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第185話 燃える月

「ぎぎぎ…」


機械が軋む音がして、ガンスロンは月を見上げた。


両手を月に向かって、上げた。


「何をしているの!?」


リオが、ガンスロンに向って叫んだ。


「早くなさい!あなたの一撃で、世界を変えるのよ!」


リオの言葉に、ガンスロンは顔を下げた。


そして、両腕も下げると、肩についていた二本の砲台がゆっくりと動きだし、その先を街中に向けた。





「プラチナボンバー!」


哲也の拳が、九鬼の顔面にヒットした。


掴んでいた髪の毛が引き千切られ、九鬼の体はこうを描いて宙に舞うと、頭から地面に激突した。


「始まるぞ!神を超える一撃が!人の手で放たれるのだ」


哲也は歓喜の声を上げた。




ガンスロンの二本の砲台の内、一本が輝き、さらに先端にムーンエナジーが集束されていく。


「さあ!放て!我々人間の新しい力を!」


哲也が興奮している隙に、何とか立ち上がった九鬼は、彼の背中に回り、後ろから羽交い締めにした。


「何のつもりだ」


哲也は振り向き、九鬼の顔を見た。


眼鏡がひしゃげ、片方のレンズが割れ、もう片方もひび割れていた。


九鬼は全身で息をしながら、


「確かにパワーでも、スピードでも、あなたには勝てないかもしれない」


「だったら、大人しく、始まりの一撃を見ておけ!その後すぐに、楽にしてやるからな!」


乙女プラチナの体がまた光り、九鬼を弾き飛ばそうとする。


その瞬間、九鬼は自ら飛び…さらに体を捻った。


「何!?」


哲也は目を見張った。


吹っ飛んだのは、自分だったからだ。


いや、吹っ飛んだというより、投げられたのだ。


「だけど!あたしには、長年の戦いの経験がくれた技がある」


九鬼は、乙女プラチナの光の弾き飛ばす力も利用して、投げ技を仕掛けたのだ。


突然、宙に舞った自分自身が信じられなかった哲也に、隙ができた。


「いくぞ!」


九鬼は地面を蹴ると、ジャンプした。


体を捻り、鞭のようにしなった足が空中で、哲也を蹴った。


「馬鹿め!これくらいの蹴りで、我にダメージを与えられるものか!」


空中でよけることもできず、九鬼の蹴りを喰らったが、哲也に痛みはなかった。


蹴りの勢いで、少し飛ばされたくらいだ。


「無駄な!あがきを!」


空中で、はははっと笑った哲也の顔が変わった。


真後ろから、眩しい光を感じた哲也が振り返ると、 すぐにそばにガンスロンの砲台があった。


「お父様!」


真下で、リオが絶叫した。


「ば、馬鹿な…」


哲也が唖然とした瞬間、ガンスロンの砲台から放たれた光の束は、哲也を直撃した。


何とかプラチナの光を放ったが、ガンスロンの攻撃はプラチナの光を飲み込み…そのまま、前方の町並みに炸裂した。


巨大な光の玉が、結界内にでき、結界内の三分の一の土地を消滅させた。




「そ、そんな…」


九鬼は、乙女プラチナの体を盾にしたつもりだった。


なのに、防ぐことはできなかった。


少しは威力を抑えたかもしれないが、 砂漠のようになった町並みを見ると、まったく意味がなかったことを知った。


「クソ!」


しかし、九鬼に悔やんでいる暇はなかった。


ガンスロンはもう片方の砲台を、建物が残っている方に向けたからだ。


もう砲台の先端は、光っていた。


「これ以上は!」


九鬼は走り出した。


「お父様…」


両膝を落とし、崩れ落ちているリオのそばを駆け抜け、九鬼は砲台の先に向けてジャンプした。


「月よ!あたしに力を!」


ムーンエナジーが集束する砲台の先端まで、飛び上がった九鬼は戦闘服を脱ぎ捨てた。


「乙女ブラックのすべての力で!」


戦闘服は丸く塊になると、今度は風呂敷のように広がった。


反射版。


九鬼が作ろうとしたのは、それである。


月のムーンエナジーでコーティングすれば…同じムーンエナジーを纏っているガンスロンのエネルギー波を、反射できるはずだ。


跳ね返すまではいかなくても、軌道くらいは変える。


九鬼が、反射版となった戦闘服を調整する間もなく、二発目は放たれた。


