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赤の王編 第190話 軌跡

「どこだ!どこにいる!」


激しく自然を傷付ける無神経な足音に、誰も注意することはできない。


なぜならば、その者達は力ある存在だからだ。


人が気安く立ち入ることの出来ぬ、深い山々の間を、翼ある魔物達が飛び回る。


「探せ!探すのじゃ!」


竜の顔に、人間の体を持つドラゴンナイトの群れが、空と森の中を探索していた。


「なぜじゃ!なぜ…気を一つしか感じられんのじゃ!」


緑と土…さらに上には、万年雪。


その三色しかないように見える風景の隙間から、魔物達が走り回るのを確認できた。


歳を取ったドラゴンナイトは、隊を指揮しながら、上空より辺りを伺っていた。


「それも、感じる気は…小動物と変わらん!」


白くなった顎髭を触りながら、老ドラゴンナイトは舌打ちした。


見つけたと思っても、野うさぎなどが多い。


「拉致があかんわ!」


上空に浮かぶ老ドラゴンナイトの口が輝き、炎を吐き出そうとする。


「あぶりだすか!」


炎が木々を焼こうとする寸前、森の中から何かが上空に向けて、飛び出してきた。


老ドラゴンナイトはニヤリと笑い、


「かかったな!」


首を回すと、真後ろまでジヤンプした者に、口を向けた。


灼熱の炎が、その者の全身を包み、焼き尽くしたはずだった。


「何!」


放たれる炎を切り裂いて、細くしやなかな足が、老ドラゴンナイトの首筋にヒットした。


「うげえ!」


長い首をくの字に曲げ、苦痛の表情を浮かべた老ドラゴンナイトは、蹴りを放った相手を見た。


「や、やはり…あなたか」


老ドラゴンナイトに蹴りを叩き込んだのは、炎を身に纏った…女だった。


「あ、あなたの属性は…炎…!」


老ドラゴンナイトの全身の穴から、炎が噴き出し、彼の体が燃え出した。


そして、ゆっくりと森に向かって落ちていくが、木々にぶつかる前に、灰になった。


老ドラゴンナイトが燃え尽きると同時に、森を探索していた魔物達が、上空へと飛び出してきた。


女の周りを、百体のドラゴンナイトが囲む。


「見つけたぞ!裏切り者!」


長い睫毛が、女の瞳を隠していた。


表情はわからないが、女は落ち着いているのが、全身に漂う雰囲気が告げていた。


「い、いない!」


ドラゴンナイト達は旋回し、女の周りを探した。


「そんな馬鹿な!」


「赤ん坊はどうしたのだ!」


女の周りを飛びながら、きいてくるドラゴンナイトの質問にも、女はこたえない。


「魔王復活の鍵となる…赤ん坊はどうした!」


「…」


何もこたえない女に、ドラゴンナイト達は腰につけた鞘から、剣を抜いた。


「こたえぬならば!」


「殺すだけだ!」


一斉に、切っ先を向けて、円を狭めてくるドラゴンナイト達にも、女は無表情のままだ。


「死ね!」


無数の剣が、円陣の中心を貫いた…はずだった。


しかし、剣は仲間同士で互いにぶつかり合うだけで、何かに刺さった感触がなかった。


「蜃気楼?」


まるで、影のように揺らめいた女の体は気がつくと、重なった剣の上にいた。


「な!」


ドラゴンナイト達が唖然としてしまっているうちに、女は刀身の上で回転した。


すると、ドラゴンナイト達の首から上が燃え上がった。


女の周りにしたドラゴンナイト達は、そのまま…森に向けて落下していった。


その様子を周りで見ていた他のドラゴンナイト達は、一瞬…たじろいだが、剣を握り直した。


戦いの最中で、恐怖を感じ、逃げ腰になった者に、生き残る資格はない。


「油断するな!あやつは、騎士団長にして、魔王の補佐役であるリンネ様の妹だ!」


「一斉にかかるぞ!」


数百のドラゴンナイトに囲まれても、凛とした姿勢を貫く女の名は、フレア。


かつて、炎の騎士団の親衛隊だった女。


しかし、魔王軍を裏切り…、赤星浩一の仲間になり、彼の為に死んだ女。


そして、死んでもなお…彼の為に戦う女である。


「…」


フレアは無言で、周囲を見つめると、ゆっくりと構えた。


