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第192話 晩餐

「お母様!」


戦いを終えたフレアとコウヤは、森の中で休んでいた。


魔物や猛獣がいる森であるが、魔王軍に所属する程のレベルのものはいない。


命令で襲いかかってくるもの以外は、圧倒的な力の差を感じる相手に近づくことはない。


しかし、気を解放すれば、新手の魔王軍に気づかれるかもしれない。


フレアは気を抑えながらも、周囲に火種をばら蒔いていた。


不用意にこちらに近づけば、灰になるだけだ。


それに、ご丁寧にも、火種に火の匂いをつけていた。


これでは相手に見つけてくれと言ってるようなものだが、野生の魔物達にはこれでよかった。


多分、襲いかかってきても、簡単に倒せるけど…あまり、コウヤに戦わせたくなかった。


その理由は、簡単である。



「お母様!おいしいね!」


フレアのそばで、ドラゴンナイトやダダの死体から血を吸うコウヤ。


ほんの数ヶ月前まで、赤ん坊だったコウヤが、自ら血を吸い、歩き…戦うことをしている。


その成長の早さは、人間ではない。


過酷な状況にいればいる程…コウヤは成長し、強くなっていく。


(彼らの血を吸い…魔力も奪い取っている)


小学生くらいの大きさになっているコウヤの横顔を見ていると、やはり浩一に似ていると思った。


(本当に…似ているだけなのだろうか…)


成長するコウヤを見ているとたまに、胸が苦しくなった。


(浩一…)


フレアは胸元をぎゅっと握り締めると、数秒だけ目を瞑った。


ゆっくりと再び目を開けた時には、フレアの顔は優しい母親の表情になっていた。


「お母様は、食べなくていいの?」


コウヤは、いつも何も口にしないフレアが心配だった。


「あたしは、大丈夫よ」


フレアは、心配してくれるコウヤの優しさが嬉しかった。


フレアは少ししゃがむと、コウヤの視線に目線を合わせた。


「あたしは、あなたの武器だから…ご飯は、必要ないの」


いつもそう言って、食事をとらないフレアに、コウヤは堪らなく心配になっていた。


(そうなんだ…。いつも、自分を武器というんだ)


食事もとらない。睡眠もとらない。


小さな頃は、そういうものだと思っていたけど…それは異常なことなんだと、旅を続けるうちにわかるようになった。


そして、コウヤはもう1つ大事なことを知った。


(僕の名は、浩也。そして、お母様の本当の子供ではない)


浩也は食事を終えると、フレアの胸に抱かれながら、眠るのが日課だった。


(僕の本当のお母様は…)


それを考えようとすると、思考が停止した。


いや、停止する…ほんの数秒前に、いつもある映像が浮かんだ。



(赤星!全力で来い!)


黒髪に、六枚の翼を広げた…女の人。


その人は、僕に剣を向けていた。


(僕は×××××のことが!)


だんだんと迫ってくる女の人の顔。


その顔に、涙が浮かんでいるのがわかった。


なのに…。


その女の人に、刃は突き刺さった。


鮮血とともに、光が僕と女の人を照らした。


女の人は、胸から背中まで剣が突き刺さっているのに、優しく微笑んだ。


その表情が、お母様と重なる。


いつも…優しく微笑んでくれているのに、 どこか悲しい。


(僕は…そんなお母様を笑顔にはできないのかな)


でも、心の底では…無理と思っている自分がいる。


ドクン。


そんなことを考えていると、いつも心臓が脈打つ。


その鼓動は、少しずつだけど…大きくなっているのがわかった。


そして、その鼓動がもっともっと大きくなった時、何かが目覚めるような気がしていた。


(何が?)


