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第184話 銃刀機神

「九鬼さま〜あ!」


神妙な面持ちで、廊下を歩く九鬼は、前から走ってる美亜を確認し足を止めると、表情を和らげた。


昨日、兜が告げた言葉が気になるが…だからと言って、学園の生徒には関係ない。


あくまでも、柔和に対応するように心掛けていた。


「昨日はありが」


言葉の途中で、何もない廊下でつまずいて転んだ美亜は、顔から落ちた。


受け身と言うものを知らないのだろうか。


「いてててて…」


「大丈夫?」


九鬼は慌てて近付くと、手を差し伸べた。


「だ、大丈夫です」


九鬼の腕を掴み、何とか立ち上がった美亜の顔にかかっていた眼鏡が落ちそうになっていた。


片耳と高い鼻で支えられて、何とかついている眼鏡を見て、九鬼は思わず苦笑した。


「あわわっ!」


九鬼に笑われたと思い、急いで身を整えようとするが、気が動転しているからか…肝心の眼鏡に気づかない。


「眼鏡が外れていますわ」


九鬼は優しく、手を伸ばし…眼鏡をなおしてあげようとした。


しかし、突然…九鬼は息を飲んだ。


眼鏡を外したら、美亜が美少女とあることは知っていた。


だけど、美亜と目が合った瞬間、九鬼は背中に悪寒が走るのを感じた。


体が危険と判断している。


だけど、目から見える直接的な情報は…人畜無害の美亜である。


なのに、目から情報を得た…第六の感覚が危険を告げていた。


「あ、ありがとうございます!!」


動けなくなっている九鬼から、後ろに滑るように離れると、美亜は眼鏡の位置をなおした。


「うん?」


美亜の変化に気付いた脳が、眉だけを寄せさせた。


「阿藤さん…」


「何ですか?」


九鬼の神妙な表情に、美亜は首を傾げた。


「眼鏡…変えた?」


いつもの牛乳瓶の底のような分厚いレンズをつけた眼鏡には変わりはないが、


眼鏡のフレームの色が違った。


緑だったのだ。


「はい!」


美亜は、屈託のない笑顔を見せた。


「ちょっと変えてみました!」


元気よく立ち上がり、笑顔を向ける美亜の眼鏡の奥にある瞳を、九鬼は観察しょうとした。


「阿藤さん…」


しかし、そんな余裕はなかったのだ。


突然、朝が終わったからだ。


「な!」


眩しいばかりの朝の木漏れ日が消え、真っ暗になった廊下で、九鬼は反射的に窓の外を見た。


九鬼の視線が外れた瞬間、にやりと口元を緩めた美亜は、


「こ、こわいです!」


パニックになったかのように、廊下を走り出した。


「阿藤さん!?」


その声に気付き、九鬼が視線を戻した時には、背中を向けて全力で走る美亜の姿が遠ざかっていた。


「チッ」


すぐに追いかけようとしたが、今度は後ろから声をかけられた。


「会長!」


振り返ると、副会長の桂美和子が慌てて駆け寄ってくるのが見えた。


「どうしたの?」


九鬼は美亜を諦め、美和子のように体を向けた。


「突然のことで、早くも一部の生徒がパニックになっています!至急指示を!」


「わかりました!」


各クラスの電気がつき、何とか廊下も明るくなった。


放送室に向かおうと走り出した九鬼は、さらなる怪異を確認した。


「月が…赤い?」


校舎と校舎をつなぐ渡り廊下から、見上げた月が…血を吸ったように真っ赤になっていたのだ。


思わず足を止めそうになる九鬼に、前を走る美和子が叫んだ。


「会長、早く!」


九鬼は、上空にある月から強力なムーンエナジーを感じていた。


それは、月影である九鬼の体を照らし、異様な力を与えていた。


(何だ?このムーンエナジーの量の凄さは!?)


