表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
188/563

第181話 うたた寝

「嫌われたものだな…」


理香子が去った後、屋上でしばらく煙草をふかしていた兜はため息とともに、火を消した。


「まあ…構わんよ」


空に浮かんだ月を見上げると、


「君の存在と月があれば…それでいい」


フッと笑った。


そして、消した煙草を携帯用灰皿にねじ込むと、兜は歩き出した。


「この世界で、気に入ったのは…煙草の味くらいか」


さっきのが、最後の一本だった。


空になったケースを握り潰した。


「この世界に未練などない!あるとすれば…」


そして、屋上の鉄の扉を開け、


「懺悔だけだ!」


夜の階段を駆け降りた。


「今から、最終チェックを行う!」


兜の口に、笑みが張り付いていく。


「月下作戦発動の時は、近い!」



その頃…大月学園のグラウンドの端にあるプールの下で、巨大な何かが蠢いた。


それは、生物ではなかったが、すすり泣き…嗚咽していた。


その声に気づく者はいないのに。







「月が…泣いている?」


かつてのアメリカ合衆国は、滅んだが…その国を象徴する自然は残っていた。


グランドキャニオンの岩一色の壮大な風景の中、腕を組み…まったく周りに負けない程の迫力を醸し出す1人の魔神。


「また…わからんことを」


岩場の狭間に浮かび、谷間の底から吹き上がる風を感じながら、頭をかいているのは、ギラだった。


訝しげに…月を眺めているサラに肩をすくめると、ギラは欠伸をした。


「こんな…生命の息吹きを余り感じないところは、好かんな」


多少…生物はいるようだが、草木のむせかえる匂いがするジャングルの方が性に合っていた。




(知ってた?人の歌には、種類があるのよ)


今のように、魔王城のテラスで月を眺めていたサラに、リンネが後ろから話しかけてきた。


微笑をたたえながら、リンネは説明した。


(こういう月の下で、愛する者に思いを告げる為、捧げる歌をセレナーデというのよ)