「頼む!」


九鬼の全身を軽く包む程の…巨大な光の束は、思惑通り少し軌道を変えることはできたが、防ぐことはできなかった。


エネルギー波は、建物の十階以上を消滅させたが、民家の上を飛んでいき、結界に激突した。


結界を貫通すると、そのまま空に消えていった。


結界にできた穴は、すぐに塞がった。


エネルギー波が直撃した反射版も、すぐに消滅した。


学生服に戻ってしまった九鬼は、直撃しなかったとはいえ、空気を切り裂く光の束の余波を受け、空中で吹っ飛んだ。


咄嗟に受け身をとったとはいえ、地面で全身を強打した為、動けなくなった。


少し離れたところに、ムーンエナジーを使いきったブラックの乙女ケースが落ちて、転がった。


「少しは…守れたか」


全身が痛みで麻痺していた。


乙女ケースを掴みたかったが、手が動かない。


「まだ…終わっていない」


普通の人間なら、即病院送りだろう。


「こ、これくらい」


九鬼はまだ止めるわけには、いかなかった。


乙女ケースに手を伸ばそうとする九鬼の目に、走り寄ってくる人影が映った。


顔を上げることはできないから、近寄ってきた人物がしゃがんで、乙女ケースを掴むまで、誰かわからなかった。


「阿藤さん!?」


九鬼は、驚いた。


そんなところに来れる女の子と思ってなかったからだ。


乙女ケースを拾い上げた美亜に、九鬼は叫んだ。


「阿藤さん!危ないわ!それをこっちに投げたら、すぐに逃げて!」


美亜はコクッと頷いたが、黒の乙女ケースを九鬼に投げることなく、背を向けると校舎の方に走り出した。


「阿藤さん?」


九鬼は驚いた。


「阿藤さん!そのケースを!」


しかし、美亜は止まることはなかった。


九鬼は目で、遠ざかっていく美亜を見送ることしかできなかった。


「阿藤さん…」


九鬼の声は、ガンスロンの稼働音にかき消された。


攻撃を邪魔されたガンスロンは、機械なのに咆哮した。


怒りを吐き出すように、獣のように鳴いた。


機械の体で。



「どうして…」


九鬼は何とか起き上がろうとするが、まだ動けない。


「おのれ!九鬼真弓!よくも、お父様を!」


怒りの形相で、九鬼に向かってくるリオ。


「お前の死をもっても!償えるものか!」


ダイヤモンドの拳を輝かせ、動けない九鬼に攻撃しょうとした。


しかし、突然後ろから足を払われ、リオは転んだ。


「な!」


驚くリオの後ろに、額から血を流すカレンがいた。


「お前は邪魔だ!」


首からかけたクロスの赤い碑石に指を添えると、ピュアハートが召喚された。


「モード・チェンジ!」


カレンが叫ぶと、姿が変わった。


ピュアハートは、刀身から喰らった相手の能力を使うことができるのだ。


光が、カレンを包み…トリケラトプスに似た姿に変わった。


「カレン・アートウッド!」


立ち上がるリオに、巨大な二本の角を向け、襲い掛かる。


「な、何だ!この魔物は!」


突然目の前に現れた魔物に、絶句したリオは、音速をこえた体当たりに、グラウンドを囲むネットまで、跳ね飛ばされた。


魔物の姿になったままでカレンは、ガンスロンに向かう。


パンと空気の壁を破る音がして、ガンスロンに角を突き刺したはずだった。


しかし、ガンスロンの腕もまた音速をこえたようで、ドリルのように回転した右手が、カレンの体当たりとぶつかった。


「く、くそ!」


吹っ飛んだのは、カレンの方だった。


全身を包み、魔物の体を構築していたピュアハートの光が消え、カレンは九鬼のそばまで戻された。


「化け物が!」


カレンは、ピュアハートを握り締め、今度は剣で迎え撃とうとした。


「待って!」


走り出そうとするカレンを、九鬼が止めた。


「あたしも…いく」


何とか立ち上がった九鬼は、ガンスロンを睨んだ。


「やめておけ」


カレンは九鬼を見ないで、ピュアハートを横に突きだして、進路をふさいだ。


「常人ならば、即死。運がよくても、全身複雑骨折してるはずのあんたが、行ってどうするつもりだ?」


カレンはため息をつくと、


「あんたは、よくやったよ。だからもう…」