まるで、九鬼に戦えと言っているように思えた。


「会長!」


美和子が急かす。


仕方なく美和子とともに、九鬼が向かった場所は放送室ではなかった。


「美和子さん?」


九鬼は途中で気付いたけど、美和子の後をついていくことにした。


なぜなら、彼女は優秀な生徒会副会長だからだ。







「何だ?」


異様な力を感じたカレンは、教室から飛び出した。


その力は、月からだけではない。


まだ微力だが、学校内からも漂っていた。


それは、強力なムーンエナジーを隠れ蓑にして、姿を見せようとしていた。


まだ月影としてシンクロ率が低いカレンには、ムーンエナジーに騙されることなく、もう1つの力を見抜くことができていた。


その力は、学園の一番隅から漂っていた。


校舎を飛び出し、各教室からもれる明かりに照らされたグラウンドを疾走する。


「この力は…プールの方から?」


屋外にある巨大プールは、新しく体育館のそばに作られた室内プールの登場により、使われることはなくなっていたはずだ。


立ち入り禁止になっているプールの入り口に、誰かが立っていた。


「やはり…あなたね」


近付いてくるカレンを認識した女は、ゆっくりと腕を突きだした。


「カレン…アートウッド!」


「お前は!」


プールの前にいたのは、リオだった。


「装着!」


「チッ!」


ここで普通ならば、月影の力を使うはずなのだが、カレンが選んだのは、生身の肉弾戦であった。


「ここで、何を企んでいる」


ジャンプすると、空中で身を捻り、蹴りを繰り出す。


しかし、乙女ダイヤモンドになったリオは片手でガードした。


「昨日のような…へまはしない」


リオはカレンを睨むと、腕の力だけでカレンの足を弾き返した。


カレンは一回転すると、地面に着地した。


「カレン・アートウッド!」


リオは拳を握りしめ、


「あなたには借りがある」


少し間合いをつめた。


「妹の眼鏡を奪った為に、妹は月影の力を失った!だから!」


突然、プール内に残っていた水が弾け飛んだのが、塀越しでも確認できた。 大量の水飛沫が、空に舞う。


「妹は…」


リオは一瞬、肩をおとして見せた。


「梨絵は…さらなる力を得ることができたのだ」


それから、にんまりと笑った。


「何!?」


地響きとともに、リオの後方…プールの底を突き破り、 強大な機械の腕が飛び出して来たのだ。





その時、学園全体が揺れた。


「な、何?」


生徒達が驚いて、プールの方を見ようと窓に集まった瞬間、みんな…気を失った。


赤い月から出ているのは、ムーンエナジーだけではなかった。


催眠作用でもあるのだろう。


気を失い、その場で倒れた生徒の中で、何人かはその場で立ち上がり、どこからか取り出した黒いマスクを被った。


そして、倒れている生徒を踏みつけながら、廊下へと飛び出した。



「さて…始めようか」


その廊下の一番端に、腕を後ろ手で組んだ哲也が立っていた。


「すべての実験が最終段階へと入った」


哲也が歩きだすと、黒マスクを被った生徒達が左右に別れ、道を作る。


そして、哲也が追い抜くと順番に、後ろに続いていく。


「月の力を、我らに!」


哲也は後ろ手で組みながら、口元に笑みをたたえた。



そんな哲也達の行進に加わらずに、1人…窓枠に腰掛け、手に持つ日本刀の刀身を月明かりに照らしている女がいた。


彼女の名は、十夜小百合。


「九鬼真弓。お前を倒すのは、おれだ!つまらんやつらに、やられるなよ」


刀身が赤く輝く。


「この月牙正宗で、貴様を斬る!」


十夜は、刀身の斬れ味を早く確かめたかった。







「鉄の腕!?」


唖然としているカレンに、リオの拳が襲いかかる。


「よそ見をしている場合か!」


しかし、カレンは簡単にリオの攻撃をよけた。


「チッ」


舌打ちしたリオは、拳を握り締めた。


「ちょこまかと!」


怒りに狂いそうになるリオよりも、カレンはプールの底から姿を見せようとするものに、嫌な感覚を覚えていた。


「あれを…出さすわけにはいかない!」


カレンは胸元から、プロトタイプブラックガードを取り出すと、


「雷帝の雷!」


久々に魔力を使った。


突然結界内に現れた雷雲から、雷が鉄の腕に落ちた。


本で得た知識で、機械で作られたものは、強力な電気に弱いとカレンは知っていた。


しかし、表面に電気が走っても、腕の動きは止まらない。