サラは、ちらりと後ろにいるリンネを見た。


月を見上げるリンネの表情に、サラは視線を外した。





「気にくわない…女だ」


サラは下唇を噛み締めると、月に向かって羽を広げた。


そして、飛び上がっていくサラを、ギラは横目でちらりと目をやった。


「?」


月の中に隠れる程、飛び上がったサラとは逆に、ギラは谷間に落ちていった。


「やはり、わからん…」


落下しながら、首を傾げたギラは、地面が迫ってきても焦らずに…欠伸をした。


そして、巨大な羽を広げると、一瞬で月の下まで飛翔した。


「それが…女というやつか」


自分の横に来たギラに、サラは鼻を鳴らすと、


「わかったような口をきくな」


ギロリと睨み、そんなどこかへ飛び去っていた。


ギラは空中で、さらに首を捻り、


「あやつは…女ではないのか?」


サラの反応が理解できなかった。


「う〜ん」


首を捻りながら、ギラはサラの後を追った。







「チッ」


周りを確認した九鬼は、飛び散り潰された頭や脳髄が、カルマのものであると断定した。


しかし、自分がやった記憶がない。


スカートのポケットから、乙女ケースを取りだした。


ある程度、ムーンエナジーは回復していたが、変身した形跡はない。


「だとしたら…誰が、この人を…」


首のない胴体を見下ろしていた九鬼は、はっとなった。


「この人の乙女ケースがない!」


九鬼は舌打ちした。


と言うことは…ピンクの乙女ケースを奪ったやつがいるはずだ。


周囲を警戒しながら、


「他に…月影がいる!?」


乙女ケースを握り締めた。


神経を研ぎ澄まし、気配を探す。


だけど、礼拝堂の中には…誰もいない。


それでも、詮索をやめない九鬼の耳に、ギターの物悲しい音が流れてきた。


「ま、まさか」


九鬼はそのメロディに聞き覚えがあった。


音楽に疎い、九鬼でも知っている大ヒット曲。


その音は、礼拝堂の扉の向こう…つまり、外からした。


九鬼はダッシュで扉を開けると、警戒しながら路面にジャンプした。


距離を取った九鬼は、目の前にいる人物を睨んだ。


教会の前に、路駐違反をしている車のボンネットに座る優を発見した。


「高木さん!?」


思いがけない相手に、九鬼は躊躇いながら、戦闘体勢に入っていた。


「九鬼真弓…。いや、乙女ブラック!」


優は弾いていたギターの弦を、手で止めた。


そして、ボンネットの上から降りると、


「その力…頂く」


ギターを突きだすと、緑の乙女ケースに変わった。


「装着!」


乙女グリーンに変身する優の様子に目を細めると、九鬼はゆっくりと乙女ケースを突きだした。


「装着」


乙女ブラックに変わる九鬼。


優は、九鬼を指差すと、


「あたしの歌の為…その力貰う」


光の輪を作り出し、九鬼に向かって投げた。


ドリル状に回転する二つの光の輪は、まるで風に舞う紙切れのように、無軌道に九鬼に向かって、襲いかかる。


「乙女ブラック!あたしがつくる新しい歌の為に、死ね!」


九鬼の目の前で、光の輪は一気にスピードを上げた。


九鬼は目を瞑ると、目にも止まらない動きで腕を交差させた。


「な!」


驚く優の目に、二つの光の輪を指先で挟んで持つ…九鬼の姿が映った。


「乙女スプラッシュを…掴んだだと!」


九鬼はゆっくりと、目を開き、


「どんなに速くても、空気を切り裂く音で軌道が読める。それに、このリングは…ムーンエナジーでできている。ならば!」


九鬼はつまんだ光の輪を、グリーンに見せ、


「ムーンエナジーを手に集中させれば、取ることは可能」


「ば、馬鹿な!」


優の手のひらで、無数の光の輪が作られ、 一斉に九鬼に向かって、投げた。


「なめるな!」


自分のムーンエナジーを流し込み、肥大させたリングを振うと、九鬼は襲いかかる光の輪達を切り落とす。


「そ、そんな…」


唖然とする優に向かって、九鬼はリングを投げた。


巨大化したリングに唖然となる優に向かって、九鬼は飛んだ。


接近するリングに気を取られた優。


「じ、自分の技で!」


優の眼鏡が光り…放たれた光線が、二つのリングを破壊した。


にやりと笑った優の目の前に、飛んだ九鬼が迫ってくる。


「ルナティックキック!零式!」


光の破片が飛び散る隙間を縫って、インパクトの瞬間伸ばされた足が、 優を蹴った。


「うぐあ!」


吹っ飛んで、背中から地面に倒れた優。


間髪を入れずに、蹴ると同時に後方へ回転し、地面に着地した九鬼は足を曲げ、再び飛翔する。


膝を曲げ、倒れている優の鳩尾辺りに突き刺した。


「う!」


体がくの字に曲がった優から、九鬼はすぐに離れ、再び構えた。


「あ、あたしは…」


優はよろけながらも、何とか立ち上がろうとするが、片膝をついた体勢で息を整える。


前に立つ九鬼を睨み、


「負ける為に、この力を得たんじゃない!」


乙女ケースを突きだした。


「兵装!」


乙女ケースが光り輝くと、武器に変わる。


優にまとわりつくと、両肩についた巨大な砲台に変わる。


「あたしは、新しい歌を作るんだ!人々を救う歌を!」


砲台の照準が、九鬼に向く。


「誰も作ったことのない…歌。咎人の歌を!」


砲台の先が光り、高濃度の光の粒子が集まっていく。


「真に救う為には、人のすべての罪を知らなければならない。その為には、人を殺さなければいけない!だから、あたしは月影になったんだ!!」