「あたしは、この学園の生徒会長!そして、人々を守る月影!」


九鬼は全身に力を込め、


「例え、この身がボロボロになろうと!この身に、魂があるかぎり戦う!守るべき人々がいるかぎり!あたしは、戦う!それが、あたしだ」


九鬼はよろけながらも、ピュアハートの切っ先の横を通り過ぎていく。


その目は、真っ直ぐにガンスロンを睨んで。


その鋭い眼光に気付いたのか…ガンスロンが、九鬼の方を向いて、また吠えた。


「待っていろ…今、行く」


ボロボロの体で、ガンスロンに向かう九鬼の後ろ姿を見て、カレンは声をかけた。


「待って!」


その声に、九鬼は足を止めた。


「その体では、無駄死にするだけだ。これを使え!」


九鬼が振り返ると、カレンは何を投げた。


九鬼の手元に吸い付くように投げられたものは、赤の乙女ケース。


「これは!?」


九鬼は目を見張った。


「あたしには、こいつは無用の力…」


カレンも歩きだし、九鬼の横で止まると、


「それに、こいつは…装着者の体を回復する力もあるんだろ?」


「フッ…」


九鬼は笑うと、


「ある程度だけどね」


乙女ケースを握りしめ、


「それでも、十分だ!」


「行くぞ」


カレンは、前を見た。


九鬼は乙女ケースを突きだした。


「装着!」


2人の前にいるガンスロンは、再び…砲台にムーンエナジーを集めだした。


「させるか!」


九鬼とカレンは同時に叫ぶと、ガンスロンに向かって走り出した。


赤い戦闘服を身に纏った九鬼は足下を、カレンは頭上を狙う。


「乙女レッドの特質は、力!怒れば、怒るほどパワーが上がる!」


回転する円盤状のガンスロンの足下に、九鬼は飛び込んだ。


吹き付ける突風も、九鬼の動きを止められない。


「うりゃあ!」


ジャンプすると、拳を回転しない中央に突き刺した。


そして、力を込めると、ガンスロンの巨体を揺らした。


「斬る!」


カレンはピュアハートを回転させると、ブーメランのようにガンスロンの砲台に向けて放った。


少し傾いたガンスロンの巨体に、ピュアハートが舞った。


発射しょうとしていた二本の砲台がスライドし、グラウンドに落ちた。


「やったか!」


砂煙が舞う中、九鬼は腕を抜くと、ガンスロンの下から抜け出した。





「無駄だ」


その様子を見ていた兜がほくそ笑んだ。




「何!?」


砲台を失って、発射できなくなったと思っていたカレンは、ピュアハートを掴み、グラウンドに着地した瞬間、絶句した。


ガンスロンの両肩から、放射状に光が放たれ、空を焼いていたのだ。




「撃て!撃ちまくれ!」


兜は叫んだ。


「予定は違ったが…これで、私は帰れる!」


「成る程…」


歓喜の声を上げて、上空を見上げる兜に後ろから近づく影。





ガンスロンは自らの肩を焼き尽くす程のエネルギー波を放射し続けた。


結界が割れ、大月学園の空を破壊した。




「大勢の人の命を媒介にし、女神の一撃に匹敵する力を酷使することで、時空間の壁を壊したのか?」


後ろからの声に、兜は振り返った。


黒髪を靡かせた少女を見つめた。


「君は?確か…阿藤さん?」


兜は目を細めた。


いつもの美亜の口調ではない。


威圧的で、妙な落ち着きがある。


「人間を騙し…闇も騙したのか?」


美亜は目を凝らし、大月学園一帯を囲む結界を見つめた。


兜は目を見開き、美亜に体を向けた。


「お前は…何者だ?」


美亜は鼻を鳴らし、


「あたしが、何者かはどうでもいい。問題は、お前がやっていることだ」


美亜はガンスロンを見つめ、


「本当ならば…この結界内を、このまま…向こうと入れ変えるつもりだったのか?」


兜は息を飲み込んだ。


「あんな機械と…闇に侵された者達を連れて…自分の世界に…」


美亜は横目で、兜を睨んだ。


美亜の眼に、恐怖を感じた兜は後ずさった。


しかし、すぐに屋上の網に、背中が当たった。


「だ、だからこそ!結界内の者をガンスロンで皆殺しにする予定だった!そ、それに!向こうと入れ代わるのは、一瞬だ!私が、結界内から脱出したら、すぐにまた元に戻るはずだったんだ!」


