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第186話 違い

「な、何だ?」


体育館の屋根を突き破り、床まで落ちていくカレンは、ブラックカードを発動させると、ふわりと着地するはずだった。


それなのに、グラウンドから吹いてくる風に煽られて、カレンは転けそうになった。


「この風は…」


カレンは床に足をつけて、バランスを整えた後、吹き抜けてくる風を感じた。


濃度が濃い。


「魔力の風!?」


その風の匂いを嗅ぐだけで、カレンは全身が震えた。


また嫌な記憶がよみがえってきた。


「チッ」


そんな自分自身に舌打ちすると、カレンは体育館の床を蹴り、走り出した。


「あたしは、逃げない!」


体育館の扉を、体当たりで開けると、階段になっている入口を飛び越え、コンクリートの道に着地した。


と同時に、右に飛んだ。


グラウンドの方へ。


「ロボットが、破壊されている?」


巨大な足で踏みつけられたように、ぺちゃんこになったガンスロンは左腕と頭だけが、原型を留めていた。


「一体何が?」


素早く状況を判断しょうとしたカレンの目が、理香子の前に立つ人物をとらえた。


「誰だ?」


ブロンドの髪を風に靡かせて、ただ佇むだけの女の後ろ姿を見て、カレンはなぜか…巨大な大木を連想した。


その瞬間、女は振り返った。


柔らかな微笑みをたたえた横顔を見た時、カレンは死んだ母親を思い出した。


「お母様…」


カレンの頭に、母親の記憶がよみがえった。


そんなカレンに、女は口元を緩めた。


「え」


女の瞳が赤く光り、それを映すカレンの瞳から脳に閃光が走った。


カレンは勢いをつけたまま、前のめりに倒れた。


土を抉り、そのまま意識を刈られた。


「これで…邪魔者はいないわね」


理香子の前に立つ女の手には、赤の乙女ケースがあった。


「あなたが作った力を頂く」


女が乙女ケースを握り締めると、ケースは消えた。


「ついでに…あなた自身の力もね」


女は微笑みを増した。




「ソナタが…天空の女神か」


理香子は、前に立つ女を見つめた。


上から落ちてきた女は一瞬で、ガンスロンを破壊した。


そして、何事もなかったかのように、理香子の前に着地した。


着地の瞬間、ブロンドの髪が、ふわり広がった。


理香子に微笑んだアルテミアは、赤の乙女ケースを拾うと、握り締めた。


「月の女神…あんたが、人間に与えた力。すべて、手に入れたわ」


乙女ケースの色が変わる。赤から、黒、黄色、緑、ピンク、青。


そして、白になると消えた。


「…」


理香子は無表情に、乙女ケースを見つめていた。


そんな理香子の反応を確認し、アルテミアはきいた。


「どうしてだ?伝説によると、人間を守る為に、この世界を棄て…人間の為の世界をつくり、月となって人間を見守っていたお前が、どうして人間を殺そうとする?」


「…」


理香子はこたえない。


アルテミアは、軽く舌打ちすると、


「それほど…憎くくなったのか?人間が」



「フッ」


少しの沈黙の後、理香子は笑った。


そして、おもむろに口を開いた。


「…この世界に、あの人の血筋はいない」


「?」


アルテミアは眉を寄せた。


理香子は、ゆっくりと話し出した。


「この世界の人間には…もう…愛情がないの…」


「この世界?」


「あたしと…あの人の子孫は、向こうの世界にいるから」


理香子の言葉の意味を、アルテミアは理解してきた。


「貴様…」


「あたしはもう…本当は、人間なんてどうでもいいの…。なぜなら…あたしの愛した人はいないから」


理香子の瞳から、涙が流れた。


「お、お前!」


唐突の涙を見て、アルテミアが戸惑った一瞬の隙を、ダイヤモンドの剣が斬り裂いた。


アルテミアの肩から腰にかけて、斜めに線が走ると、鮮血が噴き出した。


「あの人を殺した人間が、憎い!」


理香子は、もう一度剣を振るおうとした。


「なめるな!」


アルテミアの指から、雷撃が放たれた。


しかし、ダイヤモンドの盾が攻撃を防いだ。


「防がれた!?」


アルテミアは、後方に距離を取ろうとした。