数百体のドラゴンナイト達が、襲いかかってくる。


「待て!」


どこからか、よく通る低い声がして、ドラゴンナイト達の動きを止めた。


フレアだけが、声がした方に目を向けた。


「魔王軍直属の部隊が束になって、1人の女にかかるなど…人間達の笑いものになるわ」


ドラゴンナイト達が空中で道を開けると、1人の魔神が歩くようにフレアに近づいてきた。


「久しいな。フレア!」


3つの目を持ち、炎でできた甲冑を身に纏った魔神。


「…」


魔神は、フレアを知っているようだが…フレアは無言だ。


「蛍火のフレアと言われたお前が、ここまでの業火を纏うとはな!」


魔神の手に、灼熱の剣が握られた。


「しかし、その業火も!百八の魔神の1人ダダの前では、ただの種火に過ぎぬわ!」


ダダの持つ剣が天に向けて、炎を噴き上げた。


「…」


フレアは静かに、構え直した。


「フン!」


ダダは鼻を鳴らし、


「貴様の炎は、我には通じんわ!」


上段に構えた剣を、フレアの脳天向けて、振りおろした。


「あたしは…種火…。それでいい…」


フレアは呟くと、体を横にすることで、剣をギリギリかわした。


「何!?」


目を見張るダダの顎に、スラッと長いフレアの足の先がヒットした。


「この程度で!」


今度は横凪ぎに振るった剣が、フレアの横腹を強打した。



「ク!」


思わず顔をしかめたフレアは、自分のことよりも何かを気にしていた。


「駄目…。来ては駄目」


フレアの目は、眼下に広げる森に向いていた。


「あたしは、大丈夫だから…」



「何をごちゃごちゃと、話しているか!」


ダダの蹴りが、フレアの顔面を蹴った。


「中級の魔物でありながら、リンネ様の妹というだけで、親衛隊に加えて貰ったお前などに!」


「駄目!」


「我が負けるか!」


ダダの苛立ちに反応したかのように、森の中から…何かが飛び出してきた。


「何!?」


ダダの蹴りでふっ飛んだフレアの前に、森の中から信じられないスピードで飛び出してきた黒い影が現れた。


「魔物…いや、人間なのか?」


ダダを睨む影は、黒髪を風に靡かせた十歳くらいの男の子だった。


「餓鬼か…。驚かせやがって」


ダダは、一瞬感じた魔力に動けなくなっていたが、男の子の姿を見て、安堵のため息をついた。


「しかし…人間のガキの癖に…魔法を使えるのか」


ダダはにやりと笑った。


一瞬感じた魔力も、目の前の男の子からはまったく感じなかった。


気のせいだろう。


ダダはそう思い、緊張を解いた。


それが、間違いだった。


命懸けの戦いに於いて、一瞬でも感じたものを見た目で否定した。


それは、魔神の1人であるという奢りだったかもしれない。


男の子は、ダダを睨みつけながら、両手を握り締めるとクロスした。


「いけない!」


フレアが止めようとしたが、時はすでに遅かった。


「よくも、お母様を!」


男の子の拳から、左右三本づつの爪が飛び出してきた。


そして、男の子がその爪を振るうと、 周囲にいたドラゴンナイト達の体に亀裂が走り…スライドするとともに、燃え上がった。


「ば、馬鹿な…」


ダダの体にも、亀裂が走っていた。


「この爪は…ネーナ様のファイヤクロウ…」


そして、左右にスライドしていくダダは、じっと男の子に装備された爪を見ていた。


「女神専用の武器を…なぜ…」


最後まで言葉を発することができないまま…ダダは燃え尽きた。



「お母様!」


振り返り、笑顔を見せた男の子に、フレアは驚愕していた。



(いつのまに…こんな強さを)


つい数ヶ月前までは、赤ん坊だった男の子が、こんなにも大きく…こんなにも強く成長している。


(やはり…この子は、特別…)


フレアは男に近寄ると、ぎゅっと抱き締めた。


「お母様?」


「無茶はしないでね…コウヤ」


フレアはぎゅっと抱き締めながら、改めて誓った。


だからこそ、守らなければならないと。


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