「何!?」


まったくダメージを受けていない腕を見て、カレンは驚いた。




「無駄だ」


プールに一番近い特別校舎の屋上から、その様子を見下ろしていた兜は鼻を鳴らした。


「あいつに、そんな攻撃は通用しない。特に、実世界でも想定される攻撃など…銃刀機神ガンスロンには効くはずがないわ」





「なめるな!」


さらに強力な魔法を発動しょうとしたカレンの死角から、リオの拳が迫ってくる。


「あたしを無視するな!」


「邪魔だ!」


カレンは、風の魔法を発動し、リオの足に絡み付けると、バランスを崩さした。


転ぶリオを確認することなく、カレンは空に飛び上がる。


「魔法が効かないならば」


胸の十字架に手をそえると、ピュアハートを召喚させた。


「ぶった斬る!」


プールの頭上まで飛翔したカレンが、剣先を鉄の腕に向けた時、信じられない方向から、巨大なものが地面から突きだしてきた。


それは、ガンスロンのもう一本の腕だった。


巨大な拳が後ろから、カレンの背中…いや、全身を強打した。


簡単に吹っ飛んだカレンは、グラウンドを囲む柵をも飛び越え、近くの民家に激突した。


その瞬間、プールを突き破り…ガンスロンはその姿を学園にさらした。







「美奈子さん…ここは」


九鬼が連れてこられたのは、放送室ではなかった。


プールから一番遠い…南館の屋上だった。


頭上に浮かぶ赤い月が、異様に輝いていた。


「放送室に行っても意味が、ありませんから」


美奈子は、九鬼と少し距離を開けると微笑んだ。


「だって…生徒達のほとんどは、眠っていますから」


「何ですって?」


九鬼は美奈子から、あり得ないものを感じていた。


殺気だ。


「私達…防衛軍に所属する者以外は、眠って頂きました」


思わず構えた九鬼に、さらに笑いかけると、言葉を続けた。


「だけど、それは…生徒達の為なんですよ。何も知らずに、死んでいけるんですから!」


「美奈子さん!」


美奈子の目が、スゥと細められていく。


「生徒会長。あなたは、生徒会長としては優秀で、尊敬しております。だけど…防衛軍の立場からしましたら、単に邪魔な存在なだけ」


美奈子の瞳が、赤く輝いた。


「月の女神は、我々と契約した。月の力を与えてくれると」


そして、ゆっくりと間合いを詰めてくる。


「その代わり…条件を出して来たわ」


美奈子の全身の筋肉が、躍動する。


「九鬼真弓!あなたを殺せとね」


「!?」


一瞬にして、間合いを詰めた美奈子の手刀が、九鬼の首筋を切り裂こうとする。


しかし、ブリッジの体勢でそれを構わした九鬼は、逆に跳ね上げた足で美奈子の首筋を狙う。


「フッ」


美奈子は左腕でガードすると、力任せに九鬼の足を払った。


その勢いを利用して、九鬼は手を地面につけると、回転して立ち上がった。


その瞬間、美奈子の手刀が九鬼の顔面を狙う。


咄嗟に首を曲げて、手刀をかわしたが、頬が切れた。


鮮血を飛ばしながら、九鬼は右にジャンプして間合いを取った。


「こ、この力は!?」


明らかに、今までの美奈子の動きではない。


「どうしました?早く乙女ブラックに、変身しないのですか?」


美奈子は笑った。


さらに、瞳を赤く輝かせながら。


「美奈子さん…あなた」


九鬼は、美奈子の瞳に違和感を覚えていた。


そこから、溢れているのは…紛れもなく、ムーンエナジーだったからだ。


「気づいたかしら?私の目を!」


美奈子はにやりと笑った。


「コンタクトをつけているのよ。でも、それは…ただのコンタクトではないわ」


そして、上空の月を見上げた。


「これは…あなたがつける眼鏡のレンズと同質のもの。このコンタクトを直接目につけることにより、肉体そのものを、強化できる!」


「美奈子さん…」


「その力は、乙女ソルジャーに匹敵する!」


美奈子は、生身の九鬼に襲いかかってきた。


「そのコンタクトが、量産化されれば!人類の戦闘能力は、格段に上がる」


「…」


無言になった九鬼は、一瞬で目の前まで移動してきた美奈子の拳を、しゃがんで避けた。


そして、美奈子の腕の中に入ると、自然の動きで立ち上がり、肩を軽く美奈子の体に当てると、そのまま風車のように、美奈子を投げた。


今の一連の動きに、力は殆ど使っていない。


「舐めるな!」


着地する瞬間、背中からの激突を避けようと、美奈子は足から床についた。


その動きがいけなかったのだろう。


