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第191話 騎士達

「フン」


三メートル近くある巨体で空気を切り裂きながら、ギラは石の通路を歩いていた。


「久々の我が家とでもいうべきか」


ギラは、何の装飾もない壁と先の見えない回廊を見つめた。


こんな味気ない廊下でも、少し安心している自分がいることに気付いた。


闇の女神の復活が阻止されたことで、魔王軍は再び元の鞘に戻ろうとしていた。


「しかし…許していいものなのか」


ギラは、最近伸ばし始めた顎髭に触れた。


闇の女神と結託し、新たな魔王軍を編成しょうとしたリンネを簡単に許していいものだろうかと、ギラは悩んでいたのだ。


今は、魔王不在の時。


さすれば、例え騎士団長と言えども、行動は慎むべきである。


ギラの考えが、リンネに制裁をに変わろうとした時、後ろから声がした。


「あやつは、特別!今回のことも、王は許されるだろう」


まるで心を読んだような言葉に、ギラは足を止めて振り向いた。


「どういう意味だ?カイオウよ」


ギラの後ろに、同じ騎士団長であるカイオウが立っていた。


「今、口にしたこと以上の意味はない」


カイオウは、後ろで手を組みながら、ギラの横に来た。


「ただ…あやつは、特別なだけよ」


カイオウはそれだけ言うと、ギラを残して歩き出した。


「だから、その意味をだな…」


ギラが、それだけで納得するはずもなく、カイオウに追いすがろうとした瞬間、 カイオウは振り返り、無言でギラを見た。


「!?」


その目には、お主もわかっておるじゃろ…だから、口にするなと、ギラを制する力があった。



「チッ!」


ギラは舌打ちした。


もう忘れていたことを思い出していた。


顔をしかめ、思わず視線を外したギラを見て、カイオウは前を向くと、ゆっくりと歩き出した。


去っていくカイオウの背中を、ギラはもう見ることはなかった。


ただ悔しげに、唇を噛み締めた。


「だとすれば…あまりにも、アルテミア様が不憫!」


ギラは、壁を叩いた。


「アルテミア様は…王の娘ぞ!」


ギラを苛立ちが拳に伝わり、回廊の壁を抉った。


「それが、どうした?」


再び壁を叩こうとしたギラの前に、腕を組んだサラがいた。


赤髪に二本の角を生やしたサラは、ため息をついた。


「アルテミア様は、もう立派な戦士。あの方は、自分で今の立場を選ばれた。自らの父上である魔王と戦う道を選ばれたのだ」


「ううう…」


サラの言葉に、ギラは言い返せない。


「その選択を否定はできない。そして、我々は…ライ様の刃として、アルテミア様を迎え討つだけだ」


サラは、ギラを睨んだ。


「そ、それくらいわかっておるわ!」


ギラは顔をしかめると、サラを見ないで歩き出した。


「まったく…。あやつには、情というものがないのか…」


毒づきながらも、ギラは頭をかき、苛つきを抑えようとしていた。


そんなギラの背中をしばし見送った後、サラも歩き出した。


ギラと同じ方向へ。








「皆さん。久しぶりね」


カイオウ、ギラ…そして、サラが向かった場所は、玉座の間であった。


普段は、闇より暗い部屋に、灯りが点っていた。


丁度真ん中にある玉座の横に座ることなく、佇んでいるのは、リンネであった。


リンネは、三人が玉座の間に姿を見せると、微笑みをつくった。


「フン」


ギラは鼻を鳴らすと、そんなリンネを睨んだ。


魔王不在の中、魔物達を支配するのは、ここにいる4人の魔神だった。


「揃ったようじゃな」


玉座の後ろから、ライの側近である蛙男が姿を見せたが、リンネが手を伸ばして遮った。


リンネが蛙男に視線をやると、蛙男は慌て出し…やがて口をつむんだ。


そんな蛙男から視線を外すと、リンネは再び笑顔をつくり、三人の魔神に顔を向けた。


「今日、集まってもらったのは他でもないの。ライ様不在の中、今の魔王軍をどうしていくのか。今後のことを話し合いたいと思ったからよ」


リンネの言葉に、ギラがキレた。


「何を今更…。ライ様が封印されて、何ヵ月経ったと思っているんだ」


ギラの怒りに呼応して、額から伸びた角から電気が発生した。