それは、自分でもわからなかった。







「…」


玉座の間に、独り残ったリンネは、主のいない席に座り…足を組んだ。


別に、王になりたい訳ではない。


いつも、ここに座っていたライの孤独を知っていたからだ。


頂点にいるものは、いつでも孤独である。


王がいない城で、リンネと対等に話せるのは、三人の騎士団長である。


しかし、サラやギラとはそりが合わなかった。


カイオウは、どこか悟りを開いたような落ち着きがあり、普通に話す存在でもない。


「…孤独…」


そう呟いてみたリンネの脳裏に、2人の顔が浮かんだ。


1人は、沙知絵。


人間ではなくなり、愛する人間の記憶を失ったが…それでも、無意識に愛する男の盾になり、死んだ女。


そして、もう1人は…。




「ご報告致します」


玉座に座るリンネの前に、2つの火が灯ると、2人の魔神になった。


ツインテールのユウリと、ポニーテールのアイリ。


「何だ?申してみろ」


リンネは、すぐに控える2人に目を細めた。


「は!」


2人は深々と頭を下げた後、ツインテールのユウリが話しだした。


「南米のアマゾン川近くで、魔神ダダが、魔王の鍵と遭遇!ドラゴンナイトの群れを使い、追い詰めましたが、鍵を護る魔物に妨害され…全滅しました」


「…」


リンネは玉座にもたれ、無表情を装っていた。


ユウリはリンネの息遣いに注意しながら、言葉を続けた。


「その妨害した魔物というのが…」


「それは、よい」


リンネは、ユウリの言葉を遮った。


「リンネ様!?」


思わず顔を上げたユウリの目に、炎の魔神とは思えぬ程の冷ややかな目をしたリンネの顔が映った。


しかし、その目は…ユウリを見ていない。


息を詰まらしたユウリに代わり、隣で控えていたアイリが話しだした。


「しかし…その者は、あやつではないと思います。一度、死んだ魔物を蘇らすことは、不可能です。魔王の力がなければ…」


「その者の話は、よい」


リンネは、アイリを睨んだ。


「でしたら、最後に…もう1つだけ、ご報告がございます」


何とか心を落ち着かせると、ユウリがリンネの方に頭を下げながら、摺り足で前に出た。


「魔神ダダを討ち取ったのは、その者ではございません!」


リンネの気を引く為に、敢えて声を荒げた。


「その者に、守られているだけの存在のはずの赤ん坊!いや、今はもっと大きくなっているようですが…」


ユウリはここで、一度言葉を切った。


リンネの気を感じなくなっていたからだ。


少し顔を上げると、いつものリンネが玉座にもたれながら、ユウリを見ていた。


「続けよ」


リンネの言葉に、


「は!」


ユウリは再び頭を下げた。


そして、話を続けた。


「赤ん坊だった子供が、一撃で…魔神と魔物達を全滅させた模様!さらに!」


ユウリは少し顔を上げ、


「その子供の手には、今は無きネーナ様の武器であるファイヤクロウが装着されていたそうです」



「成る程…」


少し考え込んだ後、リンネは口許を緩めた。


「なぜ!女神専用の武器が、鍵の手にあるのか…」


首を捻ったユウリに、静かにリンネが話しかけた。


「ファイヤクロウの最後の所有者は、赤星浩一。ネーナ様との戦いの後…あやつが持っていた」


「リンネ様…」


ユウリとアイリは、唖然としてしまった。


リンネが笑っていたのだ。楽しそうに。


「お前達…。この話は、他の騎士団長の耳にも入っているのか?」


「いえ…まだでございます」


「ダダは、炎の騎士団所属故」


「そうか」


リンネは玉座から立ち上がった。


「ならば、この話はしばしここで止めておけ!」


リンネの命令に、リンネとアイリは頭を下げた。



「は!」







報告が終え、2人が消えた後、リンネはまた笑っていた。


「そうか…そい言う意味か」


リンネは無理矢理、大笑いした。


「はははは!」


ひとしきり笑った後、再びリンネは玉座に座った。


そして、顔を手のひらで隠し、


「バカな子」


ぽつりと呟いた。


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