兜の言葉に、美亜は目を細めた。


そして、ゆっくりと歩き出すと、


「昔…ある男がいた。その男は、無理矢理…異世界に連れて来られたにも関わらず…この世界の人々を守る為に戦い…散っていった」


網の隙間から、ガンスロンを見つめた。


「わ、私は…帰りたいだけなんだ!この世界から、元の世界にその為には、神の力がいる!だから、私は!」


「闇と契約したのか?」


美亜は、口調を強めた。


「!」


兜は顔を強張らせると、網を伝い、美亜からゆっくりと離れていく。


「やつらは…闇の女神を復活させたい。その為には、闇の心を芽生えさせなければならない」


美亜は、兜を見ない。


「月影バトルのもう1つの真実が、それか…」


「こ、この土地は…月の女神の由来の地だ!月の力と、闇の力が交わる土地!だから!」


「だから、何だ?」


突然、兜の前まで移動した美亜は、顔を近づけて睨んだ。


美しい顔だが、その眼光の鋭さは、兜の動きを止めた。


美亜は口許を歪め、


「お前も、犠牲になれ」


「な!」


兜の胸に穴が開いた。


「よかったじゃないか。空間が繋がったのは…空。魂なら、飛んでいけるんじゃないか?」


美亜の眼鏡の奥にある瞳が輝くと、兜の後ろの金網が吹き飛んだ。


兜の体もまた、地上に落ちていく。


「お前は…一体?」


屋上から、落ちる兜の目に、美亜の姿が映った。


先程までの黒髪が嘘のように、目映い金髪に変わっていた。


「ブ、ブロンドの…」


兜は落下していた。


「女神…」






「空が割れた?」


ガンスロンの下から、飛び出した九鬼は、エネルギー波によりひび割れた空を見上げていた。


そんな九鬼の姿を見たガンスロンが、傾いていた巨体を動かした。


「オトメ…レッド…」


「え?」


九鬼は、その声を聞いたような気がして、視線をガンスロンに向けた。


巨大な左手が、九鬼に向かって伸びて来る。


「九鬼!」


ピュアハートを握ったカレンが、ガンスロンの左腕を蹴った。


「ぼおっとするな!」


カレンの激に、はっとした九鬼が構え直そうとした時、後ろから何かが落下した鈍い音がした。


振り返ると、人が落ちていた。


九鬼は、その人に見覚えがあった。


「兜博士!」


慌てて駆け寄った九鬼は、倒れている兜を抱き上げた。


「バチが…当たったよ…」


そう言うと、九鬼の腕の中で、兜は笑いかけた。


「どうしたんですか!」


九鬼の問いに、兜はこたえなかった。


ただ涙を流し、


「帰りたかった…」


「兜博士」


「ぐわっ!」


兜は血を吐き出し、話すことができなくなった。


「すぐに…手当てを」


兜は首を横に振った。 そして、血で口の中をいっぱいにしながらも、何とか最後の言葉を吐き出した。


「…闇に…堕ちるな…」


それが、兜の最後の言葉になった。


「兜博士!!」


九鬼の腕の中で、兜は息を引き取った。


その魂が、帰れたかはわからない。


「く!」


顔を背け、悲しみを抑える九鬼。


今は、泣いている場合ではない。


九鬼は、兜を地面に横たえると、立ち上がった。


ガンスロンと格闘するカレンの姿が、目に映った。


ガンスロンの背中のミサイルポットが開き、再びミサイルを発射した。


「させるか!」


カレンは、ピュアハートを回転させると、ミサイルポットに向けて放った。


発射間近のバラける前のミサイルの束を斬り裂き、爆破で誘爆を狙ったが、一部ミサイルは爆発の中から飛び出した。


「しまった!」


カレンが再びピュアハートを投げる前に、町並みに向かうミサイルを、無数の光のリングが追尾し斬り裂いた。


建物に当たる前に、空で爆発するミサイルを、美亜は横目で見つめていた。


「うん?」