優の叫ぶに呼応して、二本の砲台から分厚い光線が放たれた。


「チッ!」


九鬼は上空へとジャンプした。


「無駄だ!」


二本の光線は螺旋状に絡み合うと、軌道を変え、上空に飛んだ九鬼に向かって飛んでいく。


「乙女キャノンからは、逃げれるか!」


光線は、九鬼の跳躍より速かった。


「この世界では、人を殺すことは大罪!だけど、月影になれば!月影同士ならば!殺せる!」


「愚か者め!」


優の言葉を聞いた九鬼は、怒りの表情に変わった。


空中で反転し、足の裏を月に向けた後、今度は下から上がってくる光線に足を向けた。


「月影キック!」


足許から輝き、光の矢と化した九鬼が落下する。


「何!?」


優の放った光線を貫きながら、九鬼は地上にいる優目掛けて、加速する。


「人を殺して、作った曲などに!誰が救えるものか!」


「それでも、他にない曲になる!」


「そんなものは!自己満足だ!!」


月影キックが、優のお腹の辺りに炸裂した。


「うわああ!」


一瞬で変身が解け、優は地面に転がった。


グリーンの乙女ケースも、優の手からこぼれ落ち、道端に転がった。


乙女ケースよりも、倒れている優を見下ろす九鬼。


「畜生…」


何とか立ち上がろうしたが、体がまったくいうことをきかなかった。


「お前にはわからないんだ!」


優は地面の上で、何とか立ち上がろうともがいていた。


「ありふれたヒット曲よりも!未来の人間が、感心する曲を残すことが!真のアーティストなんだ!」


優の叫びに、九鬼は目を細め、


「人を殺した者は、アーティストではなくなる。何かを生み出す者ではなく、奪う者に変わるからだ」


「そ、それでも…平凡な人間の生活は、人間の価値観を変えない!誰も救えない!」


「ならば、町を出ろ。さすれば、魔物がいる」


「魔物を殺したところで!何になるか!」


優は何とか手だけを伸ばすと、地面に落ちている乙女ケースを探した。


そして、グリーンの乙女ケースを偶然掴んだ。


にやりと笑うと、


「すぐに、トドメを刺さなかったことを後悔しろ!」


ケースを握り締めた。


「装着!」


グリーンの光が、優を包み…再び乙女ソルジャーに変身させた。


変身ともに、強化される肉体の影響で、優は立ち上がった。


ダメージは完全に抜けていないが、戦える。


「今度こそ…殺してやる!」


優の眼鏡が光った瞬間、


「殺すより〜殺される方が、いい曲ができるかも」


優の耳元で声がした。


「な…」


優は目を見開き、自分の胸元を見た。


背中から、何かが貫通していた。


それは、血塗れの腕。


「高木さん!」


九鬼は絶句した。


いつのまにか、優の後ろに人が立っていると思った時には…優の体は貫かれていた。


「そ、そんな…」


「まあ〜書けたら、だけど」


腕を体から抜かれると同時に、変身は解けた。


前のめりに、地面に倒れた優の後ろに、血塗れの腕から血を垂らす…女がいた。


その姿は。



「白い…乙女ソルジャー」


乙女ホワイト。


そんな色の乙女ソルジャーを、九鬼は知らない。


乙女ホワイトは九鬼に笑いかけた。だけど、その笑顔とは裏腹に、眼鏡の奥の鋭い眼光が、反射的に襲いかかろうとした九鬼の動きを止めた。


不用意に近づくと殺されると、九鬼の本能が告げていた。


乙女ホワイトが、鮮血で真っ赤に染まった腕を一振りすると、すぐに真っ白な純白の姿に戻った。


透き通った真珠のようなボディは、乙女ブラックとは対照的だった。


何とか攻撃をしかけようとするが、九鬼の体は動かなかった。


「少しは、理解できているようね」


乙女ホワイトは、そんな九鬼を見て笑い、


「レベルの差を」


腕を突きだした。


その手には、グリーンの乙女ケースが。


「手加減して、相手してあげる」


乙女ホワイトの色が変わる。


「乙女グリーン!?」


驚く九鬼の背中に、激痛が走った。


「何!?」


いつのまにか放たれた光の輪が、背中を切り裂いていた。


「馬鹿な!」


今度は、頭上から一気に落ちてくる光の輪を、九鬼は紙一重でかわした。


「速い!」


明らかに、優の時より速い。


(どうする!)


このまま逃げていても、仕方がない。


攻めるには、前に出るしかない。


(それに!)


九鬼は、倒れている優を見た。


早く治療しなければならない。


「ならば!」


九鬼は唇を噛み締めると、スピードを加速した。


乙女ブラックの特色である神速で、光の輪を避けると、一気に乙女ホワイトへと近づく。


半転し、回し蹴りをホワイトの首筋に叩き込もうとした九鬼の目に、 妖しく微笑むホワイトの顔があった。


「え」


蹴りを放つ体勢のままの九鬼の左肩から、腰までに線が走り…そこから鮮血した。


「お、乙女…ブルー」


巨大な青竜刀を振りおろした乙女ブルーになったホワイトがいた。


そして、背中に光の輪が突き刺さると、 九鬼の変身は解けた。


「こんなものか…」


落胆のため息をつくホワイト。


「まだだ!」


変身が解けた為、転げ落ちようとする黒の乙女ケースを空中でキャッチすると、よろけながらも…叫んだ。


「装着!」


再び、乙女ブラックになった時、 九鬼とホワイトの周りを黒い影が囲んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