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第177話 闇の招待状

「は、は、は」


大月学園から飛び出した九鬼は、漂う闇の香りを感じながら、走っていた。


(感覚を研ぎ澄ませ)


この世界に来てから、忘れていた闇の狩人の本能を、九鬼は取り戻そうとしていた。


魔物や魔神ではなく、闇の気配を。


「うん?」


九鬼は眉を寄せた。


うっすらだが、膜のようなものが、空に見えた。


「何!?」


九鬼は、学園から一番近い国道目指して走った。


確認したかったのだ。


まだ夜中でもないのに、国道に車が走っていない。


九鬼は、二車線ある国道の真ん中に立ち尽くした。


障害物のない国道の先を、凝視した。


「やはり…」


九鬼は、乙女ケースを突きだすと、変身した。


乙女ブラックのスピードで一気に、国道を駆け抜けると、突然目の前に現れた膜のような壁に向かって、ジャンプした。


「ルナティックキック!」


膜は透けており、その向こうの空間を見ることができた。


乙女ブラックの蹴りは、透明の膜に弾き飛ばされた。


「何!?」


九鬼は驚きながらも、空中で一回転すると、再び膜に向かって足を突きだした。


「二段キック!」


乙女ブラックの右足が、ムーンエナジーを纏いながら、再び同じところを蹴った。


しかし、膜を破ることができなかった。


道路に着地した九鬼は、腰を軽く下ろし、足に力を込め、ムーンエナジーを練り直す。


そして、再び蹴りを繰り出そうとした時、九鬼の前に、タキシードの男が現れた。


「無駄ですよ。この膜は、ムーンエナジーでは砕けません」


タキシードの男は、ニヤリと九鬼に笑って見せた。


「貴様は!」


九鬼ははっとして、タキシードの男に向かって、構え直した。


「お久しぶりですね。九鬼様」


タキシードの男は軽く頭を下げた後、九鬼の姿を確認した。


「一度失われたはずなのに、再び乙女ブラックの力を得るとは…やはり、あなたは特別のようですね」


タキシードの男は、深々ともう一度頭を下げた。


「闇の女神の使徒である貴様が、なぜここにいる!」


九鬼は右手を祈るような形で突きだすと、タキシードの男との距離を図った。


「いや〜あ、単なる野暮用でもよ」


タキシードの男は、能天気な感じで、九鬼に笑いかけていた。


「チッ」


相変わらずの様子に、九鬼は舌打ちした。


だけど、そんな笑顔には騙されない。


九鬼はじりじりと、間合いを少し詰めた。


いつでも、蹴りを放てるように。


「あなたも…相変わらずですね」


九鬼の様子に、タキシードの男は肩をすくめて見せると、言葉を続けた。


「我が女神の復活により、月が急いでいるのですよ。自分の力を受け継ぐことのできる…戦士を選ぶことを」


「月が急いでいるだと!?」


九鬼は蹴りを放とうとしたが、その動きを察知したのか、タキシードの男は消えた。


「フン!」


その行動をよんでいた九鬼は、蹴ろうとした足を軸にして、バックアンドブロ−を後ろに叩き込んだ。


当たったと確信したが、九鬼の拳は空を切った。


「チッ」


九鬼は舌打ちした。


「危ない、危ない」


30センチくらいの大きさになったタキシードの男がにやにや笑いながら、九鬼を足元から見上げていた。


すぐに、踏みつけようとしたが、タキシードの男は消えた。


そして、声だけが辺りにこだました。


「この結界は、乙女ソルジャーの勝利者が決まるまで、消えることはございません」


「どこだ」


九鬼は周囲を見回したが、タキシードの男の気配はない。


「ククク…」


タキシードの男は笑い、


「それに、我々闇も、少し趣向を凝らせて頂きました」


「く、くそ!」


「この結界を利用し、我ら闇の粒子をばらまかせて頂きました。かつて、デスパラード様とともに、月に封印された闇の眷族の魂を!」


「き、貴様!」


「さすがですね。もう理解しましたか」


「そうか!あれは」