その目が、爆発の華が咲いている空に目もくれずに、悠然と歩く女の姿をとらえていた。


「月の女神か…」


美亜は目を細めると、鼻を鳴らした。


「フン。お前には、同情はするが…」


美亜が屋上から見下ろす中、月の女神は九鬼の前で足を止めた。



「理香子…」


唖然とする九鬼を、理香子は冷ややかな目で見つめると、


「装着」


低いトーンで呟くように言った。


学園の上で輝く月が、輝きを増した。すると、月から一条の光が落ちてきて…理香子の体を包んだ。


「クッ」


九鬼は目を細めた。


目映い光は一瞬だった。


理香子の体を、淡い月の光でできた戦闘服が包んだ。


「こ、これが…」


九鬼は、理香子の姿を見て…目を見張った。


「乙女ゴールド!?」



「り、理香子!?」


倒れていたリオが、乙女ゴールドの姿を見て、絶句した。


理香子は、リオを見ることなく、


「あなたに、乙女ダイヤモンドの資格はないわ」


そう言うと、


「え!?」


リオの体を包むダイヤモンドの戦闘服が消えた。


理香子が右を突きだすと、ダイヤモンドの乙女ケースが現れた。


左手には、いつのまにか…プラチナの乙女ケースが握られていた。


「理香子!?」


驚き、駆け寄ろうとしたリオを、理香子はちらっと一瞥すると、リオはふっ飛んだ。


「!!」


そんな2人のやり取りをただ見ていた九鬼は、どうしたらいいのか…わからなかった。


「理香子…」


ただ理香子を見つめるしかなかった。


「今日が…あなたの命日よ」


ゆっくりと近づいてくる理香子の手にある2つの乙女ケースが輝き、形を変えた。


ダイヤモンドの剣とダイヤモンドの盾。


プラチナのブーツ。


理香子は、剣を九鬼に向けた。


すると、九鬼の体を包んでいた戦闘服が消えた。


「な!」


再び激痛が戻り、九鬼は膝から崩れた。


足下を赤の乙女ケースが、転がった。


「この力は…あたしが人間に与えたもの。あたしに、歯向かうことはできない」


「九鬼!」


ガンスロンと格闘しているカレンが、叫んだ。


「さよなら…真弓」


理香子は、ダイヤモンドの剣先を九鬼に向けた。


「理香子!」


九鬼は、理香子の顔を見上げた。


理香子は躊躇いもせずに、一気に九鬼の額に向かって、剣先を突き刺した。


いや、突き刺さらなかった。


「な!」


理香子は手応えのなさに、驚いた。


ダイヤモンドの剣は、何もない闇を貫いていた。


「おのれえ!逃がしたか!」


理香子は剣を握り締め、わなわなと震えた。


「九鬼!?」


ガンスロンに気をとられて、カレンは九鬼が消えた瞬間を見ていなかった。


「いない?」


ちらっと確認すると、理香子の前に九鬼がいない。


「どこにいった?」


気をそらしたカレンに向けて、ガンスロンは左手を突きだした。


手のひらから、巨大な毒針が飛び出した。


視線の端で、毒針に気付いたカレンはピュアハートを盾にして、切っ先を受け止めた。


しかし、毒針の勢いがピュアハートをしならせ、カレンの体をふっ飛ばした。


グラウンドに隣接する体育館の屋根に激突した。


「うおおー!」


ガンスロンは咆哮すると、近くに立つ理香子に気付いた。


そして、右手を付け根から回転させるとドリルと化し、理香子に向けて突きだした。


「哀れな子…」


理香子は、ガンスロンを見ることなく、呟いた。


ドリルと化した右手が、理香子に当たる寸前、 雷鳴が轟いた。


空気が震え、ガンスロンが開けた時空の扉がひしゃげた。


「!?」


九鬼と向き合う時以外は、表情を出さない理香子の表情が歪んだ。


爆音を出す暇もなく、破壊されたガンスロンは原型を留めていなかった。



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