すぐに立ち上がり、九鬼に攻撃を仕掛けようとしたが、美奈子はバランスを崩し、床に膝をついた。


「え」


目を見開いた美奈子は、やっと…自分の体に起こった変化を知った。


「足が折れている」


美奈子の右足首が骨折していた。


九鬼は、膝をついている美奈子を見下ろし、


「今の投げは、あたしの力は使っていない。あなたの力が、足にかかったのよ」


「ば、馬鹿な…」


立ち上がろうにも、足首に激痛が走り、無理だった。


九鬼は、哀れみの目を向けた。


「月影の力で、身体能力は上がっても…肉体そのものが強化される訳ではないわ」


「き、貴様!」


美奈子は九鬼を見上げ、睨んだ。


「だから…あたし達は、己の肉体を鍛える。それでも、補えないから…戦闘服を身に纏うのよ」


九鬼はゆっくりと美奈子に近づくと、目の前で止まった。


「ごめんなさい」


ノーモーションからの見えない蹴りが、美奈子の顎先をかすった。


その瞬間、脳を揺らされた美奈子は気を失い、前のめりに倒れた。


「美奈子さん…」


九鬼が美奈子を見下ろしていると、突然屋上に多数の人が飛び込んできた。


と同時に、プールから鉄の腕が飛び出したのだ。


九鬼は、屋上に現れた黒マスクの集団に一瞥をくれると、プールから出た鉄の腕の方に、体を向けた。


「九鬼真弓」


黒マスクの集団の中から、哲也が姿を見せた。


一番前に出ると、九鬼の背中を見つめ、


「君は、優秀だ。しかし、優秀過ぎる者は…時に、人の世界では排除される」


後ろ手で腕を組み、ゆっくりと顎を上げ、不敵に笑った。


「それが、君のような人間だ」


哲也の言葉の途中、九鬼は振り返ることなく、前にジャンプした。


何もない空間に向けて。


「何!?」


屋上から、何の躊躇いもなく飛び降りた九鬼の行動は、哲也には予想外だった。


「装着!」


空中で叫んだ九鬼の体を、黒い光が包む。


真下の地面にほぼ着地と同時くらいで、九鬼は乙女ブラックに変身した。


そして、コンクリートの地面を蹴ると、猛スピードでプールに向けて走り出した。




「行くのか…」


その様子を、特別校舎の屋上から、兜が見つめていた。




「何が起こっている!?」


鉄の腕に雷が落ち、辺りが一瞬だけ目映い光に包まれた。


反射的に、目を守る為に目を瞑ってしまった九鬼。


しかし、その瞼の裏から、九鬼は見ていた。


光の行方を。


すると、雷鳴に紛れて、別の冷たい光が一閃するのをとらえた。


九鬼の無意識は、瞼の裏でとらえるよりも速く、九鬼の足に回避行動をとらせていた。


「何!?」


死角から、刀を振るった十夜は、雷鳴に隠されたこともあり、百パーセントかわされることはないと確信していた。


しかし、九鬼はかわしたのだ。


「やるな!」


その動きは驚きよりも、歓喜の震えを十夜に与えた。


「流石!九鬼真弓」


十夜は足を前に踏み込むと、手で刀を回転させて刃を反対にすると、横凪ぎに払った。


ほぼ同じ軌道を、先程より深く刃が通った。


「しかし!我は、パワーアップした!十夜小百合改め!十六…」

「邪魔だ!」


九鬼は一撃目を避けた体勢のまま、刀が水平になっているのを目で確認すると、爪先で刃の表面を蹴り上げた。


「な!」


刀が、しなった。


十夜改め十六は驚愕した。


目にも止まらないはずの刃の動きを見切っただけでなく、蹴りのタイミングを合わせるなど…神業だった。


タイミングが早ければ、足が切断されていただろう。


「フン!」


鞭のようにしなった蹴りは、刀が想定していない方向に負荷を与えることになった。


「馬鹿な!」


簡単に刀は折れた。


「どけ!」


折れた刀身が宙に舞うのを確認せずに、九鬼は手刀を十六の首筋に差し込んだ。


「うぐぅ!」


喉は生身だった為、十六は痛みよりも呼吸艱難に陥った。


膝から崩れていく十六を、もう九鬼は見ていなかった。


その目は、プールから姿を現した巨大なロボットをとらえていた。


「嫌な予感がする!」


走り出そうとする九鬼の背中を崩れ落ちながらも、十六は睨んでいた。


(おれを無視するな!)


声にならない叫びを上げると、十六の肘から下の両腕が外れた。


そして、猛スピードで九鬼の足と首に向かって飛んでいく。


しかし、その両腕は九鬼にたどり着くことはなかった。


突然現れた二つのリングが、両腕を切り裂いたからだ。


(な!)