「明るくなったわね」


ギラの角の輝きで、部屋の明るさが増した。


軽く肩をすくめたリンネの様子に舐められたと思ったギラが、一歩前に出ようとしたのを、後ろからカイオウが手を伸ばし、止めた。


そして、サラがギラの前に出ると、リンネに顔を向けた。


「今は、貴様の行いを責める気はない」


「ありがと」


やはり舐めたようなリンネの物言いに、サラはキレることなく…ただ冷たい目で見た。


しばし見つめ合う2人の魔神。



「何か?」


リンネはさらに笑顔になると、首を傾げた。


「フン」


そんなリンネを見て、サラは鼻で笑った。


それから、サラも表情を緩め、


「こんな話し合いは、無意味だろ?」


「え?」


「相変わらず…喰えないやつだ」


惚けてみせるリンネに、サラは苦笑した。


だが、目の奥は笑っていない。


勿論、リンネもだ。



「何だ?」


2人のやり取りを見て、ギラは眉を寄せた。


カイオウは、ギラの肩から手を離すと、腕を組み目を瞑った。



サラは笑みを止めると、一歩前に出た。


そして、拳を突きだすと、


「我々騎士団長がやるべきことは、魔王にかかっている封印を解き、ライ様をお救いするだけだ!」


グッと握り締めるサラの拳に、血管が走る。


「あら〜。それは、駄目よ」


素っ頓狂な声を上げて、リンネが否定した。


「何だと?」


リンネの言い草に、サラの拳にさらに血管が浮かんだ。


「だって、そうじゃない」


首を何度も横に振り、慌てた素振りを見せながら、リンネの口調は軽い。


「魔王の封印を解いたら、赤星浩一も復活するのよ!大変だわ」


怯える仕草をするリンネを見て、サラは拳が輝いた。


雷撃が放たれ、玉座の間の壁の表面を破壊した。


「あらあ〜大変!魔王に叱られるわよ」


目を丸くして見せるリンネに、サラは笑いかけた。


「魔王を復活させたくはないのか?」


挑発的なサラの言葉に、リンネの顔から初めて笑みが消えた。



「…」


「…」


無言で睨み合う2人。


そんな様子を見て、ギラは頭をかくと、2人の間に割って入った。


「まったく〜。俺の時は抑えやがったくせに」


横目でサラをちらっと見た後、リンネの方に体を向けた。


「例え…赤星浩一が復活したところで、怖じけづく我らではないわ」


ギラはリンネを睨むと、右手を向けた。


「それに、今の話!騎士団長にあるまじき言葉!敵を恐れ!主をお救いせぬとは!魔王軍の恥!」


ギラは、手のひらを開いた。


「貴様に、今の地位は必要ないわ!」


ギラの雷撃が、自分に向けて放たれようとしているのに、リンネは動かない。


ただせせら笑った。


「貴様!」


ギラが雷撃を放とうとした瞬間、サラが右腕を掴んだ。


「やめろ」


サラは力ずくで、腕を下げさせた。


「サラ!邪魔をするな!」


また腕を上げようとするギラに向かって、サラは口を開いた。


「やつは、赤星浩一をそういう意味で恐れている訳でない!」


「何!?」


「やつは…」


サラは、リンネに顔を向けた。


「赤星浩一に会いたくないだけだ」


「何を言っている?」


リンネは、目を細めた。


サラはじっと、そんなリンネを見つめ、


「私にはわからんが…あやつは、赤星浩一に会うのが、怖いのだ」


「何を…意味がわからんことを!」


「あやつの妹…フレアのようになるのが、怖いのだ」

「何をわからんことを!!」


リンネがキレた。


全身が炎で包まれた。


「そんな感情!騎士団長には、無用だ!」


サラは腕を突きだした。



「やめよ!」


その時、リンネとサラの間に、カイオウが割って入った。


2人を睨むと、


「我らは、ライ様の魔神。ライ様の命でのみ動く者!ライ様は、封印される前、我らに命じられた!赤星浩一を討てと!」


ギラも見て、


「それだけが、我らに許されたことだ!」


言葉を告げた。



「く!」


カイオウの言葉に、サラとリンネは攻撃体勢を解いた。


そして、会合は終わった。



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