しかし、いつのまにかアルテミアの後ろに移動した理香子が待ち構えていた。


すらっと長く細い足が鞭のようにしなり、アルテミアの背中を打とうとした。


しかし、理香子の動きを背中で察知したアルテミアは、空中で反転して膝で受け止めた。


「フン!」


理香子の蹴りは、防御したアルテミアの体ごと吹き飛ばした。


「スピードだけでなく…パワーもあるのか」


何とか着地したアルテミアは、理香子の実力を知り、表には出さないが、驚愕していた。


人間の肉体での限界を超えている。


アルテミアは一瞬、人間へのモード・チェンジを解き、本来の女神の力で戦おうかと思ったが、その考えを否定した。


なぜならば、理香子が人間の肉体を使っているからだ。


3つの乙女ガーディアンの力で守られているとはいえ、戦闘服の中身は、紛れもなく人間である。


痺れる膝の痛みを感じながらも、涼しい顔をしたアルテミアは、理香子を見つめ、


「いいのか?お前の体は、人間のままだろ。このまま戦えば…」


「そういう話は、あたしに攻撃を当ててからいいなよ」


理香子は鼻で笑った。


「なんだと!」


アルテミアは軽くキレた。


「それに…あたしのこの姿こそが…あたし自身なの」


理香子は、天を見上げた。


「あの人が知ってるあたしこそが、あたし自身なの」


そして、ゆっくりと顔をアルテミアに向けると、


「月の女神…相原理香子こそが、あたしの名前」


笑いかけた。


アルテミアは、理香子の嬉しそうな顔に見とれてしまった。


幸せそうな笑顔。


しかし、その笑顔はすぐに崩れ去った。


「それなのに!あいつが!あの女が!あたしの幸せを奪った!」


理香子の脳裏に、中島を殺す乙女ブラックの様子がプレイバックし出す。


「許さない!」


理香子は鬼の形相になると、アルテミアを無視して、周囲見回した。


「どこだ!どこにいった!真弓!」


理香子の目には、アルテミアが映らない。


「九鬼真弓!!!」


理香子は絶叫した。


「お前は…」


アルテミアは構えを解いて、周囲を睨む理香子を見つめた。


「ぎえええー!」


その時突然、ガンスロンの攻撃で開いた結界の外から、無数の黒い影が、アルテミア達を囲むように落ちてきた。


「こいつらは」


アルテミアは、影達を横目で睨んだ。


数百はこえる魔物が、大月学園のグランドに降り立った。


「天空の女神!そして、月の女神よ!我が主の命により、貴様達を討つ」


白銀の甲冑に耳を包んだ魔物が、脈打つ剣を突きだした。


「ライの兵か?」


アルテミアは、甲冑の魔物にきいた。


「そうであるが、今は違う。ライ様の留守を預かっておられるリンネ様と、闇の女神のナイトだ」


「リンネ?」


アルテミアの片眉が、はね上がった。


「問答は無用だ!我々とお前達の間にはな!」


魔物達は一斉に、アルテミアと理香子に襲いかかった。






「何なの?」


破壊されたガンスロンのそばで、気を失っていたリオが目覚めた時、目の前は魔物達で溢れていた。


魔物達は、リオを気にはしていないとはいえ…戦う力を失ったリオにとっては、恐怖しかない。


「ヒィィ」


ガンスロンの残骸に隠れて、逃げようとするリオを…後ろから何かが掴んだ。


「え」


リオの体を軽く持ち上げたのは、ガンスロンの左腕だった。


「オ、ネエ…サマ…」


何とか原型を留めていたガンスロンの目が光った。


「タ、ス、ケテ…」


「梨絵!」


リオは絶句した。


ガンスロンは、人間と同じように腕などを使う為に…人間の脳を組み込まなければならなかったのだ。


「ま、まさか…まだ意識が…」


リオが絶句した時、ガンスロンの目が赤く光った。


「ア、アタシ…ニンゲンニ…モドリタイ」


「無理よ!あなたは!」


「オ、ネエサマ…」


ガンスロンの目の光が消えていく。


すべての活動が停止する前に、ガンスロンは最後の動きを脳から腕に伝えた。


「ぎゃああ!」


握り締めた腕が、グランドに落ちた時…ガンスロンは活動を終えた。


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