九鬼の脳裏に、廊下で出会った女生徒の姿が、よみがえる。


「闇をばらまいたのか!」


九鬼は、拳を握りしめた。


「ククク…。でも、心配いりませんよ。普通に心が健康な人間には、憑依できません。そう…心が病んでなければ…大丈夫ですよ」


タキシードの男の台詞に、九鬼はキレた。


「ふ、ふざけるな!」


乙女ブラックの全身が、輝き…ムーンエナジーの波動を周囲に飛ばした。


見えない細菌と同じくらいの大きさの闇の粒子が、吹き飛んだ。


「無駄ですよ。ここだけに、闇がある訳ではございませんから」


タキシードの男の声は、明らかに笑っていた。


「クッ!」


「あなたのできることは、すべての月影の力を得て、結界内に充満した闇の粒子を消し去ることですよ」


「貴様!」


「間違っても、闇を排除する前に、結界を消してはだめですよ。なぜなら、結界の外の人間にも、被害が出ますからあ〜!あははは!」


タキシードの男の声は、


笑いながら、フェードアウトしていった。


「クソ!」


タキシードの男を追いかけたかったが、九鬼は怒りをしずめようと、一度深呼吸をした


今、やるべきことは、闇の繁殖を抑えること。


「トゥ!」


九鬼は気合いとともに、上空へとジャンプした。


月の下で、九鬼は結界の広さを確認した。


大月学園を中心にして、半径五キロ程が、結界で包まれていた。


ドームのような形をした結界を確認すると、一度地面に着地した後、もう一度ジャンプした。


今度はさらに上空…町中を見下ろせるくらい上にある結界の天辺まで。


そして、結界に張り付くと、月を見上げた。


「月よ。あなたの力を借ります」


九鬼は目をつぶり、力を練り始めた。


ムーンエナジーが、乙女ブラックの全身を包み、さらに外に向けて放射する。


九鬼は頭の中で、イメージした。


ムーンエナジーが、結界内に充満するイメージを。


「お願い!月よ!」


九鬼は結界の天辺から離れると、地面に向かって落下しながら、ムーンエナジーを放出した。


「闇を照らして!」


日が沈んだ町の上空に、太陽のように光る球体が突如出現し、結界内を昼間の如く照らした。しかし…不思議と、目をやられた人間はいなかった。



「クッ!」


地面に着地するまでの数秒。


光は結界を満たし、消えた。


足から着地した瞬間、九鬼の変身は解けた。


顔をしかめながら、崩れ落ちるように、地面に両手をついた。


どうやら着地の瞬間、変身が解けるのが数秒だけ早かったようだ。


少し足を捻ってしまった。


「は、は、は」


背中で息をしながら、九鬼は辺りの匂いを確認した。


「何とか…結界内に満ちている…闇は、消滅できたようね」


今のムーンエナジーの放出で、これから闇に侵される人は減るだろう。


しかし、もう感染している人間には…ある程度のダメージは与えたかもしれないが、もとに戻ることはない。


いつから、闇に汚染されていたのかは、九鬼は知らなかった。


「そうだった…」


九鬼は痛めた足を庇いながら、立ち上がった。


「いかなくちゃ」


そして、ゆっくりと歩き出した。


月が出ていれば、力が尽きることのない…乙女ソルジャーであるが、先程の様に許容量をこえたムーンエナジーを使用すると、今夜はもう…乙女ブラックになることはできなかった。


しかし、九鬼は歩く足を止めない。


行かなければならない場所があるから、倒さなければならない敵がいるから、守るべき人がいるから。


それは、乙女ソルジャーの使命感ではなく、九鬼真弓という人間の生きる理由だからだ。


例え、五体満足でなくても、九鬼が止まることはない。


九鬼は、ムーンエナジーの放出をした後も、変わらない闇の匂いを発しているところに向かって、歩き出した。



なぜなら、そこには闇だけでなく、乙女ソルジャーもいるからだ。


「早くしなければ」


九鬼は痛む足を引きずりながら、歩き続けた。

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