十六は目を見張った。


光のリングは、一瞬で移動し…十六の体をも切り裂いた。


(こ、こんな技を…いつのまに)


十六の腕が飛び、リングが切り裂くまで…ほんの数秒の出来事だった。


十六の膝が、地面につくと同時に、体から鮮血が飛び散った。


(流石…我が好敵手)


十六は微笑みながら、前のめりに地面に倒れた。





「あははは!」


カレンがふっ飛ばされたのを見て、リオは腹を抱えて嬉しそうに笑った。


プールを突き破り、18メートルもの巨体を現したガンスロンは、腰の部分に当たる巨大なリングを回転させると、数メートル浮かび上がった。


ホバークラフトのように、上から吸い込んだ空気を、巨体の下に吹き込みことで浮力を得ているだけでなく、リングの回転力。 さらに、竜族の翼を背中につけることにより、ガンスロンは安定して、空中で止まることができているのだ。


しかし、巨体のそばでは、風が吹き荒れていた。


現れた瞬間は、グラウンドに軽く砂嵐が起きた。



九鬼は突風に目を細めながらも、ガンスロンに近づこうとした。


その時、ガンスロンが動いた。


「手始めに…世界に挨拶するのよ!」


リオの声に呼応して、ガンスロンの目が光ると、腰の上にあるミサイルポッドが開き、そこから無数のミサイルを発射した。


「な!」


ミサイルは無軌道に、ガンスロンを中心にして360度…あらゆる場所に被弾した。


大月学園の周りの建物が、爆発して破壊された。


まるで、一斉に花火が上がったように、結界内に火花が爆音とともに上がった。


「くそ!」


ミサイルの一発は、大月学園内にも落ちた。


幸いにも校舎には当たらなかったが、グラウンドと中庭の境に被弾し、走っていた九鬼は爆風に巻き込まれた。


グラウンドを少し転がったが、乙女ブラックになっていた為、大したダメージは受けなかった。


「な、なんてことを…」


回転し、立ち上がった九鬼は、周りで数え切れない程の煙が上がっているのを確認し、愕然とした。


「心配することはないさ」


九鬼の後ろから、声がした。


「な、何いい!」


九鬼はその声の主を知っていた。拳を握り締め、九鬼は振り返った。


「貴様らは、人を守るのが、仕事だろうが!」


「そうだ」


九鬼の後ろに、哲也が立っていた。


「我々は、その為に…存在している」


「だからこそ…」


哲也の後ろから、黒マスクの集団が現れ、九鬼を囲んだ。


「少し犠牲は仕方がないのだよ」


「何!?」


「月の女神は、約束してくれた。貴様を殺せば、味方になると!そして、我に告げた!結界内の人間の命を捧げることで、月への道が開くと」


哲也は月を仰ぎ見た。


「女神は告げた!月には、あの武器があると!」


九鬼を囲んだ黒マスクの集団は、十六と同じ刀を持っていた。


ムーンエナジーを受けて、刀身と目が輝いた。


「チッ」


一斉に、九鬼に襲いかかる。


「それは、この世を支配できる力!魔王をも倒せる力!バンパイアキラーだ!」


「バンパイアキラー…」


恍惚の表情を浮かべる哲也の発した言葉を、繰り返した九鬼。


何とか攻撃を避けているが、数が多すぎた。


それに、ムーンエナジーを纏った刀身は、乙女ブラックの戦闘服を斬ることができた。


「バンパイアキラーを手にした時、我々防衛軍が、世界を支配する時となる」


「ふざけるな!」


九鬼の両手が光った。


そして、舞うように回転すると、襲いかかっている黒マスクの戦闘員達の刀が一斉に折れた。


それだけではない。


足から鮮血が噴き出して、戦闘員達は倒れた。


目にも止まらないスピードで飛んでいた光のリングが、九鬼の両手に戻ってきた。


「こ、これは、乙女グリーンの技か!!」


哲也は表情を歪め、足を斬られて動けなくなった戦闘員を睨んだ。


「お前達は、人々を守る為にいるんだろうが!それを!」


九鬼は、両手をクロスさせた。


「ほざけ!人が死ぬくらいならば、それは警察のやることだ!我々防衛軍は、さらなる上を扱っておるのだ!」


「人が死ぬくらいだと!」


九鬼はキレた。


そして、再び舞った。


「人々を守れない者が!防衛軍を名乗るな!」


