」


カレンは、さらに周囲を確認した後、ピュアハートを首からかけている十字架のペンダントの中に刺し込んだ。


「そうです!魔神ムゲに狙われている!あたし達の村を!」


女の叫びに、カレンは眉を寄せた。


「魔神ムゲ…」


「そうです!108の魔神の1人です!」


女の言葉に、カレンは拳を握り締めた。


(魔神だと!)


カレンの手のひらに、汗が滲んできた。


「108の魔神と戦える人間は、殆どいません!だから…」


女は目を伏せ、


「赤星浩一さんか…ジャスティン様を期待したのですが…」


がっかりしたような物言いが、カレンのプライドを傷つけた。


(馬鹿にしやがって〜)


もともとレベルアップの為に、ここに来たのである。


108の魔神の1人で戦えるのは、願ったら叶ったりである。


騎士団長ならヤバいが…その下のレベルの魔物なら、今の自分から何とかなるはずである。


それに、真の勇者になる為には、この戦いは避けれない。


カレンは一歩前に出て、少し不安そうな女に言った。


「あたしを、村に連れていけ!魔神を倒してやる」


自信満々で言ってみたが、女はカレンを見つめ、


「は、はい…。ありがとうございます…」


どこか抜けた返事をした。


「…」


カレンの全身が、わなわなと震えてきた。


怒りがこみ上げて来たのだ。


「村はどこだ!」


カレンは女を残して、歩きだした。


「そ、そっちじゃありません!」


女は慌てて、後を追った。

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