光速で舞う光のリングが、哲也に向かって放たれた。


「馬鹿目!大局も見れぬ!小娘が!」


哲也が叫んだ瞬間、全身から光が放たれ、光のリングは消滅した。


「何!?」


目を見張った九鬼は理由を考える前に、跳んだ。


「ルナティックキック!零式」


しかし、九鬼の蹴りは見えない壁に弾かれた。


「フッ」


哲也は唇の端を歪めた。


「その力は!」


九鬼は、跳ね返ったこと自体に驚いてはいなかった。


今の蹴りで確信した。


しかし、導かれた事実が信じられないのだ。


「どうした?九鬼真弓」


攻撃を止めた九鬼を、哲也は含み笑いを漏らしながら、見つめた。


「チッ」


舌打ちすると、九鬼は構え直した。


「ほお〜。理解したようだな」


哲也は、警戒しだした九鬼のように、感心した。


「だが…疑問が残っているな?なぜだ!なぜなんだ!どうして何だ!」


哲也は両手を広げ、クククと笑った。


「答えなんて、簡単だよ。男と女の境界線など、染色体の少しの違いだけだ」


哲也の来ていたブラウンのスーツの袖から、一本の注射器が出てきた。


「我が防衛軍の魔学の力を借りれば…その壁を破壊するのは容易をことだ」


哲也は目を見開くと、注射器の針を自分の首筋に刺した。


その瞬間、哲也の胸が盛り上がる。


「装着!」


哲也は注射器を抜くと、叫んだ。


その瞬間、眩い光が哲也を包んだ。


そして…。



「これが、月の女神が我に与えた力だ」


プラチナに輝く戦闘服に身を包んだ哲也がいた。


はち切れんばかりの胸に、引き締まったウエスト。


その雰囲気は、娘のリオに似ていたが、哲也の方が引き締まっていた。


「乙女プラチナ…」


普段は、理香子が身に纏う戦闘服だか、今は男であった哲也が纏っていた。


「どうする?乙女ブラック」


突然、目の前に哲也の顔があった。


「!?」


気を抜いていた訳ではない。


ずっと距離を計っていたのに。


見ていたのに、哲也がいきなり目の前にいたのだ。


「な!」


九鬼は慌てて、移動したが、哲也はずっと目の前にいた。


「どうした?九鬼真弓…顔色が悪いぞ」


哲也は笑い顔を近づけた。


「クソ!」


九鬼は顔をしかめると、スピードをアップした。


グラウンドの端で、九鬼達の姿が消えた。


「馬鹿な!」


九鬼は信じられなかった。


目にも止まらない動きで移動している自分が、目の前にいた哲也を見失ったのだ。


「思い上がらないことだ」


九鬼の耳元で声がした。


「月影で、一番速いのは、乙女ブラック…貴様ではないわ!」


哲也の口から放たれた気合いが、九鬼の背中に当たり、吹き飛ばした。グラウンドの土を抉り、九鬼は地面を転がる。


「く!」


顔をしかめ、すぐに何とか体勢を整えたが、また哲也を見失った。


「上だ!」


九鬼の頭上に、哲也が浮かんでいた。


拳を重ね、月にかざすと、赤く燃え上がった。


「プラチナボンバー!」


拳を振り下ろすと、拳の形をした光の玉が、九鬼目掛けて落ちて来た。


「チッ」


九鬼は慌てて、後方にジャンプした。


立っていた場所の地面が抉れ、そこにあった土が消滅した。


「だから言ったはずだ」


九鬼の着地地点に、哲也がいた。


「貴様より速いと」


哲也のバックバンドが、九鬼を着地する前に叩き落とした。


「きゃ」


肩から地面に激突した九鬼の悲鳴に、哲也は満足げに頷いた。


「そうだ!それでいい!泣くがよいわ!か弱い子猫のようにな」


「ク、クソ!」


悲鳴を上げてしまった自分を悔いるように、すぐに立ち上がった九鬼は、拳を握り締めると、ジャンプした。


「無駄だ!」


乙女プラチナの全身が輝き、光だけで九鬼を弾き飛ばした。


今度は、悲鳴を上げなかったが、地面を転がる九鬼。


「乙女ダイヤモンド程のパワーがないが」


一瞬で移動した哲也は、転がる九鬼の髪を掴むと強引に立たせ、腹を殴った。


「それでも!貴様より上だ!」


「ぐわあ!」


九鬼の口から、血が吐き出された。


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